NPBにおける受難の時代 by ICHILAU&MB Da Kidd

    NPBにおける受難の時代 読売史観は適切か? 〜番外編1 バファローズとブルーウェーヴの合併〜 MB Da Kidd

    NPBにおける受難の時代 読売史観は適切か? 〜番外編2 バファローズとブルーウェーヴの合併2〜 MB Da Kidd

    NPBにおける受難の時代 読売史観は適切か? 〜番外編3 バファローズとブルーウェーヴの合併3〜 MB Da Kidd

    NPBにおける受難の時代 読売史観は適切か? 〜番外編4 カイシャフランチャイズのキモ〜 MB Da Kidd

    NPBにおける受難の時代 読売史観は適切か? 〜番外編5 プロ野球選手の労働者性とNPB選手会の労働組合性〜 MB Da Kidd

    NPBにおける受難の時代 読売史観は適切か? 〜番外編6 オリックスによる岩隈投手プロテクト問題について〜 MB Da Kidd

    バファローズとブルーウェーヴの合併についてのJMMへの寄稿 MB Da Kidd



     NPBにおける受難の時代 読売史観は適切か? 〜番外編1 バファローズとブルーウェーヴの合併〜 MB Da Kidd

     私がこの事件を知ったのは6月13日、日曜日の朝のことでした。朝5時のNHKのニュースでこの一報が報じられたのです。

     晴天の霹靂でした。ですが、正直言うと、バファローズならこういうことをやりかねん、とも思いました。それは、B_windさんの上記の説明にもありますとおり、バファローズの親会社の近畿日本鉄道株式会社がバファローズの球団運営に関して、そのやり方を尽くオーナー会議にて否定されてきたからです。その内容の是非についてはともかく、バファローズが経営的にかなり追い詰められていたことは事実でしょう。ちなみに近畿日本鉄道は東京証券取引所第1部に上場している運輸会社ですから、その株価のチャートを10年分にわたって見てみますと、1996年当時、野茂さんがアメリカに脱出した直後に比べると株価は750円程度から398円(6月15日現在)にまで下がり、しかも2003年には250円近辺にまで売られています。その上、2001年の年末の700万株以上という出来高をピークに、株式の取引量がこれ以降、平均で3倍以上に増えていることがわかります。
     これは、日本の経済が構造的な不況に入り、株式市場の低迷という問題があったにせよ、この近畿日本鉄道株式会社の会社運営に問題があったからだということが読み取れます。特に2001年末から2002年初にかけての出来高の異常な増加は、投資家が近鉄という会社の異常情報をキャッチしたからということに他なりません。そこでさらに、上記のページから企業情報ページを開いてみますと、

    【特色】営業キロ数で最大私鉄。約250のグループ会社を擁する。拡大路線から地盤強化・事業整理へ

     と書いてありました。つまり、近鉄グループは、無謀な拡大路線がアダとなり、事業縮小を余儀なくされているのです。

     会社にとって事業拡大というのは、非常なリスクを伴います。これをきちんと計算できない限り、命取りにもなりかねないのです。
     リスクを犯してどれだけ利益を得られるか。これ抜きに事業拡大を行うのは無謀としか言いようがありません。

     そこで、これを踏まえて現在の日本のプロ野球事業というものを考えますと、リスクが計算しにくい上に、効果も計算しにくいのです。そして、それを如実に表すコメントを、ブルーウェーヴの親会社、オリックス株式会社の宮内義彦オーナーが6月15日付日本経済新聞朝刊第3面に寄せています。

    『オリックスの球団経営について言えば、オリックス本体の広告宣伝費ですよ、と言ってしまえば、あと10年ぐらいは務まる。赤字額の大きさが問題なのではなく、投資に見合うだけのメリットが得られ、会社全体にバックアップしてもらっているという確信があれば、お金を使うのは一向にかまわない。100億円、200億円規模を広告宣伝に使っている会社はいっぱいある。』

     では、このような状況にいま現在の日本のプロ野球がなっている原因は何でしょうか。もちろん、以前B_windさんの連載第24回の中でも指摘された、以下の問題があるでしょう。

    1.日本の球団は、自前で球場を所有(管理権を含む)していないため、売店収入も広告看板収入も球場の収入となっている
    2.球団が親会社の名前を名乗り、親会社は球団の赤字分を広告宣伝費として償却できる仕組みになっているため、本来、プロ野球を利用したビジネスを行っているはずの親会社が、プロ野球のビジネスそのものを行っている点にある。つまり、球団の経営主体が、球団にはなく、親会社にあって、球団の所有と経営の分離が進んでいない



    【「職業野球団に対して支出した広告宣伝費等の取扱について」(昭和29年8月10日国税庁通達)】

     しかし、最大の問題は、オーナー会議に自由競争が導入されておらず、財政的に問題があるダイエーや近鉄のような企業が、参入も退出もままならない状況で、チームを保有し続けていることにあります。つまり、親会社と運命共同体にならざるを得ない日本のプロ野球の世界にあって、球団が会社の都合に振り回され、球団を飼い殺しにしようと運営をめちゃくちゃにしようと、親会社の胸先三寸ですべて決まってしまい、しかも、スポーツビジネスのプロでない、ただのビジネスのプロが球団を運営しているために、競争原理が正常に働かず、問題企業は強者である企業からまるでサンドバッグのようにいたぶられるだけという構図があることこそが問題なのです。
     したがって、日本のプロ野球を救う方法はひとつしかありません。それは、野球協約第28条の改正(外資系企業参入規制の撤廃)ならびに第36条の6(球団譲渡の際にかかる30億円の支払)の即時撤廃を行い、将来の所有と経営の分離、地域フランチャイズ化の推進、そして私がかねてから主張している、アジアやオーストラリアをすべて巻き込んだパン・パシフィック・リーグの創設とその運営会社の設立を将来的に視野に入れた、自由競争をオーナー会議に導入することです。
     いま、日本のプロ野球は、これを呑まざるを得ない、極めて厳しい局面に来ています。1リーグ制の導入は、一時的にプロ野球を活性化させる可能性を残していますが、将来のプロ野球の人気低下、そして消滅という結果を確実に引き起こす愚行に他なりません。何としても2リーグ制だけは維持し、プロ野球の灯を守っていかなければならないのです。



     NPBにおける受難の時代 読売史観は適切か? 〜番外編2 バファローズとブルーウェーヴの合併2〜 MB Da Kidd


     読者のみなさまこんにちは。件のバファローズとブルーウェーヴの合併問題はオーナー会議のエゴが噴出し、ライヴドアの堀江社長の球団買収への名乗りのこともあって、1リーグ制度を急速に進めようと躍起になっているライオンズの堤オーナーや巨人の渡邊オーナーをあわてさせているようですが、果たして彼らがムリにゴリ押ししようとしている1リーグ制にメリットはあるでしょうか?今回はまず、そのことから考えてみましょう。
     世間にはさまざまなスポーツがあります。たとえばいまの日本でボールを扱うスポーツの中で野球に次ぐ人気なのはサッカーですが、このプロフェッショナルリーグであるJリーグは1リーグで、J1を頂点とするピラミッド型のリーグを構成しています。これは欧州や南米のプロリーグでも同様の構成です。
     一方、いまアメリカで一番人気のあるスポーツたるアメリカンフットボールは、もともと1リーグだったものが、別の有力なリーグの力が強力になってきて、リーグ同士がさまざまな競争を経た結果、選手の引き抜き合戦等の対立による潰し合いではアメフトの発展はないだろうということで組織統合し、ドラフト制度を導入して、2リーグでチャンピオンシップを争うという形式に落ち着きました。どちらのスポーツもいま非常に繁栄していますが、果たして野球はどうなのでしょうか?どちらの形式が合うのでしょうか?
     まずこの問題を考えるにあたっては、野球というスポーツをカテゴライズしたいと思います。こちらをご覧ください。

     これはB_windさんのサイトのコンテンツの一部ですが、このページの『第1章 比較論的アプローチ』の1、タイプ別比較のところの表をご覧ください。
     野球はクリケット・タイプに分類され、同じカテゴリの競技はクリケットということになっております。

