ベースボール・ビジネス by B_wind

    ベースボール・ビジネス21 看板広告

    ベースボール・ビジネス22 パブリック・ビューイングとクローズド・サーキット

    ベースボール・ビジネス23 ネーミングライツ

    ベースボール・ビジネス24 NPBモデル

    ベースボール・ビジネス25 リコーMLB開幕戦



     ベースボール・ビジネス21 看板広告


     子どものころ、プロ野球の試合を観に球場に出かけると、球場全体を埋め尽くしたカラフルな看板広告に驚かされたものです。しだいにそれが見慣れた風景になっていったものでした。時は経ち、Jリーグが開幕すると看板のないスタンドに奇異さえ感じたものでした。サッカー場にあったのはグラウンド(いまで言えばピッチ)を囲む仮設の看板広告でした。それは、観客というよりもテレビのための広告のようでした。

     日本のプロ野球場のほとんどが私企業であるため、球場の看板広告は、球場と広告主との契約となり、広告収入は球場の収入となります。球団には、球場側から、間接的にマージンをもらう仕組みになっています。これに対し、サッカー場は公営が多く、常設の看板広告は基本的にありません。Jリーグの試合があるときだけ、仮設の広告看板がピッチの周りに設けられ、広告収入はクラブの収入になるのが普通です。

     可笑しいと言えばおかしなこの見慣れた日本のプロスポーツの風景。そこには面白い歴史が隠されていました。プロ野球場に私営が多いのは、球場が建てられたのが戦前・戦後と古く、当時の自治体にはそれだけの資金が不足していたことが挙げられます。ところが、民間企業というだけでは、球場が看板で埋め尽くされるようになった理由ではありませんでした。

     球場が広告看板で覆われるようになったのは、高額の入場税の結果でした。大阪スタヂアムが建てられた当時(1950年)、入場料には100%の入場税が係っていました。入場料400円とした場合、そのうちの200円が税金というわけです。ところが広告は、「税の制約が少く、・・・初期の球場経営を大きく潤すもの」だったそうです。「その後の球場が、たくさんの看板で埋められていったのには、こういった懐事情があった」と「南海ホークスがあったころ」(紀伊国屋書店)で著者の永井良和氏と橋爪紳也氏は述べています。

     一方、サッカー場の仮設広告ですが、その歴史はヨーロッパに遡ります。米国と日本では、1960年代、70年代にはテレビ社会が完成し、民放テレビはCMを通して広告メディアとして抜きんでた地位を確保するようになります。ところが、ヨーロッパでは米国や日本と違い、90年代になるまで民放テレビ局の発達がなく、公共テレビしかない状態が続きました。このため、CMは長い間許されず、民間企業にとって、スポーツの試合会場に看板広告を出すことがテレビに露出する数少ない機会でした。このため、ヨーロッパでは、早くからプロ・サッカー試合への看板広告の掲出が行われ、CMの代替機能を果たしていました。(参考文献「新スポーツマーケティング」(広瀬一郎著 創文企画))

     サッカー場にピッチを囲む看板広告が立っている背景には、ヨーロッパにおけるテレビCMの遅れがあったわけです。面白いですね。



     ベースボール・ビジネス22 パブリック・ビューイングとクローズド・サーキット


     2003年の日本シリーズは史上初めて、NPB主催で、ビジター側のホーム球場にて全試合、有料のパブリック・ビューイング(PV)が実施されました。甲子園では、福岡に行けなかったファンが多数応援に駆けつけ、第1戦が1万3千人、第2戦が1万1千人、第6戦と第7戦は1万5千人の観客が集まったそうです。ただし球場側は、2万人の観客を見込んでいたそうです。入場料は、アルプス席が1000円、指定席が1500円。ちなみに福岡ドームは大人1500円、子供500円で、第5戦のPV観客は8千人でした。

