Dreamfieldへの旅 by 鰻谷

    第11回 「2005年 球場巡礼速報 第3弾

    第12回 「We Are Toronto」

    第13回 「ヤンキースだってちょっと前まではブリュワーズだった」

    第14回 「Major.jpじゃ見れないマイナー劇場」

    第15回 「独立リーグだって再編する」



     第11回 「2005年 球場巡礼速報 第3弾


     まいどご機嫌さんです。鰻谷でございます。今月より期間限定でカナダのトロントよりお送りいたします。トロントは比較的スポーツ・イベントの多い町なので、ここ一ヶ月でトロント・ブルージェイズの試合以外にも、プロレスのWWE SmackDown、女子テニスのカナディアン・オープン(ロジャーズ・カップ)、CFL(カナディアン・フットボール・リーグ)の試合などを観戦してきました。いずれも一番安い席だと確実に2,000円以下で見られるのでかなりお得感がありました。
     現在、8月の中旬ですが、こちらの新聞のスポーツ・セクションの見出しは連日アイスホッケーの話題です。ブルーの楓マークでおなじみの地元トロント・メープル・リーフスはNHLで一番人気のあるチームでして、チケットの90%以上が発売以前、既にシーズン・チケットとして売れてしまっているという人気っぷりです。
     アメリカでは昨シーズン中止の影響でアイスホッケーの人気は低下しているようですが、ここカナダでは全くそんな事は感じません。むしろファンはハイレベルなホッケーに飢えていて、シーズン開幕を心待ちにしている感じすらあります。なんと言ってもホッケーはカナダの国技ですからねぇ。
     今はNHLの各チームとも来たるべきシーズンに向けての補強をしている時期で、大物FA選手の動向や、リーフスが誰それと契約したといったニュースが紙上を賑わしております。私も何年か振りに生でNHLが見られるので楽しみにしております。

     さて、本題の野球場のオハナシですが、今年の夏は、六月から八月にかけて約二ヶ月もの長きにわたって北米大陸の球場を巡礼いたしました。数字的には29球場で50試合を観戦、そのうち今回新たにリストに加わった新規球場、は19でした。これほど長い期間に渡る巡礼は、三ヶ月間を費やした1998年以来でした。自分の中では、今年の巡礼はメジャーデビュー10周年(メジャー初観戦から10年目って事ですな)の集大成的なものと考えております。恐らくこれからはもう、何ヶ月もの期間に渡る旅ではなく、短い期間の旅を数多くしてゆく、といったカタチになりそうな気がします(まだこの先どうなるかわかりませんが)。

     というわけで、今回も前回・前々回に引き続きまして球場速報の第三弾をお届けいたします。各球場の詳しいレポートは9月ごろから「球場巡礼」で順次UP予定ですのでお待ちくださいませ。

    【プリングルズ・パーク】

     2Aサザン・リーグ/ウエスト・テン・ダイヤモンド・ジャックスのホームです。ご想像の通りお菓子のプリングルズ社がネーミング・ライツを獲得しています。売店でプリングルズのポテトチップスが購入できます。三年振りの再訪でしたが、すっかり寂れてしまって不人気球団になっていました。周辺人口の少ない小さな町にあるため、観客動員の減少に歯止めがかからない状態です。
     球場自体は小さいながらも居心地の良いステキな空間なのですが、ダブルAのマーケットとしては最低との評価が下されました。移転は早くて今シーズン終了後、遅くても二年以内に空き家になるでしょう。

    【ターナー・フィールド】

     アトランタ・ブレーヴスのホームです。今季からセンターのスコアボードが全面デジタル・ハイビジョン・スクリーンになりました。日本の三菱電機製で約22m×24mの世界最大のビジョンです。
     ここ最近、MLBやマイナーの球場にぽつぽつデジタル・ハイビジョンのスクリーンが登場し始めましたが、ここのは本当にでかいです。スタンドのファンの顔のシミまで鮮明に映っていました。スクリーンもさる事ながら、改めてこの球場のパーフェクトさに感心いたしました。全くケチのつけどころがありません。トータル的にみて、私の見解では世界で一番素晴らしいスタジアムだと思います。

    【スモーキーズ・パーク】

     2Aサザン・リーグ/テネシー・スモーキーズのホームです。以前はテネシー大学のあるノックスヴィルという町をホームにしていたのですが、2000年に新球場へ移った際に、ノックスヴィル・スモーキーズから改名しました。球場の中にグレート・スモーキー・マウンテンズ国立公園の観光案内所が入っています。
     日本ではあまりメジャーではありませんが、スモーキー・マウンテンはアメリカ国内では屈指の観光地です。球場はその山の麓に立地しています。夏でも陽が落ちるとひんやり涼しく、虫が大量に照明灯向かって飛んできます。球場は、特筆すべきことはない典型的なダブルAクラスの新球場ですが、球場名に企業の名が付いていないところは好感がもてますねぇ。

    【グレート・アメリカン・ボール・パーク】

     シンシナティ・レッズのホームです。2003年開場の新球場で、仰々しい名前はネーミング・ライツを獲得した保険会社の企業名です。一応BallとParkはつながっていない独立した単語である、というのが公式の球場名なので日本語にする際もボール・パークとして表記する事にしました。白い鉄骨組みの外観や歯ブラシ型の照明灯が、明らかにジェイコブズ・フィールド(クリーヴランド・インディアンズの本拠地)のパクリだと思われます。スタンドからはダウンタウンのスカイラインではなくオハイオ川が見えてのんびりした雰囲気でした。

    【フィリップ・B・エルフストローム・スタジアム】

     1Aミッドウエスト・リーグ/ケイン・カウンティ・クーガーズのホームです。シカゴ近郊のジェネヴァ市をホームにしています。ロークラス・シングルAのクセに毎年1試合平均7,000人以上を集める超人気チームなので、前々からどんな球場なんやろか?と気になっていました。私が行った日も10,000人以上が球場に詰めかけコンコースは大渋滞でした。
     球場自体は全然たいしたことない殺風景なコンクリートのハコでして、何がこれほどまでに人気なのかよくわかりません。大都市シカゴから近いからなのか、チケットセールスのノルマが相当キビシイのか、はたまた球団職員が頭をかきむしってインパクトのあるプロモーションを考えたタマモノなのでしょか。個人的には人がウジャウジャいる球場は好きではありません。

    【シルバー・クロス・フィールド】

     独立リーグ/ジョリエット・ジャックハマーズのホームです。ジョリエットはシカゴから電車で1時間のキョリにある、こちらも前述のジェネヴァと同じくいわゆる近郊都市です。球団誘致の為に2002年に完成した新球場です。おそらく独立リーグの中でも五指に入るほど立派な正統派ネオ・クラシック・スタジアムで、エントランスの櫓風タワーのかっこよさに私もすっかりノックアウトされてしまいました。ネーミング・ライツは地元の病院です。クドイようですが独立リーグだといってバカしてはイケません。傘下のマイナーリーグをも凌ぐいい球場が各地にいくらでもあるのです!