     クリケットのルールはここに詳しく載っているわけですが、ここの説明によれば、日単位で試合時間は決められているので、ここが野球とは大きく異なります。クリケットのプレイに10アウトの制限はありますが、空振りがアウトになってしまうということはあるにせよ、打ったら必ずバッツマン(野球でいうバッターにあたります)が走らなければならないということでもないので、2イニングス10アウトのルールでも、試合時間は非常に長くなり、1試合につき1〜5日かかりますし、場合によってはそれで終わらないこともあるので、日単位での試合時間を決めているわけです。
     したがってクリケットの場合、2リーグで継続的に興行をやっていくという形式は合いません。そもそも1〜5日も1試合につきかかるスポーツが、野球のように、毎日興行をやり、切磋琢磨していくということ自体がムリなのです。そんなことをしていたら、シーズンが冗長になってしまい、観客は退屈してしまうでしょう。

     では、野球についてはどうでしょうか。

     野球というスポーツは、試合進行のやり方によっては冗長になることがありますが、大体試合時間が3時間前後と計算できるスポーツです。しかも肉体的負担がサッカーやアメフトと異なるので、連日で試合をできるというメリットがあります。ピッチャーは登板間隔を空けたり、起用法に注意したりしなければなりませんが、バッターが連日でフルイニング出場することは可能です。
     したがって野球の場合、毎日興行を行い、積み重ねていくレギュラーシーズンがある一方、レギュラーシーズンの集大成としてのポストシーズン、つまりプレーオフやチャンピオンシップがあり、双方で盛り上がるようにしているわけです。
     すると野球は、この『毎日試合をやれる』という事情がクセモノになります。1リーグではレギュラーシーズンを楽しむことはできますが、ポストシーズンを充分に楽しむことはできません。仮にポストシーズンを行った場合、1リーグですと、どうしてもポストシーズンとレギュラーシーズンとで価値の対立が発生し、結果、ポストシーズンの価値が下がってしまいます。
     また1リーグにしますと、チーム数が少なくなると試合カードがマンネリ化してしまいますし、多くなりますとシーズン展開によっては消化試合が多くなり、これもマンネリ化してしまいます。

     ここで、アメリカのオールドメジャーリーグやニグロリーグについては本編にてその説明を譲るとして、のちの連載内容と被ることになるのですが、日本のプロ野球が2リーグ分裂に至ったプロセスについて簡単に説明しておきましょう。

     日本のプロ野球は、戦後混乱期に至るまでは1リーグでした。しかし、当時にはポストシーズンゲームはなく、レギュラーシーズンで優勝したチームが優勝していました。したがって、優勝争いをしているチームが直接闘って決着をつけるというシステムが存在しておらず、シーズンの盛り上がりをそのまま興行成績に結びつけることができていませんでした。また、昭和22年のシーズンでは阪神タイガースが2位の中日ドラゴンズに12.5ゲームという大差をつけて優勝したのですが、ポストシーズンゲームが存在しないということもあり、シーズン後半になると、甲子園に客が入らなくなりました。消化試合が多くなってしまったために、客の入りが悪くなったのです。

     一方、当時の日本のプロ野球は正に発展前の胎動期にあり、観客の年齢層は若く、スタンドは子供ファンであふれかえっていました。蛇足ですが、昭和21年に阪神タイガースにカムバックした若林忠志が少年タイガースの会を設立したのも、この動きを受けてのものでした。つまり、当時の日本のプロ野球は、いま現在のJリーグがプロ野球人気よりも上を行こうとしているように、当時一番人気を誇っていた六大学野球の人気の受け皿となる準備を整えている、気鋭のスポーツ興行だったのです。
     そこで、これに目をつけたGHQのマーカット少将が、当時、戦前の民族国家社会主義による権威主義と官主主義にウンザリしていた日本社会に民主主義を植えつけようとする一方、アメリカ式の民主主義と対立していた共産主義から注意をそらすことを意図して、昭和24年2月23日、丸の内の工業クラブの一室にてかつて読売新聞社主であった正力松太郎を初代コミッショナーに据え、以下のように述べました。

     『日本もやがて、アメリカのように2大リーグを創って、野球を通じて民主主義を発展させなければならない。』

     これが2リーグ制度のスタートのきっかけです。現場レベルでは前述の若林忠志やレフティ・オドウルたちが話し合っていたように、ポストシーズンというケジメのないいまの日本のプロ野球では発展しない、特に2つの拮抗した勢力が相戦うというワールドシリーズのような形式が望ましいといわれてはいたわけですが、このようにGHQによる肝いりがあり、また、正力松太郎という抜群のアメリカ式バランスを備えた人材を配置して、2リーグ制度への動きは本格的にスタートしました。

     一方、一時的に共産勢力の大きなプロパガンダ機関となってしまったことで大きく部数を落ち込ませていた読売新聞は、共産党色を廃し、巨人軍のチケット作戦を使って大きく部数巻き返しに出ていました。加えて、当時は紙の統制令があり、新聞の発行部数に制限があったのですが、これが早晩自由化されるのが目に見えていたので、この勢いでいくと、他社が読売新聞に置いていかれるのは目に見えていたのです。
     そこで、販売を伸ばすための何か強力なウリを必要としていた毎日新聞がプロ野球の世界に参入しようとしており、また戦前にプロ野球チームを持っていた西鉄、関西随一の大手私鉄である近鉄が、プロ野球の世界への参入を希望しておりました。そして、毎日新聞が昭和24年9月21日に参入への名乗りをあげると、近鉄、西日本新聞、大洋漁業、星野組、広島クラブが名乗りをあげ、西鉄はプロ野球参入への意欲を見せ続けました。
     すると従来の8球団、読売ジャイアンツ・阪神タイガース・中日ドラゴンズ・大陽ロビンス・阪急ブレーブス・南海ホークス・東急フライヤーズ・大映スターズで構成されている日本野球連盟では喧々諤々の議論となり、結局連盟は2つに割れ、リーグも2つに分裂します。
     これがセントラル・リーグとパシフィック・リーグの誕生です。
     その後、さまざまな紆余曲折があり、リーグがスタートするときにはそれぞれセントラルの8、パシフィックの7となり、セ・パの優劣関係も決まっていくのですが、これは今回の本題ではないので、いずれこの連載の中で日本のプロ野球を取り上げる中で述べることにします。

     なお最後に、なぜGHQが野球を通じて民主主義を日本社会に植えつけようとしたのかということについて簡単に述べておきます。

     もともと先月の連載でも述べたとおり、野球はラウンダーズを基本にクリケットの一部を取り入れた競技である、タウンボールを源流としております。そして、そのタウンボールの名前の由来は、町の集会場にて行政について話し合うという地方自治の1形態であった、タウンミーティング(ここ数年日本でもはやっている言葉ですが)の前後に行われたイベントであったり、大人が政治論議に華を咲かせている間に子供たちが興じる遊びであったりしたことから来たものなのです。ということで野球は、アメリカの民主主義の土台となる、そのタウンミーティングとともに発展してきた歴史があるわけです。
     したがってアメリカからすると、野球は民主主義の象徴だったのです。そして、この民主主義推進のために導入された2リーグ制、ならびにパシフィック・リーグの誕生は、日本の民主主義が育つための道具とされてきたところがあります。ただ、当時のGHQも読めなかったのは、2リーグ制度もパ・リーグも、カイシャシステムの欠陥である地位と年功による権威主義とコネ主義と無縁ではなかったということで、そこからさらなるホンモノの自由を求め、野茂英雄をはじめとする選手たちがアメリカへと巣立っていく事態になったということでした。
     つまり象徴的な言葉を使えば、借り物の民主主義の中から、ホンモノの民主主義の旗手がどんどん誕生し、彼らがさらに進化を続けていったということです。野茂英雄にしても松井秀喜にしても、彼らは日本のプロ野球やアマ野球という出自に誇りを持ち、その文化を背景にアメリカでプレーしております。

     さて、今回の合併騒動、パ・リーグを潰して1リーグにしようという動きはある意味、アメリカという国が日本と深く関わってきた歴史から逆戻りするというところがあると思いますが、それは、戦後の歴史を否定するということでもあります。しかし、パ・リーグは誕生以来50年余、その独自の歴史を歩んでおり、その歴史は日本の文化の一部になっております。これを否定することはイコール、日本の文化を抹殺するということに他なりません。
     したがっていまやらなければならないのは、日本の文化や戦後民主主義の象徴であったパ・リーグを抹殺することではなく、人権や年俸による高評価という甘い汁を選手に見せておきながら、いざとなれば選手の口を封じ、お客様たるファンの意思を置き去りにして権威主義を守り通そうとする、日本プロ野球界という年功序列社会のチャンピオンである一部権力高齢者の不貞な意図を挫くことです。つまり、アメリカからの借り物であったベースボールの民主主義を日本野球オリジナルの民主主義にするため、戦前のプロ野球から引きずってきた権威主義を捨て去ることです。新庄剛志選手が大リーグから戻ってきたときに記者会見の席で行った、