     PVという言葉が日本で広く使われるようになったのは、昨年のサッカー・ワールドカップからです。ワールドカップでは、FIFAの要請により、開催地となった10都市の競技会場(スタジアム)などで、(常設の)大型スクリーンを使った中継イベントが無料で行われました。その中で、国立競技場で、有料の中継イベントがPVとしておこなわれました。

     もともと、PVとは、ユニバーサル・アクセス(誰もが見ることができる権利)と相通じるもので、競技場に入れなかったファンのために、公共の空間で、非営利で不特定多数を対象に行うテレビ放映イベントのことです。街頭放映、街頭テレビがこれにあたります。

     つまり、NPBが主催したPVは、営利を目的とした興行であり、本来の意味でのPVではなく、クローズド・サーキット(CC)といわれるものです。CCとは、もともとは、有線テレビ(ケーブルテレビ)のことで、現在では、特定の会場に人を集めて行う営利目的の有料放送イベントのことを指します。かつて、ケーブル・テレビを利用してプロ・ボクシングの有料中継がクローズド・サーキットとして盛んに行われ、興行スタイルとして定着しました。

     営利目的のCCは興行ですから、それがPVと名乗っていても、他球団の保護地域での開催は興行権に抵触します。それが2003年夏の「さいたまスタジアム」における阪神戦のPVでした(ぼーる通信2003/08/16「さまよえるパブリック・ビューイング」)。これは結局、阪神が西武の承諾を得て実施されましたが、8月26日が450人、27日が1300人と主催者側の皮算用1万人を大きく割り込み赤字だったそうです。

     ところで、一昨年までのシリーズでは無料で行われてきた街頭や商業施設での大型スクリーンを使ったテレビ放映(これが本来のPV)は、NPBにより「放送局の権利保護や、現場での治安の関係」から禁止とされました。福岡・天神のソラリアステージ広場など、放映を予定していた福岡市や北九州市の商業施設は、相次いで放映を取りやめたそうです。ただし、優勝決定のニュースを見ていると、実際には球場以外の場所で、テレビ中継が行われていたようです。例えば、福岡のキャナル・シティです。↓のHPは、日本一の瞬間です。大画面は静止画には出てきませんが、動画には出てきます。

    > http://www.nishinippon.co.jp/nishispo/hawks/V/photo/canal.html

     公共スペースでの非営利のテレビ中継こそがPVであり、PVがPVであるのなら興行上問題はありません。NPBの主張も興行権の問題でなく、放映権と保安上の問題ですが、放映権は、民放の無料商業放送なら問題は無いはず(CMカットは問題になるかも)です。



     ベースボール・ビジネス23 ネーミングライツ


     ネーミングライツ「命名権」は、「スポンサー企業の社名や商品ブランド名をスタジアム、アリーナ等の施設の名称として付与する権利」のことをいい、70年代以降米国で生成・発展してきた概念です。

     米国では、プロ球団は、都市名や地域名を名乗り、エリア・アイデンティティとして存在しています。このため、プロ球団が使用するスタジアムやアリーナを自治体が提供するのが普通になっています。スタジアムやアリーナを提供できない都市や地域は、都市や地域のステータスでありシンボルとなるプロ球団を所有することができません。

     ところが、このスタジアムやアリーナの建設費の負担はやはり大きく、自治体の財政を圧迫します。このため、メジャーリーグの新球場建設のために、市債発行や新税導入について住民投票を実施した都市はシカゴ、デトロイト、クリーブランド、デンバー等があります。いずれの場合も、否決された場合はメジャー球団を失うことになっていたと、いわれています。

     このため生まれたのがスタジアムやアリーナのネーミングライツ・ビジネスです。スポンサー企業が、スタジアムやアリーナ等の施設の名称を名乗るのと引き替えに、その建設費や維持費の一部を負担してもらおうというものです。今や、プロ球団が使用するスタジアムやアリーナは、都市や地域のランドマークになっています。このスタジアムやアリーナに企業名やブランド名を付けつことは、マーケティング効果があるというわけです。

