ベースボール・ビジネス by B_wind

    ベースボール・ビジネス31 オライオンのトラウマ

    ベースボール・ビジネス32 東北楽天ゴールデンイーグルス 誕生

    ベースボール・ビジネス33 エゴと意地

    ベースボール・ビジネス34 メディア・ヴァリュー

    ベースボール・ビジネス35 球団の人気が親会社に直接の利益をもたらす球団



     ベースボール・ビジネス31 オライオンのトラウマ


     オリックス・近鉄の合併問題でいくつかメールで問い合わせがあったとき、私見として「近鉄の仙台移転」を挙げていました。仙台を中心に、東北6県をマーケットとして抑えれば、充分やっていけると思ったからです。ただ、危惧したのは、県営宮城球場の老朽化でした。

     オリックス・近鉄の合併問題は、ストライキを経て、NPB側が2005年からの新規球団参入を認めるということで一応の決着をみました。IT会社のライブドアと楽天の2社が、予想通り、宮城県を保護地域、経営宮城球場を専用球場するとして、新規参入の申請をし、現在、NPBが審査委員会を設けて、審査中です。今月中に結論がでるそうです。

     そして、審査の中で問題になったのが県営宮城球場の老朽化でした。

     今月6日に審査の公開ヒアリングが行われ、老朽化と座席の狭さが指摘された県営宮城球場の改修について、ライブドアは、工期を来年の3月末までと6月末までに分け、「内外野で8000席増やして3万席に」と説明し、一方の楽天は「両翼を拡張し改修するのでまず2万3000席。速やかに2万8000席に」と説明しました。

     同球場の改修は両社とも、自社で全額負担し、代わりに宮城県から球場の優先使用や興行権の許可を得ることで合意しているそうですが、さらに一歩進んで、宮城県は、球場の運営権の移譲も考えているようです。「運営権が移譲されると、球場内の広告料金を自由に設定することが可能で、売店収入も球団に入り、球場改修費などを回収できるという。」ということです。

     「全国の都道府県、あちこちで財政危機に陥っています。この宮城県も例外ではありません。」ということで、宮城県の浅野知事も、球場改修費の負担はできない、と早々と釘を刺していました。その代わりに、新球場の運営権を新球団に移譲するので勘弁してくれよ、というものです。

     ところが宮城県は、平成12年には事業費約270億円をかけて、ワールドカップ会場となった宮城スタジアムを造っています。仙台には、J1のベガルダ仙台がホームグラウンドとして使用している仙台スタジアムというのがあります。せっかく作られた宮城スタジアムは交通が不便ということで、ワールドカップ会場になったにもかかわらず、ベガルダの試合はほとんど行われていません。

     このため、ワールドカップ後の宮城スタジアムの利用問題が浮上しており、新球団のホームグラウンドとして野球場に改修しては、という市民の意見もでています。

     プロ・サッカー場は過剰なのに、プロ野球場は老朽化。これは、東京球場を失い、流浪化したロッテを暖かく迎えてくれたにもかかわらず、裏切ったロッテ・オリオンズに対するトラウマなのでしょうか。



     ベースボール・ビジネス32 東北楽天ゴールデンイーグルス 誕生


     パ・リーグの新規参入枠を争っていたライブドアと楽天は、結局、11月2日の実行委員会とオーナー会議の結果、「楽天の経営体力がライブドアより勝っていると判断」され、楽天に決定しました。

     経営体力の比較で気になったのが、ライブドアの収益構造です。楽天の収益は、ネット通販42%、金融事業38%の二本柱があるのに対し、ライブドアはネット証券が収益の74%と収益源が一事業分野に集中している点が挙げられていました。

     「あれ?」ライブドアは、IT企業だと思っていたのですが、証券会社だったのでしょうか?ライブドアは、総合ポータルサイトを運営していますが、余り儲かっていないことになります。ライブドアは、市場から得た資金をもとにM&Aを繰り返し大きくなったようで、現金500億円という金額も、市場から得た資金です。このへんのカラクリについては、「All About」のガイド・コモエスタ坂本さんが「ライブドア落選、当然の理由」の中で説明しています。

     楽天の参入は、出来レースだの後出しジャンケンとかいろいろ言われていますが、NPBの審査結果は妥当といったところでしょうか。

     また楽天イーグルスは、高橋ユニオンズ以来50年ぶりの新球団と言うことですが、高橋ユニオンズは3年間で大映と合併し、球史から消えたので、なんだか不吉な予感がします。そもそも高橋ユニオンズは、パ・リーグの数あわせのため1954年にできた、高橋龍太郎氏なる人物の個人球団。球団は資金に乏しく、戦力も他球団からの峠を過ぎた古参選手が中心でした。当時も、新規参入球団への戦力の均衡化を図るといった考えがありませんでした。逆に、勝率0.350を下回ったチームに500万円の制裁金が課される始末です。

