Dreamfieldへの旅 by 鰻谷

    第16回 「すすめ!パイレーツ!!、がんばれ!ベアーズ!!」

    第17回 「誰にTeam Canadaを紹介する資格があるのか」

    第18回 「人工芝上の格闘技 〜インドア・ラクロス〜」

    第19回 「April In Toronto」

    第20回 「トロントに未練トロトロ」



     第16回 「すすめ!パイレーツ!!、がんばれ!ベアーズ!!」


     はい、まいど機嫌さんです。トロントの鰻谷でございます。とっくに明けておりますがとりあえずHappy New Yearです。こちらではお正月もなくお餅もなく、ましてやお雑煮や炬燵、ミカン、「初笑い!吉本新喜劇」などといった気の利いたモノもないので本当に2006年になったのかどうか半信半疑ですが、とりあえず今年もヨロシクどうぞお願いいたします。

     さてさて日本でも連日スポーツ新聞各社の一面を大いに賑わしている事と思いますが、我がブルージェイズがエライ事になっております。湯水の如く大金を使っての大補強中であります。そこで今回はさっそく「日本イチ早い新生ブルージェイズの戦力分析」をガツンとブチ上げてみたろかいな!と思っておったのですが、何度書いてもジェイズがちょこちょこと動くのでそれに追いつかずキリがなくなってきました。と言うワケで、これはまた3月のスプリング・トレーニングの時期にでも発表したいと思います。

     さてハナシは変わりましてHockeyです。ブルージェイズの大補強にもかかわらず、相変わらずこの国での話題はHockey一辺倒です。予選で敗退したため出場資格のない日本では全く話題になっていないでしょうが、こちらではトリノ五輪が近づいてきまして、Hockey界は盛り上がりつつあります。
     もちろん今回も、五輪期間中NHLは全休になりまして、長野、ソルト・レイクに続いてNHLプレイヤーが各国の代表選手として五輪に参加します。カナダ、アメリカ、ロシア、チェコ、フィンランド、スウェーデンのTop6は言うに及ばず、開催国イタリア以外のドイツ、スロバキア、ラトビア、スイス、カザフスタンにも(ピンキリですが)NHL選手が名を連ねており、まさにHockey版ワールド・カップと言えるメンツが揃いました(HockeyにもW杯はあるのですが、メンバー的にはやはり五輪が一番レベルが高いのです)!

     カナダでは関係者や識者、あるいは自称「Team CanadaのGM」と名乗るそこらへんのオッサン、クリスマス・プレゼントにファイバーグラスの超軽量スティックを親にネダり、自らを未来のシドニー・クロスビーだと信じて疑わないHockey少年に至るまで、とにかくありとあらゆる人達が日夜「ワシが選んだTeam Canadaこそ最強」みたいなディスカッションを果てしなく繰り広げております。
     それほど男子アイスホッケーカナダ代表選びは、この国では重要な問題なのです。

     しかし私は、個人的にはカナダよりダニエル・アルフレッドソン(オタワ)、ピーター・フォースバーグ(フィラデルフィア)、マーカス・ナズランド(ヴァンクーヴァー)、マッツ・サンディン(トロント)、ダニエル&ヘンリクのセディン兄弟(いずれもヴァンクーヴァー)ら人気や実力はおろか統率力や経験値をも兼ね備えた新旧のスター選手をフォワードに揃えた、スウェーデンに魅力を感じますねぇ。それぞれが誰とラインを組むのかも非常に興味津々です。

     もう一つ、日本で話題になっていないであろうHockeyネタを。
     先日、ヴァンクーヴァーで世界ジュニア選手権(2006 IIHF World Junior Championship)が行われました。
     Hockeyの世界でジュニアとは、20歳以下の選手の事です。以前にも述べましたが、カナダ国内には20歳以下のジュニア選手だけで構成されているCHL(Canadian Hockey League)という58チームから成る世界最大のホッケー・リーグがあって、それはドエライ人気です。従ってジュニアの世界選手権といえども、カナダ国内では全くバカにできないワケでして、スポーツ専用チャンネルではカナダ代表以外の試合であってもキチンと放送があるほどです。そして会場の方も準々決勝以降はNHLヴァンクーヴァー・カナックスのホームでもあるGMプレイス(1995年オープン:18,422席)が使用されました。結果は目出度くカナダ代表がロシア代表を5−0のシャットアウトで破り、優勝。ちなみに決勝戦でロシア代表を完封したカナダ代表のゴールキーパーJustin Poggeは既に2004年のドラフトで、NHLトロント・メープル・リーフスから指名を受けています。未来のTeam Canadaをしょって立つであろう若いエリート選手達は普段は過酷なリーグで揉まれ、そして若い内から最高レベルの国際試合を経験し、さらなる進化と成長を続けます。カナダのHockeyが常に強いワケです。

     さて、前置きが長くなりましたがここからが今月のオハナシです。以前第4回「ブンブンズ?悪くないねぇ」の巻にてマイナー・リーグのチーム名云々のネタを取り上げましたが、今回はそれのHockey版をやってみようかと思います。Hockeyのジュニア・リーグやマイナー・リーグもBaseballに負けず劣らずの個性的なツッコミどころ満載のニックネームが氾濫しており、それについてワタクシ、鰻谷がちゃちゃを入れてやろうではないか、と言う新年から気合の入りまくった硬派な企画でございます。では行ってみましょう。

     まずBaseballと同様にHockeyの世界でも、地元にゆかりのある動物をニックネームにしてしまうパターンが圧倒的に多いです。特徴として、やはり寒いトコロに棲む動物が多く見られますね。Moose(ヘラジカ)、Bucks(雄ジカ)、Wolves(オオカミ)、Wolf Pack(オオカミの群)、Huskies(ハスキー犬)、Bruins(クマ)、Bears(クロクマ)、Grizzlies(灰色グマ)、Winter Hawks(タカ)、Thunderbirds(雷鳥)、Penguins(ペンギン)、Whalers(クジラ)など。