    【USスティール・ヤード】

     独立リーグ/ゲイリー・サウスショア・レイルキャッツのホームです。ゲイリーはインディアナ州北部の小都市ですが、シカゴから電車で約1時間なので日帰り観戦が可能です。前述のジョリエットから遅れること1年、同じく独立リーグ誘致の為に2003年に完成したばかりの新球場です。が、ジョリエットほど予算がなかったのか、ほぼ同期デビューながら両者の間には見た目のグレードの差が相当あります。良くも悪くも普通の新球場です。どっから写真を撮っても個性的なショットがありませんでした。ネーミング・ライツは大手鉄鋼会社です。

    【ホーキンソン・フォード・フィールド】

     独立リーグ/ウィンディ・シティ・サンダーボルツのホームです。以前はクック・カウンティ・チーターズというチーム名でしたが、2004年からシカゴのニックネームであるWindy Cityを名乗るようになり、ニックネームも一新しました。ネーミング・ライツはフォードの大手ディーラー会社です。シカゴ郊外のクレストウッドという小さな町にあり、シカゴから日帰りでアクセスできます。
     1999年オープンの新しい球場ですが、これがなんとも珍妙な形状をしておるのです。なんと、三塁側だけ二層の立派なスタンドがあって、一塁側は全くの平面スタンド。さらに三塁側の一階席部分はほとんどがコンコースになっているので、シートは4・5列しかないのです。つまり、座席がまとまって集中しているのは三塁側スタンドの二階席のみという、構造的にかなりヘンテコリンなスタジアムでした。
     ちなみにニックネームのサンダーボルツというのは、私が想像するに、球場をグルリと取り巻くように張り巡らされている送電線から取ったものと思われます。

    【ダン・タイヤー・パーク】

     3Aインターナショナル・リーグ/バファロー・バイソンズのホームです。1988年の開場以来、三度も名前を変えています。現在の名前は、ネーミング・ライツを獲得したタイヤ会社です。2万人以上を収容できる、マイナーリーグでは最上級の球場ですが、ただ単に席数が多いだけで、趣向を凝らした造りとは正直言えません。
     90年代はマイナーの観客動員記録を次々に塗り替えたモンスター・スタジアムでしたが、今となってはさすがに時代遅れな感じになってしまいました。97年以来8年振りの再訪でしたが、当時に比べると明らかに人気は低下しているようでした。
     多田野の登板は見る事ができませんでしたが、元阪神のキンケイドがバイソンズに、元読売のペタジーニ、キャプラーが対戦相手のポータケット・レッドソックスに所属していました。

     お気づきかと思いますが、今回ご紹介しました球場にはシカゴから日帰りでアクセスできる球場が4つ含まれております。前々回にご紹介しましたシャンバーグのアレクシャン・フィールド(ノーザン・リーグ)と、メジャーのリグレー・フィールド、USセルラー・フィールドを合わせるとシカゴ・エリアには7つもの球団があります。これら7つのチームがシカゴ(とその近郊)に住むベースボール・ファンを奪い合っているわけです。
     シカゴは、アメリカではLA、NYに次ぐ大都市なのでこのようなボールパーク銀座が形成されているわけですが、私の見た感じではMLB、マイナー、独立リーグの三者はキチンと棲み分けが出来ているように思えました。カブス・ファンの人でもたまにはジョリエットやシャンバーグに観戦に行くし、普段はゲイリーのゲームばかり見てるオヤジもたまにはホワイト・ソックスのゲームを見に行くと言ったように。
     何故そんな事が言えるのかというと、メジャーの球場で様々なマイナー・チームのキャップを被った人達を見かけたからです。NYやボストンも周辺にマイナーリーグや独立リーグがひしめき合っていますが、今のトコ両者はうまいこと共存してるように思えます。日本でも多くの野球ファンを抱える大阪や首都圏はプロ野球だけでなく、独立リーグにとってもおいしいマーケットのはずです。
     プロ野球が独立リーグを商売敵とみなすのではなく、むしろ独立リーグと提携して両者が繁栄するような土壌ができれば、日本の野球も文化としてもう一つ上のレベルに達する事ができるかも知れませんねぇ。

     追記:私の連載で再三取り上げているバーミンガム・バロンズ(2A:サザン・リーグ所属)の「リックウッド・クラシック」ですが、当初予定されていた6月2日は(私も行きましたが)雨天中止になったものの、急遽7月27日に差し替えられて無事開催されたようです。私は情報を得るのが遅くて、またもや見逃してしまいました...トホホ。



     第12回 「We Are Toronto」


     まいどご機嫌さんです。トロントの鰻谷でございます。そろそろ野球シーズンも終わりに近づき、個人的に楽しみにしている今季の観客動員数が明らかになってきました。レイバー・デイ(9月第1月曜日の祝日で北米では夏の終わりを意味します)でMLBより一足早く全日程を終了したマイナーリーグは史上最高の観客数をマークした2004年の記録をあっさりと塗り替え、予想通りトータルで初の4,000万人越えを達成しました。MLBもレイバー・デイの時点で史上最高だった昨年の動員を既に上回っているらしく、少なくとも興業面だけで判断すると、今現在ベースボールは100年以上の歴史において最も繁栄している時期だと言えるでしょう。

     マイナーリーグのチーム別アテンダンスに関する考察、というかウンチクはまた次回以降の連載で取り上げる事にしまして、今回はせっかくトロントからお送りしているので、トロントのマイ・チーム情報を皆様にお届けしたいと思います。
     トロントは意外かも知れませんが、北米大陸ではメキシコ・シティ、NY、LA、シカゴに次いで五番目に大きいビッグ・シティです。ですのでアメリカの四大スポーツの内の三つ(MLB,NBA,NHL)までもが、カナダであるにもかかわらず、フランチャイズを置いています。NFLだけありませんが、代わりにCFL(カナディアン・フットボール・リーグ)のチームToronto Argonautsがあります。
     またカナダの国技であるアイスホッケーはNHL以外にもマイナーリーグやカナダ国内リーグのチームが、そして非常に地味ながらNLL(ナショナル・ラクロス・リーグ)やラグビー、サッカーのチームもあって市内の各所でリーグ戦を行っております。

     私の専門は野球とアイスホッケーですので、今回はMLBのToronto Blue Jays、NHLのToronto Maple Leafs、AHLのToronto Marlies、OHLのToronto St. Michael's Majorsのお話をしましょう。

