2002W杯特集 【出場国紹介 ブラジル以外のグループC】 by ICHILAU

    ●トルコ

    ●中国

    ●コスタリカ



     ●トルコ


     国土の大半と首都アントラが存在するアジアのサッカー統治機関、AFCではなく、大都市イスタンブールが存在する欧州のサッカー統治機関、UEFAに所属していることが、今日のトルコサッカーの盛況をもたらした。南米に次いで突破の難しい欧州予選に参加していたため、トルコは実に48年振りのワールドカップ出場となる。アジアに所属していれば、毎回突破の第一候補になっていたと思われるが、現在のようにレベルの高いサッカーに濃い密度で接することは、不可能だった。
     前述の95年に始まった欧州サッカーの外国人枠撤廃へのプロセスによって、クラブサッカーのレベルが上がったことにより、クラブ国際カップ戦の注目が高まった結果、欧州チャンピオンズリーグと、チャンピオンズリーグに出場しない主なクラブが出場するトーナメント戦UEFAカップは規模が大きくなり、トルコのクラブにもチャンスが増えた。そしてそのチャンスを、トルコの名門クラブ、ガラタサライが捕らえ、2000年UEFAカップに優勝した。
     さらにその直後の欧州選手権でもトルコ代表は健闘し、ワールドカップ予選も見事に突破した。レベルの高い欧州のサッカーシーンで地道に戦ってきた成果が出た、と言える。
     レベルの低いアジアに所属していれば、何度もワールドカップに出場していた可能性はあるが、現在のような高いレベルに達することは、不可能だっただろう。アジアは広い上に、気候も文化も千差万別で、欧州のように国際戦が日常的にならないため、厳しい競争はできないのである。

     トルコは、今後有望な国である。トルコにいればイスラム圏を出る事なく欧州サッカーに参加することが出来る。アジアやアフリカに存在するモスレムの強豪国の選手の欧州サッカーシーンへの玄関となれる訳だ。

     一般的にこのトルコを含め、モスレムの国々の選手は異文化の欧州のクラブでのプレーを苦手にしているわけだが、チーム全体で遠征すると素晴らしい結束を見せる。サウジやモロッコなどの有望選手が、文化的に近いトルコのクラブで欧州国際カップ戦の経験が出来れば、モスレム国のレベル向上に繋がり、ひいてはアジアやアフリカサッカーの底上げにもなる。
     そしてこれらの国々のレベルの高い選手がトルコに集まり、国内リーグのレベルアップが出来ればトルコのクラブの欧州国際カップ戦での活躍が更に増え、それがトルコ代表の強化に繋がる、と言う好循環が続く事になる。

     それから余談だが、トルコ代表には、ドイツなどのトルコ系移民の子孫のプレーヤーが、彼ら自身は一度もトルコに行ったことがないのにもかかわらず、自分の祖先のルーツがそこにあるからという理由で、選ばれることがある。これは、祖国への思いが、彼らトルコ系移民の連中には、あるからなのだろうか。

     小柄な身体の選手が多く、細かくパスを繋ぐサッカーをするトルコにとっては、同グループに、同じスタイルのサッカーを行い、テクニックに勝るブラジルとコスタリカが入ったのは、不運だった。
     しかし、初戦のブラジル戦で健闘すれば、決勝トーナメントが見えてくる。
     また、進出すれば、他の国の代表チームは、日本も含めて、それほど脅威にはならないだろう。
     前評判はそれほどでもなかったのに、前回のフランスW杯で3位に入ったクロアチアの再現となるかもしれない。



     ●中国


     何故中国はワールドカップに出てきたのだろう。私が言わなくても、中国が出場国中最弱とお考えの方は多いだろう。最も楽にワールドカップ出場を決めた国である。
     今回のワールドカップアジア予選は、常連韓国と、近年アジア最強の日本がこれを免除されたので、前回アジア唯一の勝利をおさめたイランと、前々回アジア唯一の勝利をおさめたサウジアラビアが有力だった。しかし何故か2グループに分かれ、各グループ1位がワールドカップ出場を決められる最終予選で、イランとサウジアラビアは、同じ組に入った。また、サウジアラビアがAグループでシードされたのに対し、Bグループは当然シードされるべきイランではなく、何故かUAEがシードされ、抽選をしたらイランが厳しいグループに入り、中国が世界一楽なグループに入ったのである。
     その結果、Aグループで2位になったイランは3位決定戦に完勝して、アイルランドとの超大陸プレーオフに望んだが、流石に荷が重く、惜敗した。そして、これも理由はわからないが、本大会の抽選が行われる前に、中国が予選リーグを韓国で戦うことが、知らされていた。
     こうなると、アジア最終予選の組分けが公正に行われたかどうか、疑わしく思う人も出てくるだろう。