     またHockeyのイメージと一致する俊敏性や攻撃性を持つ動物も好まれているようです。
     犬の世界で一番速く猟やレースにも利用されるGreyhounds(グレイハウンド犬)、野性味を主張するWildcats(ヤマネコ)、ギャーギャーと絶叫する Screaming Eagles(ワシ)、Falcons(ハヤブサ)、人をも殺しかねないKiller Bees(ハチ)、尻尾に強烈な毒針を持つStingrays(アカエイ)、Vipers(毒ヘビ)、ありそうでなさそうなGorillas(ゴリラ)、ソースではない方のBulldogs(ブルドッグ)など。そしておなじみ強いのか弱いのかよくわからない珍名達...River Rats(川ネズミ?)、River Dogs(川犬?)、Sundogs(太陽犬?)、Gulls(カモメ)、Mallards(マガモ)、Rays(エイ)など...。

     それから動物ではありませんが、伝説や神話、空想から名付けられたGiants(ギリシャ神話の巨人)、Titans(ギリシャ神話の巨神)、Griffins(ギリシャ神話の怪物でワシの頭と翼、獅子の体を持つ)、Phantoms(お化け) などもあります。

     続いて動物以外のローカル色豊かなニックネーム達をご紹介しましょう。
     カナダの大平原のど真ん中サスカチュワン州スウィフト・キャレントのチームはBroncos(野生のウマ)、アメリカ先住民の土地だったワシントン州スポケインのチームはChiefs(酋長)、城壁に囲まれたケベック州ケベック・シティのチームはRamparts(城壁)、 霧がよく発生するニューファウンドランド州セント・ジョンズのチームはFog Devils、海辺の港町メイン州ポートランドのチームはPirates、「こちらヒューストン」でおなじみの航空宇宙開発の町テキサス州ヒューストンのチームはAeros(航空機)、川沿いの町イリノイ州ピオリアのチームはRivermen、フォード、GMなどの自動車産業で栄えた町ミシガン州デトロイトのチームはMechanics(機械工)、石油が出るオクラホマ州タルサのチームはOilers、ロデオの本場テキサス州フォート・ワースのチームはBrahma(ブラーマ=ロデオに使われる暴れ牛)、ミシシッピ川沿いの町テネシー州メンフィスのチームはRiver Kings、綿花地帯にあるテキサス州ラボックのチームはCotton Kings、小麦地帯にあるマニトバ州ブランドンのチームはWheat Kings(ウィート=小麦)、シャケが名物のブリティッシュ・コロンビア州ヴィクトリアのチームはSalmon Kings、またカナダの首都オンタリオ州オタワのチーム名はカナダが正式に発足した1867年からとって67’sと名付けられました。ここらあたりはHockeyでなくとも他のスポーツ・チームにも十分使えそうな名前ですね。

     さらに、今度はHockeyならではのニックネームを。
     まずスケート靴の刃を意味するBlades 、ズバリそのものIce、とりあえずアイスをくっつけてみました型のIce Dogs、Ice Pilots、Ice Hogs(ホッグ=豚)、Ice Bats(バット=コウモリ)など。過去にはIce Gators(ゲイター=ワニ)なんてのもありました。ムチャクチャですねぇ。この法則でいくとなんでもIceをアタマに付けるだけでHockeyのチームになります。そう言えば日本にもIce Bucks(バック=雄ジカ)なんてのがあったような。
     ...Ice Carp、Ice Dragons、Ice Fighters、Ice Golden Goals、NECなら絶対にIce Rockets...ブツブツ。

     スポーツ・チームというのは、やはり子供にウケるような力強い名前がスベらなくて確実です。男の子ならきっと気に入るネックネーム達です。Spitfires(スピットファイヤー=小型戦闘機の名前)、Bombers(爆撃機)、Battalion(バタリオン=軍隊の単位で大隊)、Majors(少佐)、Admirals(海軍の司令長官)、Knights(騎士)、Monarchs(モナーク=君主)、Kings(王)、Rebels(反逆者)、Gladiators(古代ローマの戦士)、Warriors(インディアンの勇敢な戦士)、Raiders(侵略者)などなど。ちなみにNHLロサンジェルス・キングズの傘下のマイナー・リーグはAHLがマンチェスター・モナークス、ECHLがレディング・ロイヤルズでして、上から下まで3チームとも「王様」という意味のニックネームで統一されております。なかなか凝ってますねぇ。
     前回のBaseball編で昨今の流行だとご紹介しました「S無し」のニックネーム。Hockeyにも比較的新しく創設されたチームが採用しております。Attack(攻撃)、Sting(刺す)、Storm(嵐)、Thunder(雷)、Spirit(精神)、Fury(激情)、Blaze(火炎)、Inferno(灼熱の炎)、 Rampage(暴れ回る)などなど。最後のランペイジはごっついですねぇ。テキサス州サン・アントニオのチームですが、暴れ回るウシがロゴになっております。キケンですなぁ。

     最後に変わりダネのおもしろニックネームを羅列してシメとしましょうか。
     MLBにフィラデルフィア・フィリーズというのがありますね。フィリーとは「フィラデルフィアっ子」と言う意味です。それと同じパターンでオンタリオ州ピーターボロのチームはピーツと呼ばれております。Peterborough Petes。ただのダジャレですがノリの良さは伝わってきますねぇ。
     プリンス・エドワード・アイランド州シャーロットタウンのチームはRocketという名前を頂いております。「ロケット」とはロジャー・クレメンス、ではなくNHLモントリオール・カナディアンズの伝説的プレイヤー、モーリス・リシャールのニックネームです。ロケットのような突破でゴールを量産したストライカーでした。チームは元々リシャールの地元ケベック州モントリオールにあったのですが、2003年にPEIに移ってきました。移転後も名前を変えるのは「畏れ多い」という事で現在もRocketを名乗り続けております。Rocketsではないので注意しましょう。
     アルバータ州カルガリーのジュニア・チームはHitmenです。NHLフレームスと同じアリーナ(Pengrowth Saddledome)でプレイしている人気チームですが,スポーツ・チームで「殺し屋」はスゴイと思います。ちなみにロゴは武器の代わりにスティックを構えた死神のデザインで結構かっこいいんですヨ。
     ウエスト・ヴァージニア州ウィーリングのチームはNailersです。ネイルはツメとかクギという意味ですが、チームロゴはクギです。クギの産地なんでしょうかね?
     コネティカット州ダンバリーのチームはTrashersです。トラシュは「ゴミ」でしてチームロゴはなんとスティックを構えているコワイ顔をしたゴミ箱です。笑えます。

