2002W杯特集 【出場国紹介 幻のグループI】 by ICHILAU

     前回でW杯出場32カ国の紹介は終わった。
     しかし、以前にも何度か触れたオランダを筆頭に、W杯出場を逃した強豪国がいくつか存在するので、私はそれらの国のために、虚構のグループリーグを1つ、用意してみた。
     みなさんも、グループHの次、幻のグループIを私とともにお楽しみ頂きたい。


    ●オランダ

    ●コロンビア

    ●ホンジュラス

    ●ギリシャ



     ●オランダ


     「たられば」「タラレバ」

     本W杯予選において、オランダにまつわる「タラレバ」は数知れない。その中の1つでも実現していタラ、現時点でオランダはW杯の優勝候補として注目を浴びていた事だろう。

     74年W杯でセンセーションを起こして以来、オランダは最先端のサッカーを体現してきた。“攻撃的で美しい”だけではなく、“組織的で勝てる”サッカーを理想とし、世界のサッカーシーンをリードしている。
     また、オランダのクラブの選手育成には定評があり、オランダ人に限らず、オランダのクラブに在籍経験のある有名選手は数知れない。ただ、ボスマン採決以前から国外の有力クラブで活躍するオランダ人選手は多くいたが、ボスマン採決以後は、一気に国外移籍が加速され、たとえば、

    ★クライファート(ACミラン→FCバルセロナ)
    ★セードルフ(レアル・マドリード→インテル・ミラノ)
    ★ダービッツ(ユベントス)
    ★ベルカンプ(アーセナル)
    ★スタム(ラツィオ)
    ★ファン・ニステルローイ(マンチェスター・ユナイテッド)
    ★コク(FCバルセロナ)
    ★オーフェルマルス(アーセナル→FCバルセロナ)
    ★フランク・デブール(FCバルセロナ)
    ★ゼンデン(FCバルセロナ→チェルシー)
    ★ハッセルバイク(チェルシー)

     といった名選手がどんどん流出し、欧州各国の名門クラブでチームの中心としての地位を得ることになったのである。そこで、レギュラーの大半を一流リーグの名門クラブの主力選手で構成できるオランダ代表の陣容は、フランス、アルゼンチン、ブラジルに勝るとも劣らない豪華さを誇っているわけだが、私は実をいうと、そのことにつき、一つだけ危惧していたことがあった。それはオランダの国内リーグのレベル低下による“バルカン化”(詳しくはクロアチアの稿参照)であった。しかし、この私の危惧も、2002年のUEFAカップで、小野の所属するフェイエノールトが優勝したことで、払拭されることになりそうだ。

     ただ、この連載でも何度か触れたことだが、世界でもほんの一握りのトップクラスに入るオランダが、アイルランドに不覚をとり、W杯に出場出来なかったのは、返す返すも残念なことだ。
     ちなみに前回のW杯では、長身のセンターFW・クライファートと、やや引き気味のFW・ベルカンプが組んでいたのだが、飛行機恐怖症のベルカンプは母国開催のユーロ2000(欧州選手権)を節目に代表から引退し、クラブの試合に専念するようになった。しかしながらオランダ代表は、ベルカンプに代わる同タイプの選手を見付けられなかったので、そのことがW杯予選敗退の主な原因になったと言われている。
     では、クライファートに匹敵するFWはいなかったのかというと、決してそのようなことはなく、この国には超一流のセンターFW、ファン・ニステルローイがいるので、この2人を併用するシステムでW杯予選に臨めば良かったのだが、そのニステルローイはユーロ2000の前に故障し、W杯予選の前半には出場できなかったのである。その結果、オランダは前回のW杯に近いシステムでW杯予選を戦うこととなり、ニステルローイが復帰した時には、クライファートと彼を併用することを想定したシステムを試す時間がなく、併用は難しい状況になっていたため、急造でクライファートがベルカンプの役をやり、ニステルローイがクライファートの役をやる形で併用されたが、元来センターFWであるクライファートに、引き気味のFWは向いていなかったようだ。従って、天王山となったダブリンでのアイルランド戦では、相手に先制を許した後、徹底的に守られる一方で、クライファートとニステルローイのポジションが重なってしまい、攻撃にスムーズさを欠いてしまったので、無得点のまま敗れ去ったのである。
     そこで、今さらこのようなことを言っても仕方がないが、ベルカンプの所属するアーセナルの本拠地ロンドンからダブリンまでなら、飛行機に乗らずとも行けるはずだったので、このときだけベルカンプを呼び戻せばよかったのではないか、と私は考えた。代表を引退してもプレミアリーグでバリバリの活躍をしている、現在33歳のベルカンプなら、当時のオランダ代表を救えたと思うのだ。そしてW杯の出場さえ決めることができれば、クライファートとファン・ニステルローイが共存できるチームを作る時間は、充分にあったはずである。また、どこかの雑誌で「W杯注目のFW」を紹介する記事に出ていた欧州4大リーグの得点ランキングの上位に、オランダ人選手が複数入っているのを見ると、オランダがW杯に出場出来なかったことを、私は重ね重ね残念に思うのだ。