     『これからの時代はセ・リーグでもメジャーでもありません。パ・リーグです』

     という高らかな宣言は、野球という民主主義から発生したスポーツを権威主義から解放し、日本独自の民主主義の象徴へと変えて行こう、自分が受けたような不当な扱いをあとの世代に残してはならないという日本の球界、ならびに日本の社会に対するメッセージでした。こういう彼のような人間の努力を無駄にしてはいけません。そのためにも1リーグ制度を実現させるよりも前に、まずオーナー会議の解放、つまり自由競争から粛々と実行し、権威主義にすがるすべての抵抗勢力の力を封じ、未来への橋渡しをしていかなければならないのです。

    【参考資料】

    セ・パ分裂 プロ野球を変えた男たち 鈴木明著 新潮文庫
    野球とクジラ 〜カートライト・万次郎・ベースボール〜 佐山和夫著 河出書房新社



     NPBにおける受難の時代 読売史観は適切か? 〜番外編3 バファローズとブルーウェーヴの合併3〜 MB Da Kidd

     読者のみなさまこんばんは。今回はオールドメジャーリーグの話をお送りしようかと思っていましたが、昨日7/7のオーナー会議における西武ライオンズの堤オーナー、ならびに読売ジャイアンツの渡邊オーナーの会見があまりにも杜撰な内容であったために、今回、この連載にて緊急に取り上げることにいたしました。非常に大切な内容であるため稠密に検証してまいりますので、細かくなってしまうことにつき、ご寛恕のほどをお願いしたいと思います。

     まずは、堤オーナー、ならびに渡邊オーナーの会見内容を確認します。
     この会見のポイントをかいつまんでご説明いたしますと、

    ・3軍制度を敷き、3軍は社会人と同等のレベルに保つ
    ・2軍はいままでどおり1軍選手の調整の場、リザーヴの場として維持する。企業の冠名は外さない
    ・3軍は地域密着型で、地元企業と提携して運営していく案が出ている
    ・3軍と社会人チームやクラブチームとともに独立リーグを立ち上げ、野球の底辺拡大を狙う
    ・プロ野球を頂点とした野球機構を新たに設立し、アマチュア野球と学生野球をその傘下におさめる
    ・パ・リーグのチームはすべて赤字である
    ・バファローズとブルーウェーヴ以外にもう2チーム合併し、10チームで1リーグ体制を敷く
    ・東地区と西地区に分け、オールスターならびに東西地区同士の優勝チームで日本シリーズを行うという案が出ている

     さて、これは一見口当たりのいい案に見えますが、果たして有効な改革案といえるのでしょうか?また、日本プロ野球選手会が主張している雇用確保の問題については?

    1.3軍制度について

     これは現状の2リーグ制度下でも行えることであり、目新しいものは何もありません。また、2軍についても、このままでは単なる企業にとっての負担になるだけです。そのために地域密着路線やチーム名のネーミングライツのような手段を採っているケースがいまの体制でもあるわけで、2軍をスピンオフし、1軍との契約制にすることで1軍のオーナー企業の負担を減らせるわけですから、このような形式の3軍制度は財力のある読売ジャイアンツのようなチームの選手確保に役立つだけで、財政的に苦しい球団の切捨てを意味するわけです。

    2.新しい野球機構の設立と野球の底辺拡大について

     プロがアマを吸収し、最終的には組織の頂点に立つということは、アマチュア野球機構の解散ならびに形骸化、そして、オーナー会議がアマチュア野球を含めた球界すべてをその支配下に置くということを意味します。
     しかしこれについてはどうでしょうか?まず第一にアマチュア側が納得できないし、現プロ野球のオーナー会議の連中による野球の徹底利用ということになりますから、結局はスポーツが、オーナー会議に参加している旧式の日本企業のいいように利用されるということになってしまいます。これでは、野球がオーナー会議に参加している企業に食いつぶされるだけになるだけでしょう。

    3.パ・リーグの球団は赤字である

     これについてはB_windさんの連載や私自身の連載にもたびたび引用させていただいている、「職業野球団に対して支出した広告宣伝費等の取扱について」という昭和29年8月10日に発布された国税庁による通達の問題がすべてです。
     つまり、球団の赤字はオーナー企業の広告宣伝費として全額認められるということですが、これにより、自社の業績が好調なときはどんどんスター選手を獲得し、破壊的な高額年俸呈示競争によって人件費バブルが発生してしまったことに加え、球団の経営効率が著しく落ちました。またこれに補足すると、球団の所有と経営の分離がなされていないことと球場と球団の一体化がなされていないがために、野球についてはよく理解していない素人経営者が球団経営のトップに立つ事態になってしまい、しかも、球団の収入の途が極めて限定されてしまうという悪循環に陥ってしまっています。
     そしてさらに、現在盛んに言われている放映権の問題があります。野球の試合はリーグ戦興行体という形式であるにもかかわらず、チームの放映権を各チームが管理している状況になっているので、メディア露出度によって人気の価値が決まってしまい、その格差がそのまま球団の財政にハネ返る状況になってしまっているのです。少なくとも全国放送の放映権収入は各チームではなく、機構の管理下で分割されているのが世界のメジャーなスポーツの常識ですが、日本のプロ野球だけはその常識が通用しません。それは、企業スポーツから派生してきたという歴史的経緯と、上記の通達の問題がそうさせているようです。
     そもそもこれを管理すべき日本のコミッショナーは昭和24年にGHQの肝いりで押しつけられた制度で、日本の球界ならびにオーナー会議から発生した制度ではありませんので、名前だけで権限がなきに等しいところがありますし、また、初代コミッショナーたる正力松太郎についても当時は戦犯扱いだったので、コミッショナーとしての名称や立場などが政治的事情によってころころと変わり、コミッショナーの地位を曖昧にしてしまったところがあります。したがって日本のコミッショナーはアメリカ・メジャーリーグのコミッショナーのような強権を発動できないのです。

    4.1リーグ制度と東西地区制度について

     一見妙案に見えますが、前回合併特別第2号にて私が指摘した、

     『1リーグではレギュラーシーズンを楽しむことはできますが、ポストシーズンを充分に楽しむことはできません。仮にポストシーズンを行った場合、1リーグですと、どうしてもポストシーズンとレギュラーシーズンとで価値の対立が発生し、結果、ポストシーズンの価値が下がってしまいます。』

     『試合カードがマンネリ化してしまいますし、多くなりますとシーズン展開によっては消化試合が多くなり、これもマンネリ化してしまいます。』

     この問題が出てきます。なお、インターリーグと1リーグとで違いは出てこないのではないかという指摘もあるでしょうが、それについては、インターリーグでは自由に交流戦の組み合わせを変えることができるが、1リーグでは一律に試合数が均等に配分されるだけで、新鮮味が薄れてしまうという説明をしておかなければなりません。

     昨日のオーナー会議の最大のポイントは、日本のプロ野球の最大の問題点である『オーナー会議の自由競争否定』を温存したまま、日本のプロ野球の改革に走っていることであり、一部オーナー連中による密室政治と利益の独占なのです。これにより、オーナー会議以外の人々の利益がまったく議題に上らないまま、オーナー会議の独走により日本のプロ野球のすべての物事が決定されているわけです。ちなみにコミッショナーとオーナー会議の関係については、先述した歴史的経緯のこともありますが、日本プロフェッショナル野球協約第21条にこう述べてあります。

     『第21条(オーナー会議)

     オーナーは、オーナー会議を組織し、この協約第17条(註:これにはコミッショナーの選任の問題も含まれる)の定めるところによりオーナー会議の承認を必要とする事項を審議決定する。
     コミッショナー、コミッショナー顧問および連盟会長は、オーナー会議に出席して意見を述べることができる。』

