SO WHAT? 球界に関する法律のお話 by fahta

     本シリーズ『SO WHAT? 球界に関連する法律の話』では、球界の仕組みとか球団選手との関係とか法律的に考えるとどうなるのかをつらつらと書いていきたいと思います。『だからなんなの?(SO WHAT?)』と思われることもしばしばあるかと思いますが、こういう考え方もあるのだなと頭の片隅においてもらえればうれしいかなと。


    第1回 野球と法

    第2回 統一契約書その1

    第3回 統一契約書その2

    第4回 保留制度

    番外編その1



     第1回 野球と法


     最近「Legal Bases : Baseball and the Law」という本を入手しました。著者はRoger I. Abramsという大学でスポーツ法を教えるとともに長年大リーグの年俸調停人をやっておられる方です。日本ではプロ野球ビジネスを法律的に分析するような話はあんまり聞きませんが、アメリカでは古くからいろいろ裁判沙汰が生じていることもあり、こういった本もしばしば発売されているようです。

     もっとも日本でもプロ野球界と法曹界とのつながりがまったくのゼロというわけでもなくて、1965年からコミッショナー委員長を勤めた宮沢俊義氏は高名な憲法学者でしたし、最近でも代理人交渉の代理人として弁護士の方々が登場してきています。選手の海外流出に伴い大リーグとの距離も近くなってきましたが、種々の制度改革や選手の待遇改善にあたってアメリカ同様に法律的な理屈というものがそれなりに有効な分析の道具になりつつあるように思えます。

     本シリーズ『SO WHAT? 球界に関連する法律の話』では、球界の仕組みとか球団選手との関係とか法律的に考えるとどうなるのかをつらつらと書いていきたいと思います。『だからなんなの?(SO WHAT?)』と思われることもしばしばあるかと思いますが、こういう考え方もあるのだなと頭の片隅においてもらえればうれしいかなと。

     次回以降、手始めに球団と選手との間にて締結される選手契約、いわゆる『統一契約書』をテキストに書いていきたいと思います。昨年来、日本プロ野球選手会がホームページを通じて野球協約とともに統一契約書の内容を公開していますので、これを参考にいたします。同ホームページでは野球協約及び統一契約書の公開に関する趣旨が述べられているので一読をお勧めします。

     筆が進むにつれて、選手契約のほかにも、フランチャイズ、放映権といったプロ野球ビジネスに関わることについてもつらつらと書いていくつもりです。どうぞよろしくお願いいたします。



     第2回 統一契約書その1


     ドラフト会議終了後、プロ野球選手の選手人生は球団と選手契約を締結するところから始まります。この選手契約を締結することによって、選手は球団のためにプレーをする義務を負いますし、球団はそのプレーに対して給料を支払う義務を負います。

     本来、それぞれの権利義務の内容や契約の書式は当事者間の交渉を通じて自由に決められるべきものです。しかし、日本プロフェッショナル野球組織を構成している球団が選手契約を締結する場合には、統一契約書なる書式を利用しなくてはならないとされています(野球協約第45条参照)。

     何気に使ってますが、そもそも何故に『統一』なのかということに疑問をもつ方も多いかと思います。例えば、ひとつの球団内で全ての選手契約を所定のフォーマットで作成するということであれば、事務処理の面から合理的だともいえますよね。

     ところが、ここでいう『統一』というのは『全球団統一』の意味です。果たして何のために『全球団統一』の必要があるのでしょうか。選手契約の骨子はプレーする義務と給料を支払う義務に関する当事者間の合意にありますから、このことからはあえて全球団統一のフォーマットで作成する必要もなさそうです。

     結論からいえば、球団と選手というよりも、球団と球団との間にて選手契約につき一定の秩序を保つためにその内容を統一する必要があるのです。統一契約書を利用することでトレード、フリー・エージェント、任意引退制度などが可能になっていますし、球団間での選手の引き抜きが簡単にできないようになっています。しかし、統一契約書によって保たれている球団間の秩序が選手の利益を犠牲にすることによって成り立っているのではないかという問題意識をおろそかにしてはならないと思います。

     選手の皆さんはこの統一契約書の中身を吟味した上で選手契約を締結しているのでしょうか。統一契約書は全35条からなる一見読みづらいものです。更には、選手は統一契約書を締結することで全207条からなる野球協定にも間接的に拘束されることになります(統一契約書第27条参照)。最近では「将来は大リーグに行きたいが、まずは日本のプロ野球で頑張りたい」という選手も統一契約書にポンとハンコ押していますが、よくよく契約書の中身を読んでみると、いったん契約した以上、簡単には大リーグに行けないことになっているのに気づくでしょう。