     ちなみにグループIでも、オランダはグループリーグ突破の第一候補だ。しかし悲しいかな、グループIを突破しても進出する決勝トーナメントは、ない。



     ●コロンビア


     さて、「世界で最もテクニックを持った選手を揃えている」のは、間違いなく南米コロンビアである。その技はブラジルやアルゼンチンのそれをも凌駕しており、しかも、地味な印象の強いDFやGKですら、一級のテクニックを持っている。
     しかし、私にはどうしても分からないことがある。
     コロンビアは一体何故、これ程のテクニシャンを揃えながら、“守備的かつ未熟”な戦術に終始するのだろう。

     コロンビア代表は、自陣ゴール前に選手を固めることが多い。
     そして駿足の選手でカウンターを狙う。
     ところが、ここからが同型の他の国と違う点だ。

     コロンビア代表の場合は、相手からボールを奪っても、安全を顧みず、自陣ゴール前で相手の間を通すパスを狙うことがある。また、FWに敵陣でのディフェンスが要求される現代サッカーを嘲笑うかのように、コロンビアDFは、ディフェンスに来た相手FWを、ドリブルでかわす。いずれも、相手に奪われたら失点に繋がる危険なプレーだが、それを平然とやってのけるのである。
     またコロンビアの攻撃の時は、サッカーではタブーとなっている“FWの重なり(2人の選手が同じ場所に入ってしまうこと)”が度々起きるが、彼らはそんなことにはおかまいなしに、前線にガンガンボールを送り、その場のとっさの判断で50m級のパスを交換してしまう。
     このように、コロンビア代表が即興で見せる連係には目を見張らされる。

     私には忘れられないシーンがある。昨年コロンビアで開催されたコパ・アメリカ(南米選手権)でのプレーだ。
     相手のロングパスに反応したコロンビアのGKが、ペナルティーエリアを出て、相手の前でボールをカットした。するとそのGKはボールをクリアすることなく、勢いに任せてハーフウェーライン近くまで上がっていって、敵陣ゴール前にロングパスを送ったのである。そして、パスを受けたMFはボールをコントロールする事なく、直接FWへパスして、FWがゴールを決めた。結局このプレイは、最後のパスがオフサイドとなったためにゴールは幻となったが、私に強い印象を残した。
     通常は、GKがペナルティエリアで相手ボールをカットすれば、そこでボールをクリアしてしまうものだが、この場合は違った。そしてこのように高度な連係は、生半可な個人技ではできるはずもなく、読者のみなさんも、いかにこのコロンビア代表がものすごいテクニックを持っているかを理解できるだろう。したがって私はコロンビア代表に「常識ではまず考えられない高度な戦術」を求めたら、彼らには、それを実行出来るだけの能力はあると思う。
     しかし、コロンビアの治安はあまりにも悪すぎるので、残念ながら彼らには、そのような「高度な戦術」を習得できるだけの余裕はなかったようだ。

     私にとってコロンビア代表の試合を見るのは1つの楽しみだったが、今回のW杯では、残念ながら見られない。従って、私が「W杯出場国中最もコロンビアに近い」と判断したロシア代表の試合で、我慢するつもりである。



     ●ホンジュラス


     グループリーグという以上、4カ国を選ぶ必要がある。そして私は、オランダとコロンビアはすぐに思いついたのだが、残る2カ国は、すぐには決まらなかった。そこで私は、W杯予選で敗退しながら2001年のFIFA最優秀代表チームに選ばれたホンジュラスを、このグループIに迎える事にした。

     このホンジュラス代表が2001年の最優秀代表チームに選ばれた要因は、7月に急遽参加したコパ・アメリカ(南米選手権)で快進撃を見せ、3位に入ったことだと言われている。従って私も、そのコパ・アメリカ以来この国に密かに注目していたわけだが、残念ながらW杯予選では、彼らは敗退してしまった。
     しかし、2002年5月の対日本戦で再び私の前に姿を表した彼らは、素晴らしい試合を見せてくれた。確かなテクニックと華麗な連係で日本を圧倒し、試合後半こそ時差ボケで疲労困憊して、GKの凡ミスと無意味な反則で失点しながらも、この試合を引き分け、2002年に入って無敗だった日本代表に冷や水を浴びせたのは、記憶に新しい。
     ホンジュラスは、身体能力よりもテクニックを重視している点で、同じ中米の小国でW杯に出場しているコスタリカよりは、ブラジルに似ている。そして日本戦では、イタリアでプレーしている選手も召集(ただ2部のセリエB所属の選手の方が多いのだが、例え2部でも「イタリアでプレーしている選手は手強い」し、この試合ではそれを実感させられた)し、ベストメンバーで臨んだ結果、こういうことになったのだった。