     つまり、退出も参入もままならない上に経営的に問題のある企業の集まりにもなりかけているオーナー会議がすべて日本のプロ野球の権力を握っているわけですから、当然のごとく社利に走ることが予想されているこれらの企業からオーナーとして派遣されている連中の暴走を止めることは、まずできないということです。
     ちなみに近鉄グループの問題点については合併特別第1号でも指摘しましたが、ホークスの親会社のダイエーが大きな負債を背負っている問題企業であることは読者のみなさんもよくご存知でしょうし、また西武鉄道はゴルフ場やホテルなどレジャー部門の不振で16年3月期は85億円の連結最終赤字、西武鉄道の筆頭株主でライオンズにも100%出資するなどグループを統括する立場のコクド(株式非公開)も、15年3月期の売上高は915億円、消費低迷の中、減収傾向が続き、営業赤字とみられ、また堤オーナーは西武鉄道の総会屋への利益供与事件への責任を取り、会長を辞任し、財界活動からも退くという事態に発展しております。

     果たしてこんな問題企業だらけのオーナー会議に参加しているメンバーに、野球を任せることはできるのでしょうか?プロだけならともかく、アマまでを彼らの手にゆだねることは到底できません。私としては、読売巨人軍の渡邊オーナーが仰るところの『将来的に全面的かつ有意義な改正』には大賛成ですが、その際には必ず、コミッショナー権限の強化とオーナー会議の自由競争、ならびにオーナー会議の権限の後退と選手会のリーグ運営への関与の導入を行わない限り、日本のプロ野球はニグロリーグと同じ運命をたどると確信しております。野球とカイシャを運命共同体にしてしまってはいけません。野球の将来の発展を図るには、野球のカイシャからの自立は避けて通れない命題であり、カイシャの利益追求とスポーツの発展を切り離して考えなければならないのです。



     NPBにおける受難の時代 読売史観は適切か? 〜番外編4 カイシャフランチャイズのキモ〜 MB Da Kidd

     読者のみなさまこんばんは。いよいよ9/8のオーナー会議までのカウントダウンが始まりましたが、球団の合併をめぐって、近鉄の親会社・近畿日本鉄道の株主2人が、「統合すれば、試合数の減少による収入減などで、親会社に多大な経済的負担を負わせる可能性が高い」として、辻井昭雄会長や山口昌紀社長ら経営陣4人を相手取り、統合差し止めを求める仮処分を26日、大阪地裁に申し立てたり、あるいは日本プロ野球選手会がストの可能性を示唆しており、予断を許さない状況になっております。
     そしてそんな中、私は盟友のShinorarさんの誘いを受け、以前にこの第4週でサイコロ野球についての連載をされていたMAKIさんやクールジャイアンツを連載中の慈恩美さんらとともに、「田原総一朗の熱論90分スペシャル−ライブフォーラム−プロ野球が元気になれば、ニッポンが元気になる!?」にオーディエンスの一人として乗り込みました。目的は、竹中金融財政担当大臣と議論し、ある法令の改正を求めるためです。

     その法令とは、以前にB_windさんがベースボール・ビジネス第24回『NPBモデル』にて紹介された、「職業野球団に対して支出した広告宣伝費等の取扱について」という昭和29年8月10日に発布された国税庁通達です。

     これについては、今週の火曜日に日経ビジネス誌記者の方から私が取材を受けた際、Jリーグにも通達があるという指摘を受けたこと、ならびに、日本プロ野球選手会に掲載されていた谷沢健一さんの指摘に基づき国税庁の法人関係の通達を確認したところ、何もプロ野球だけでなく、Jリーグにも適用されていることがわかりました。つまりこの通達は、日本のチームプロスポーツ全体に適用されている通達なのです。

     さて、この通達では一体、どの部分が問題になるのでしょうか。この通達そのものは、企業の社会奉仕にカネを出すことを促すということで非常に意味があるではないか、という指摘をされる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この通達は、以下の引用にあるような日本のプロスポーツ黎明期の発想に基づき、創られた通達なのです。

    『小林(一三)は、1935(昭和10)年の「改造」新年号に、「職業野球団の創設」という短い文章を書いている。
    (中略)
     小林には、日本でいきなりアメリカのプロ・リーグを実現するのは難しいという判断があった。したがって、過渡的な形態をとらざるをえない。たとえば、選手の身分である。一定の実力をそなえた選手を集めるには、学生野球からリクルートする以外にない。学生野球出身選手のレベルアップをはかるには、鉄道会社が選手を職員の身分で雇用し、育成するのがよいだろう。このようにすれば、経営上の困難をやわらげることが可能だ。』(『南海ホークスがあったころ 〜野球ファンとパ・リーグの文化史〜』 永井良和・橋爪紳也著 紀伊国屋書店 2003年 P.30)

     したがって、この通達の第2条は以下のとおりになっております。

     『ニ 親会社が、球団の当該事業年度において生じた欠損金(野球事業から生じた欠損金に限る。以下同じ。)を補てんするため支出した金銭は、球団の当該事業年度において生じた欠損金を限度として、当分のうち特に弊害のない限り、一の「広告宣伝費の性質を有するもの」として取り扱うものとすること。
     右の「球団の当該年度において生じた欠損金」とは、球団が親会社から交付を受けた金銭の額および各事業年度の費用として支出した金額で、税務計算上損金に算入されなかつた金額を益金に算入しないで計算した欠損金をいうものとすること。』
     つまりこれは、球団の赤字額についてはすべて広告宣伝費として認められるということで、会社から国税としてとれる額を確保しつつも、会社の安定した財政の下でスポーツに対する振興を促す効果を狙ったという、国の事情と会社の事情を両立させる、非常に深遠な知恵が隠された通達だったのです。

     ところがこの通達は、思わぬ効果をもたらしました。それは、球団が親会社の一部門として親会社と一体化し、親会社の都合で球団経営が振り回され、独立した主体としての意思決定ができなくなってしまったということです。
     その結果、

    1.経営効率を考えずとも親会社の財政事情に甘えることが可能になったため、球団の財政が恒常的に赤字化した
    2.親会社の事業の性質によって、球団に投下できる資金ならびに経営資源が異なってくるため、各球団の資金事情や人材事情に大きな較差がつくのみならず、スポーツビジネスのプロが育たず、現場経験者の球団経営への参画が制限された
    3.球団が親会社と一体化することにより、球団は親会社の付属物と見なされるようになり、親会社の事情に振り回されやすくなると同時に、選手は会社の従業員と見なされ、独立した個人事業主であるにもかかわらず、親会社の上下関係にしばられることになった

     以上3つの問題が出てきました。それに加え、日本のプロ野球は、リーグを統一する日本プロフェッショナル野球機構がオーナー会議よりも力が弱い、という伝統を2リーグ分裂時代以前より持っているので、Jリーグとはこの点が大きく異なっており、リーグ戦興行体という意識が薄い。したがって、パ・リーグの各球団が巨人戦からもたらされる利益を求め、平気で合併を繰り返そうとしているという事態が起こっているのです。

     つまりこの通達は、すでに時代から遅れているので、現在のようにビッグビジネス化したスポーツビジネス事情とは合わなくなっています。

     現在の状況を変えるには、この第2条を、以下のように変更しなくてはなりません。

     『ニ プロチームスポーツに出資している法人が、当該チームに対し、当該事業年度において支払った金銭は、一の「広告宣伝費の性質を有するもの」として取り扱うものとすること。』

     一見無定見なスポーツへの資金の投入を企業に認め、現在の巨人一極集中ならびに特定球団の財政を潤すだけのように見えますが、これによって、赤字額を親会社で丸抱えする必要がなくなるので、球団の合併・解散を促進するのではなく、球団の所有と経営の分離が促進されて、球団のスムースな売却、ならびにオーナーシップの自由競争を促進する下地ができますし、現在のJリーグの地域フランチャイズを基本にしたチームプロスポーツのあり方とも合致し、プロスポーツ全体に対して企業が出資しやすくなる。そして、球団の経営効率を見直すきっかけにもなります。つまり、いままでメディア対策を含め経営努力をしていないとたびたび指摘されてきた球団にカツを入れ、戦略的に球団を使うチャンスを増やす効果があるのです。

     しかし、この所有と経営の分離、ならびにオーナーシップの自由競争を促進するためには、さらに、野球協約の第36条の5(新参加球団に対する加盟料60億円)ならびに第36条の6(既存球団の譲り受けまたは実際の球団保有者変更に伴う参加料30億円)を撤廃する一方、第33条(合併)を強化して、