     まずブルー・ジェイズですが、これは皆様もご存知の通り、昔ほどの人気は今はございません。90年代初頭、SkyDomeがオープンした頃にはMLBで初の年間400万人を記録し、一試合平均約5万人という今では信じられないようなホクホク運営でした。が、現在では他のアメリカン・リーグ東地区の3チーム(球団創設以来一度も勝ち越した事のない某チームは除きます)との間にはどうしても越えられない壁があるように思えます。今季の観客動員を見てみますと、東地区1位はヤンキースで1試合平均50,364人(MLB全体でも1位)、2位はレッド・ソックスで35,163人(同9位)、3位はオリオールズで31,659人(同14位)といった感じです。で、我がジェイズは?と言うと...下から見た方が早いですな。全体23位で24,918人です。私は8月以降のゲームはほとんど観戦していますが、まぁ、ヤンキース戦以外はだいたいいつも2.5万人くらいですので、こんなもんでしょう。ロジャース・センターは約5万人収容なので、半分の座席が無駄になっているワケです。
     ちなみに全席売り切れたのは、シーズン開幕戦の1試合のみだそうです...。入場者プレゼントは開門前に並ばずとも、普通にゲーム前の練習を見るつもりで行ったらだいたいもらえてしまいます♪
     チームは夏場まではワイルド・カード争いに残っていましたが、絶対的なエースのロイ・ハラデイが打球を受けて骨折、続いて昨年12勝の左腕テッド・リリーも故障でDL入り。この二枚看板の戦線離脱と歩調を合わせるように、チームもWCレースから徐々に後退して行き、8月半ばでシーズンは終わってしまいました。
     打の方では長年ジェイズの主砲を務めてきたカルロス・デルガドの放出が響き、最後まで得点力不足に泣かされました。ダイヤモンドバックスから来たシェイ・ヒレンブランドと5ツール・プレイヤーのヴァーノン・ウェルズは非力なジェイズの中では別格とも言える働きをしましたが、やはりプレイ・オフ進出を狙う他チームの主軸と比べると、パワー不足は深刻です。
     ディフェンスに関してはCFのウェルズ、ゴールド・グラブ級の守備力を持つ2Bオーランド・ハドソン、ジャーニーマンからようやく正捕手になったグレッグ・ゾーン、ツインズから打力を買われてやって来た3Bコーリー・コスキー(ジェイズ唯一のカナディアンです)らは安定していますが、肝心のSSが穴なのはかなり痛いトコロです。

     しかしながら、ルーキーで現在12勝しているヴェネズエラ出身のグスタヴォ・チャシーン(生意気そうな面構えがイイ)、SSの定位置を争う、これまたルーキーのアーロン・ヒルとラス・アダムズ、外野の定位置を狙う次世代スター候補(と言われている)アレックス・リオス、チャンスに強い3年目のリード・ジョンソン、長打力を持つ2年目のゲイブ・グロスなど、そこそこの若いタレントは揃っているので、ま、ひいき目に見て2・3年後に期待ですかね。ただし、その時にハラデイがいれば、の話ですが...。

     続きまして、メープル・リーフス。間違いなくNHLで一番人気のあるチームです。わかりやすく言うとMLBのヤンキースみたいな存在で、熱狂的ファンも多いがアンチも相当多く、またトロント以外にも全国的にファンが分散しています。毎年ビッグ・ネームに手を出して積極的に補強するのですが、なかなか頂点までたどり着けません。そこがヤンキースとは違うところです。NHLで最もチケット・プライスが高いにもかかわらず、ホームゲームは基本的に全試合売り切れます。エア・カナダ・センターでは二階席の上段が最も安く,35ドルです。普通は低所得者用に20ドル前後の格安座席を毎試合数十席は用意するものなのですが,リーフスに関しては一切ありません。貧乏人は来なくて結構です、という事でしょう。
     座席の90%くらいがシーズン・チケット・ホルダーなので、一般発売されるのはクソ席のオンパレードです。普通の席で見たい方はダフ屋から買うのが常識となっています。カナダ・チームとの対戦は特に人気のカードなので、ダフ屋も強気です。9/19の時点でリーフスの練習試合とプレシーズン・ゲーム(チケット・プライスはレギュラー・シーズンと同じ設定!)が1試合ずつありましたが、両方とも全席ソールド・アウトでした。
     一方、トロントから最も近いNHLチーム、バッファロー・セイバーズ(トロントから車で2時間半くらい)は観客減少に悩まされており、ミニ・パック・チケット購入者全員にプレシーズン・ゲームの招待券を配るというサービスを行っています。方や割引なしでもソールド・アウト、方やタダ券バラ捲きで必死のアピール。地理的にはすごく近い両チームですが、国境を越えるとホッケーの人気はまるで違うようです。

     リーフスのチケットがあまりに高く、入手困難なので、ついにトロントに第二のホッケー・チームが誕生してしまいました。名前はトロント・マーリーズです。比較的安い価格で手軽にホッケーを楽しんでもらおう、というリーフスの配慮だと思われます。野球で言うトコロの3Aに相当するAHL(アメリカン・ホッケー・リーグ)に所属しており、チームははるか遠方のニューファウンドランド島からトロントのダウンタウンに引っ越してきました。
     何故NHLのフランチャイズがある都市にマイナーリーグのチームが移転できたかと言うと、マーリーズはリーフスの傘下チームだからです。同じ事象がペンシルヴェニア州フィラデルフィアでも起こっています(NHLフライヤーズとAHLファントムズが同じ都市に同居)。マーリーズは2005-06年シーズンからプレイするのでどれほどの人気が出るのかわかりませんが、ホームリンクはリコー・コロシアムという1万人収容の立派なリンクです。ここで行われたリーフスの練習試合は先に述べたように全席ソールド・アウトでした。ホーム開幕戦は10/12。チケットは10ドル〜54ドルです(マイナーなのに54ドルのチケットが存在するだけでオドロキです)。
     AHLには現在27チームが所属しており、その全てのチームがNHLのチームと選手育成契約を結んでいます。ちなみにカナダ国内にはトロントとオンタリオ州ハミルトンのたった2チームしかありません。以前はもっとたくさんあったのですが、全てアメリカ国内に移転してしまいました。野球のマイナーリーグと同じ現象がホッケーにも起こっているのです。

