2002W杯特集 【出場国紹介 グループD】 by ICHILAU

    ●韓国

    ●ポーランド

    ●アメリカ

    ●ポルトガル



     ●韓国


     韓国は、アジアの中では最もワールドカップのために努力している国である。今回で6大会連続出場になるが、過去に1勝もしていない。「地元開催の今回、悲願達成なるか」は予選リーグの一つの注目だろう。
     本来強豪国がなるべきシードにグループDでは韓国がなっているが、これも強豪とは言えない日本がグループHでシードされたために、グループFに強豪が集中したような偏りは起きず、グループDには程良い国が入った。お陰で韓国は不利になってしまったが。

     国内リーグの選手に加え、欧州のリーグ、ならびに日本のJリーグから、選手が加わる。また国内リーグ、KリーグのA代表未経験の外国人選手を帰化させる計画があるそうで、実現すれば、なかなかバラエティーに富んだメンバー構成になるだろう。
     ディフェンスでは戦える目途が立ったようだが、攻撃陣の人選で監督と協会が対立している。この雰囲気では、この稿が配信される時点で、名将ヒディンク監督がまだ監督であるという保証は、ないようだ。オランダ人、ヒディンク監督はオランダ代表の監督として実績のある監督で、彼に任せれば良いチーム作りをしてくれると思うが、外野が早急な結果を求めているため、それが不要のプレッシャーとして、チームに重くのしかかっている。

     明るい話題に移ろう。前回、韓国と同組だったチームはいずれも一定以上の実力を備えていたが、今回はアメリカ戦が、W杯初勝利の大チャンスとなる。また3戦目のポルトガル戦の時点で、ポルトガルがトーナメント進出を決めていたら、引き分けも不可能ではない。勝ち点4はあり得る話で、そうなればトーナメントも見えてくる。しかし現実的に言えば、ポーランド、ポルトガルの後塵を拝すのが妥当な予想だ。



     ●ポーランド


     同グループの本命ポルトガルを上回り、2度ワールドカップ3位がある。しかし現在の代表の可能性では、ポルトガルに遅れている。
     「東欧はテクニック重視」というサッカーの常識があるが、ポーランドはサッカーの世界では東欧に位置しておらず、守備とカウンターで点を入れ、逃げ切る、という筋金入りの堅いサッカーをやる。ボスマン採決以後、代表の大半は、同門の隣国、ドイツ・ブンデスリーガの中堅選手で固められ、代表の底上げに成功したと言える。
     その中で、絶対的存在としてチームの成否を握る選手がいる。それがエマニュエル・オリサデベである。彼は駿足のFWとしてカウンターアタックを支えており、ポーランド代表の95%はオリサデベが左右すると言われるほどの中心選手で、彼のカウンターアタックなしにはポーランドのワールドカップ出場はなかった、と言われているほどである。
     しかしオリサデベがポーランド代表入りしたのは、全くの幸運による。ナイジェリア生まれナイジェリア育ちのオリサデベはポーランドとは無関係の人間で、単にサッカーをやるためにポーランドに来たにすぎない。また、フランスとセネガルの稿で触れたような特別な関係がナイジェリアとポーランドにあるわけではない。そこで、何故ナイジェリア人のオリサデベがポーランド代表に入れたかというと、これは、ナイジェリアサッカー協会がオリサデベを干してしまったからだ。過去にも大会期間中に選手と対立したり、度々監督が代わったりと問題の多いナイジェリアサッカー協会は、ポーランドでプレーしているオリサデベが才能を見せても、「高々ポーランド」と見下して一行に代表に召集しなかった。四大リーグ(イングランド、イタリア、スペイン、ドイツ)を中心に欧州各国に選手が散らばるナイジェリア代表の基準に、ポーランドリーグの選手は満たない、との判断をしてしまったらしいのである。従って、この事実にポーランドサッカ−界は少なからず反感を抱いたそうだが、逆にこのオリサデベが代表に呼ばれないことを逆手に取って、自国の代表選手にしてしまった。そして、代表監督から協会へ、協会から政府へと円滑に事は進んだようで、ワールドカップ予選に、その帰化が間に合ったのである。すると、オリサデベの資質はポーランド代表のカウンターサッカーにピッタリと適合し、結果ポーランドは、“ディフェンスとオリサデベ”で、久々のワールドカップ出場を手にすることになった。
     さらにオリサデベは、クラブレベルでも、三都主の様に母国で余っていたからポーランド代表に入ったのではなく、単純にナイジェリアが逃した魚が大きかっただけであることを証明する。その後のオリサデベは、欧州を縦断してギリシャに移籍したが、ギリシャでの所属チーム、パナシナイコスは今年、欧州チャンピオンズリーグで、蒼々たる強豪の合間を縫って、ベスト8にまで勝ち上がった。ギリシャのクラブがここまで活躍するのは珍しく、これはオリサデベの活躍の賜物だろう。従って、ポーランドサッカ−協会は素晴らしい判断をした、といえる。