     以下の2チームはスポンサーがらみで名付けられました。
     オンタリオ州オシャワのチームはGeneralsと呼ばれております。一般的にジェネラルと言えば「将軍」を連想しますが、これはあのGM(ジェネラル・モターズ)社がチームのスポンサーだったので名付けられました。オシャワにはGM社の大規模な自動車工場があるとの事です。
     もう一つはノヴァ・スコシア州ハリファックのチームです。 Mooseheadsと呼ばれていますが、ムースヘッドとはアトランティック・カナダで人気のある地ビールのメーカーです。ラベルに使われているムース(ヘラジカ)の横顔がそのままロゴにも使われております。ちなみにムースヘッドの本社はハリファックスではなくニュー・ブランズウィック州のセント・ジョンにあります。

     以上、Hockeyのニックネームをざっと挙げてみました。Baseballにくらべるとなんとなく洗練されていてドロ臭さがないような気がします。やはりHockeyは氷上で、Baseballは土の上でやるので、ネックネームを付ける際も各々そういう傾向が自然と出るのでしょうね。
     それとHockeyはBaseballと違って肉体的接触の多いスポーツなので、パワフルな名前が多いような気がします。いずれにしろ、調べている内にやはりマイナーのチーム名は凝ってておもしろいなぁ、と感じました。また素材がたまればまとめて第三弾をやりたいと思います。

     ところで、先月の私のヤフー・フォトのURLは、

     >http://photos.yahoo.co.jp/muguken1975

     でした。みなさま、わかりましたでしょうか?エッ?全然興味ない?そんな事おっしゃらずに球場の写真がいっぱいあるので見てやって下さい。

     ではでは、また来月。バイバイ。



     第17回 「誰にTeam Canadaを紹介する資格があるのか」


     はい、まいど機嫌さん。トロントの鰻谷でございます。最近めっきり寒くなってきまして布団から出るのも云々...とお決まりの挨拶で始めたいトコロですが何故か今年のトロントは異様に暖かくて、1月になってからというもの雪はほとんど降らず、気温も滅多に氷点下を下回る事がなくなりました。どこへ行っても「今年の冬はあたたかいですねぇ。毎年こうだと最高なんですがねぇ。オホホホ」といった挨拶が交わされるほどの暖冬です。寒くないカナダは本当に住みやすいいいトコロです。

     さて、今月はみなさまお待ちかね、MLB機構の思惑とはウラハラに主力選手の辞退者続出で「ひょっとしてスベったんちゃう?」との声も聞こえてきそうなWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)のオハナシでございます。WBCネタ、と申しましても私は個人的にこの大会の見所は「Baseball Playersが主な輸出品目(一部の国では国外持ち出し禁止品目に指定されていますが)になっているラテン・アメリカ諸国がUSAを叩きのめして日頃のウップンを晴らす事が出来るのか?」に尽きると思っているので、これから書く事には自身あまり興味はございません。とハッキリ申し上げてしまいましたが、なんちゃってパートタイム・カナディアンとしてこれだけは日本の野球ファンに知っていただきたいと思います。「我がCanadaもWBCにエントリーしています!」。そして有名無名のメジャー・リーガー、マイナー・リーガー、独立リーガー達がカエデ・マーク(カナダの国旗のデザインですな)の元に集結し、母国の威信をかけて憎きUSAに一泡吹かせてやろう、と密かに目論んでおるのです。

     というわけで今回は、トリノ五輪の男子アイスホッケー・カナダ代表...ではなくて日本で話題沸騰間違いなしの鉄板企画「WBCカナダ代表を熱く語る」をブチ上げてみたいと思います。候補選手の中には日本のプロ野球に馴染みのある選手もいますので、興味のない方も最後までお付き合い下さいませ。

     とりあえず現時点(2月7日)でカナダ代表選手は23名が発表されています。他の国の例に漏れず、我がカナダからも主力から数人の辞退者が出る予定ですが私の妄想として彼らも「当然参加するもの」としてロースターに入れておきます。意外に思われるかも知れませんが、カナダ国民は国境を接するアメリカにかなりのライバル意識を持っており、ことスポーツにおいてはUSAと対戦するとなると、穏やかな国民性からは想像できないような激しい愛国心を示す事があります。故に故障のため現在ロースターに入っていない主力選手でもメドさえつけば、カエデ・マークを背負ってくれるのではないか?と個人的には淡い期待を寄せておるのです。

     まずは投手陣から。単刀直入に申し上げますと、非常に手薄いです。現在カナダを代表する投手と言えばドジャースのクローザー、エリック・ガニエでしょう(ケベック州モントリオール出身。彼はフランス系カナダ人なので、Gagneはフランス語風にガニエと発音します。ケベック州出身のカナダ人はフランス語を第一言語としている人が圧倒的に多いので、カタカナ表記が難しい場合があります)。
     このヒト、ゴーグルとヒゲ面で有名ですが、デビューしたての頃は先発をやっておりました。しかし期待されていた割には全く結果が出ず、デビュー4年目の2002年からクローザーに転向し、いきなり52セーブをあげました。翌年は55セーブでサイ・ヤング賞受賞、3年目もフル回転して45セーブを稼ぎましたが、案の定2005年は過去3シーズンのツケが一気に回ってきて、肩を故障し、ほぼ全休でした。そのケガがまだ完全に癒えておらず、WBCは泣く泣くパスする見込みです。

     ガニエが辞退となれば、クローザーはカブスのライアン・デンプスター(ブリティッシュ・コロンビア=BC州出身)しかいないでしょう。1998年のデビュー以来マーリンズでローテを守り、15勝したシーズンもありましたが、ここ2・3年は低迷していました。ところが2005年に人材不足のカブスでクローザーに就任すると、まさかの33セーブで大復活。もう終わったと思われていた投手ですが、今大会では大役を任されそうです。

     そのデンプスターへ繋ぐのは、カナダを代表するベテラン・リリーバーのポール・クァントリル(オンタリオ州出身)でしょうか。地元ブルージェイズでも6シーズン投げていたので、カナダ人にもお馴染みです。そろそろ黄昏時に差し掛かっておりますが、メジャー経験14年で培われた投球術は短いイニングならまだまだ通用するでしょう。
     他の主なリリーバーとしましては、アメリカ出身ながらアルバータ州カルガリーで育ったブレーブスのクリス・リーツマ、38歳にもかかわらず昨年フィリーズで57試合に登板した鉄腕レアル・コーミエ(ニュー・ブランズウィック州モンクトン出身)、ツインズで昨年75試合に登板して12勝をマークした二年目のジェシー・クレイン(オンタリオ州トロント出身)らが名を連ねています。