     トロント第3のホッケー・チームはOHLのトロント・セント・マイケルズ・メイジャーズです。OHL(オンタリオ・ホッケー・リーグ)とはCHL(カナディアン・ホッケー・リーグ)に属する3つのリーグの内の1つで、2005-06年シーズンは20のチームが所属しています。NHLとは何の関係もなく、しかもマイナーリーグでもありません。ではなんなのか?と言いますと、CHLはジュニア・リーグで15〜20歳までの、NHLにドラフトされる前のプレイヤーがそのスキルを磨き、NHLや欧州リーグ、NCAA(アメリカのカレッジ・スポーツ)のスカウト達にアピールする場なのです。実のところ私も彼らがアマチュアなのかプロフェッショナルなのかよくわかりませんが、興業形態は全くのプロです。各都市の一番立派なアリーナをホームとし、ゲームはテレビ中継され、プレイ・オフともなると各チームのファンが敵地に乗り込む為に大移動が行われます。近年は北米出身者だけではなく欧州生まれの有望選手もCHLでプレイしているようです。NHLの北米出身選手のほとんどはこのCHLでプレイしており、特にウェイン・グレツキーやマリオ・ルミューなどは常識では考えられないような成績を若き日に残しています。また2005年のドラフトでピッツバーグ・ペンギンズから全体1位で指名された若干18歳のシドニー・クロスビーはCHLのQMJHL(ケベック・メイジャー・ジュニア・ホッケー・リーグ)で2シーズンプレイしていました。フランチャイズはカナダ国内だけではなくカナダに近いアメリカ北部の諸州にも広がっています。
     で、メイジャーズですが、これは1997-98年シーズンのリーグ・エクスパンションで新たに出来たチームです。当初は仮のホームとしてメープル・リーフスの旧本拠地メープル・リーフ・ガーデンズでプレイしていましたが、現在はわずか1,600人収容のセント・マイケルズ・カレッジ・スクールのアリーナでプレイしています。OHL最大のアリーナから最小のアリーナへ転落したワケですが、なぜかこのチームは人気がなく、1,600人のアリーナですら満員になりません。トロントの市民はリーフス以外のチームには全く興味を示さないってのが本当のところだと思われます。
     ちなみにこの長いチーム名は1960年代までOHLに存在した同名のチームにあやかって名付けられたものです。当時のチームはセント・マイケルズ・カレッジ・スクールが運営しており、選手も全員その学校の生徒から選ばれていたようです。現在のメイジャーズは全くそんな事はなく、オーナーはNHLのオタワ・セネターズのオーナーでもあります。チケットは全席13ドル均一です。
     オタワと言えば、OHLで一番大きなアリーナを使用しているのがオタワ・67'sです。9,862人収容で、NHLセネターズもチーム発足からコーレル・センターへ移るまでの3シーズン半(1992〜95年)、仮のホームとして使用していました。

     トロントに隣接するミササガやブランプトンといった近郊都市にも、それぞれOHLのフランチャイズが置かれており、さすがホッケー・タウンを自称するだけの事はある、と感心してしまいます。カナダ国内でも市内や近郊にこれだけプロのホッケー・チームがあるのはトロントだけです。色々なレベルのホッケーを生観戦したい方は迷わずトロントにおいで下さいませ!4月ですとホッケーだけでなくブルー・ジェイズのゲームも見られるのでかなりお得ですよ!



     第13回 「ヤンキースだってちょっと前まではブリュワーズだった」


     はい、どうも機嫌さんです。トロントの鰻谷でございます。先月から担当が4週目から2週目に変わりまして、原稿の締め切りが2週間も前倒しになってしまいました。この間書いたと思ったらまた締め切りやん...とブツクサ言っておりますが、今月もどうぞよろしくお付き合い下さいませ。

     ここトロント、というか北米では先日、2シーズン振りにNHLが開幕いたしました。合い言葉は「Hockey is Back!」です。バックも何も、オーナーと選手の間で揉めて1シーズン丸々中止にしておいて、そんで「ハイ、皆さんお待ちかね!帰ってきましたよ!」って言われてもねぇ。別にホッケーはNHLだけがやってるワケでもないですし。厚かましいですよねぇ。全く。
     まぁ、何にしても開幕してからいくつかのニュースが連日紙面を賑わしております。NHLの全30チームが同じ日に一斉に開幕戦を行ったのは史上初の事だとか、ウェイン・グレツキーがフェニックス・コヨーテズで監督デビューを果たしたとか、2005年のドラフトで全体1位指名された若干18歳のシドニー・クロスビーが開幕戦でさっそくポイントを挙げたとか。
     私もメープル・リーフスの開幕戦を見にクソ席のチケット(障害物のため片側のゴールが見えない席...)を握り締めてエア・カナダ・センターへ行ってまいりました。が、試合前から予想を上回る加熱っぷりでファンのテンションの高さにちょっと引いてしまいました。私はリーフスのプレシーズン・ゲームを既に2試合見に行っていましたが、本番は雰囲気や熱気が段違いでした。本領を発揮した彼らはまるでヤンキースやレッドソックスのファンのように狂信的で、誰もがリーフスを応援している事を過剰に意識し過ぎているように思えました。
     まぁ、トロント市民が地元チームを応援するのは当たり前と言えば当たり前ですが。元々人気チームを応援する人たちには何故か反感を覚えてしまうワタクシですから、素直にリーフスを応援する事などできません。いつの間にか対戦相手のオタワ・セネターズを密かに応援している自分に気付いて一人ニヤニヤしていたコーフンの開幕戦でした。
     後で聞いた話ですが、試合開始時間の午後8時には市内のレストランから客がごっそり消え、みな開幕戦中継を見るためにスポーツバーへ大移動したとの事です。

     さて今月のお題は、お待ちかね、MLBの観客動員ネタです。もう既に日本でも報道されているように、今季のMLBは昨年記録したばかりの史上最高記録をあっさりと塗り替え、2年連続で最多記録を更新してしまいました。数字的に申しますと、全30球団で実に7,491万5,268人を集め、昨年から2.6%も動員がアップしたようです(MLB.comより)。
     約7,500万人と言われてもピンと来ないと思いますのでわかりやすく申し上げますと、一試合平均で30,970人も集めたという事です。実数で約31,000人ですからたいしたものです。MLBの公式戦は162試合なので、その半分の81試合が各球団のホームゲームになります。つまり81試合×30球団で、ダブルヘッダーや開催されない試合(MLBでは順位確定後の消化試合は日程の都合上キャンセルする場合があるのです)をさっ引いて約2400試合が1シーズンに行われる計算です。という事は今年のMLBを見に来たファンの数は、「千葉マリンスタジアム約2400杯分」になるわけです。マリスタ2400試合全席完売と考えてください。凄まじい数ですねぇ...。

     今年最もファンを集めたのがあのデレク・ジーター率いるNew York Yankeesで、2003年から3年連続の1位です。今季のYankeesは、かつてToronto Blue Jaysが持っていたアメリカン・リーグの年間最高記録を塗り替える409万696人(一試合平均50,502人)を動員。年間400万人を越えたのは1993年にブルー・ジェイズとロッキーズが記録して以来の快挙で、MLB史上でもわずか3球団しか達成しておりません。恐らく日本のファンの方も衛星放送でYankee Stadiumのヒトだらけのスタンドを見ていた事と思いますが、あれだけのヒトが集まってやっとこさ「本日の観衆、55,000」と言えるのです。昨年まであのちっぽけな東京ドームが連日55,000人と発表されていた事を考えると、ちゃんちゃらおかしいですよね。
     ちなみにYankee Stadiumのキャパシティは57,478人で、今やMLBイチの収容能力です(本当はFlorida MarlinsのDolphins Stadiumの方が多いのですが、野球開催時はスタンドの1/3くらいを閉鎖しています)。
     私がはじめてYankee Stadiumを訪れた1996年は、それはもうスタンドはガラガラで、今とは全く違う状況でした。当時はストライキの影響でMLBの人気はどん底だった事もあり、ヤンキースはたった225万877人しか集められませんでした。この数字を今季のランキングで当てはめてみると18位になり、Milwaukee Brewersより僅かに3万人多いだけになります。Yankeesに関しては今更語りませんが、よくぞこの10年間でここまでブランド力を高めたものだと感心してしまいます。