     代理人交渉を認めるべきかどうかということが議論されましたが、複雑な統一契約書と野球協約をベースにして交渉するのですから、認めて当然だという意見がでてきてもちっともおかしくないと思います。このことは皆さんもこれらの契約書を一読すれば納得して頂けると思います。まあ、経済的にみると別の分析がありうるんですけどね。

     今回の小論作成にあたっては、日本プロ野球選手会ホームページにて公表されている2001年度版の野球協約および統一契約書をテキストとして利用しておりますこと御了解下さい。



     第3回 統一契約書その2


     前回『選手は統一契約書を締結することで全207条からなる野球協定にも間接的に拘束されることになります(統一契約書第27条参照)』とさらっと書きましたが、このことをもう少し考えてみたいと思います。

     野球協定の正式名称は「日本プロフェッショナル野球協約」といいます(野球協約第2条)。野球協約自身は社団法人日本野球機構の定款とは別物です。なんでこんなことをいうかというと次の条文を見てください。

    【野球協約第1条】

     セントラル野球連盟とその構成球団及びパシフィック野球連盟とその構成球団は、以下に記す協約を締結し、かつ日本プロフェッショナル野球組織を構成する。

     今回の連載にあたっていろいろ資料を読みましたので、改めて発見することも多いのですが、『社団法人日本野球機構』と『日本プロフェッショナル野球組織』とは形式的には別物であるということもそのひとつです(知らなかったのは私だけかな?)。両者は実態的には一緒らしいのですが、野球協約を読む限り、プロ野球は社団法人日本野球機構とは別に『日本プロフェッショナル野球組織』を組成している12球団全体の意思決定により運営されているということになります。

     因みに、野球協約が発効したのは1951年です。それまでもプロ野球興行は行われていたのですから、やや奇妙な話ですね。何故にあわてて協約を作ったのかというと、引き抜き横行のプロ野球界に一定の秩序をもたらすことが目的だったそうです。つまり、統一契約書のみならず野球協約すらも引き抜き防止のためにつくられたということです。

     統一契約書はともあれ球団と選手との契約ですから、当該契約書によって選手が何らかの拘束を受けることは構わないと思いますが、原則として12球団の合意によってだけで変更されてしまう野球協約の拘束も受けるというのはいかがなものかなあと思います。

     勿論、制度上は整備されており、統一契約書に関連する事項の修正については実行委員会ではなくて選手代表を含めた特別委員会にて可決することが必要になっています(野球協約19条)。日本プロ野球選手会はこの特別委員会が適切に開催されないことがあるとして日本プロフェッショナル野球組織に対して文句をいっています。「関連する事項」の解釈の問題はあるにしても、もっともな話です。私なんかは、そもそも自分ではない代表なる人間が契約の中身を弄くること自体がいやですけど。やっぱり代理人制度は重要かなあ。



     第4回 保留制度


     1.現在の日本プロ野球における保留制度

     プロスポーツの世界で必ず問題になるといってよいのが選手の保留制度です。制度のよしあしはともかくとして、まず、日本のプロ野球において、保留制度に関する条項(保留条項)がどのようなものになっているかと見てみましょう。

    【統一契約書第31条1項】

     球団は、日本プロフェッショナル野球協約に規定する手続きにより、球団が契約更新の権利を放棄する意志を表示しない限り、明後年1月9日まで本契約を更新する権利を保留する。

     契約が更新されるということは、次の契約期間(つまり翌年のシーズン)についての選手契約が成立するということです。球団が契約更新の権利をもっているということですから、いかに選手側がいやがっても、球団が更新しますといったら翌年のシーズンもこの選手はこの球団の為にプレーしなくてはならないことになります。プレーするのがいやなら任意引退してしまうということになりますが、任意引退選手も保留選手に該当しますので(野球協約第68条第1文)、以下の述べる通り、別の球団のためにプレーすることが認められる訳ではありません。

    【野球協約第68条第2文】

     全保留選手は他の球団と選手契約に関わる交渉を行い、または他の球団のために試合あるいは合同練習等、全ての野球活動を行うことは禁止される。

     保留選手(球団の契約更新権の対象になる選手)は、他球団との契約交渉のみならず、全ての野球活動を行うことが禁止されます。この野球協約の取り決めは統一契約書同様に選手を拘束するものとされていますから、平たくいえば、当該球団の保留選手対象から除外されない限り、いったん特定の球団と契約した選手は当該球団のためにプレーするほかは全ての野球活動を禁止されてしまうのです。

