ベースボール・ビジネス by B_wind

    ベースボール・ビジネス26 球団名

    ベースボール・ビジネス27 「巨人」というブランド

    ベースボール・ビジネス28 七夕の夜の笑劇場

    ベースボール・ビジネス29 不良債権

    ベースボール・ビジネス30 球団統合と野茂選手の保留権



     ベースボール・ビジネス26 球団名


     プロ野球の商品は試合というサービスです。このサービスを購入しようとするとき、つまり、顧客であるファンが試合のチケットを購入しようとするときなど、何をもって購入を決めるのでしょうか。

     それは野球が好きだからかも知れません。バレンタイン監督や新庄がいるからかもしれません。ロケット風船や傘でほかのファンと一緒に応援したいのかも知れません。それでも、チケットを購入するとき、まず、目に入ってくる情報は、球団の名前です。巨人対阪神とか、読売ジャイアンツ対阪神タイガースといった対戦カードがまず、顧客となるチケット購入予定者の最初の情報となり、これがまた、最終的な情報となっていきます。

     球団名が分かれば、選手は誰々、監督は誰で、戦力はこうで、現在のチーム状態はこうだから、試合はだいたいこうなるだろうな、とかいったことが予想できます。球団名から予測できなくても、球団名からいろいろな情報を集めることができます。逆に、集めたいろいろな情報からチケットを購入するとき、プレイガイドで球団名と日付を言ってチケットを購入することになります。

     人びとが、商品を購入するときも、プロ野球のチケットを購入するのと同じ行為を繰り返します。人びとは、商品名により無数の商品の中から、その商品を区別し、商品の中身を理解し、購入するかを決めていきます。つまり、プロ野球にとって球団名とは商品名だということです。

     それでは、商品名とは何か、どのような意味があるのでしょうか。まず、商品名には、無数の商品の中からその商品を区別する効果(識別効果)をもっています。消費者は、商品名によって、その商品を知り(知名効果)、商品の中身が何であるかを理解します(理解効果)。そして、商品名が知れわたり、商品名を通じて商品の中身についての理解が消費者の間に浸透すると、商品の存在や中身を知らしめるためのコスト、つまり広告宣伝するためのコストを節約することができます。

     しかし、商品名は、さらに、商品名それ自体が独特のメッセージを発するようになると、つまり、商品が独特の意味を持ちブランド化した商品(ブランド商品)になると、コスト節約や投資コスト分に還元できない価値(剰余価値)が生まれます。ブランドが、他のブランドにはないブランド固有の欲望を作り出すことにより剰余価値を持つようになります。加えて、固有の欲望を作り出す世界の憧れを生み出します。

     商品名というのは、消費者が、単に商品を識別し、理解するための道具ではなく、売り手側にとっては広告宣伝効果を持っているし、さらにはブランド効果を持ち得るものということです。ブランド化した商品名は、単に商品の名前を示すだけでなく、ブランド名それ自体が商品となります。このブランド効果を利用したのが「巨人」です。

    ●参考文献 「ブランド 価値の創造」 石井淳蔵著 岩波新書 1999



     ベースボール・ビジネス27 「巨人」というブランド


     今回も球団名の話です。プロ野球の球団は、協約27条で資本金1億円以上の株式会社とされていますが、球団名と一般に言った場合、この「株式会社」の名称ではなく、協約38条(保護地域)で登録されている球団呼称のことを指します。球団呼称とは2003年度版の協約から登場するものですが、リーグ戦で使用される名称のことを言います。いわゆる「巨人」の場合、法人名が「株式会社読売巨人軍」で、球団呼称は「読売ジャイアンツ」です。

     つまり、プロ野球の公式戦や日本シリーズを戦うときの名称は「読売ジャイアンツ」が正式の名称になり、「読売ジャイアンツ」が正式な商品名となります。ところが、通常、この名称を略す場合は「読売」か「ジャイアンツ」のどちらかになるはずですが、新聞やテレビ・ラジオなどのメディアでは、「巨人」という名称を使っています。

     「巨人」という名称は、大日本東京野球倶楽部が渡米する際、使用された「TOKYO GIANTS」の和名「東京巨人」に由来しています。戦後、大日本東京野球倶楽部は、東京読売巨人軍として「読売興業株式会社(のちの「株式会社よみうり」)」の一部門になり正式に読売グループの仲間入りをしますが、親会社である読売新聞や系列の日本テレビをはじめそれ以外のメディアでも使われる名称は「巨人」でした。

     「巨人」という名称は、「読売」という企業臭さや「東京」という地域臭さもない無色透明な名称です。「読売」ではありませんから、読売のライバルである朝日や毎日、産経でも心おきなく人気球団である「巨人」の記事を大きく取り扱うことができます。テレビやラジオの場合も同様です。また、「東京」ではありませんから、九州や北海道・東北、果ては関西においても、多くのファンを集めることができたのだと思われます。