     一方昨年まで最下位を独走していたMontreal Exposは、ワシントンDCに移転し大成功を収めました。一応8月末までワイルド・カード争いに残ったというチームの健闘もありましたが、モントリオール時代の実に3.6倍の272万8,614人ものファンを集めています。これはMLB全体でも11位にランクされる数字でして、あのSeattle Marinersをも凌いでいます。
     そして万年最下位のモントリオールに代わり、予定通り不人気No.1球団の座に就いたのが、皆さんご存知、Tampa Bay Devil Raysです。この球団は98年のエクスパンションで誕生した振興チームですが、最初から人気はさっぱりでした。初年度こそ250万人を集めましたが、その後の急降下っぷりはMLBの汚点として長きに渡り語り継がれる事でしょう。2年目に30%減、3年目11%減、4年目16%減、5年目18%減...二桁減のオンパレードです...6年目からはモントリオールのお陰で最下位こそ免れていますが、ブービーが続いています。弱い、球場は良くない、個性のある選手がいないの三拍子で見ていて可哀想になってきます。さすがのルー・ピネラ監督もベース引っこ抜き&放り投げの必殺技を地元ファンに披露する機会のないまま、退団となってしまいました...。

     今季20%以上アップした球団は、カルロス・ベルトラン、ペドロ・マルティネスの大物FAダブル獲りに成功したNew York Metsとシーズン序盤から地区一位を独走していたChicago White Sox、逆に20%近く動員を落としたのはAriozna DiamondbacksとColorado Rockiesでした。
     ダイヤモンドバックスとロッキーズは90年代のエクスパンションで誕生したチームで、一時はどちらも300万人を越えるファンを集める超人気球団でしたが、現在はちょうど世代交代の時期なので、観客の減少は当然の結果と言えるでしょう。客を集めたければ、やはり金をかけてスター選手を獲得するか、コツコツとチーム自体を強くするしかないと言う事ですね。

     ちなみに今年がBusch Stadium最終年のSt.Louis Cardinalsは、昨年より16.2%もアップして、8位から3位に上がりました。元々強くても弱くても安定した人気のあるチームでしたが、ここ数年は地区ではズバ抜けて強い上に、さよならブッシュ・スタジアムという事で、球場は名残を惜しむファンで相当賑わったようです(私も行ってきましたが、私が見た3試合とも4.5万人以上入っていました)。来年オープンの新球場は49,000席らしいので、このイキオイだと来季は全試合ソールド・アウト&400万人に限りなく近い数字をたたき出すかも知れません。楽しみです。

     全試合ソールド・アウトと言えば90年代のCleveland Indiansが455試合連続で有名ですが、今季のBoston Red Soxも2シーズン連続で全試合ソールド・アウトにして、記録を266試合にまで伸ばしています。今のレッドソックスならNFLペイトリオッツのジレット・スタジアム(68,436人収容)でやってもソールド・アウトを連発するでしょうね。

     最後に我がToronto Blue Jaysの事を少々。
     今季は201万4,995人を集め、MLB全体では23位でした(一試合平均では24,876人)。ヤンキースの半分にも満たない数字ですが、どん底だった2002年の163万7,900人からは毎年徐々にですが回復してきています。最終戦はKansas City Royalsとの完全な消化試合だったにもかかわらず、平均を1万人以上も上回る37,046人がRogers Centreに詰めかけました。安い年俸のチームの割には良く頑張った、というファンの思いでしょうか(ブルー・ジェイズは80勝82敗で地区3位)。この最終戦で選手もフロントも来季への期待と手応えのようなものをひしひしと感じた事でしょう。

    訂正:先月、NHLのマイナー組織であるAHLのフランチャイズはカナダ国内にはオンタリオ州のトロントとハミルトンの2チームしかない、と書きましたが、実はマニトバ州ウィニペグにもあるのでカナダ国内のAHLは全部で3チームでした。申し訳ございませんでした。ちなみにウィニペグには1996年までWinnipeg JstsというNHLのフランチャイズがありましたが、チームはアリゾナ州フェニックスへ移転しました(現在のPhoenix Coyotes)。



     第14回 「Major.jpじゃ見れないマイナー劇場」


     はい、どうも機嫌さんです。トロントの鰻谷でございます。ワタクシゴトではございますが、ついこの間までアトランティック・カナダと呼ばれるカナダ東部の諸州をウロチョロと旅行しておりまして、北米大陸の東端にあるニューファウンドランド島のセント・ジョンズまで行ってまいりました。セント・ジョンズから東はアイルランドまで冷たい風の吹きすさぶ大西洋があるのみです。晩秋の大西洋はなんとなくウスラ寂しい感じでして、そらタイタニック号も沈むわ、といった雰囲気でした。でもそんな町にもアイスホッケーのチームがしっかりありまして、ゲームのある日にはどこからともなくヒトが集まり、それなりに盛り上がります。さすがカナダですなぁ。で、ようやくトロントに帰ってきた、と思ったらもお原稿の締め切りが迫っているワケでして...。先月に続いて今月もブツクサ言っておりますが、まぁ、よろしくお付き合い下さいませ。

     さて、先日ゴールド・グラブ賞の発表ありまして我がトロント・ブルージェイズからはなんと二人も選出されました。センターのヴァーノン・ウェルズの好守&強肩もはや全国的に有名なので当然の選出と言えますが、セカンドのオーランド・ハドソンの守備力をご存知のMLBファンは少ないのではないでしょうか?私も正直トロントに来るまではウワサ程度にしか聞いていなかったのですが、これが実際に見てみるとホントにウマイんですよ。フェンス際やほぼ外野手の守備範囲付近での必殺アクロバティック・プレーもさることながら、昨年までセンカンドで3年連続選ばれていたブレット・ブーン並の堅実さも併せ持つという、まさに完璧な内野手です。ついに彼の時代が来たと言ったトコロでしょうか。アメリカの中央球界から少し離れたところにあるトロントからゴールド・グラブ賞に二人も選ばれるなんて、やはり見ているヒトはしっかり見ているのだな、と思った次第です。