     次回以降、アメリカにおける保留条項の起源を交えてつらつらと書くつもりですが、アメリカではどちらかといえば選手の年俸高騰を抑える手段として保留条項が導入されたのに対して、日本では、二リーグ分裂時の引き抜き合戦や別所投手引き抜き事件等の経験から単純に引き抜きの禁止という意味で導入されているような気がします。

    (今回の小論作成にあたっては、日本プロ野球選手会ホームページにて公表されている2001年度版の野球協約および統一契約書をテキストとして利用しておりますこと御了解下さい。)



     番外編その1


     〜バレンティンと小宮山〜の巻
     02年5月4日
     メッツ@アストロズ・フィールド

     5月4日の朝、地元紙のヒューストン・クロニクルを読んでいたら、アストロズのジミ−・ウィリアムス監督のコメントとして「バレンティンがあんなに活躍するなんてスカウティングレポートになかった」という冗談が記されていた。5月3日のゲームでは、ウィリアムスが監督だった頃のレッドソックスのホットコーナーを守ったバレンティンがメッツのメンバーとして対アストロズ戦の勝利に貢献したのである。けがの関係にて2年間を棒に振って昨年レッドソックスを解雇されたが、今年から内野の控えとしてメッツのロースターに名を連ねている。

     今年のメッツは一層の金満補強により昨年と比べると大幅にスターティングメンバーが代わっている。アロマ−、ボーン、バーニッツのクリーンアップ級や、足のあるセデーニョを獲得する一方で、去年までのレギュラーであったベンチュラ、ジール、アグバヤニ、シンジョウを放出している。そんななかで、バレンティンはけがにて不調のオルドニュスに代わってショートストップを守っている。レッドソックス時代から左右の強いライナーをピシッとさばく守備を見せたバレンティンのファンであった私としては、メッツでも同様に頑張って欲しいと思うのである。

     私にとってほぼ1年ぶりのMLB生観戦となった5月4日のメッツ@ヒューストン戦は、今年から名前の代わったアストロズフィールドにて行われた。話題の長−いホットドックをぱくつきながらスターティングラインアップ発表を見て、流石ボビーやね(バレンタイン監督のこと)と感じたのは、そのバレンティンが4番にでんと構えていたことである。アストロズフィールドでも選手が写真つきでボードに表示されるのであるが、バレンティンの写真は用意されておらず、それくらい意表をついたオーダーだった。

     試合の方は、アストロズのルーキーのヘルナンデス、メッツの若手ダミーコの両先発がナイスなピッチングをみせた。ヘルナンデスは、初回四死球3つにて満塁のピンチを向かえたものの後続をピシッと抑えた。バレンティンへの死球の際には、すわ乱闘(私がはじめて生で見るところの)かとの状況になったものの、大事に至らず。他方、ダミーコも立ち上がりにぽんぽんと連打にて2点失ったものの、以降、緩急をつけた見事な投球を見せた。ともに内角の抜く球が有効的だったようで、みなぶるんぶるん空振りしていた。

     5回になってドームの屋根が開いて夜の涼しい空気がながれこんできたが(アストロズ・フィールドは開閉式天然芝球場)、その頃にはすっかり投手戦の様相だった。

     両投手ともに6〜7回を目処に降板した。試合は結局3対1にてアストロズが勝つのであるが、ルーキーの好投(7回1失点)をドテル及びワグナーのダブルストッパーがピシャリと締めるというアストロズファン待望の展開となった(つまり今日の私にとってはちょっとしょんぼり)。今更ながら、この右・左両腕のダブルストッパーのポテンシャルの高さを認識した。ワグナーが最後にセデーニョを三振にきってとったストレートにいたっては99マイル(約158キロ)の表示すらでた。

     さて、この両ストッパーにはさまれるような形で登場したのがメッツの小宮山だった。故障者リスト上がりでどうなることやらと思ったが8回の1イニングをきちんと抑えた。95〜6マイルのストレートをびゅんびゅん投げるアストロズの両腕に比べると正直見劣りする面は否定できなかったが、長いシーズンいろいろあると思うので、何とか粘っておいしいところを掴み取って欲しいと願う。

     番外編なんで、ほとんど法律のお話ではないのでした。


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