     当時の高橋ユニオンズと同じことが、楽天イーグルスの場合にもおきています。8日に分配ドラフトが行われましたが、楽天の戦力は、パ・リーグの5位球団と最下位球団の選手のうちの上位25人の有力選手を除いた選手たちです。戦力面での見劣りは否めません。このため、楽天の田尾監督やマーティ・キーナートGMは、戦力均衡の点から拡大ドラフトなど他の10球団の協力を求めています。

     この戦力の見劣りは、そもそも、12球団制を維持するのなら、近鉄球団の売却を認めていれば起こらなかったことです。合併後新球団の参入という馬鹿げた措置をとったため、馬鹿げたことがおきたのです。中には制裁金の復活を言い出す人もいますが、これではまさに、恥の上塗りです。

     ところで高橋ユニオンズのオーナー、高橋龍太郎氏は、戦前イーグルス(1937〜1943)の経営に参加した経験をもっており、楽天イーグルスとはこれまた因縁がありそうです。また高橋氏は、日本サッカー(当時は蹴球)協会会長を務めたこともあり、Jリーグ、ヴィッセル神戸のオーナーでもある三木谷氏とも何か縁がありそうです。



     ベースボール・ビジネス33 エゴと意地


     現オリックス・バファローズ・オーナーで規制改革・民間開放推進会議議長の宮内義彦オリックス会長「プロ野球は珍しいビジネスモデルだと思う。一つ一つ違う企業がリーグを構成し、全体としての総合的な利益を図らないと成り立たない。若干似ているとしたらフランチャイズチェーンだ」

     リーグ戦興行体であるプロリーグ・スポーツは、分かりやすくいえば、プロスポーツのフランチャイズ・チェーンです。野球協約によれば、NPBに参加している球団は、その参加と引き替えに、NPBから地域権、選手契約権、選手保留権を与えられている形になっています。つまり、フランチャイザー(本部)がNPBで、フランチャイジー(加盟店)が球団という関係になります。

     フランチャイザー(リーグ)とフランチャイジー(球団)の関係は、集権化の傾向にあります。MLBやNPBといった老舗のプロ・リーグは、球団の力が強く分権的です。逆に、新興のNFLやJリーグはリーグの力が強く集権的です。これは、近年スポーツのプロ化が進み、リーグ間競争が激しくなってきたこととメディアへの対応によるものです。

     米国でも日本でも、長い間、野球は、プロリーグスポーツ市場を独占していました。各球団のファンを増やせば全体の反映につながるという前提に立っていましたが、リーグ間競争だけでなく、ディズニーランドなど他のエンターテイメントとの競争も激しくなっていく近年では、リーグ全体でのブランドの確立による差別化戦略が重要になってきます。

     ところで、NPBの地域権・選手契約権及びその保留権は、NPBの加盟店である球団にNPBから付与されているもので、球団を運営している企業同士が合併しても、地域権・選手契約権等は、1+1=2になるのではなく、1+1=1に過ぎません。オリックス・バファローズのダブル・フランチャイズなど例外中の例外です。特例で3年間認められたに過ぎません。

     選手契約権も、消滅球団となる大阪近鉄の選手は、パ・リーグの一保有となり、新規参入球団に譲渡されるところを、オリックスのエゴで25人のプロテクトという、これまた、特例的な措置がとられたに過ぎません。どちらも野球協約を遵守したものではありません。

     この特例措置が、スト回避の最後の障害でした。そこで交わされたのがオリックスのエゴと礒部近鉄選手会長の意地との妥協の産物である「球団の代表として、特に近鉄の選手の意向を誠意を持って聞きたい。私どもの方で『欲しい』という選手に対しては残ってほしいとお願いしたいが、選手の希望をかなえられるようにしたい」(9月23日、選手会との団交を終え、ストが回避された直後のオリックス小泉球団社長のコメント:朝日新聞)という発言です。

     選手の希望をかなえるという合意文書は、交わされませんでした。そこまで選手会側が迫った場合、第2派のストライキは回避できない虞があったでしょう。最後は、日本的な玉虫色の決着です。しかしオリックス小泉球団社長は、「選手の希望をかなえる」とは言っていないので、火種は残っていました。



     ベースボール・ビジネス34 メディア・ヴァリュー


     スポーツは商品としての実体がなく、その商品価値はプレーの面白さに基づいている。そのため企業がプロダクトすることは非常に難しい。ただ、そのためにスポーツは特定企業に属することなく、一般性や公共性を持ちやすい。そこからコンテンツとしての価値、メディアヴァリューが生まれてくる。