     ではトロントのお国自慢はこれくらいにしまして、今月のメインテーマ、マイナーリーグのアテンダンスについて語りましょうか。2004年のマイナーリーグが創設以来歴代最高の記録をマークしたことは以前の連載で触れましたが、今季はそれを3.6%も上回り、トータルで4,133万3,279人というトンデモない数字を記録しました。具体的に申しますと昨年より144万5,523人増えておりまして、これは2003年から2004年の81万8,048人増を余裕で上回っています。マイナーリーグの人気は未だ留まることを知らず、この業界はまだまだ成長過程にあるようです。
     ちなみにマイナーリーグの歴代観客動員記録ベスト5の内の1、2,4,5位は過去5年間で達成されています(1位:05年、2位:04年、4位:03年、5位:01年で3位だけ1949年の記録)。

     今季の全体1位は2000年にカナダのブリティッシュ・コロンビア州ヴァンクーヴァーから移転してきて以来6年連続となる、サクラメント・リヴァーキャッツ(3Aパシフィック・コースト・リーグ)で1試合平均10,496人を動員しました。マイナーリーグ業界では平均1万人超えが一種のステイタスでして、9,000人台と5ケタでは打率.299と.300ほどの違いがあります。今季平均1万人超えを達成したのは1位のサクラメントと3位のメンフィス・レッドバーズ(同じく3Aパシフィック・コースト・リーグ)の2チームだけです。この2チームは「21世紀版永遠のライバル」とでも申しましょうか、どちらも2000年にキャパ1万人以上の最新設備を誇る新球場へ移ってから、毎年トップと2位の座を独占しています。そしてこの2チームの間に割って入ってきたのが、今季2Aテキサス・リーグから3Aパシフィック・コースト・リーグに昇格してきた、新鋭ラウンド・ロック・エクスプレスです。このチームは奇しくもサクラメントやメンフィスと同じ2000年に新球場へ移ってきまして、以来テキサス・リーグはおろか2A全体の観客動員記録を悉く更新し尽くしてきました。「もはや2Aで証明すべき事はない」というマイケル・ジョーダンばりのセリフを残して2005年から晴れて3Aへ昇格、昇格1年目で5年間続いた二強の壁をブチ破ったのです(しかしながら3位のメンフィスは雨で数試合を流しており、その為トータルではラウンド・ロックに負けたものの1試合平均ではサクラメントに次いで2位なのです)。ちなみに観客動員Best10の内の実に8チームまでが3Aで占められていまして、2Aからのエントリーはテキサス・リーグのフリスコ・ラフライダーズ(8位)、1Aからはミッドウエスト・リーグのデイトン・ドラゴンズ(9位)だけとなっております。

     今季MLBでは1971年のワシントン・セネターズ(現テキサス・レンジャーズ)以来34年振りに球団の移転がありまして結構話題になりましたが、マイナーリーグ業界では毎年アテンダンスの向上を求めて数チームが新天地へ移って行きます。というワケで今季開幕前に移転した6チームの移転前・移転後の数字を検証していきたいと思います。

     まず前出のラウンド・ロックは実質的には2Aからの昇格ですが、3Aの球団が一つ増えたワケではなく、形式的にはエドモントン・トラッパーズ(カナダ・アルバータ州)がラウンド・ロックに移転したというカタチになります。エドモントンは一試合平均で4,000人以上を集めていたのでそれほど業績が悪いというワケではなかったのですが、ラウンド・ロックへ移転した事によって前年比約2.8倍のファンを集める事に成功。マイナーリーグ全体のランキングでは58位から一気に2位まで上がるという凄まじいUP率でした。移転は大成功と言えるでしょう。

     では2Aのラウンド・ロックはどこへ行ったかと申しますと、別に消滅したワケではなく、同じテキサス州のコープス・クリスティという町へ移転しました。コープス・クリスティの近くには以前から独立リーグのチーム(セントラル・リーグ所属のコースタル・ベンド・アヴィエイターズ)があるので共食い→共倒れにはならないか?と思っておりましたが全くそんな心配はなく、1試合平均で7,216人を集め、全体で17位にランクされました。前年のラウンド・ロックは3位だったので数字だけ見ればダウンしていますが、2Aで平均7,000人以上は上出来もイイトコでしょう。

     テキサス・リーグではエル・パソ・ディアブロズ(テキサス州)もミズーリ州スプリングフィールドへ移転しました。リーグ8 チーム中の2チームが動くという激動のシーズンでしたが、スプリングフィールドはコープス・クリスティの上を行く一試合平均7,523人を集めて14位にランクイン。エル・パソは前年66位だったので50ランク以上UPした事になります。こちらも言うまでもなく大成功でしょう。

     同じ2Aのサザン・リーグではグリーンヴィル・ブレーヴス(サウス・キャロライナ州)がミシシッピ州パールへ移転しています。恐らくパールという町は馴染みがないと思いますが、州都ジャクソンに隣接する小都市でして実質的にはジャクソンと言っても差し支えないでしょう。ここもコープス・クリスティと同じく独立リーグのチーム(セントラル・リーグ所属のジャクソン・セネターズ)がありまして、多少は煽りを喰ったのか一試合平均3,847人しか集められず、65位止まりでした。グリーンヴィルは前年104位だったので一応移転は成功としておきますが、新球場でこの数字ではちょっと物足りない感じですね。

     ブレーヴスの移転で空き家になったグリーンヴィルには1Aサウス・アトランティック・リーグのキャピタル・シティ・ボンバーズ(サウス・キャロライナ州コロンビア)が開幕の直前に急遽ハイエナのように入ってきました。2Aでは物足りない球場だったので1Aなら...と思ったのでしょうが、1試合平均でたった1,718人しか集められず、前年からわずか21ランクUPを記録しただけでした(131位→110位)。
     ところがこの移転話には、裏があったのですね〜。2Aチームの転出によって「ベースボール空白地域」になってしまったグリーンヴィル市は焦ってしまい、なんと突然新球場建設計画を発表したのです!つまり今季1シーズンだけボロ球場でガマンすれば、来季からは皆が羨む5,000席の新球場で開幕できるというオプション付きの移転だったのです。先を見越して急遽移転を決断したキャピタル・シティは勝ち組という事ですな。

     そして最後にルーキー級パイオニア・リーグのプルヴォ・エンジェルズ(ユタ州)のちょっとおもしろいお話を。このチームは2001 年にモンタナ州のヘレナから移ってきたばかりなんですが、いかんせん、移転先の球場が悪かった。ブリガム・ヤング大学の球場を大学の野球チームと供用していたのですが、ブリガム・ヤング大学とは言うまでもなくモルモン教会の私立大学でして、球場も厳格なモルモン教の規則にのっとって運営されていたのです。
     というわけで安息日(日曜日ですね)はノー・ゲーム、球場でのアルコール類の販売は一切禁止。最もファンを呼べるハズの日曜日に試合が組めない上、重要な収入源でもある球場でのビール販売ができないときました。チームはこの教会、じゃなくて球場を新球場ができるまでの仮の宿と考えていたようですが、プロヴォ市が新球場建設を渋ったために、たった4シーズンで見切りをつけて同じユタ州のオレムという町へ移転してしまいました。これが移転の真相です。
     新天地では1試合平均2,075人を集め、ランクも前年の144位から131位へUPしました。前述の4チームと比べると全然たいした事ない数字ですが、ルーキー級なんてのはマイナーリーグの最低レベルでして、しかもホームゲームはたったの38試合しかありません。3Aや2Aとはビジネス規模が全然違うのです。そんなワケで、チームとしては日曜に試合が組めて、ビールをガンガン売る事ができるようになった、というだけでも移転は成功と言えるのではないでしょうか。上は3Aから下はルーキー級まで、マイナーリーグの移転にはヒキコモゴモなエピソードがてんこ盛りなのです。2006年シーズンの開幕までにはきっとまた興味深い移転話がマイナー劇場で演じられる事でしょう。乞うご期待ですね。