     『合併にあたっては、当該球団へ出資する者ならびにオーナーは、60億円を日本プロフェッショナル野球機構に支払わなければならない。』

     という一文を追加すると同時に、第34条(破産)についても、

     『ある球団が裁判所によって破産の宣告を受けた場合、日本プロフェッショナル機構は直ちに当該球団のオーナーのオーナー資格を停止し、新たなオーナーを探す責務を負う。』

     と変更しなければなりません。というのも、オーナーシップを獲得した企業が、かつての日拓ホームズのときのように、直ちに球団経営を放棄するようでは困るからです。

     私は日経ビジネスの記者さんにも申し上げましたが、日本のプロ野球は、現在のままでは、球団経営をやっていけるのかいけないのかということを論じる環境すら整っていないと断定せざるを得ません。というのも、経営効率とか企業努力を論じる以前の問題で、全球団が同じスタートラインに立って、お互いが自由競争によって切磋琢磨する努力をできる環境になっていないからです。
     カイシャフランチャイズムが前提としていまの日本のプロスポーツにある以上、スポーツは所詮、たとえ広告宣伝費といえども、大半は会社の福利厚生部門の延長にすぎないのです。

     プロスポーツは、社会の公共物です。出資しているのは民間の企業かもしれませんが、その企業は社会から公共物をお預かりしているのであって、お預かりすることによって莫大な経済効果を享受しているのです(例:近鉄バファローズの赤字40億円に対する経済効果360億円-永井前球団社長コメント-2004年2月)。
     それであるがゆえに、自由競争とリーグ戦興行体としての協調性を同時に達成しなくてはなりません。渡邊恒雄前読売ジャイアンツオーナーがたびたび口にしていた『(選手獲得のための)自由競争』ではなく、オーナーシップの自由競争が促進されなければならないし、また、一極集中的な特定球団による利益独占が許されるものでもないのです。過度の利益独占は徹底的に排除し、プロスポーツのマーケット自体が共存共栄で大きくなっていくべきなのです。

     さて、9/5(日)21:00より放送予定の「田原総一朗の熱論90分スペシャル−ライブフォーラム−プロ野球が元気になれば、ニッポンが元気になる!?」の様子については来月第2週に配信予定のクールジャイアンツにて慈恩美さんが報告してくださる予定ですが、あのときに私が竹中大臣に渡したメモが、政府にてこの通達に対する議論を行うきっかけになってくれればいいなと願いつつ、私は9/8のオーナー会議にて出される結論を見守ると同時に、根来コミッショナーがくさらず、ファンのみなさんと選手会、ならびに球団のフロントのみなさんのために健腕を振るうことを期待しております。



     NPBにおける受難の時代 読売史観は適切か? 〜番外編5 プロ野球選手の労働者性とNPB選手会の労働組合性〜 MB Da Kidd



     さて、昨日17日、プロ野球選手会は史上初のストライキを決行することになりました。しかしこのストライキをめぐっては、5日に横浜ベイスターズ峰岸球団社長がこんな発言をしております↓

     『横浜・峰岸進球団社長(62)が5日、労組・日本プロ野球選手会に異議を唱えた。選手会が決行濃厚なストライキについて「損害賠償をする、しないは別にして、できると思っている。(決行が11、12日なら、横浜が)阪神戦を開催した場合の得られる利益を要求することができるはず」との考えを明かした。また、球団首脳として初めて、選手会が労組ではないという見方を示し「選手会は団体交渉を認められたことをとらえ、労組として認められたとしているが、それは違う。労働者性が認められたわけではない。選手は税法上の優遇をとるのか、労働者としての利益をとるのか。二者択一すべき。個人主義でないとするなら消費税5%を返却要求できる。選手は権利ばかり要求せず、義務を果たすべきだ」と強く訴えた。』(2004.9.6.サンケイスポーツwebより)

     果たしてこの主張には正当性があるのでしょうか。

    1.プロ野球選手の労働者性

     プロ野球選手に果たして、労働者性はあるのでしょうか。これについては、『昭和49(行ツ)112 不当労働行為救済申立棄却命令取消請求』という、ある民間放送会社とその放送管弦楽団員との間に、雇用契約ではなく、放送出演契約が締結されていた場合でも、実質的に見て、労組法3条にいう「労働者」にあたる、とした判例がこれに似た事例として、あります。
     この最高裁判決の要旨は以下のとおりです↓

     『民間放送会社とその放送管弦楽団員との間に締結された放送出演契約において、楽団員が、会社以外の放送等に出演することが自由とされ、また、会社からの出演発注に応じなくても当然には契約違反の責任を問われないこととされている場合であつても、会社が必要とするときは随時その一方的に指定するところによつて楽団員に出演を求めることができ、楽団員は原則としてこれに応ずべき義務を負うという基本的関係が存在し、かつ、楽団員の受ける出演報酬が、演奏によつてもたらされる芸術的価値を評価したものというよりは、むしろ演奏自体の対価とみられるものであるなど判示のような事情があるときは、楽団員は、労働組合法の適用を受ける労働者にあたる。』

     では、これについて、選手がサインする統一契約書(42ページから)の条文と照らし合わせて、考えてみましょう。

     まず第一に、プロ野球選手に労働者性を認めない場合、

     『契約において、プロ野球選手が、所属球団ならびに日本プロフェッショナル野球機構が行う以外のエンターテインメントへの参加ならびにメディア露出が自由とされ、また、球団からの要請に応じなくても当然には契約違反の責任を問われない』

     ことが前提条件となります。そこで、これにあたることが書いてある統一契約書の条文を挙げてみますと、まず第16条(写真と出演)の後段には、以下の記述があります↓

     『選手は球団の承諾なく、公衆の面前に出演し、ラジオ・テレビジョンのプログラムに参加し、写真の撮影を認め、新聞雑誌の記事を書き、これを後援し、また商品の広告に関与しないことを承諾する。』

     続いて第19条(試合参稼制限)には、以下の記述があります↓

     『選手は本契約期間中、球団以外のいかなる個人または団体のためにも野球試合に参稼しないことを承諾する。』

     また同第20条(他種のスポーツ)にもこんな記述があります↓

     『選手は相撲、柔道、拳闘、レスリングその他のプロフェッショナル・スポーツと稼動について契約しないことを承諾し、また球団が同意しない限り、蹴球(サッカー)、籠球(バスケットボール)、ホッケー、軟式野球その他のスポーツのいかなる試合にも出場しないことを承諾する。』

     したがって、この前提条件は成立しておりません。ちなみに労働組合法第3条は以下のとおりになっており、プロ野球選手のみなさんはこの条文にいうところの「労働者」にあたります。

     『第3条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう。』

     続いて税の問題ですが、峰岸社長が主張している『税法上の優遇』とは、いわゆる税の捕捉率の話だと思われます。これはいわゆるクロヨン(サラリーマン9割、事業所得者6割、農家4割の所得捕捉率)、トーゴーサン(サラリーマン10割、事業所得者5割、農家3割の所得捕捉率)のことで、個人事業主である野球選手は6割の所得捕捉率でいくらでも節税が可能であるから、9割の捕捉率のサラリーマンよりも恵まれてるじゃないか、と一般で言われている話のことです。

     しかし上記の統一契約書第16条、19条、20条にもあるとおり、野球選手の収入の途は限られている上に副収入は極めて制限されており、しかも球団の許可が必要なのです。したがって、一般的に言われている税法上の優遇というのは、プロ野球選手の場合は非常に考えにくいですし、また、収入によって一律に給与所得控除額が決まっているサラリーマンよりも、場合によっては、税法上厳しく税をとられることすらあるのです。ですから、峰岸社長の主張は最初から破綻しているというわけです。また、消費税や地方税の支払については、選手自身が確定申告の作業の中で済ませなければならないことあって、返却請求をしても意味がありません。結局は球団側が選手の代わりに、政府に支払うことになるだけです。

    2.プロ野球選手会の労働組合性

     労働組合とは何でしょうか。これについては、労働組合法第2条前段に、以下の記述があります。

     『この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体またはその連合団体をいう。』

     したがってこれについては、東京都地方労働委員会のこの説明にもありますとおり、自主的かつ民主的に運営されており、かつ、資格審査を経ている団体であれば、労働組合法上の救済を受けることができるわけですが、日本プロ野球選手会はその東京都地方労働委員会による資格認定を1985年に受けております。
     したがって、峰岸社長の↓

     『峰岸球団社長は「団体交渉権は労組でなくとも認められる」と指摘。「個人事業主」として選手が税制上の優遇措置を受ける以上、労働組合には当たらず「するしないは別にして、損害賠償請求はできる。請求額は試合を開催していれば球団が得ていたであろう利益になる」と話した。』(デイリーベイスターズ 2004.9.6.)