     そして最も重要な先発陣ですが、現在カナダNo.1スターターとの評判が高いのはアスレティックスの若手右腕リッチ・ハーデン(BC州出身)です。が、彼は肩の手術を受けたばかりなので出場は完全にないようです。彼の100マイルに近いFireballはカナダ投手陣にとって相当な戦力となるはずだったのですが...ガニエと共に本当に残念です。
     ハーデンを欠くとなると、自ずとNo.1スターターはロッキーズの若手左腕ジェフ・フランシス(BC州出身)になりそうです。2004年にメジャー・デビューしたばかりですが、2005年には早くもローテ入りし、12敗したもののそれを上回る14勝をあげて、一気にエース格にのし上がりました。キャリア防御率が5.60というのが気になりますが、まぁ、ヒッターズ・パークの代表ともいえるクアーズ・フィールドをホームとしているので、1点くらいは差っ引いて評価してもいいでしょう。昨年は33度の先発で合計180イニング以上も投げています。これほどの成績を残しているカナディアンの先発投手は彼以外にはいません。
     二番手以降に名を連ねるのは、地味ですが、オリオールズで過去2シーズンに50回も先発している左腕エリック・ベダード(オンタリオ州出身)、主にレンジャーズで先発を務めアテネ五輪でも活躍、後に楽天イーグルスと契約したアーロン・マイエット(BC州出身)らが続きます。
     野手のビッグ・ネームはなんと言ってもパイレーツのジェイスン・ベイ(BC州出身)です。2003年にパドレスからデビューしましたが、すぐにパイレーツにトレード。2004年からレフトの定位置を獲りその年はカナダ人初の新人王にも選ばれています。昨年は162試合全てに出場、打率.306、32HR、101打点、21盗塁を記録し、オフにはパレーツと4年契約を結びました。今年27歳になるのでこれから全盛期に突入しようかという、まさにカナダの至宝です。
     そのベイと並ぶ若手の才能あふれるスラッガー、ツインズの1Bジャスティン・モルノー(BC州出身)も代表に招集されております。3年目の昨年は出足こそ好調でしたが徐々に失速し、打率.239、22HRとやや期待ハズレな成績でした。しかしまだ24歳と若いので、伸びシロもあるかと思われます。WBCがそのキッカケになってくれればウレシイのですがねぇ。

     この若手二人の対局にいるのがベテランの二人、ブルージェイズからブルワーズに移籍した3Bコーリー・コスキー(アルバータ州出身)と元中日にしてメジャー歴13年のDHマット・ステアーズ(ニュー・ブランズウィック州セント・ジョン出身)です。この両選手、出身地がすごく辺鄙な場所であるというのも特筆すべき事ですが、目立たないながらも実績はたいしたものです。
     コスキーは全盛期を過ぎてやや下り坂になりかけている事は否定できませんが、ステアーズの方は若手とのツープラトーンではあるものの、今年38歳になるというのに100試合以上に出場し、打点も70近く稼いでおります。毎年ズバ抜けた成績を残すことはないですが、ヒドい成績を残すワケでもなし。まさにベテラン選手の理想です。

     この4選手の脇を固めるのは、各球団でレギュラーの座を狙っている若手・中堅ドコロのプレイヤー達です。ステアーズの同僚でもあるロイヤルズの外野手アーロン・ガイール(BC州ヴァンクーヴァー出身)、1998年にダイヤモンドバックスから期待されてデビューしたものの2003年を最後に消えてしまった内野手ダニー・クラッセン(オンタリオ州出身)、昨年ブレーブスでデビューし150打席ながら3割を打った内野手ピート・オア(オンタリオ州出身)、同じく昨年レッドソックスからデビューした外野手アダム・スターン(オンタリオ州ロンドン出身)など。
     また現在独立リーグのサマーセット・ペイトリオッツに所属するSSケヴィン・ニコルソン(元パドレス・BC州ヴァンクーヴァー出身)、外野手ライアン・ラドマノヴィッチ(元マリナーズ・アルバータ州カルガリー出身)もバックアップ、もしくはレギュラーとして参加が決定しています。さらに昨年11月にアメリカのアリゾナ州で行われました2008年北京五輪のアメリカ大陸予選にカナダ代表として参加した元ヤクルトのトッド・ ベッツ(オンタリオ州出身)も今後代表として選ばれるかも知れません。

     最後に守備の要の捕手ですが、コチラも人材不足が深刻でしてメジャーの正捕手クラスがあまりまくっているプエルトリコが羨ましいと言いましょうか、憎たらしいと言いましょうか...。ズバリ現役でメジャー経験のある捕手はたった一人、しかも正捕手ではありません。パドレスのピート・ラフォーレ(ケベック州出身)です。
     2003年にデビルレイズからデビューしましたが、翌2004年は昇格なし、昨年は再びメジャーに返り咲いて、14試合で先発マスクをかぶりました。
     打つ方は通算打率2割にさえ届かず、本塁打はわずか1本。昨年オフにはデビルレイズからリリースされ、パドレスに拾われました。そんな選手に正捕手をまかせないといけないカナダって...涙が出ます。
     捕手は3人体制がWBCのルールですので、残りの二人はもちろんマイナー・リーガーです。既にドジャース傘下の2Aジャクソンヴィル所属のラッセル・マーティン(ケベック州出身)とタイガース傘下の2Aエリー所属のマキシム・セントピエール(ケベック州出身)が選出されています。捕手は偶然にも全員ケベコワ(フランス語でケベック人の意)ですが、ラフォーレ以外は名前のフランス語読みがわからないので、英語読みで表記しました。野球がスポーツとしてほとんど認知されていないケベック州から揃って選ばれるとは、偶然とはいえ、驚きです。

     そしてこれらの烏合の衆、いや若いタレント達を率いるのは1980年代のブルージェイズで長年正捕手を務めたアーニー・ウィットです。アメリカのミシガン州デトロイト出身ですが、昨年の五輪予選でも代表チームを率い、現在はブルージェイズでベンチ・コーチを務めています。カナダ国内での実績や知名度は抜群でまさに適任と言えるでしょう。