     さて、今月のお話はこれぐらいにしておきまして、来月のネタを少々。今、現在、独立リーグ業界には再編の嵐が吹き荒れております。事の発端はノーザン・リーグの顔とも言える人気チーム、セント・ポール・セインツの突然のリーグからの脱退でした。それに追随するように他の3球団もノーザン・リーグから脱退、そして別の独立リーグであるセントラル・リーグをも巻き込んで、どうやら脱退したチームによる新リーグが結成されたようです。そしてさらに残されたチームを中心として、こちらも第2の新リーグ結成との話も聞こえてきます。まだどちらの新リーグも来季の構成や日程を公式に発表していないのでこの先どうなるかわかりませんが、もし来月までに詳細がわかれば、皆様にお届けしたいと思っております。
     ではまた、来月のこの時間にお会いいたしましょう!



     第15回 「独立リーグだって再編する」


     はい、どうも機嫌さんです。トロントの鰻谷でございます。早いもんでもう12月になりました。普段なら年末年始の休みの都合でバタバタする時期ですがこちらでは全くそんな事もなく(私だけ?)、町ではクリスマスの飾り付けがピカピカと瞬いております。忙しくしている日本のミナサマ、自分だけノンビリしてて申し訳ない。こちらはいつの間にか普通に雪が積もるようになりまして、気温はプラスになる事もなくなりました。ぼちぼちリアル「北の国から」状態に突入するのでちょっとビビっておるわけですが、今月もよろしくお付き合い下さいませ。

     さて、先月の予告で「独立リーグ再編」の話題に軽く触れましたが覚えているでしょうか?あれから特に再編に関する大きな動きはないのですが、今月は最初からこのネタしか考えていなかったので強引にやる事にしますね。すいません。

     まずは独立リーグの大まかな現状を少し。2005年シーズンを無事に終えた独立リーグは、

    @フロンティア・リーグ/12チーム
    Aノーザン・リーグ/12チーム
    Bセントラル・リーグ/8チーム
    CCan-Amリーグ/8チーム
    Dアトランティック・リーグ/8チーム
    Eゴールデン・リーグ/8チーム

     の6リーグでした(この順番は実力や人気ではなく、創設された順です)。この中で抜群の安定感と人気を誇るのがDのアトランティック・リーグだという事は以前にもこの連載でご紹介しました。2005年からペンシルヴェニア州のランカスターという町が新球場を手土産に新加盟し、全8チーム中なんと7チームが球団誘致の為に建設された新球場でプレイしています。他のリーグからしてみれば天国のような環境を持つリーグで、業界ではアタマ1つどころかもはや手の届かない別世界のレベルにまで達しています。この恵まれた設備環境が目の肥えた元メジャーリーガー達を呼び、そのためリーグのレベルも底上げされ、より観客が集まる、というウハウハ・スパイラルを形成しております。

     その次に人気と実力を兼ね備えているのがAのノーザン・リーグです。以前はアイデアだけで勝負していた人気球団セント・ポール・セインツばかりが話題になっていましたが、2000年前後からカンザス・シティやジョリエット、ゲイリーなど新球場持参のエクスパンション・チームが次々に誕生し、アトランティック・リーグには及ばないもののロースターの中には元メジャーリーガーの名前もちらほら見かけるようになりました。もちろん新球場でプレイしているチームは傘下のマイナーリーグと同等かそれ以上の観衆を集めています。

     この2リーグから下はどんぐりの背比べとでも申しましょうか、大学の球場を共用したり傘下のマイナーリーグに見捨てられた球場をホームにしたりと、昔ながらの90年代的独立リーグ気質を頑なに貫いております。「資本金・運営費は安く、引き際も鮮やかに」がモットーで、毎シーズンごとにチームの消滅・移転・誕生が延々と繰り返されています。

     Eのゴールデン・リーグはみなさんご存知の通り2005年から「新規参入」してきたリーグでして、まだこの先どうなるのかよくわかりませんが、とりあえず2006年も無事行われる事が先日発表されました。しかしながら、苦し紛れに日本人+ウォーレン・クロマティでプロレス的ヒールを作り上げたが弱すぎてスベってしまったサムライ・ベアーズ、アリゾナ州フェニックス近郊を本拠地としていたメサ・マイナーズとサプライズ・ファイティング・ファルコンズの3チームは活動停止に追い込まれ、8チーム体勢はわずか1シーズンで崩壊しました。
     さすがに5チームではやばいので、代わりにネヴァダ州のリノを本拠地とするリノ・シルバー・ソックスが新加盟しましたが、リノは傘下のマイナーリーグが10年以上前に見捨てて行ったマーケット。その上球場は地元の大学施設を共用。この条件で営業的に成功を望むのは、ちょっとシンドイかと思われます。ちなみにこのリーグは全球団をリーグ自体が運営している為、チーム個別のオーナーは存在しません。また、球場は全て既存の球場ばかりで、自前の新球場を一つも所有していない唯一のリーグでもあります。

     以上が現在の独立リーグの状況です。そしてこれからが「独立リーグ再編問題」のお話しになるですが、その前に近代独立リーグの仕掛け人、マイルズ・ウォルフ氏をご紹介しておきましょか。

     近代独立リーグは、映画にもなったダーラム・ブルズのオーナーにして「ベースボール・アメリカ」誌の創設者マイルズ・ウォルフ氏が、ノーザン・リーグを立ち上げた1993年から始まります。
     マイルズ・ウォルフ氏が編集長をしていた「ベースボール・アメリカ」誌とは主にマイナーリーグの選手やニュースのみを扱う、その方面のマニアにとっては全ての情報源とも言える貴重な雑誌です。かく言う私もマイナーリーグに興味を持ち始めた年から数年間は、定期購読しておりました。特に毎シーズン前に発表される各球団のTop10プロスペクト(マイナーリーグの若手有望株10傑)はこの雑誌最大の見所でして、当たる確率は6〜7割くらいですが(案外よくハズす)恐らくメジャー球団のGMやNPBの編成担当のヒトも参考にしていると思われます。一般的にマイナーリーガーの評価は「ベースボール・アメリカ」誌によって決定されると言っても過言ではありません。その雑誌を立ち上げた本人が、紙の上だけではガマンできず実際にリーグ運営に乗り出したのが「近代独立リーグ事始め」なのです。