     という主張は単なる願望であって、現実とは異なります。資格審査を経ていない労働組合にも団体交渉権が認められているからといって、東京都地方労働委員会で認められた労働組合に対して損害賠償ができるわけではありませんし、結局は労働組合法の第8条(損害賠償)にあたるだけなのです。

     ただ、問題は、日本プロ野球選手会がスト撤回の条件として求めている

     (1)球団削減により多くの移籍、解雇が出る可能性のある選手の労働条件
     (2)バファローズとブルーウェーヴの合併凍結、ならびに、球団統合による球団数減少を元に戻すための新規参入の促進
     (3)さらなる球団削減を防ぐための制度作り(ドラフト改革、収益分配)

     の3条件にどこまで妥当性があるかということになります。というのも、(1)についてはさておき、(2)ならびに(3)については、経営者側の問題であり、いくらプロ野球の将来に関わることとはいえ、選手会の主張すべきことではないと考えられるからです。そして、日本プロフェッショナル野球機構側(以下NPB機構)も、このように訴えております↓

     『選手会が労働組合であったとしても、球団統合及び球団の新規参入自体は、経営事項であり、義務的団体交渉事項ではなく、これを理由にストライキを行うというのは、違法かつ極めて不当なものであるとも考えております。』

     ところが、NPB機構が忘れているのは、B_windさんの主張にもありますとおり、

     『そもそも、特殊技能者であるプロ野球選手の雇用は、一般の雇用とは意味が異なります。特殊技能者の雇用は、その特殊技能を発揮する場の雇用でなければ意味を持ちません。特殊技能を発揮できなければ、特殊技能の対価としての報酬を得ることができません。選手会側が主張しているのは、特殊技能を発揮できる場の確保なのです。球団数が減れば、1軍で試合ができる選手は、その分減ることになります。「1球団の保有選手を増やし、全選手を雇用しましたよ」といっても意味がないのです。』

     こういうプロ野球産業の特殊性なのです。したがって、日本プロ野球選手会は球団の経営問題に関わるべきではないどころか、関わる義務があり、これを主張しなくてはならないのです。もしも主張しない場合、日本プロ野球選手会は労働組合法第1条第1項に掲げられている労働組合の目的を放棄することになり、存在意義がなくなります。そして、経営者側がこれについての話し合いを拒否した場合、労働組合法第7条(不当労働行為)の第2条にあたるのです↓

     『使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。』

     ただ、NPB機構所属球団の親会社は、会社の広告宣伝媒体ならびに営業の手段として野球興行をやっているわけで、野球興行、ならびにこれを通じて広告宣伝効果を売って自活している球団に出資しているわけではありません。そこで彼らは上記のプロ野球産業の特性を無視し、球団経営の判断の問題はあくまで経営側の問題であり、特段選手会のみなさんやファンのみなさんに対して説明する必要はないと主張しているわけで、これが日本プロ野球選手会との見解を違えている原因となっているのです。
     この状況を変えるには、私が『カイシャフランチャイズのキモ』でも説明したとおり、一刻でも早く昭和29年通達の文言を変更し、球団の所有と経営の分離を進めなければならないのです。ところが、私が先日の番組にて竹中金融財政担当大臣と話したとき、竹中大臣は『規制のことを言う前に球団の自助努力が必要だ』という主張を繰り返すのみで、議論が成立しませんでした。果たして竹中さんは、球団の経営に携わってるみなさんが野球興行の発展というモチベーションを持てないままに球団経営をせざるを得ない、という事情を理解しておられるのでしょうか。あるいは、そんな状態にあって球団経営側からいい加減な対応ばかりされて憤懣やる方ない選手会のみなさんの苦労がわかっておられるのでしょうか。そして何と言っても、ストはいやだけど、合併や1リーグは絶対いやだからこれを受け入れざるを得ないという大きな犠牲を強いられているファンのみなさんの想いがわかっておられるのでしょうか。
     またそれは、オーナーのみなさんや根来コミッショナーも同じです。彼らは所詮、机上の論理でしか物事を考えていないように見えるし、人の気持ちがわかっているとはとても思えないのが、私には気に入らないのです。もしも本当に野球が好きだったら、彼らに机上の論理のみでしか考えていないようなことはできるのでしょうか?私はそれを彼らに問うてみたい。そしてそれは、選手会のみなさんも同じ気持ちなのではないでしょうか。それであるがゆえに、私は今回のストライキを全面的に支持しますし、選手会のみなさんはそれをやる義務があると考えているのです。

    【参考サイト】

    Blog de 司法試験 2004.9.6.15:34 wolfgang_a著



     NPBにおける受難の時代 読売史観は適切か? 〜番外編6 オリックスによる岩隈投手プロテクト問題について〜 MB Da Kidd

     読者のみなさまこんばんは。ここ数日間、また、オリックスという会社は、悪夢たる球団合併騒動の仕掛けに続き、とんでもないことをやらかしてくれました。みなさまもよくご存知のとおり、岩隈投手プロテクト問題です。

     この問題については、最初『プロテクト名簿に載せる、載せないについては選手側の要望を聞く』と明言していたオリックス側が、岩隈投手にだけは態度を違え、彼を勝手にプロテクト名簿に載せただけでなく、プロ野球選手がプロ野球の世界に入る際、トレードに応じるとの項目がある統一契約書にサインしていることを根拠に、プロテクト名簿に名前を載せるというのは岩隈投手を野球協約に則り大阪近鉄バファローズからトレードにより獲得したのと同じことだ、だから岩隈投手には契約を守ってもらう、これを守るのは一社会人として当然のことだ、と一方的に発表したことがそもそものトラブルの始まりです。
     そこで私は、オリックス側が強硬に主張する野球協約、ならびに統一契約書上の根拠にあたる箇所を確認したところ、以下の条文がありました↓

    ★ 野球協約

     第33条(合併)

     『この組織に参加する球団が他の球団と合併するときは、あらかじめ実行委員会およびオーナー会議の承認を得なければならない。この場合、合併される球団に属する選手に関しては、必要により第57条(連盟の応急措置)および第57条の2(選手の救済措置)の条項が準用される。』

     第36条の2(連盟の保有)

     『この組織に属する連盟の構成球団は参加資格を喪失した場合、決定の通告を送達した日から、地域権および選手契約権、ならびにその保留権を喪失する。なおこれらの権利は応急措置としてその球団が所属した連盟が保有し、第57条(連盟の応急措置)および第57条の2(選手の救済措置)の条項を準用する。』

     第57条(連盟の応急措置)

     『ある球団の事情により、その球団の選手・監督・コーチの全員が、この協約の拘束力の外におかれるおそれがある場合、この組織の秩序維持のため、応急措置として所属連盟がこれ等の選手、監督ならびにコーチの全員を一時保有することができる。
     このような事態が年度連盟選手権試合シーズン中に発生した場合には、シーズン終了の日から、またシーズン終了後に発生した場合にはその発生の日から30日間を超えて、前項の措置を継続してはならない。連盟が保有する期間における選手、監督、コーチならびにその他必要な範囲の職員の参稼報酬、手当および給料は連盟が負担する。
     第1項の場合連盟会長は、前項の期間内に新しく球団保有者になろうとする者をさがし、その球団保有予定者と前記選手、監督、コーチならびに必要な範囲の職員との契約および雇傭につき斡旋を行わなければならない。
     前項の斡旋が失敗した場合、連盟会長は監督、コーチならびに職員を契約解除し、選手については第115条(ウェイバーの公示)の規定を準用して、ウェイバーの対象としなければならない。
     なお、選手はこの措置に服従しなければならない。』

     第57条の2(選手の救済措置)
     『球団の合併、破産等もっぱら球団の事情によりその球団の支配下選手が一斉に契約を解除された場合、または前条による連盟会長の斡旋が失敗し同様の事態となった場合、もしくは斡旋が不調に終わるおそれが大きい場合には、実行委員会ならびにオーナー会議の決議により、他の球団の支配下選手の数は前記議決で決められた期間80名以内に拡大され、契約解除された選手を可能な限り救済できるものとする。』

    ★ 統一契約書

     第21条(契約の譲渡)

     『選手は球団が選手契約による球団の権利義務譲渡のため、日本プロフェッショナル野球協約に従い本契約を参稼期間中および契約保留期間中、日本プロフェッショナル野球組織に属するいずれかの球団へ譲渡できることを契約する。』