     代表チームの話に移ろう。私が今までに聞いた中国代表の長所は2つで、監督が4大会連続違うチームを決勝トーナメントに導いたボラ・ミルチノビッチであること、そして国民が12億人いることである。
     また、1966年には、全チームからまったくのノーマークだった北朝鮮がイタリアに勝ち、あわやベスト4まで行ったことがあるが、このときの北朝鮮は、当時のアジアサッカー界がアジアへの冷遇に怒り、アジア予選をボイコットしたことについて、これに同調しなかったために、予選免除で労せずして得た出場だった。果たして今回の中国は、この再現となるのだろうか。



     ●コスタリカ


     実をいうと私は、今回のW杯で、ダークホースと考えていた国が2つあった。ひとつは前述のトルコだが、もう一つはこのコスタリカである。
     優勝候補筆頭と考えているブラジルを含め、私の注目国が1組に集中してしまったため、確実に1つ脱落するのは残念だが、注目国同士の対戦が実現するのは、嬉しい。

     コスタリカは、予選ではもたついていた。準決勝ラウンドではグアテマラをプレーオフの末に振り切り、ギリギリで最終予選に滑り込んだ。最終予選も出遅れたが、北中米の雄メキシコに敵地で勝利し、流れを変えることに成功した。
     そして、思わぬ幸運がコスタリカに舞い込んだ。(戦争と呼べるほど)治安の悪化したコロンビアでコパ・アメリカが強行開催されたため、アルゼンチンと、招待されていたカナダが出場を見合わせ、急遽その空席のひとつにこのコスタリカが入り、素晴らしい活躍を見せることができたのである。欧州の有力クラブは選手のコロンビア入りを認めなかったため、大会のレベルは決して高くはなかったのだが、伝統があり、試合の熱気が凄いプレッシャーの掛かる試合で活躍したことが、彼らの大きな自信に繋がったらしく、その後、勢いに乗って、全く危なげなくワールドカップ出場を決めることができたのである。

     FWパウロ・ワンチョペは、私自身コパ・アメリカで数回見たに過ぎないが、密かに得点王候補と考えている。背が高く、足が速く、テクニックに優れ、身体が強靭で、ドリブルが上手く、キックは正確だ。
     と、良い点を並べれば凄い選手に見えるが、現在もイングランド1部リーグ(「1部」と名乗っているが実はプレミアリーグの下の2部リーグ)に所属しているということは、私の知らない欠点があるのかもしれない。ただ、次回のポーランドの稿で紹介させていただくオリサデベ(ポーランド)のように、所属しているチームの属するリーグのレベルが低いからといって、そういった偏見からその凄さを皆が見落とすのはありうることだし、また、今回のワールドカップで評価を一新してしまうかもしれないので、これ以上、この選手についてコメントすることは、控えておこう。

     またこのコスタリカは、ワンチョペ以外にも、FWゴメス、MFフォンセカなど、攻撃面で、テクニックに優れた選手を多く抱えている。ディフェンスには難があると伝えられているが、そのために攻撃力を削る対策をせず、攻撃力を前面に押し出すことで、これをカバーしたのである。従って、明らかに、手堅く勝って行くタイプのチームではない。局面局面で相手を上回る事を重視し、最終的な勝敗には、それほど拘らないように見える。
     そして、戦術的にはトルコの方が上だが、テクニックなど潜在能力では、コスタリカの方に分がある。初戦で中国に圧勝して、トルコがブラジルに惨敗するなら、視界良好となり、順当なら、トーナメントで日本と戦うと見ている。


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