     カナダと言えば、もう一人忘れてはならない偉大なバットマンがおります。1989年に今は亡きエクスポズでデビュー、毎年安定したバッティングで首位打者を3度、HRキング、リーグMVPをそれぞれ1度ずつ獲得。また華麗なライトの守備では、ゴールド・グラブをなんと7度も受賞しております。史上最高のカナダ出身選手と誰もが認めるのがラリー・ウォカー(BC州出身)です。彼の生涯打率.313は、2005年シーズン終了時点で全現役選手中8位にランクされておりました。残念ながら昨シーズン終了後に引退してしまい、WBCとは入れ替わりになってしまいましたが、個人的にはWBCを最後の舞台として引退してほしかったですねぇ。一応コーチとしてカナダをサポートしてくれるようですが、38歳で迎えた最後のシーズンですら打率.289、15HRを打った御仁です。1試合に1打席だけでもいいので、出場してもらうワケにはいかぬものかと...。

     カナダ代表は、フロリダ州ダネイディンにあるブルージェイズのキャンプ施設でトレーニングを行った後、3/3にブルージェイズとエキシビション・ゲームを行います。予選ラウンドはアリゾナで憎きUSA、アミーゴ・ボールを標榜するメキシコ、得体の知れぬ南アフリカと戦います。正直このメンツでUSAに勝てるとは思っていません。メキシコぐらいがちょうどいい相手ではないでしょうか。

     最後に予想スターターをどーんと発表して、シメの言葉とさせていただきます。

    1.CF アーロン・ガイール(カンサスシティ・ロイヤルズ)
    2.2B ピート・オア(アトランタ・ブレーブス)
    3.1B ジャスティン・モルノー(ミネソタ・ツインズ)
    4.LF ジェイスン・ベイ(ピッツバーグ・パイレーツ)
    5.3B コーリー・コスキー(ミルウォーキー・ブリュワーズ)
    6.DH マット・ステアーズ(カンサスシティ・ロイヤルズ)
    7.SS ダニー・クラッセン(3A)
    8.RF アダム・スターン(ボストン・レッドソックス)
    9.C  ピート・ラフォーレ(サンディエゴ・パドレス)
      SP ジェフ・フランシス(コロラド・ロッキーズ)

     今月も長くなってしまいましたが、お付き合いありがとうございました。ではまた来月のこの時間に。バイバイ。



     第18回 「人工芝上の格闘技 〜インドア・ラクロス〜」


     はい、まいど機嫌さん。トロントの鰻谷でございます。みなさん、睡眠は十分に取ってはりますか?スポーツ好きの方は二つの大きな国際大会、トリノ冬季五輪とWorld Baseball Classicによるオールレンジ攻撃に生活のリズムを乱されているのではないでしょうか?幸いここカナダではどちらのイベントも北米時間の日中に中継されるよう調整されており、日本にいた頃と較べるとテレビ観戦は非常に楽です。WBCはともかく、五輪の競技日程や開始時間が北米主導で決定されている事を実感いたしました。

    さて、さて、とりあえずトリノ五輪men's hockeyについて語っておきましょうか。もう旬の話題ではございませんが、BaseballとHockeyの二本立てでお送りしている手前、スルーするワケにはいかないでしょう。第16回でワタクシが個人的に注目している、と高らかに宣言しましたスウェーデンが見事にゴールド・メダルを獲得しましたね。
     「せやからどやねん?」と言われても困るのですが、やはり密かに肩入れしていたチームが優勝するのはうれしいモノです。予選リーグ(Preliminary Round)ではチェコ、カナダの歴代ゴールド・メダリストを喰ったスイスや5戦全勝のスロヴァキアの影に隠れて全く目立ちませんでしたが、決勝トーナメント(Playoff Round)に入るとケガのため予選では温存していた「Mr.五輪」ことピーター・フォスバーグ(フィラデルフィア)が出場するようになり、オフェンスがスムースに機能するようになりました。ワタクシ、実は仕事の都合で決勝のフィンランド戦は第2ピリオドまでしか見ていなかったのですが、仕事中に「スウェーデンが勝った」と聞きましてカーク・ギブソンばりのガッツポーズをカナダ人に配慮しまして小さくキメときました。試合の続きは帰国後、VTRで見る予定です。
     我がカナダはと言うとご存知の通りロシアの新鋭アレクサンダー・オヴェチュキン(ワシントン:2004年のドラフト全体1位指名)一人にやられて、トーナメント初日にさっさと姿を消しました。翌日の新聞にはチーム・カナダのエグゼクティブ・ディレクター(GMのようなポジション)を務めたウェイン・グレツキーのコメントが載っておりました。曰く「このキッド(オヴェチュキンのことね)は現時点では世界最高のフォワードに違いない」。自ら人選したカナダのオフェンス陣が全く機能せずメディアに叩かれ、元ハリウッド女優の嫁さん(ジャネット・ジョーンズ)は五輪の直前にNHL賭博関与疑惑が発覚...さすがの「ザ・グレート・ワン」も踏んだり蹴ったりで勝った相手をほめる事でしか「王国」の威厳を保つ事ができない、そんな厳しく哀しい2月のカナダホッケー界でした。

     そして、トリノの興奮も冷めやらぬうちに始まったのがWorld Baseball Classic。開幕前は主力選手の相次ぐ辞退で、「ほんまに盛り上がるんかいな?」と個人的にも懸念しておりましたが、始まってみれば何てこたぁない。サイ・ヤング賞投手同士の先発で始まった頂上決戦ヴェネズエラ対ドミニカ、我がカナダが憎きA−ROD、ジーターらを擁するUSAをうっちゃる大アップセット、いきなり延長にもつれこだ熱戦パナマ対キューバなど、実に見応えがあり、おもしろい。北米とカリビアンの応援スタイルの違いや、各国の国旗がスタンドのあちこちで揺れている様を見るにつけて、MLB機構の期待通りBaseballが新しいステップを踏み出した、と確信するに足る充実した大会になりそうな予感です。
     もちろんここカナダでは東京ドームで行われたアジア予選のニュースなど全く相手にされず、スポーツ・ニュースでは連日ちょこちょことチーム・カナダの練習風景やインタビューが紹介されていました(連中が何故かインライン・ホッケーに興じている映像も紹介されました。さすがカナダ)。
     ちなみにカナダでのWBC中継はアメリカのスポーツ専門チャンネルESPNの映像を使い、ブルージェイズのオーナー会社でもあるケーブルTV局「ロジャース・スポーツネット」が担当しております。
     前回チーム・カナダのロースターをお知らせしましたが、若干変更がありましたので追記しておきます。
     まず、主力からは予想通りエリック・ガニエ(投手:ロサンゼルス・ドジャーズ)、リッチ・ハーデン(投手:オークランド・アスレティックス)、ライアン・デンプスター(投手:シカゴ・カブス)が辞退しました。予選でのアメリカ戦を見ていたら、やはり8、9回にはデンプスター→ガニエのリレーができれば心強いのになぁ、と思いちょっと歯がゆい思いをしましたね。
     またキャッチャーにはドジャーズのトップ・プロスペクト、ラッセル・マーティン(2Aジャクソンヴィル)がはずれ、代わりにクリストファー・ロビンソン(デトロイト・タイガース傘下1Aウエスト・ミシガン)が選ばれました。そして先発ローテーションには不動のエリック・ベダード(ボルティモア・オリオールズ)とジェフ・フランシス(コロラド・ロッキーズ)に加えてアダム・ローウェン(オリオールズ:2002年ドラフト一巡目指名)が入り、元楽天のアーロン・マイエットはリリーフに回った模様です。前回お知らせしました元ヤクルトのトッド・ベッツ(独立リーグ:サマーセット)は残念ながら選ばれませんでした。