     しかしこれらは、オリックス側が強硬な主張を行う明確な根拠にはなっておりません。そこで私が日本プロフェッショナル機構のwebで確認したところ、9月23日付でこのようなニュースがありました。
     このニュースによれば、以下の合意が日本プロフェッショナル機構と日本プロ野球選手会との間になされております。

     『6.新規参入が決まった場合、分配ドラフトへの新規参入球団の参加を認め、統合球団のプロテクト選手(2巡目、3巡目の指名選手を含む)を除いて柔軟に対応する。また、既存球団は、新規参入球団と既存球団との戦力均衡を図るため、新規参入球団に協力する。』

     つまり、一度プロテクト名簿に選手の名前を載せれば、オリックスは合併新球団で優先的にその選手を保留することができる可能性があるという、玉虫色の文言になっております。したがってオリックス側としては、これを根拠に、自らの立場を一方的に主張しているものと思われます。

     ところが、このように玉虫色の文言になっている場合、判断基準は、法の優先順位によるのが自然ですし、また、コミッショナー裁定、ならびに連盟会長裁定も、これに従って行われなければなりません。ちなみに一般組織内における法の優劣関係は、以下のとおりになっております。

     『憲法→法令→労働協約→就業規則→労働契約→業務命令』

     これに即して考えると、上記のニュースによる合意というのは、あくまで契約による合意成立か、あるいは、業務命令範囲内における合意であると考えるのが相当ということになります。したがって、合意内容よりも法的に上位にある上記協約条文にのっとって、まず考えなくてはなりません。そこで協約第57条第3項以下の部分を準用します。

     『第1項の場合連盟会長は、前項の期間内に新しく球団保有者になろうとする者をさがし、その球団保有予定者と前記選手、監督、コーチならびに必要な範囲の職員との契約および雇傭につき斡旋を行わなければならない。
     前項の斡旋が失敗した場合、連盟会長は監督、コーチならびに職員を契約解除し、選手については第115条(ウェイバーの公示)の規定を準用して、ウェイバーの対象としなければならない。
     なお、選手はこの措置に服従しなければならない。』

     つまり、プロテクト名簿に選手の名前を載せる手続というのが上記の『連盟会長による斡旋』に準ずる扱いということになるわけですが、オリックス側はこの際にトラブルを起こし、明らかに失敗しているので、岩隈投手は当然ながらプロテクト名簿から除外され、ウェーバーの対象、つまり、拡張ドラフトの対象となり、また、拡張ドラフトに参加しているのは、オリックス・バファローズと楽天イーグルスなので、オリックス・バファローズに行けなくなった岩隈投手が行くのは、楽天イーグルス以外にはないということになります。
     したがって、協約にのっとって考えた場合、万が一連盟会長ならびにコミッショナーによる明らかに不合理な裁定が下らない限り、岩隈投手の所属先は、楽天イーグルス以外ありえない、ということになります。

     続いては、協約よりも上位に来る法について考えてみましょう。これは法令、つまり民法や労働法、ならびに商法などの一般法ということになります。
     まず今回の合併についてですが、これは、商法でいうところの営業譲渡にあたります。つまり、オリックス株式会社が、近畿日本鉄道株式会社から、その一部門である、大阪近鉄バファローズ球団を買い取ったということになります。
     したがって、譲渡会社の財産が譲受会社に承継されるかどうかは当事者間の契約によって決まるため、譲渡会社と労働者との間に存在していた法律関係も原則として譲渡契約内容によって決められますし、労働者の譲受会社への引継ぎには本人の同意が必要とされています。労務者の権利義務の一身専属性を定めた民法第625条第1項が適用されるのです。
     日本のプロ野球選手は、日本プロ野球選手会という労働組織に所属する労働者です。個人事業主ではあっても、それはあくまで契約社員としての地位を表すに過ぎず、経営側に比べて圧倒的に弱い立場にあるのは、以前にも説明したとおりです。
     したがって、今回の件についても、オリックス側は、協約の表面だけを曲解して一方的に岩隈投手を拘束することは、法的に許されないのです。

     最後に社会通念上の話ですが、以前にオリックス側は、『選手の希望を尊重する』とメディアを通じ、社会一般に対して明確にアナウンスしているので、選手の希望を踏みにじり、一方的にプロテクト名簿に載せるのは、社会の模範たるプロ野球のあり方に反します。一般的には選手の側のエゴの問題だけが大きくピックアップされることが多いですが、権力を握っている組織の側のエゴも、同様か、それ以上にピックアップされなければならないのは当然のことでありますし、また、双方のエゴを何が何でも阻止することが、社会的公共財としての役割を担う、ロールモデルとしてのプロ野球の使命となるのです。
     これだけ世の中に広くアナウンス効果を持つプロ野球に携わる人間が、法的違反を犯し、それを社会に認めさせようというのは、法の形骸化と無秩序を招き、世の中に混乱を与えると同時に、感情的要素の強いプロスポーツのあり方を台無しにし、多くの人々に反感と心の傷を与えます。したがって、今回オリックスがやったことは、かつて水俣病やイタイイタイ病のような公害を撒き散らした企業のエゴならびに無責任な行為と同じか、それ以上のインパクトを与えているのだということに、そろそろプロ野球に携わる方々も気づかなければなりません。彼らも、オリックスは、いわゆる物質的公害ではないが、精神的公害を大いに社会にもたらしたのだ、という厳しい現実を、粛々と謙虚に見つめ、これを許してしまったことを猛省しなければならないのです。
     日本のプロ野球が進化するには、このようなビジネスと法の曖昧さを排除し、企業エゴを前面的に押し出した強引さを一切認めず、馴れ合いを断じて許さず、純粋に野球の発展のために動く組織風土を培っていく必要があります。過去70年の日本のプロ野球の矛盾、ならびに恥の歴史の原因は、すべてここにあるのです。そのためには、ファンや現役選手だけでなく、OBのみなさんも、私欲を捨て、何が公の利益たりうるのかを真剣に考えなければならない時期に来ているのではないでしょうか。そしてその先に、さらなる日本プロ野球の発展と栄光があるのです。今回の問題を、近年の一部自分勝手なプロ野球選手の態度と勝手に混同し、一選手のワガママと断定してお茶を濁せば、理念が協約に明記されていても誰もこれを誠実に守らず、何が正しくて何が間違っているか明確な指針を示せない、ズブズブでケジメのない日本のプロ野球は、ますます痩せ衰え、21世紀のニグロリーグになってしまうことは明らかです。私はそれを何よりも危惧しているのです。

    【参考web】

    日本プロフェッショナル野球協約・統一契約書様式(日本プロ野球選手会)
    紙上「新しい労働組合運動セミナー」第2回
    日本労働研究機構ホームページ『営業譲渡と労働契約関係の承継』
    わーくわくネットひろしま 『企業合併・営業譲渡で労働契約はどうなるか』




     バファローズとブルーウェーヴの合併についてのJMMへの寄稿 『最後に残された「旧日本の象徴」』(2004年6月29日 Japan Mail Media)MB Da Kidd

     日本のプロ野球は、日本の世相の象徴とされてきました。戦後の混沌とした時代の中での野球人気の高まりとリーグ分裂、複数球団の誕生と合併、ならびに国民リーグの誕生と1年での解散は、混乱の中、新しい資本家たちの誕生と興亡が起こっていた戦後経済の状況を反映しているし、V9巨人は高度経済成長と日本経済の快進撃を象徴してきましたし、江川・元木選手をはじめとするドラフト制度への反逆や野茂選手を契機とする有名選手のアメリカ・メジャーリーグへの亡命は、行き詰った日本の官僚システムとカイシャシステムへの能力ある個人のそこからの脱出傾向を反映しております。

     ですが、日本プロ野球というものが安泰(いい意味においても悪い意味においても)であったのは、ひとえに自由競争を廃してきたからだともいえます。
     ここで私がいう自由競争とは、オーナーシップの自由競争です。読売巨人軍のオーナーである渡邊恒雄氏が常々唱えている、極めて曖昧な意味での『自由競争』ではありません。

     日本プロ野球リーグ全体の定款ともいうべき日本プロフェッショナル野球協約には以下の規定があります。

    ・第28条(株主構成の届出と日本人以外の特殊)

