ベースボール・ビジネス by B_wind

    ベースボール・ビジネス36 事業者と競技者

    ベースボール・ビジネス37 ビジネスは1リーグ制のススメ

    ベースボール・ビジネス38 ドラフト制

    ベースボール・ビジネス39 セ・リーグのレベニュー・シェアリング

    ベースボール・ビジネス40 ドラフト改革案まとまらず



     ベースボール・ビジネス36 事業者と競技者


     経済産業研究所の広瀬一郎氏によれば、(財)東京大学運動会の「スポーツマネジメント・スクール」では、ファン、TV、企業、行政/自治体という全く別の論理によって対価を支払う4種類のプロスポーツにおける顧客を取り上げ、この4つのグループに加え、売り手としての所有者/株主/事業者、(監督・選手などの)競技関係の2つを、プロスポーツ産業の基本的な利害関係者(ステークホルダー)としています。>広瀬一郎 プロスポーツ・リーグの経済学

    > http://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0139.html

     売り手としての「事業者」と「競技関係者」の関係をみてみると面白いことが分かります。1871年、最初のプロ野球リーグNAPBBPが結成されますが、NAPBBPとはナショナル・アソシエーション・オブ・プロフェッショナル・ベース・ボール・プレイヤーの略で、訳せば、全国プロ野球選手協会になります。文字通り選手の協会で、競技関係者が事業者を兼ねていたわけです。

     ところがNAPBBPは、選手のわがままや規律の乱れもあってリーグ運営がずさんで、リーグ戦での不正な順位操作、選手の引き抜きや八百長が横行し、賭博の対象にもなったりしたので、ついにはファンの支持を失い、5年間で幕を閉じてしまいました。

     そこで1876年、この野球の危機を乗り越えるべく登場したのが、世界最古の大リーグ、ナショナル・リーグです。ナ・リーグでは、選手や監督は試合に専念させ、経営は専門の役員が行うことにしました。つまり、「事業者」が「競技関係者」と分かれ、近代的で合理的なリーグ運営が可能になった一方、保留条項により「事業者」が「競技関係者」を支配する構図ができあがりました。

     その後、競技関係者=選手側は、選手会(組合)を結成し、「事業者」側に対抗します。そして、フリーエージェント革命を経て、選手会は、事業者のパートナーとなっていきます。これが、メジャーリーグ(MLB)おける売り手側のステークホルダーの関係です。

     純粋にスポーツだけをみれば、そこには売り手や買い手も存在せず、監督・コーチ・選手・審判など競技関係者しか存在しません。近代スポーツの定義は、統一されたルール、統一された組織、統一された大会です。国際化した今日では、このため、国際的に統一された競技者組織の存在が欠かすことができません。サッカーには国際サッカー連盟(FIFA)が、バスケット・ボールには国際バスケットボール連盟(FIBA)があり、野球には国際野球連盟(IBAF)があります。

     組織があれば、次は「国際的に統一された大会」です。一番有名なのがFIFAワールドカップです。FIFAワールドカップは、オリンピックと並ぶ国際的なスポーツイベントで、今や単なる一競技団体の主催大会ではなく、国際的事業になっています。競技関係者が事業者を兼ねるという構図となり、現代版NAPBBPというリスクをはらむことになります。

     ところで、スポーツ組織としてMLBは、北米の一事業者に過ぎません。この一事業者が、ワールドカップという国際大会を一方的に開こうとして問題になりました。北米の一事業者が、MLB選手会と合同でワールドカップと名乗った大会を開催しても、たとえ競技レベルが国際レベルであっても、「国際的に統一された大会」としての認知は難しく、野球が世界のローカルスポーツであることを露呈するだけです。かといってMLB選手が出場しないIBAF主催の国際大会(ワールドカップなど)の価値は、レベル的に「国際的に統一された大会」としては疑義のあるものです。

     最後に、国際的に統一されたルールですが、日本の野球ルールは、「米国プロフェッショナル野球機構で用いられているオフィシャル・ベースボール・ルールズ OFFICIAL BASEBALL RULES」がもとになっており、アメリカでルールが変われば、日本でもルールが変わるという仕組みになっています。国際球にしても、結局、MLBの使用球ということなんでしょうね。
     >「公認野球規則」



     ベースボール・ビジネス37 ビジネスは1リーグ制のススメ


     昨年、NPBのオーナー側は、オリ近の合併を契機に1リーグ制を画策しましたが、選手会ストとファンの反対にあい、楽天の新規参入により2リーグ制で決着しました。プロ野球というのは、フィールドでは競争しますが、ビジネスでは協働するリーグ戦興行体です。フィールドでは、興行的に二分対立の関係となる2リーグ制は利点が多いのですが、ビジネス上は、2リーグである必要はありません。

     現オリックス・バファローズ・オーナーの宮内義彦オリックス会長曰く「プロ野球は珍しいビジネスモデルだと思う。一つ一つ違う企業がリーグを構成し、全体としての総合的な利益を図らないと成り立たない。若干似ているとしたらフランチャイズチェーンだ」