     もちろん、日本プロ野球の創業者利得(日本で4番目にできた球団ですが)と高度成長・テレビ普及期に同調した王・長島の活躍による「刷り込み」が大きな働きをしていますが、「巨人」という無色透明なネーミングがそれを可能にしたといっていいと思います。そしてそれが「巨人」というブランドになり「王・長嶋」がいなくなっても、なかなか「優勝」できなくても、プロ野球の人気を独占し続けることができたのだと思います。

     そのブランド力にも近年、急激に翳りを見せています。その原因にはいくつかあると思いますが、ここでは2点ほど指摘しておきます。ひとつは、「読売」臭さがでてきたことです。2002年「巨人」は、ビジター用ユニフォームの胸文字を「TOKYO」から「YOMIURI」に変更し、「読売」の存在を前面に打ち出しました。これに対し、ファンの一部が「オレたちは読売ファンじゃない!巨人ファン!」という横断幕を揚げ、抗議の意志を表しました。

     もうひとつは、資金力にモノをいわせ、各球団から4番打者を寄せ集めたため、「巨人」ブランドを支えていたオリジナリティやアイデンティティが希薄化してしまったことです。逆に「巨人」最後のフランチャイズ・プレーヤー松井秀喜がニューヨークに去り、「ジャイアンツ愛」を唱える原辰徳監督を事実上解任するなど「巨人」のオリジナリティとアイデンティティの喪失が続いています。



     ベースボール・ビジネス28 七夕の夜の笑劇場


     7月7日七夕の日に行われた日本プロ野球組織のオーナー会議は、中日ドラゴンズの白井オーナーにとっては「衝撃的だった」ようですが、世間的には「笑劇的」だったと思います。「笑劇」とは、辞書を引くと「見物人を笑わせることだけを目的とする、こっけいな劇」とあります。この「笑劇」の主役のひとりは、もちろんオーナー会議の議長でもある読売ジャイアンツの渡辺オーナーでしたが、なんといっても、本当の主役は26年ぶりにオーナー会議に出席した西武ライオンズの堤オーナーでした。

     今回のオーナー会議の主要議題であった大阪近鉄バファローズとオリックス・ブルーウェーブの合併話はすんなり終わってしまったようですが、堤オーナーが、パ・リーグで新たな合併協議が進行していることを報告すると、「衝撃的だった。皆さんショックを受けているようだった」(中日白井オーナー)。

    > http://www.sanspo.com/baseball/top/bt200407/bt2004070801.html

     会議後に記者会見した堤オーナーは、「現在見ていて、プロといえない試合がいくつかある」「10球団になって密度の濃い球団になった方がファンの興味をひく」「まだ具体的に発表できない。西武、日本ハム、ダイエー、ロッテの中で、どことどこが一緒になるか模索している」と述べるとともに「来季からの10球団1リーグ制を希望している」と語ったということです。

    > http://sportsnavi.yahoo.co.jp/baseball/npb/04season/column/200407/at00001311.html

     堤オーナーといえば野球に興味がないことは有名です。公式戦にも滅多に顔を出さず、見に来ると御前試合と話題になるくらいです。趣味はウィンター・スポーツらしく、現在の西武ライオンズ球団社長は昔、アイスホッケーで日本代表監督にもなった星野好夫氏、松坂投手の教育係をやっていたのは、スピードスケートの黒岩彰氏。西武ライオンズは、プロ野球出身者ではなく、ウィンター・スポーツ出身者で固められています。

     オーナー会議への出席もなんと26年ぶりそれも、これが2回目です。そんな彼の口から「現在見ていて、プロといえない試合がいくつかある」とは、まさに笑劇的でした。記者会見で、(もう一組の)合併の話が出てきたのは具体的にいつごろから、という質問に、「スタートしたのは、やはり近鉄とオリックスの話が新聞紙上に出たころじゃないでしょうかね」ととぼけて答えているのも笑劇的ですね。

     早くから1リーグ制を提唱し、いろいろな仕掛けを作ってきた堤オーナーにとって、今回の合併劇は、やっと巡ってきたチャンスですから、この機会を絶対逃がすわけにはいかなかったはずです。オリックス・近鉄の合併話が明らかになっても、一時、1リーグ化に慎重な動きがありましたが、このとき、盟友である読売の渡辺オーナーは「そうでなければ有志連合でいくしかないのかな。新リーグだよ」と新リーグ結成の話を切り出し、1リーグ化への動きを加速させました。西武ライオンズもこのとき、球団内部に1リーグ制のプロジェクト・チームを作っています。

    > http://www.shinchosha.co.jp/foresight/main/data/frst200009/tokusyu.html
    > http://www.nikkansports.com/ns/baseball/p-bb-tp0-040625-0015.html

     パ・リーグが4球団になれば、セ・リーグの球団も1リーグ化に抵抗しづらくなります。先手を打って、パ・リーグを4球団化し、パ・リーグがセ・リーグに吸収される形で1リーグ化しようというものです。そうしなければ、なぜ、パ・リーグ球団救済のために、球団合併や1リーグ化しなければならないのかという問題がセ・リーグの各球団に出てきて、1リーグ化が危うくなってしまうからです。



     ベースボール・ビジネス29 不良債権


     私がプロ野球と日本経済というレポートを書いたのが2001年3月。あれから3年が過ぎ、今まさに、プロ野球が日本経済の中に不良債権として呑み込まれていくかのようです。