     創設以来順調に成長してきたノーザン・リーグを氏は2002年限りで後進に譲り渡し、自らは決して経営が上手く行っていなかったテキサス-ルイジアナ・リーグ(その後セントラル・リーグに改称)なる独立リーグのコミッショナーに就任します。これが2005年オフに業界を騒がせた再編劇場の発端でした。
     その後ウォルフ氏は同じく不安定な経営状態だったノースイースト・リーグのコミッショナーにも就任し、リーグ名をCan-Amリーグに変更、自らのセントラル・リーグとCan-Amリーグの精鋭達をオールスター・ゲームで戦わすというフォーマットを作り上げました。ここまでが2005年9月までの状況です。つまりマイルズ・ウォルフ氏はノーザン・リーグの産みの親であり、セントラル・リーグとCan-Amリーグを牛耳っているわけです。

     そして2005年10月、再編の狼煙が上がりました。
     まず、ノーザン・リーグ創設時からリーグの顔だったセント・ポールがリーグから突如脱退を表明。すぐさま後を追うようにスー・フォールズ、スー・シティ、リンカーンの計4チームが同リーグから脱退しました。この4チームはリーグ創設以来のオリジナル・メンバー(リンカーンはマディソンから移転)でして,マイルズ・ウォルフ氏の息が掛かっていたのは明らかです。
     この時点ですでにウォルフ氏の元での新リーグ結成が発表されました。しかし4チームではどうにもできません。そこでどうなったかと言うと、ウォルフ氏指揮下のセントラル・リーグから、なんと5チームが新リーグに移ってきました。もちろんその5チームは全てウォルフ氏がコミッショナーに就任してからエクスパンションで新加盟したチームで、おまけにリーグの中では成功していると言ってもいい優秀な3チームが含まれていました。これで9チームになった新リーグはついにリーグ名を発表し、公式ウェブサイトを立ち上げました。新リーグ名は「アメリカン・アソシエイション」。1997年までマイナーリーグの3Aクラスとして存在していた同名リーグの名を引き継ぐ形で発足と相成りました。後日9チームではリーグ戦が組みにくいので10番目のチームとして新たにミズーリ州のセント・ジョゼフが加わり、騒動は一件落着となりました。

     しかしリーグ戦というのは、1地区4チームか6チームで行うのが最も経費がかからず、経済的だと言われております。なぜなら1地区5チームだと、必ず地区の中の1チームは他地区に遠征に出ねばならず、移動費がかかるからです。なるべく同地区内のチーム同士の対戦を多くし、ライバル意識を煽ると同時に経費も削減できるというので、リーグというのは8・12・16チームが好まれています。というワケでアメリカン・アソシエイションは来季以降は12チームまで拡大すると思われます。予め定員数の決まっている傘下のマイナーリーグと違って、好きなだけチームを増せられるのが独立リーグのいいところですね。

     4チームが抜けたノーザン・リーグはスリム化して、少数精鋭の8チームで来季のリーグ戦を行う事が発表されました。こちらはセント・ポール以外はたいして主力チームではなかったので、2006年のフォーマットを見る限り、今後もそこそこ安定した運営が期待できると思います。

     かわいそうなのはセントラル・リーグでして、こちらは主力の5チームをごっそり持って行かれたので、声明を発表する間さえなくいつの間にか公式ウェブサイトが閉鎖されて、事実上解散していました。テキサス−ルイジアナ・リーグ時代から数えて12シーズン、チームが消滅しては新たに作り、また消滅するという自転車操業でなんとか生き長らえてきましたが、最後は実にあっけない幕切れでした。

     ところが!セントラル・リーグをマイルズ・ウォルフ氏に乗っ取られて黙っていられない骨太な連中がいました。1994年にテキサス−ルイジアナ・リーグを立ち上げた人達です。彼らはすぐさま「ユナイテッド・ベースボール・リーグ」なる新リーグの創設を発表しました。私はこの1ヶ月間ネットに張り付いてずっとこの第二の新リーグの公式発表を待っていたのですが、未だに音沙汰ナシです。あるウェブサイトで「ユナイテッド・リーグがGMを募集!」という広告を目にしましたが、「オイオイ!こんなんでええんかい!?」と言うのが私の正直な感想です。
     ウワサされている参加チームは、セントラル・リーグの売れ残りであるエディンバーグとサン・アンジェロ(いずれもテキサス州)、かつてセントラル・リーグに参加していたものの観客動員伸び悩みで活動を休止せざるを得なくなったアマリロ、ラレード、ハーリンゲン(いずれもテキサス州)、アレキサンドリア(ルイジアナ州)など懐かしい面々達。明らかにテキサス−ルイジアナ・リーグの遺伝子を色濃く受け継いでおります。なんとなくやる前から結果はわかっているような気もしますが、この「敗者復活リーグ」がどこまでやるのか。2006年も独立リーグから目が離せません。

    「アメリカン・アソシエイション」(2006〜)

     【公式ウェブサイト】http://www.americanassociationbaseball.com



     【参加チーム】

    ・North Division
     リンカーン・ソルトドッグズ(ネブラスカ州)
     スー・シティ・エクスプローラーズ(アイオワ州)
     スー・フォールズ・キャナリーズ(サウス・ダコタ州)
     セント・ジョゼフ(ミズーリ州:チーム名未定)
     セント・ポール・セインツ(ミネソタ州)
    ・South Division
     コースタル・ベンド・アヴィエイターズ(テキサス州)
     エル・パソ・ディアブロズ(テキサス州)
     フォート・ワース・キャッツ(テキサス州)
     ペンサコーラ・ペリカンズ(フロリダ州)
     シュリーヴポート・スポーツ(ルイジアナ州)

     最後まで読んで下さった読者の方におまけです。私のウェブサイト「球場巡礼」には各球場一枚しか写真が載っておらず、ごくごく一部の読者からもっと写真を載せてくれや、というお声を頂戴しておりました。つきましては私のYahoo!Photosにわずかながら写真をUPしましたので興味のある方はご覧下さいませ。ただし見ておもしろいのはBaseballとHockeyのフォルダだけで、その他は時間の無駄になると思いますのでお気をつけ下さいませ。URLはあえて言いませんが「球場巡礼」のURLからYahoo!Japan IDをご想像下さい。Yahoo!Photosのトップページは↓です。

     http://photos.yahoo.co.jp/

     写真は山ほどあるのですが、全てを公開するワケにもいかず、徐々に予告無く増やして行きます。なお、写真の無断転用は固くお断りいたします。出版社の方で写真を使いたい方は勝手に使わずに一声お掛け下さいませ。

     ではみなさま、素敵なクリマスをお過ごし下さいませ!来年またお逢いしましょう!


     第16回〜はこちら


現連載

過去の連載

リンク