     今のところ個人的に、WBC大ヒットは大歓迎です。カナダは別にしましても、やはりカリビアン諸国に注目してしまいます。辞退したペドロ・マルティネス(ドミニカ)、マニー・ラミーレス(ドミニカ)、ホゼ・ヴィードロ(プエルトリコ)、フェリックス・ヘルナンデス(ヴェネズエラ)、マリアノ・リヴェラ(パナマ)らもテレビの前できっとこう思っている事でしょう。「あー、ムリしてでも出ればよかった!次回は必ず!」と。
     でも次回2009年に彼らが代表に選ばれるかどうかは、「?」ですよね...。

     さて前振りが長くなってしまいましたが、ここからが本題です。と言いたいトコロですが、毎回自分の駄文が配信されるのを見るにつけ「無駄にダラダラ長い」と思わない日はありません。どう考えても連載陣の中で浮いてしまっているので今回は短くサラッと流します。

     先日、生まれて初めてラクロスの試合を見に行きました。NHLメープル・リーフスやNBAラプターズでお馴染みのエア・カナダ・センターをホームとしている「トロント・ロック」と言うチームです。カナダの国技と言えばアイスホッケーが有名ですが、実はラクロスも国技でして結構な人気を誇っているのです。書店の雑誌コーナーへ行くと数多あるHockey雑誌の横には必ずLacrosse雑誌が並んでいます。またアメリカの北東部でも人気らしく、「観るカ レッジ・スポーツ」として一部の地域では屋外のスタジアムが満員になるほどとも聞いております。
     トロントをホームにしているToronto Rockは1997年に発足したNational Lacrosse League(通称NLL)に所属しているプロフェッショナル・インドア・ラクロスのチームです。シーズンはホッケーやバスケと平行して毎年1月から4月中旬まで行われ、1シーズン16試合を戦います。ルールは非常にアイスホッケーに似ておりまして、ボディ・チェックやファイティングなどの接触プレイ、ペナルティ後のパワー・プレイ(ファウルを犯したチームが数的不利になる)などが認められています。私が見た限りでは、バスケのボール運びにホッケーのゴール前の攻防及び荒々しさがミックスされたスポーツ、と言った感じでしょうか。
     ゲーム中は常に大音量で音楽が流れ、トリッキーなノールック・パスや背面ショット、ゴール裏からの予想外の攻撃、スティックや体を使っての執拗なディフェンスなど見所満載のスリリングなエンターテイメントでした。コートはアイスホッケーと同じく透明のボードに囲まれているので、前列に陣取っているファンは選手をすぐ近くで見ることができます。ちなみにリーグ屈指のシューターともなると時速100マイル(約160キロ)を越えるショットを打てるようです。(注:ここでのルールはあくまでもNLLのインドア・ラクロスのルールです。おそらくNCAAや国際大会のルールとは異なるものと思われます)
     観客動員の方も上々で、現在ホーム6試合を消化した時点で平均15,994人も集めております。チケットは最低C$23.50(約2,350円)からなので決して安いわけではないのですが、観客動員から察するに、マイナー・スポーツの割には相当支持されているようです。NLLはトロントを含めまして現在11チームで編成されております(2007年からシカゴが参加予定)。北米スポーツ観戦旅行を予定されている方は是非見てみてください。予想外の迫力とスピード感に、きっと驚く事請け合いです。

     NLL(ナショナル・ラクロス・リーグ)

     【West Division】
     アリゾナ・スティング(@グレンデイル・アリーナ)
     カルガリー・ラフネックス(@サドルドーム)
     コロラド・マンモス(@ペプシ・センター)
     エドモントン・ラッシュ(@レクソール・プレイス)
     ポートランド・ランバージャックス(@ローズ・ガーデン・アリーナ)
     サン・ホゼ・ステルス(@HPパヴィリオン)

     【East Division】
     バッファロー・バンディッツ(@HSBCアリーナ)
     ミネソタ・スワーム(@エクセル・エナジー・センター)
     フィラデルフィア・ウイングズ(@ワコビア・センター)
     ロチェスター・ナイトホークス(@ブルー・クロス・アリーナ)
     トロント・ロック(@エア・カナダ・センター)
     注:NY州ロチェスター以外は全てNHLのアリーナでプレイしています。

     トロントも真冬に較べるとだいぶ暖かくなってきました。我がジェイズの開幕は4月4日、ミネソタ・ツインズ戦です。恐らく先発はロイ・ハラディ対ヨハン・サンタナのサイ・ヤング賞投手同士の豪華な対決となりそうです。楽しみですねぇ。ではまた来月のこの時間に。バイバイ。



     第19回 「April In Toronto」


     はい、まいど機嫌さん。トロントの鰻谷でございます。ようやく長かった冬が終わろうとしています。「終わりました」と言い切れないのは球音が響く今現在におきましても陽が沈めば吐く息が白くなるからです。カナダ人の感覚ですととっくに「Spring」になっているようですが、私ども日本人に言わせていただくと、まだ完全に「春」とは言い切れません。だって眼が痒くならないし、くしゃみも鼻水も出ない「春」なんて...そうなんです!トロントにはスギ花粉が飛んでいないのです。ここは天国でしょうか?