     『この組織に所属する球団は、毎年4月1日までに、その年の2月1日現在の自球団の発行済み株式数、および株主すべての名称、住所、株式保有の割合をコミッショナーに届けなければならない。(中略)
     この協約により要求される発行済み資本の内、日本に国籍を有しないものの持株総計は資本総額の49パーセントを超えてはならない。』

    ・第36条の5(新参加球団に対する加盟料)

     『新たにこの組織の参加資格を取得した球団は、参加する連盟選手権年度の1月末日までに加盟料を支払うものとする。支払方法については実行委員会の議決により延納あるいは、分割による支払いも可能とする。
     新参加球団の加盟料の金額は60億円とし、日本野球機構および同機構に既に属している全球団に分配され、各球団への分配金額は均等とする。』

    ・第36条の6(既存球団の譲り受けまたは実際の球団保有者変更にともなう参加料)

     『この組織に加盟している球団の株式の過半数を有する株主、または過半数に達していなくても事実上支配権を有するとみなされる株主から経営権を譲り受けた法人あるいは個人は、参加する連盟選手権年度の1月末日までに加盟料を支払うものとする。支払方法については実行委員会の議決により延納あるいは、分割による支払いも可能とする。
     その参加料の金額は30億円とし、日本野球機構および同機構に既に属している全球団に分配され、各球団への分配金額は均等とする。』

     つまり、オーナー会議に参加するには、新しく参加するときに場代として60億円払わなければならず、プレーヤー交代でも30億円払わなければならず、しかも外国資本の参入は制限されております。加えて、第22条の2にもあるとおり、オーナー会議の決定事項は、12人のオーナーのうちの9人以上出席、出席者全員の4分の3以上の同意が必要とされます。
     したがって、日本プロ野球のオーナー会議というのは、極めて資格を限定・審査している、超VIPのみが参加できる会員限定制のクラブであり、参入どころか、オーナーシップを保有している会社が球団の解散を決めるか、あるいはその会社自身が倒産でもしない限り、退出すらままならない状況になっているのです。

     もうひとつ、この会員限定制クラブの特徴について示すものがあります。それは、昭和29年に国税庁が出した『職業野球団に対して支出した広告宣伝費等の取り扱いについて』という通達です。

     これによれば、球団がどんなに赤字を出しても、その赤字はオーナーシップを持つ親会社の広告宣伝費として認められるので、球団の自助努力なしに、親会社の状況によって、際限なく球団に資金をつぎ込むことが可能になります。
     したがって、この親会社の状況に応じて、球団の資金の格差がつくということになってしまい、しかも、所有と経営はがっちりと結び付けられてしまう。独立採算でやっている広島カープのような球団は、厳しい経営のために規模を縮小せざるを得なくなり、たとえいまは黒字であっても巨人戦による収入がすこしでも減るとたちまち赤字に追い込まれ、球団存続の危機へとすぐに追い込まれてしまうのです。

     この件については、ブルーウェーヴの親会社、オリックス株式会社の宮内義彦オーナーが6月15日付日本経済新聞朝刊第3面にこんなコメントを寄せています。

     『オリックスの球団経営について言えば、オリックス本体の広告宣伝費ですよ、と言ってしまえば、あと10年ぐらいは務まる。赤字額の大きさが問題なのではなく、投資に見合うだけのメリットが得られ、会社全体にバックアップしてもらっているという確信があれば、お金を使うのは一向にかまわない。100億円、200億円規模を広告宣伝に使っている会社はいっぱいある。』

     これは、このような自由競争を否定している歪んだ会員限定制のマーケットの中で、費用対効果が極めて見えにくくなっている状況を表しているわけです。

     果たして、このような閉塞状況にあるプロ野球に、未来はあるのでしょうか。自由競争を認めなかった共産主義の国々が尽く崩壊したのは読者のみなさんのご記憶に新しいことと思いますが、このプチ共産主義、あるいは日本という官僚制資本主義、つまり資本共産主義のミニチュア版ともいえるオーナー会議と、私が1998年に命名したところのカイシャフランチャイズシステムが岐路に立っていることは明らかです。6月24日付日本経済新聞朝刊のスポーツ欄には1リーグ8球団なら採算がとれるという阪神タイガースの久万オーナーのコメントが載っておりましたが、これは戦後間もない頃の混沌期の状態に日本のプロ野球が後退したということにほかなりません。
     ということで、村上JMM編集長の『今回の合併劇は、何かを象徴しているのでしょうか』という問いかけに対する私の回答は、『このまま行ったら国家が縮小均衡・破産にいくと巷で言われている日本型官僚資本主義、あるいは資本共産主義の象徴』となります。

     プロ野球ビジネスは、リーグ戦興行体と呼ばれるような社会主義的側面を持つビジネスです。たとえ巨人がいくら強くても、相手がいなければ興行は成り立ちません。したがって、利益についても通常のビジネスと異なり、放映権や入場料収入に至るまで、何だかのカタチで分配が行われるのが自然なパターンです。たとえばアメリカのメジャーリーグは、これを実行しております。
     またドラフト制度も、極端な自由競争の結果行われる有望選手・有名選手の寡占・独占を防ぐための戦力均等化のためのシステムです(ただしこれについては、選手の保留権と個人の人権との相克の問題から、フリーエージェントのシステムができております)。
     ですが、日本のプロ野球のように、利益分配も認めていないのにもかかわらず、昭和29年の通達と協約が結びついているのにオーナー会議の自由競争を最初から否定している興行形態は、極めて特殊です。アメリカのメジャーリーグにも先述の協約のような加盟料の問題はあるにはあるのですが、所有と経営の分離はいちおう存在します。また、最近ラテン系オーナーとしてアナハイム・エンゼルスのオーナーに就任したアルトゥーロ・モレノ氏のような例もありますし、いうまでもなく、イチロー選手のいるシアトル・マリナーズのオーナーシップを持っているのは日本企業の任天堂の山内溥氏で、オーナー権を行使しているのはニンテンドー・アメリカの荒川尭氏です。メジャーリーグのオーナー会議もホワイト・アングロサクソン系のリッチマンたちの牙城となっているところがありますが、少なくとも日本のプロ野球のオーナー会議よりも閉鎖的で特殊、というわけではありません。

     私は普通の同年代の日本人のみなさんとは違い、幼い頃はブラジルにいて、ズィッコ現日本代表監督やソクラテスが自分にとっての王貞治であり、原辰則でした。高校生までは本気で野球が好きだったわけじゃありませんし、部活でも野球ではなく、サッカーをやっていました。いまでもブラジル代表が自分にとってのホームチームですし、中田選手のようなマイペース人間には非常に共感するし、彼のことが大好きです。
     そんな私がなぜ野球について詳しくなったのかといえば、それは紆余曲折を経て、日本の文化や世相が極めて日本のプロ野球と連動しているということを理解し、これを日本人のアイデンティティとして受け入れる気になったからです。それであるがゆえに、どうしても私は一人の日本人として、日本のプロ野球に対して苦言を呈さないわけにはいきません。別にこんなことウダウダ言わずに、黙って他スポーツにハマるなり、日本を出てどこか別の国に行って、ワインでも呑みながらサッカーを地元ファンと優雅に楽しんだり(サポーターのみなさんと一緒に踊ったりするのは体力がいりますので、私はやりません)、アメリカの球場で向こうのおっちゃんたちとビール呑みながらやかましく野球談義していた方が楽しいのでしょうが、日本にもいっぱいこだわり派のコアな野球ファンがいるし、おもしろい人もいるので、彼らの悲しい顔を見たくないから、こういうことを彼らの代わりに言ってるわけです。また、アメリカ人やオーストラリア人の野球ファンにも日本のプロ野球の熱烈なファンがいるので、彼らと話すときに失望の声を聞きたくない、ということもあります。
     スポーツに国境はありません。私は最近、浜田山のグラウンドにてアフリカ野球友の会の活動に携わっていますが(朝日新聞6月25日付朝刊37面をご覧ください)、アフリカ人であろうと日本人であろうとアメリカ人であろうと、同じ野球というスポーツを通じてこれだけ楽しく交流が図れるということが楽しくて仕方ありません。それだけに、オーナー会議に携わっている反自由競争主義者たちによる勝手な言い分を聞いていると、ああ、日本のプロ野球ってバカバカしいことをやってるな、としか思えてならないのです。別に近鉄がバファローズから撤退すること自体はかまわないのですが、もっと自由に撤退できたらこれほどの騒ぎにはならなかっただけの話ですから。


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