     最近の一番の成功例がメジャーリーグのマリナーズの本拠地セーフコ・フィールドです。同球場はイチロー、佐々木の活躍ですっかり日本でも有名になりました。セーフコはシアトルに本社がある保険持ち株会社で、契約内容は99年の球場オープンから20年間、総額4千万ドル(約49億円)。マリナーズの活躍でビジネス基盤の弱い東海岸や,日本など海外にも大きく社名が宣伝されました。年間200万ドル(約2億5千万円)は十分元が取れたわけです。(2001.12.1 朝日新聞記事より)

     ところで、日本のプロ野球では、球団はコーポレート・アイデンティティ、つまり会社の広告宣伝の媒体として位置づけられ、企業名を名乗っています。企業名を名乗るプロ球団を所有していると、赤字分は広告宣伝費として処理することができます。いわば球団名が、ネーミングライツとなっています。実際、球団名をネーミングライツ・ビジネスとして利用したのが、西鉄ライオンズを引き継いだ福岡野球株式会社です。1973年から1976年は「太平洋クラブ」ライオンズ、1977年と78年は「クラウンライター」ライオンズを名乗りました。

     米国では、プロ球団はエリア・アイデンティティが高いため、球団名のネーミングライツが不可能でした。NFLでは、企業が球団を所有することさえできません。このため、スタジアムやアリーナといった施設への命名権ビジネスが普及したのです。これに対し、日本では、球団名自体が古くから、ネーミングライツとして考えられ利用されてきました。

     「近鉄」バファローズが、球団名を売却しようとしたのは、驚くにあたらない行為だということです。なぜ、それを他の11球団のオーナーがいまさら非難するのか、それこそが驚きです。



     ベースボール・ビジネス24 NPBモデル


     日本のプロ野球は、親会社の広告宣伝媒体だといわれています。実際、球団は、親会社の名前を名乗り、親会社は、球団の赤字分を広告宣伝費として償却できる仕組みになっています。

     広告宣伝媒体という点であれば、親会社と球団の関係は、球場の広告看板スポンサーやテレビのCMスポンサーと代わりはありません。親会社もスポンサー企業もプロ野球を通して広告宣伝という企業活動を行っているわけであり、その広告宣伝媒体になっているのがプロ野球であり、各球団ということになります。

     スポンサー企業と親会社の違いは、球団に出資しているか否かです。スポンサーは球団と直接又は間接的に契約しているに過ぎず、広告宣伝効果がなければスポンサー契約を打ち切りればいいわけです。ところが親会社の方は、球団に出資しているわけですから、球団経営に対するリスクを負担しなければなりません。

     そこで、日本のプロ野球の親会社がとったリスク回避策が、親会社が自ら球団経営を行うということでした。プロ野球出身者は、ビジネスには素人だからと、球団経営に参加させず、経営陣は親会社からの出向者で占められています。NPB自体が、球団の代表の集まりである実行委員会では何も決められず、親会社の代表の集まりであるオーナー会議のいいなりになっています。

     すなわち、日本のプロ野球の最大の特徴は、本来、プロ野球を利用したビジネスであるはずの親会社が、プロ野球のビジネスを行っている点にあります。別の言い方をすると、球団の経営主体が、球団にはなく、親会社にあるということです。

     こうなった背景には、球団の収益性の低さがあります。プロ野球は観戦スポーツといいながら、観戦収入だけでは成り立っていけないからです。
     その原因のひとつに、球場の所有(管理権を含む)の問題があります。観戦スポーツにとって球場というのはいわば店舗です。観戦者は入場料を払ってくれるだけではありません。球場内の看板広告を見てくれます。また、観戦者は、お弁当やビール・おつまみを買ってくれます。球団の応援グッズも買ってくれます。米国ではこれに駐車場収入も加わります。

     ところが、日本の球団は、自前で球場を所有(管理権を含む)していないため、売店収入も広告看板収入も球場の収入となります。日本の球場は、民間の株式会社が多く、甲子園や西武ドームにしても、親会社は球団と同じですが、全くの別法人です。日本のプロ野球は、ハードである球場は儲かるけれども、ソフトである球団は儲からない仕組みになっています。