     「全体としての総合的な利益を図らないと成り立たない」のですから、ビジネス上は1リーグ制にすればよいのです。いま、プロ野球に必要なのは、裁判官ではなく、ビジネス・リーダーです。ナショナル・リーグとアメリカン・リーグという2リーグ制をとっている米国では、既に、ビジネス上1リーグ化され、すべての権限がコミッショナーに集中しています。

     MLBはNPBと同様に、オーナー側が前コミッショナーに辞任に追い込んだり、現コミッショナーが元ブリューワーズのオーナーだったりと、オーナーの集合体的な色彩が強いといわれています。

     ところが、そのオーナー出身のセリグ・コミッショナーは、「ナショナル・リーグとアメリカン・リーグの両会長の辞任にともない、両リーグの会長制度を廃止しました。1900年から続いたナショナル・リーグとアメリカン・リーグの2リーグ制をグラウンドだけに限定して、それぞれのリーグが独立して行ってきた審判員の雇用、スケジュール作成、選手管理等の運営事務をコミッショナー事務局に吸収し、NBA、NFL、NHL同様、すべての権限をコミッショナーに集中した」経営コンサルタントの大坪正則氏の著書「メジャー野球の経営学」【集英社新書】



     ベースボール・ビジネス38 ドラフト制


     昨年の1リーグ騒動を経て、今年のプロ野球は改革元年と言われています。この中で、争点になっているのがドラフト制です。球団の赤字経営の原因は選手の人件費の高騰のほか新人選手の獲得のためにかかる裏金が原因とされ、選手会やオリックスは完全ウェーバー制を主張し、読売(巨人)は契約金の厳格化で対応し、自由獲得枠を残すことを主張しています。

     ドラフト制については、従来から、職業選択の自由を奪うものであるとか、人権侵害だという批判がある一方、ドラフトはプロ野球への就職であり、職業選択の自由を奪うものではないという反論があります。

     プロ野球というのは、選手の奪い合いを防ぐ意味で、ナショナル・リーグの頃から、球団と選手の契約は同時にリーグ(機構)と選手との契約を兼ねる、統一契約書による契約でした。つまりプロ野球の選手契約は、リーグ戦の興行を共同で運営するリーグ及び機構との契約だという点です。ですから、ドラフトはプロ野球への就職という点では間違いはありません。

     プロ野球選手の契約が、プロ野球というリーグ戦興行共同体との契約ならば問題はありませんし、統一契約書というのは事実そうなっています。ところが、実際には選手は個々の球団と契約することになります。選手側からは球団を選ぶことができません。もし、個々の球団によって、報酬や施設、指導法などに格差があった場合、どうなるのでしょう。プロ野球への就職というからには、各球団の選手環境は同じか、同じ機会が与えられなければいけません。もし、異なるのであれば、異動する自由を保証されなければならないはずです。

     ところが、読売ジャイアンツに入団した選手と他球団に入団した選手の報酬、出場機会、指導法、練習場、移動手段、マスコミの扱いは同じといえるでしょうか。日本のプロ野球は、各球団の環境の違いが大きすぎるのではないでしょうか。日本のプロ野球(NPB)は、長いこと親会社の宣伝機関として位置づけられていきたため、親会社の違いによって球団の環境も大きく異なってきました。さらに、巨人の所属の有無によるセ・パの格差、さらに巨人の他の11球団との格差。

     この格差がある以上,NPBが共同体といえるのかどうか。共同体といえないのであれば、ドラフト制というものは成立しないのではないか。そして、NPBが不完全な共同体であるのであれば、ドラフト制も不完全でしかたがないのではないかと思います。NPBのドラフトには、古くはくじ引き、近年では逆指名・自由獲得枠というものが持ち込まれドラフト本来の目的が損なわれています。これは、球団の親会社、リーグの違いによる財政格差がある以上仕方のないことだと思います。それよりも球団の財政格差を是正する施策の方が優先課題だと思うし、二軍に埋もれている選手を発掘する場も必要です。

     FAの導入により選手の異動の道も拓けてきましたが、FAは一握りの選手に限られた権利であって、その取得には9年以上も必要になります。そしてFAは、日本人選手のメジャー流出のための手段になってしまっています。



     ベースボール・ビジネス39 セ・リーグのレベニュー・シェアリング


     史上最も成功したスポーツビジネスといわれるNFLは、人口800万のニューヨークから人口10万のグリーンベイまで、同じ条件でフィールドで競争できるしくみを作り上げてきました。

     スタジアムを常に超満員にするグリーンベイ・パッカーズですが、人口10万の地方都市で、フランチャイズからの収入だけで運営し続けることは不可能です。それを可能にしたのが、レベニュー・シェアリングです。NFLでは、リーグが得た収入は均等に各球団に分配されます。

     例えばパッカーズは、2003年度の収支は総収入1億7910万ドル、利益はNFL32チーム中10位の2080万ドルを記録しましたが、収入の中では、リーグから分配されるTV放映権だけでも8120万ドルと、売上の約45%を占めています。

    http://www.nfljapan.co.jp/nfl/system.html

     このNFLを社会主義的だという批難に対して、「それは当たらないだろう。現在あるプロリーグの中で、NFLほどプロリーグの理念に忠実なリーグはなく、また効率よく収入を得ているリーグはない。これはMLBや日本のプロ野球と比較すれば、一目瞭然である」と「プロ野球は崩壊する」で著者の大坪正則氏は述べています。