     花粉の話はさて置きまして、気の早いカナダ人は既に薄着です。中にはもう半袖やTシャツ一丁で出歩いている 「100% Canadian」(*)な人もちらほらと。そして土日ともなればダウンタウンのカフェテラスはコーヒーや食事を楽しむ人達でごった返します。カナダに住んでいるとたとえ紫外線で肌がボロボロになろうとも、少しでも太陽光線を浴びていたいという気持ちがよくわかります。なんせ寒くて暗くて長かった冬が終わろうとしているのですから。ここは太陽のありがたみをヒシヒシと感じさせてくれる土地です。それからトロントの人々は太陽を浴びる事によって傷ついたハートを癒されたいのです。「春になる」という事は彼らの愛するToronto Maple Leafsのシーズが余所のチームより一足早く終わるからです...。春は彼らにとっては悲しい季節でもあるのです。

     春になるとスポーツの世界も劇的な変化を遂げます。季節と共に「する」あるいは「見る」スポーツが変わるのは日本でも普通の事ですが、この一年北米でどっぷりスポーツ漬けになっていた私にとっては、ここ一ヶ月の変化はドラマチックなほど劇的でした。今回は「春になったらここトロントでは何がどう変わるのか?」をレポートしたいと思います。

     春になると、まず氷が溶けます。当たり前ですけど、これはカナダのスポーツ界では完全に冬の終わりを告げる、言わばカナダ人にとっては死刑判決のようなものなのです。
     トロントでは冬になると、屋外にそれこそ無数の無料ホッケー・リンクがオープンします。だいたい朝から夜中頃まで開放されており、時間ごとに利用目的が決められています。スケート一般滑走の時間、年齢別に分けられた草アイスホッケーの時間、初心者の為の有料アイスホッケー教室の時間、アイスホッケー・チームが貸し切りで練習できる時間、そして何をしてもよい時間。
     もちろんリンクはパックが飛び出さないようにボードで囲まれており、ゴールネットも常備されております。夜間には照明がつきますし、一日に数回は製氷車が入って、ボコボコになった氷の表面をきれいにしてくれます。着替えができるロッカールームが併設されているリンクもあります。
     これらの施設が、全て無料で使えるのです。基本的にトロントでは、自分のスケート靴を持ってさえいればスケートやホッケーを楽しむのにお金は一切かかりません。室内のリンクは有料の場合もありますが、市が運営している屋外リンクは例外なく全て無料です。
     冬の間カナダ人は、子供から大人から反抗期のヤンチャな若造に至るまで、例え気温マイナス10℃以下で雪がちらついていようとも、せっせと屋外リンクに通ってShinny Hockeyと呼ばれる遊びアイスホッケー(防具・ゴールキーパーなしでボディ・コンタクトを極力さける簡易ゲーム)に精を出すのです。咥えタバコで時にはケイタイで喋りながらプレイするとんでもない連中もいますが、そんなヤツらでもやはり冬になると、氷を求めて雪の中やって来るのです。
     ゲームは、リンクにある程度の数のプレイヤーが揃うとチーム分けが行われ、自然発生的に始まります。審判もキャプテンもいませんが、みなルールに乗っ取って礼儀正しくやっているようでした。子供達が家に帰ったあとの「18歳以上の部」はなかなかのハイレベルです。熱くなってくると即席チームなのに声が出始め、個人プレーばかりでなく、チーム・プレーが行われたりもします。知らない者同士の即席チームの中でそれぞれが役割分担してチームとなっていく様子は、見ていてとても興味深かったですね。家の近所に気軽に行けるリンクがあり、そこは年齢を気にする事なく一人単独で行っても楽しめる場所でもあります。実際私も子供達に混じって遊び、ホッケーを何度か楽しみました。一人で練習していると向こうから「一緒にプレイしようぜ」と誘われるのです。キッズが物怖じせず素性のよくわからない怪しい大人(私の事ですな)を遊びに引き込もうとするのです。本当に豊かなスポーツ文化というものを垣間見たような気がしました。

     冬の間中、キッズや大人達の歓声、スティックがパックを叩く乾いた音、スケートが氷を削るエキサイティングな音がしていたリンクは気温の上昇とともに閉鎖され、今ではインライン・ホッケーやバスケットボールのコートと化しています。
     ただ、リンクが閉鎖されたからといって遊び場がなくなるワケではなく、皆々ホッケー以外の他のスポーツにシフトします。公園(日本のように遊具や砂場があるのではなく、とにかくだだっ広い芝生のスペースがある)は雪が溶けて芝生が青々としてきました。芝生の上ではサッカーが一番の人気でしょうか。
     また少年野球やソフトボールの専用グラウンドには、金属バットの音が響くようになってきました。路上にはコントに使われるような全身タイツに身を包んだサラリーマン・サイクリスト達が自転車通勤を始め、オンタリオ湖沿いの遊歩道やこれまた路上にはローラー・ブレードで滑走するナウなヤング達があふれてきました。街中至る所にあるバスケのコートでは既にハイレベルなストリート・バスケットが行われております。飛び入り参加歓迎なチームもあれば、ストバスの大会出場を目指してメンバーを固定しているチームもあります。トロントの人達は本当に体を動かすのが好きなようです。表に出てみればどこかで誰かが何らかのスポーツをしております。長かった冬の反動もあるでしょうが、彼らはまた冬になるとリンクに戻ってくるので基本的に「オフ」というものはありません。大都会なのに、一年中常にスポーツのできる環境がそこら中にあるのです。

     見るスポーツでも、春は賑やかです。特にアイスホッケーは、長かったレギュラー・シーズンが終わり、選ばれし上位チームでトーナメント形式のプレイオフが始まります。
     基本的にNHLやNBAはMLBと違って、レギュラー・シーズンはプレイオフの順位、即ち対戦相手を決める為の予選と言われております。MLBは全30球団中プレイオフに出場できるのはたった8チームですが、NHLやNBAは、30チーム中16チームがプレイオフに出場できるのです。以前の連載でご紹介しましたカナダ国内の ジュニア・ホッケー・リーグ(Canadian Hockey League)でもNHLと同じ形式のプレイオフが既に始まっております。私が頻繁に足を運んでいるOHL(Ontario Hockey League)は全20チーム中なんと16チームがプレイオフに出場できてしまいます。見るアイスホッケーの世界では、氷がとけてしまってからが本当の勝負なのです。