     だが、先日の日本戦のように、序盤で失点を喫すると、チームとしてのプランは大きく崩れてしまう。相手チームにリードを守る為に守備重視の陣形で臨まれたら、“オリサデベが95%”の攻撃でこれをこじ開け、ゴールをゲットすることは非常に難しくなる。
     しかしながら、守備を厚くして、失点を決して許さないというスタンスで予選各試合に臨めば、たとえ強豪ポルトガル相手でも点を取ることは難しく、まずグループD内2位で予選を突破することは、間違いないだろう。ただ、決勝トーナメントに進んでも、私の予想どおりなら、初戦はイタリアと当たるはずだから、相手が悪すぎるので、ここでポーランドのW杯は終わり、ということになると思われる。



     ●アメリカ


     出場国中、最も国民の支持の少ない代表チームだろう。前回の大会中の世論調査によると、アメリカ人の15%しか、ワールドカップが開催中なのを知らなかったとか。つまりそのことは、スペイン、ブラジルが最も目の肥えたサッカーファンを抱えているなら、アメリカは最も目の肥えたスポーツファンを抱えている、ということを表しているのだろう。またアメリカ人は、競技人口が世界的にも多い、一見単純に見えるサッカーというスポーツを裏庭や校庭ではやる気になっても、わざわざ時間を裂いてまで観る気には、ならないようだ。多くの国でサッカーの占めている地位には、バスケットボール、(アメリカン)フットボール、野球が存在している。そして、路地裏でやる庶民のスポーツ、バスケットボール(地域によってはアイスホッケー)、絶大な人気で人々を熱狂させるフットボール、アメリカの文化に複雑に入り込み、国民的スポーツとしての愛着を受ける野球。これらを足して3で割ると、ブラジル等の国におけるサッカーの地位に当たるようである。大学でも、本格的に複数のスポーツに取り組ませるアメリカで、スポーツで食って行こうと考える若者がサッカーを選ぶ可能性は、低い。よって、有望なアスリートは、サッカーには少ないようだ。

     4大会連続出場を果たしたアメリカ代表は、ワールドカップの常連と言えるが、前回は3戦全敗で、日本を抑え、ワーストの成績だった。ただ今回は、アメリカのプロサッカーリーグ、メジャーリーグサッカー(MLS)経由で欧州に渡った選手もいるので、チーム力は上がっているようだ。
     今年ゴールドカップ(北中米カリブ選手権)で、国内メンバーのみで優勝をしたが、北中米の有力国にとっては、少ない観衆の前でひっそりと行われるゴールドカップより、毎回数チーム招待されるコパ・アメリカ(南米選手権)の方を重視しているので、今回の優勝はあまり参考にはならないと思う。

     久々のワールドカップ出場ながら、優勝候補に上げられるポルトガルと、初戦で対戦する。ワールドカップの経験の皆無の選手ばかりのポルトガル相手に、常連の利が生きれば一泡吹かせるかも知れないが、残念ながらグループリーグ敗退が結論と言わざるを得ない。
     なお、アメリカ女子サッカーは、中国と並んで、世界最強クラスだ。



     ●ポルトガル


     ポルトガルは16年振りの出場である。過去の主な実績は、66年の3位があるだけだ。しかしポルトガルは、今回、正真正銘の優勝候補である。W杯予選で世界最強候補のオランダを駆除し、驚異的な粘りを見せたアイルランドもねじ伏せ、トップ通過を果たしたのだ。

     元々ポルトガルリーグは、旧植民地のブラジル国籍の人を外国人枠から除外していたので、ブラジル人が沢山いる。その影響で、ポルトガルサッカーは規律や戦術より、パス回しを重視してボールを次々と細かく繋ぐ、南米型のプレースタイルとなっている。しかし、テクニックで上回り、ゲームを支配してボールを回し続けても、シュートに到る詰めが甘く、失敗を繰り返しているうちに、相手のカウンターの餌食になる事が度々だった。
     効率が良く、守備の戦術を徹底して相手を誘き出し、その背後のスペースを生かすカウンターで点を奪うサッカーよりも、次々とパスが行き来するサッカーの方が、見かけは良いし、個人的にも好きだが、このやり方でレベルの高い相手と戦うには、人材が揃っている必要がある。ポルトガルは、「欧州選手権でブラジルの役を演じる」と言われていたが、ブラジルなど本家南米と比較すると、FWを中心に点を取る選手で、劣っていた。
     しかし、90年代に入ってから、その流れが変わった。