     親会社が球団経営の意志決定権を持っていますから、球団の経営陣は、親会社からの出向者で占められています。ただし、親会社は、球団の収益性の低さのため、プロ野球を本格的なビジネスとは捉えておらず、球団は単なるチーム運営会社になってしまっています。入場券の販売など営業活動は、親会社や球場にアウトソーシングされているのが普通です。

     また、ビジネスのことはプロ野球出身者には分からないだろうからと、球団の経営陣は、親会社の出向者で占められていますが、逆に、プロ野球については、親会社の出向者は素人だからと、チームの運営を監督に権限委譲をしてきたのが、日本のプロ野球の一般的なスタイルです。日本の監督は、一軍の采配だけでなく、選手・コーチ・トレーナーの面倒をみ、選手の育成(二軍)、獲得(スカウト、トレード、外国人選手)も担います。もちろん、選手の査定も行います。日本の監督は、監督と言うよりも、総監督と呼んだ方がよく、昔からゼネラル・マネージャー的な存在でした。

    【参考文献】

    「職業野球団に対して支出した広告宣伝費等の取扱について」(昭和29年8月10日国税庁通達)



     ベースボール・ビジネス25 リコーMLB開幕戦


     球春到来。プロ野球の開幕です。パ・リーグは、3月27日、セ・リーグよりも1週間早く開幕し、狙いどおり、福岡ドーム4万8千、西武ドーム4万8千、大阪ドーム4万1千と3ドームとも満員という、リーグ最多となる13万7千人の観客動員を記録しました。ところが、翌日の28日は福岡ドームでこそ、前日と同じ4万8千の観衆が集まりましたが、西武ドームと大阪ドームは、それぞれ半減の2万4千と2万3千でした。

     同じ日、西武ドームから30q離れた東京ドームでは、タンパベイ・デビルレイズ対阪神タイガース、ニューヨーク・ヤンキース対読売巨人軍のオープン戦が行われていました。3月30日、31日同じ東京ドームで開幕するメジャー・リーグ公式戦に先立ち、巨人、阪神とオープン戦を行っていたのです。

     猛虎タイガースは今年も元気で、デビルレイズと7対7の引き分け、ヤンキースの松井は、見事第一打席で本塁打を放ち、凱旋試合を飾りました。本塁打を放った瞬間の視聴率は27.1%、平均でも20.5%を記録しました。

     3月28日のパ・リーグ開幕第2戦の西武ドームは、明らかにメジャーに食われた格好です。関係者の不安は的中しました。28日の朝刊記事に「西武ドームでは、28日の指定席が一、三塁側とも売れ残っている。営業担当者は、『できれば日程をずらしてほしかった』と話す。」と不安視されていたのです。

     29日には、巨人・阪神とメジャーとのオープン戦が行われ、30日、31日には、ヤンキース対デビルレイズ戦のメジャー・リーグ開幕戦が行われました。いずれも東京ドームです。つまり、パ・リーグの開幕5連戦は、27日の開幕日以外、メジャーの試合と見事に日程が重なっていました。明らかに、メジャーの試合は、パ・リーグが享受できたであろう利益を損ねています。

     このメジャー開幕戦の主催者は、メジャーリーグ(MLB)と同選手会、読売新聞、そして日本野球機構(NPB)です。もちろん、読売新聞は、セ・リーグ読売巨人軍の親会社で、NPBの構成員には、セ・パ両リーグとその各球団が含まれます。

     確かに東京を保護地域とするパ・リーグの球団はありませんから、プロ野球協約上の地域権の侵害にはあたらないといえばそうでしょう。しかし、パ・リーグの球団も歴としたNPBの構成員です。NPBは、構成員であるパ・リーグの利益を守る義務を負っているはずです。それが自らパ・リーグの利益を侵害したことは、明らかに暴挙といっていいでしょう。

     千葉ロッテ・バレンタイン監督「計画の時点から、これは間違いだった」(2004年3月28日朝日新聞朝刊)


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