     ジュニア・リーグの春は「別れの季節」でもあります。以前ご紹介しましたように、ジュニア・リーグでは年齢制限があり、15〜20歳までの選手しかプレイ資格がないのです。大都市トロント近辺にはOHLのチームが3つもありますが、その中の2チームが晴れてプレイオフへのチケットを手にしました。地元トロントを本拠地とするトロント・セント・マイケルズ・メイジャーズと隣町のブランプトンを本拠地としているブランプトン・バタリオンです。私が勇んで観戦に出掛けたのは言うまでもありませんね。
     昨年NHLコロラド・アヴァランチから1位指名を受け、今シーズンわずか9試合ながらNHLでもプレイしたウォテック・ウォルスキー率いるバタリオンは、見事一回戦を勝ち抜いて二回戦に進みました。が、残念ながら地元のメイジャーズは、一回戦でバリー・コルツに敗れてしまいました。しかも4連敗、スウィープで。
     メイジャーズのホームリンク「セント・マイケルズ・アリーナ」での不甲斐ない負けに、ほとんどのファンは試合終了直後にとっとと帰って行きましたが、リンク上では今シーズンをもってジュニア・リーグから卒業していく3選手の送迎セレモニーが行われました。
     この3人はNHLからドラフト指名を受ける程の選手ではなかったので、この先ホッケーを続けて行くためにはマイナーリーグや海外のリーグと契約するか、またはホッケーの名門大学から奨学金を得て進学するしかありません。敗退が即「ジュニアからの卒業」を意味するプレイオフは、夏の甲子園にも似た、少しセンチメンタルな浪花節の世界でもありました。

     さて、我が新生ブルージェイズはエースのロイ・ハラディと新加入B.J.ライアンの好投で見事開幕戦を勝利で飾りました。ロジャース・センターにはチームの開幕戦史上4番目に多い50,499人が集まり、彼らの歓声で屋根が何度か浮き上がったとか。次回の連載がトロント滞在最後のネタになります。ではまた来月のこの時間に。バイバイ。

    *100% Canadian・・・カナダのお土産屋さんでよく目にするTシャツにペイントされているフレーズ。カナダ人で着ている人は見たことないが、何故か外国からの旅行者には人気がある。「ヘラジカ横断中(Moose Crossing)」の交通標識やメープル・シロップ、アイス・ワインなどと並ぶカナダ土産の定番だと言える。



     第20回 「トロントに未練トロトロ」


     はい、まいど機嫌さん。トロントの鰻谷でございます。さてさてこの挨拶、昨年の8月から続けて参りましたが、どうやら今回が最後になってしまいそうです。昨年の5月から「北米のスポーツ・イベントを現地で生活しながらじっくり体験してみたい」という理由だけで日本を離れ、最初の一ヶ月はテネシー州ナッシュヴィルに、そしてその後はここトロントに滞在しておりました。その間野球やアイスホッケーは言うまでもなく、日本では決して足を運ばなかったテニスやフットボール、ラクロス、ボクシング、プロレスなどもできる限り生観戦してきました。またトリノ五輪やワールド・ベースボール・クラシックのような国際大会を日本の外側から、日本人とは違った視点で見るという希有なチャンスにも恵まれました。そしてアイススケートもロクに滑れないクセにアイスホッケーに挑戦する、という実に無謀な事にも足を突っ込んでしまい、本当にスポーツの海で溺死状態の一年間でした。この一年の経験で何かを書くにあたり、とりあえず引き出しの数だけは増えたような気がいたします。

     さて、今現在私は旅行者として再びアメリカへ戻り、いつものようにメジャー/マイナーの球場を巡る旅をしているハズです。

     今回は今まで行った事のなかった東南部の諸州、ヴァージニア州、ウエスト・ヴァージニア州、ノース・キャロライナ州、サウス・キャロライナ州をメインに、3Aインターナショナル・リーグ、2Aイースタン・リーグ、1Aキャロライナ・リーグ、1Aサウス・アトランティック・リーグのゲームを観戦する予定です。目玉はケヴィン・コスナー主演の名作ベースボール映画「さよならゲーム(原題:Bull Durham)」の舞台ともなったノース・キャロライナ州デューラムです。
     現在デューラムのマイナーリーグ・チーム「デューラム・ブルズ」は3Aインターナショナル・リーグに所属し、1995年にオープンした10,000人規模の立派な「デューラム・ブルズ・アスレティック・パーク」でプレイしておりますが、映画の撮影当時は映画での設定通り、1Aキャロライナ・リーグに所属し、1939年にオープンした正真正銘のボロ球場「デューラム・アスレティック・パーク」でプレイしておりました。
     この古い球場はブルズが去ってからも、解体されずにアマチュア野球のフィールドとして未だに残されております。近年さすがに老朽化が激しくなり、ついに解体か?と言うトコロまで行ったようですが、なんと改装工事を施して残す決定がなされました。映画でケヴィン・コスナー演じるベテラン捕手クラッシュ・デイヴィスやティム・ロビンズ演じる若手投手ヌークらがプレイしていたボロ球場を訪ねるベースボール/映画ファン、は結構多いと聞いております。その球場が今後も残されて行くというニュースは、ワタシのような球場マニアでなくとも何か感じさせられるモノがあるのではないでしょうか?

     映画ではデューラムの「デューラム・アスレティック・パーク」以外にも実際のマイナーリーグの球場がロケ地に選ばれたようで、ノース・キャロライナ州アッシュヴィルの「マコーミック・フィールド」でも撮影されたようです。こちらの球場は1992年に建て直されていますが、フィールド自体は1924年のオープンから現在に至るまでずっと変わっておりません。今回はデューラムでもアッシュヴィルでも観戦予定を組んでおります。好きな映画のロケ地巡りとマイナーリーグ観戦が同時に堪能できてしまう素敵な旅になりそうです(こんな事を言いながら去年はアラバマ州バーミングハムの「リックウッド・フィールド」で雨天中止を喰らっているので油断はできませんが...)。

     さて、次回からのお話は再び日本からお届けいたしますが、今回の旅で訪れた球場の雑感でもまとめて報告しようかと考えております。トロントからのレポートを楽しみにされていた読者の皆様には非常に申し訳ないのですが、今後ともよろしくお付き合い下さいませ。トロントを離れる事で一番がっかりしているのは多分ワタシ自身だと思いますが...。ではまた来月のこの時間に。バイバイ。


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