     これは、今回のプロ野球再編劇でもたびたび登場されました経済産業研究所の広瀬一郎氏の著書、「ドットコム・スポーツ IT時代のスポーツ・マーケティング」の一説です。

     ここでいうメディアには、新聞・雑誌、テレビ・ラジオといったものだけでなく、球場の看板広告、ユニフォーム、キャップ、ヘルメット、芝生のカット、球場本体、球団ロゴ、球団ロゴ入りTシャツ・トレーナー・スタジャン、「○○は、××を応援します」といった応援メッセージ、球団名、球場名etcといった多種多様なものが考えられます。

     メディア・ヴァリューの中で代表的なものにテレビ放映権がありますが、このテレビというメディアも多様化しています。テレビといえば従来は、アナログ地上波だけでしたが、最近では地上波のデジタル化が始まっています。衛星放送にもアナログとデジタルがあり、またスカパーに代表される通信衛星を使った衛星放送もあります。これら無線媒体のほかケーブルテレビといった有線媒体があります。有線媒体にはネットTVが加わります。また、ネットTVは、無線LANの普及により、無線媒体にもなります。

     次に、利用方法をみても、ライブ中継のほか録画中継があり、本放送に再放送、スポーツニュースに、「珍プレー好プレー」といった画像を編集した二次利用・三次利用、ビデオやDVDといったパッケージソフト化、といった具合に多様です。

     また、メディア・ヴァリューには、テレビなどのメディアを介した「through」な価値と、メディアとしてのスポーツ自体の「of」の価値があります。前者の代表が放映権料とすれば、後者の代表はプロ野球の球団名やサッカーのユニフォーム広告です。スポーツビジネスの成功の鍵は、このスポーツが持っているメディア・ヴァリューをいかに現金化できるかにかかっています。

     日本のプロ野球は、親会社の広告宣伝媒体として、このスポーツのメディア・ヴァリューを昔から大いに利用していました。国税庁通達では、球団への赤字補填は、親会社の広告宣伝費として処理するとされています。ところが、この広告宣伝費は、球団の赤字補填という形をとっているため、プロ野球の正当な収入にはなりません。昨年のストライキ騒動の最中、当時のオリックスと近鉄が発表した球団収支の中には、この広告宣伝費としての赤字補填分は含まれていません。



     ベースボール・ビジネス35 


     日本のプロ野球は、親会社の広告宣伝媒体といわれがますが、一様ではありません。プロ野球の人気が直接、親会社の利益につながっている球団があります。それが、人気球団といわれる読売ジャイアンツ、阪神タイガース、中日ドラゴンズ、そして、2003年までの福岡ダイエーホークスです。

     ジャイアンツの親会社は読売新聞社ですが、読売新聞社は、東京ドームのチケットやジャイアンツのグッズを読売新聞の販売拡張材として利用しています。ジャイアンツは、フランチャイズ以外の大阪ドームや福岡ドーム、札幌ドームで主催試合を開催していますが、これも、それぞれ関西、九州、北海道における読売新聞の販売拡張のために行われていると考えられます。

     全国展開している読売新聞に対し、ドラゴンズの親会社である中日新聞社は愛知県内で8割のシェアを持つブロック紙ですが、ドラゴンズの機関誌ともいえる中日スポーツの人気も高く、名古屋では、全国紙を上回る宅配率を誇っているそうです。名古屋地区では、ドラゴンズがプロ野球を独占しており、読売新聞は、ジャイアンツを使った新聞の拡販ができず、シェア2%と苦杯をなめています。

     私鉄大手に名を連ねていますが、ローカル電鉄の域をでないのがタイガースの親会社である阪神電鉄です。このため、タイガースが電鉄を買収すればいいという話さえでる始末です。実際、タイガース・ファンによる運賃収入、阪神甲子園球場での売り上げが、阪神電鉄にとって大きな利益になっています。

     2004年、福岡ドームが米国の投資会社コロニーに売却されるまで、ホークスの実質的な親会社は、福岡ドームでした。本来の親会社であったダイエー本社は、1兆円を超える有利子負債を抱え、福岡ドーム、ホークスといった福岡事業を支える力がなく、ドームを中核とした独立路線がとられていました。このため、福岡ドームへの集客を優先したドームとホークスの一体的な経営が行われてきました。

     球団の人気が直接、親会社の利益につながるこれらの球団は、必然的に親会社の力の入れ方が異なってきます。そして、これらの球団の特徴は、親会社のマーケットと球団のマーケットが同じだということです。


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