     ところで、日本にもグリーンベイ・パッカーズのように地方の小都市に本拠地を置いた球団がありました。それが1950年下関を本拠地とした大洋ホエールズです。当時の下関市は、人口約28万人で、東京、名古屋、大阪などと比べるとはるかに小さな都市でした。

     しかし、当時のセ・リーグは、フランチャイズ制ではなく、一種のレベニュー・シェアリングが採られていました。まず、全入場料収入の半分を勝ち負けに関係なく折半し、残りの半分を6:4で勝敗によって分けることになっていました。

     つまり、各球団の入場料収入は、25%の基本給と勝てば30%、負ければ20%の能力給との組み合わせになっており、弱い球団の経済的な保護を狙ったものでした。当時の球団収入にはテレビの放映権料といったメディアからの収入はなく、大部分が入場料収入によって占められており、本拠地人口の多寡による不平等性を克服するには、入場料の分配システムが必要とされました。

     このNFL的なしくみによって、1950年のセ・リーグの税抜きの収益は1億1907万円で1リーグ時代に比べ200万円あまりの増収となっており、リーグとしては成功を収めたことになります。

     ところが、当然のごとく、盟主読売ジャイアンツの収益は、前年の2465万円から1158万円と約1300万円の減収となり、阪神も、1009万円から959万円に急減しました。このため、既存球団の読売・阪神・中日の不満がつのり、2リーグ分裂時にセ・リーグに生まれた大洋は、同じ境遇の広島との合併が画策され、西日本パイレーツは実際に、西鉄と合併し、パ・リーグに去っています。

     セ・リーグのレベニュー・シェアリングは、1952年のフランチャイズ制の導入により消えていきます。このため、大洋ホエールズは、大都市への移転を余儀なくされ、1953年松竹ロビンスと合併し、京都・大阪を本拠地とし、1955年大洋に戻ると川崎を本拠地とすることなります。

    ●参考文献

    「プロ野球ビジネスのしくみ」小林至著 宝島社新書
    「史上最も成功したスポーツビジネス」種子田穣著 毎日新聞社
    「プロ野球は崩壊する」大坪正則著 朝日新聞社
    「魔術師<上>」三原脩と西鉄ライオンズ 立石泰則 小学館



     ベースボール・ビジネス40 ドラフト改革案まとまらず


     7月13日の12球団代表者会議で、読売ジャイアンツが主導してきたワーキング・グループ(WG)がまとめたドラフト改革案が討議されました。WGの提出した案は、(1)完全ウェーバー制移行論と(2)先送り論の2案でした。ただし、(1)は、FA取得期間の短縮を前提としています。

     従来、自由競争を主張していた読売ジャイアンツは、FA取得期間短縮を前提に(1)の完全ウェーバー制移行を主張、これに阪神、中日が同調しました。これに対し、従来完全ウェーバー制を主張していたオリックス、楽天などはFA取得期間短縮に伴う、年俸高騰を懸念し(2)の先送り論を支持するという逆転現象がおきました。

     カイシャ・フランチャイズ制となっている日本のプロ野球では、カイシャと球団の依存関係の違いで、個々の球団のスタンスも変わってきます。読売、阪神、中日にとって、球団は利益に直結していますが、オリックスや楽天など他の球団にとっては単なる宣伝媒体に過ぎません。

     そもそも、昨年のオリックス・近鉄合併は、人件費の高騰に起因するというのがNPB側の主張であり、人件費の高騰の原因は、読売ジャイアンツの渡辺現会長の主張による1993年のドラフト逆指名、FA導入でした。ドラフトについては、渡辺会長がオーナーを辞任する原因となったスカウトの栄養費問題もあり、コンプライアンス(法令遵守)の点からも改革が急務とされています。

     このため、球団への依存関係の高い読売は、球界改革を印象づけるためドラフトの完全ウェーバー制の導入を受けいれる代わりに、FA取得期間の短縮(9年から7年)による実をとることを選択し、反転攻勢にでたようです。

     FA導入には、選手人件費の上限を規制するサラリーキャップ制の導入が不可欠とされています。FAは、選手市場における自由市場の創設であり、選手年俸の高騰が避けられず、人件費抑制のシステムも併せて導入する必要があるとされています。MLBでは、サラリーキャップ制の導入は選手会ストによって頓挫しましたが、現在、レベニュー・シェアリングの一種であるラグジュアリー・タックスが導入されています。

    > http://www.narinari.com/Nd/2005074651.html

     NPBがサラリーキャップやラグジュアリー・タックスを導入するためには、選手人件費や球団収入における透明度を高める情報公開(ディスクロージャー)が不可欠であり、これを進めていくためのNPBのコーポレート・ガバナンス(企業統治)が必要となります。


     第41回〜はこちら


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