     4大メガバンクの中で唯一巨額の赤字を出したUFJは、不良債権比率が6月の段階で10%を超え、来年(17年)3月末までに不良債権比率を大手銀行平均で4%にするという政府目標の足かせになりかけないとして、金融庁から不良債権処理の加速度的な処理を執拗に迫られています。

     UFJの不良債権の象徴がダイエーの不良債権だと言われています。UFJ本体だけでなく関連会社を含めると5000億円の不良債権があると見られ、これはダイエーの有利子負債の約半分を占めています。このUFJをはじめ三井住友とみずほコーポレートの主力3行は、ダイエー再建に産業再生機構の活用と本業であるスーパー事業以外の球団を含めた事業売却を求めています。

     これに対しダイエーは、いまのところ、あくまでも自主再建を唱え、優勝セールで約400億円の売り上げをもたらした球団売却は考えていないとしていますが、ダイエー再建のためには、主力3行の支援は不可欠であり、余談を許さない状況になっています。

     これが単なる球団売却の話ならいいのですが、現在、オリックス・近鉄の合併のほか、もう一つの合併話(西武ライオンズ・堤オーナー)が進んでいると言われています。このもう一つの合併の対象になりかねない状況に福岡ダイエーホークスが置かれています。実際、ダイエーと同じUFJをメインバンクとするロッテから合併の申し出があり、これをダイエー側が断ったという話が伝えられています。

     ロッテ球団とダイエー球団が合併するとパ・リーグは4球団になり、1リーグ制の動きが決定的になりかねません。1リーグ制になった場合、読売以外のセ・リーグ5球団は、10億円を超える減収となることが予想され、このため、パ球団の親会社に比べ資本力の劣るセ球団の親会社等は、これに耐えきれず球団を手放す可能性が高くなります。

     1リーグ10球団制は、数年のうちに1リーグ8球団となるおそれがあります。12球団から8球団に減っても、残った球団の人気が増えるわけではなく、プロ野球がいなくなった空白域のJリーグ人気が高まるだけです。プロ野球空白域である新潟・仙台のJリーグ人気をみれば分かると思います。プロ・スポーツの構造改革が、一気に進みそうです。



     ベースボール・ビジネス30 球団統合と野茂選手の保留権


     9月8日のオーナー会議で、オリックス球団と大阪近鉄球団の球団統合が承認されました。ちょっと前まで球団合併と言っていたのに、なぜ、球団統合という言葉になったのでしょうか。それは、球団合併が、当初言われていたオリックスと近畿日本鉄道が共同出資して球団会社を設立し、新会社を運営するというものではなく、大阪近鉄球団がオリックス球団に営業譲渡する形で行われるためです。理由は節税だそうです。

     営業譲渡だと選手の保有権は譲渡されないため、営業譲渡後の新オリックス球団に、旧大阪近鉄球団からプロテクト枠の選手をトレードするということです。通常のプロ野球の世界で営業譲渡といえば、参加資格の譲渡を含み、参加資格にともなう地域権、選手契約権、及び保留権も譲渡されます。

     そもそも、日本ハム球団が北海道に移転する際、北海道の地元企業の出資を受け新会社を設立し、その新会社に営業譲渡する形をとっています。このときはもちろん、新会社は、参加資格の譲渡ということで、旧日本ハム球団の選手契約権と保留権を承継しています。つまり、普通、球団の営業譲渡であれば、選手の契約権も含むのですが、今回の営業譲渡で選手の契約権が譲渡されないということは、今回の営業譲渡が参加資格の譲渡ではないことを意味します。

     なぜ、今回の営業譲渡に参加資格を含めないのかと言えば、大阪近鉄球団が参加資格を既に参加資格を有するオリックス球団に譲渡することは、1つの球団が2つの参加資格を有することになってしまうためと思われます。

     参加資格の譲渡を伴わない営業譲渡には、何が含まれるのでしょうか。「バファローズ」という商標権ぐらいでしょうか。そして、ここで、ドジャース野茂選手の保留権の問題が出てきます。FA前にメジャー・リーガーになった野茂選手の場合、大阪近鉄球団が保留権を今でも持っていると言われています。

     この野茂選手の保留権について、今シーズン、調子が悪く日本球界復帰の噂があったとき、オリックスの宮内オーナー(小泉社長だったかな?)は当然、近鉄球団の権利を継承する合併球団にあると主張していました。

     プロテクト選手のトレード後、プロテクト以外の残りの選手は、旧大阪近鉄球団が参加資格を喪失することで、協約36条の2により、同57条を準用して、選手契約権がパ・リーグの一時保有になり、ウェーバーに掛けられることになります。このとき選手保留権もパ・リーグの一時保有になり、ウェーバーの対象となると思われます。

     野茂選手の保留権は、当然には新オリックス球団に継承される訳ではないので、新オリックス球団が野茂選手の保留権をプロテクト枠内に入れていなければ、野茂選手の保留権はウェーバーにかけられ他球団に移るか、自由契約になると思います。


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