     89年、91年のワールドユース(20才以下世界選手権)を連覇し、有望な若手が多くいる事を示したのである。そしてこのことが、ポルトガルサッカーに自信をもたらしたようだ。

     ただ、私が重視しているのは、95年のボスマン採決だ(ブラジルの稿参照)。これでポルトガルの選手も外国での仕事の口が増えたわけだが、元々欧州一のテクニックを持っていると同時に、個人技に優れながら、自分の力に頼るよりも、細かい連携を重視するポルトガルの選手のメンタリティーは、超一流のリーグでも、見事適応した。そして、高いレベルのリーグでプレーし、試合に勝ち抜く勝負強さも身に付けたことで、ポルトガルサッカーは完成の域に達したのである。また、この国は前回フランス大会の出場を逃しているにもかかわらず、現在世界最高の選手の候補を、2人も抱えているのである。
     史上最多欧州制覇9回のスペイン、レアル・マドリードと、史上2位の欧州制覇5回、史上1位タイの世界制覇3回のイタリア、ACミランと、世界に冠たる名門クラブで現在10番を着けているのは、共にポルトガル人である。91年のワールドユース優勝メンバーで、同い年のルイス・フィーゴ(レアル・マドリード)とマヌエル・ルイコスタ(ACミラン)は、攻撃的MFとして、世界的にも傑出した存在だ。共に司令塔としてゲームを作り、ドリブルは極めて上手く、パスも素晴らしいし、得点力もある。また、繊細な技術の持ち主とは見えないほど身体ががっしりしていて、競り合いにも強い。それに何よりも、2人とも、能力の高い司令塔にありがちな、自分の判断を優先させすぎるあまりに、チームの機能を低下させてしまうような真似をしない、という利点がある。そして重要な点は、似たタイプに見えても、ルイコスタは中央の選手であるのに対し、フィーゴは右サイドの選手であるから、共存は可能どころか、お互いの存在が、相手のディフェンスを惑わしているということだ。
     フィーゴは自分のプレースタイルを変えることなく、あらゆる戦術に適応できる。主にサイドに位置しているため、ディフェンスはマークしづらく、度々フリーでボールが持てるのも、彼の長所の1つだ。右サイドにいることが多く、右サイドからゴール前に送るクロスボールの精度は、極めて高い。また彼は世界屈指のドリブラーと言われているが、長い距離のドリブルはあまりしない。右サイドの深い位置でサイドバック1人を確実に抜いて、そしてクロスボールを上げる。これが相手に取って厄介で、かなりの確率でゴールに繋がるのである。
     それにフィーゴは度々左サイドにも現れ、相手を撹乱する。本来中央のトップ下で司令塔にもなれるが、サイドであれだけのプレーができるのなら、その必要はないだろう。ナイキのCMの「デフェンスするのが難しい」という言葉は、まさに彼にとって、ピッタリの台詞だ。

     代表はこの2人以外にも、欧州の1流選手で固められている。セルジオ・コンセイソンは、フィーゴと近いポジションの右サイドのアタッカーだが、コンセイソン、フィーゴともに左もこなすので、併用は問題ない。
     DFの中心フェルナンド・コウトは、ドーピング疑惑で出場停止を受けたが、その疑惑が晴れたことで、代表に復帰することができた。
     他にもパウロ・ソウザ、ジョアン・ピント、セクレタリオ、ジャビエルなど、なかなかのメンバーが揃っている。
     そして長年課題だったFWにも、セリエAで活躍したヌーノ・ゴメスと、フランスリーグ屈指のFWとなったパウレタがおり、戦える目途が立った。

     華麗な連携に、勝負強さと決定力が加わったポルトガルサッカーは、今や世界最高レベルにある。本大会の経験のある選手は皆無だが、相手にも恵まれ、順調なスタートが切れそうだ。しかしもたつくようだと、トーナメント初戦で守備の戦術の徹底とカウンターで点を奪うサッカーの権化、イタリアと対戦することになる。是非この対戦は、準決勝にとっておいて欲しいのだが...


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