     ホンジュラスは中米の中では選手の欧州進出も多く、今後有望な国である。



     ●ギリシャ


     グローバル化が進み全体的にレベルの上がった現在、欧州において、名選手を配しながらW杯を逃した国は、少なくない。
     世界的なFW、シェフチェンコのいるウクライナ。
     セリエAで活躍する名MF、ネドベドを配するチェコ。
     アヤックス、FCバルセロナ、リバプール、と名門クラブを渡り歩いたMF兼FW、リトマネンのいるフィンランド。
     世界的なドリブラーで、マンチェスターユナイテッドで活躍するギグスのいるウェールズ。
     同じくマンチェスターユナイテッドで活躍する「点取り屋」、スールシャールのいるノルウェー(このノルウェーは先日、日本に完勝したことで、みなさんの記憶にも新しいことと思う)。
     ただ私は、上記のどの国を選んでも外れではないと思うが、あえて1つをこの幻のIリーグに入れるとしたら、このギリシャを選びたい。

     第一の理由は、以前ポーランドの稿で触れたことだが、ギリシャのクラブ「パナシナイコス」が今の欧州チャンピオンズリーグで、有名選手はオリサデベ(ポーランド)以外皆無であったにもかかわらず、四大リーグの牙城を崩し、ベスト8にまで勝ち上がったこと。
     第二の理由は、ギリシャ代表の試合を私自身見たことは僅かしかないのだが、少し見ただけで、彼らのプレーに魅せられたことである。

     ギリシャのプレースタイルは、ロシアと同じく、ショートパスを多用するものだが、明らかにロシアよりもレベルの高いサッカーをする。
     私は今年の初旬に、欧州での各国代表の親善試合をチェックしていた際、2/13のロシアの対アイルランド戦、3/27のギリシャの対ベルギー戦を観ることができた。そしてロシアがアイルランド戦でボールを支配し続け、パスを回し続け、攻め続けても、決定力に欠け、結局1点も取れなかったのに対し、翌日のベルギー戦でのギリシャがただパスを回しただけではなく、相手の背後を狙ったり、速いパスを繋げてディフェンスを翻弄したりと多彩な攻撃を見せ、シュートも決めて2点差をひっくり返し、快勝したときに、大きな衝撃を受けたのである。
     また、ハイライトで見たスウェーデン戦でのギリシャのゴールも忘れられない。彼らは「敵陣深く」でスウェーデンDFからボールを奪うと、一瞬の間に3人の選手にパスを回し、4人目がスルー(来たボールを触らずあえて後ろに流すこと)して、5人目がシュートを決めた。これは、本当に鮮やかなゴールだった。

     そこで私は、それまで殆ど知らなかったギリシャのサッカーについて、調べてみた。
     ギリシャでは、パナシナイコス、オリンピアコスなどが競う国内リーグに人気はあるが、国際的には、大きな成果を殆ど上げていない。1972年の欧州チャンピオンズカップ(チャンピオンズリーグの前身)でパナシナイコスが準優勝したのが数少ない栄光で、国内に留まる選手が多いだけに、ボスマン採決以降は、欧州サッカーシーンから取り残された格好となっていたようだ。そしてこの点では、この国はサウジアラビアやチュニジアの現状に似ているのだが、ただ欧州選手権やW杯の予選で常に強豪国と戦わねばならず、それとともに、99年にクラブ国際カップが拡張され、この国のクラブにもチャンスが広がったことで、欧州の列強に対抗できるだけのスタイルを確立した、と言える。
     ちなみに今年のチャンピオンズリーグでは、パナシナイコスは4強を賭けてFCバルセロナと対戦、惜敗したものの、素晴らしい試合を見せてくれた。またW杯予選では、ドイツとイングランドに阻まれ、敗退したが、パナシナイコスの活躍を見ると、W杯予選が半年遅ければ、と思ってしまう。
     もしもギリシャがグループHに入っていたとしたら、確実に勝ち上がっていたことだろう。

     さて、これで36カ国全てが終わりました。長きに渡ってお付き合い下さったことに、心より御礼申し上げます。
     また、以下に参考文書及び参考にさせていただいたサイトを示します。皆さんが「サッカーを楽しむ」ための助けになれば、幸いと存じます。

    《参考文献》

    カルチョワールド サッカーこそ全て     大栄出版
    欧州サッカー60都市現地観戦ハンドブック  ダイナゲイト
    サッカーマルチ大辞典            ベースボールマガジン社
    セレソン ドゥンガ著             NHK出版
    南米蹴球紀行                ケイブンシャ

    《参考サイト》

    http://www.geocities.co.jp/Athlete-Athene/3978/
    http://ugougo.virtualave.net/soccer/index.html
    http://www.isize.com/sports/football/wc/


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