サイコロ野球への招待 by MAKI
第5回 サイコロ野球ゲームデザインの道(解釈するということ)
第1回 サイコロ野球ゲームデザインの道(前段階)
中小学生のみなさんに質問!鉛筆に「ヒット」とか「三振」とか書きこんで、コロコロ転がして遊んだことありますか?
私が小学校の頃は、PSどころかファミコンもなく、「パソコン」という言葉すらなかった時代でした。その頃の男子小中学生なら、一度くらいはサイコロ野球ゲームの類を遊んだことのあったんじゃないでしょうか?
ただ、こういう遊びは、いつか「卒業」するものという思うのが多数派でしたねえ。
いつまでも、「サイコロ野球を卒業できないオヤジ」(つまり私)の戯言でも読んでみますか?もしかしたらおもしろいかもしれませんよ。
まず、サイコロ野球ゲームの最初の姿といえば、前述の「鉛筆にヒットや三振と書きこんでコロコロ転がす」というものでありましょう。友達と好きなチームの打順を書きこんでやると、ケッコウ盛り上がるですよねえ。ホントのサイコロでも代用できます。
例えば、こんな具合でしょうか
1、ホームラン
2、ヒット
3、ヒット
4、アウト
5、アウト
6、アウト
これで物足りなくなってくる点は、
・バッターの差がない
・ピッチャーの差がない
ですね。おそらく、多くの人はこれでヤメちゃうんでしょう。
ここをなんとかしようと思った人は、「サイコロ野球ゲームデザイナー」の一歩を踏み出したことになります。
いいバッターと良くないバッターの差をつける為なら、鉛筆を何本か用意すれば、解決できます。ただ、鉛筆では確率は1/6単位でしか変えることができません。細かい差をつけるには・・・
サイコロを2個用意して、1−1から6−6の表を作って結果を書きこんでいきましょう。これなら1/36単位で差をつけることができます。これは、わりと気がつきやすい方法です。
1−1ホームラン
・
・
・
6−6三振
これを複数、場合によっては個人別に用意すれば、かなり細かい差をつけることが可能です。しかし、投手の要素はまだ入っていません。投手の要素を入れるには、かなりの発想の飛躍が必要です。
次回はそのあたりのことを書いてみます。
では、次回に使うため上記の表を仮に作っておきましょう。
1−1ホームラン
↓
1−3ホームラン
1−4三塁打
1−5二塁打
↓
1−6二塁打
2−1二塁打
↓
2−4二塁打
2−5ヒット
2−6ヒット
3−1ヒット
↓
3−6ヒット
4−1外野フライ
↓
4−6外野フライ
5−1内野ゴロ
↓
5−6内野ゴロ
6−1内野フライ
6−2内野フライ
6−3三振
↓
6−6三振
第2回 サイコロ野球ゲームデザインの道(投手のイメージ1)
第2回は、投手と打者の対決をサイコロ野球でどう表現するかというところからスタートします。
これは、デザインする人が投手に対して、どういうイメージをもっているかに大きくかかわってきます。
まず、思いつきやすい方法としては、打者のサイコロに対する修正です。
一番下の表を見てください。前回作ってみた表です。この表を投手により、目をいくつか有利不利するというものです。
例えば、’2001シーズンのセリーグ防御率1位の野口だったら、目を2つ分下へ、防御率5.00より悪い投手なら2つ上へずらす。といった方法です。
これはこれでおもしろいです。目を1つ2つずらすだけなんて、あまり変化がないようにもみえますが、目は1−1から6−6までの36個しかありませんので、1つずらしただけで、打率にして0.028の差になります。
打率0.028の差というと、’2001のセリーグ首位打者の松井の打率が.333。そこから0.028下げると0.305(打率9位がディアズの.304)。2つずらすと、.277(打率20位がラミレスの.280)。
首位打者と打率20位の差といえば、けっこうな差ですよね。
この方法は簡単なだけに、いろいろな発展形が考えられます。
例えば、野球では左対左は打者不利ということになってますので、左対左では、目を1つ下にずらすとか、走者がいると投手不利にするとかですね。
これを発展させたサイコロ野球ゲームはかなり多くあります。
「野球を打者中心の目で見る」というのは、「ひとつの正解」ですし、おもしろいものです。
でも、「石井一久が投げたら普通の投手の倍くらい三振とってほしい」とか「ヒットは打たれるけど、ホームランは打たれない投手」とかの投手の個性ってのは表現しにくいですね。
次は「野球を投手の目から見たサイコロ野球」について、お話してみましょう。
サイコロ野球打者表(仮)
1−1ホームラン
↓
1−3ホームラン
1−4三塁打
1−5二塁打
↓
1−6二塁打
2−1二塁打
↓
2−4二塁打
2−5ヒット
2−6ヒット
3−1ヒット
↓
3−6ヒット
4−1外野フライ
↓
4−6外野フライ
5−1内野ゴロ
↓
5−6内野ゴロ
6−1内野フライ
6−2内野フライ
6−3三振
↓
6−6三振
第3回 サイコロ野球ゲームデザインの道(投手のイメージ2)
「野球を投手の目から見たサイコロ野球」が今回のテーマです。
「野球を投手から見る」といいますと、「ダンダンダン、ダダダーンとを音楽が流れ、目が炎になり、渾身の一球を投げ込む」なんてシーンを想像する方々も多いのではないでしょうか?私のような「巨人の星世代」は特にそうです。
ここで登場するのが「一球単位のサイコロ野球ゲーム」です。前2回は、サイコロ(または鉛筆)を一回振れば、結果が出ていましたが、これを一球単位してみようということです。
一球目は「外角低めの速球でストライク」二球目は「内角高めのシュートでボール」三球目は「外角低めのスライダー、打者が打って内野ゴロ」なんて風に書くと、いかにも「投手の目」らしい雰囲気になってきます。
実際に、「日本人がデザインし日本国内で販売されたサイコロ野球ゲーム」では、「一球単位のサイコロ野球ゲーム」の方が多いのです。反対にアメリカ人がデザインした「サイコロ野球ゲーム」となると、「一打席単位」が圧倒的に多いです。(この理由についてもおいおい書いていきたいと思います)
一球単位となると、扱う情報の量が一挙に増えます。球種、球速、コース・・・・・
いきなり全部扱うのは無理ですから、コースのことは無視して球種のみ考えてみましょう。
まず、「速球」「カーブ」「スライダー」「フォークボール」と書いたカードを用意します。
1.投手側が、カードを裏向きにして出します。
2.打者側は、球種を予測して、「××を打つ」もしくは「見送り」を宣言します。
3.投手がサイコロを振って、以下の表に当てはめます。
球種一致 球種不一致 見送り
1 打者表 打者表 ボール
2 打者表 ゴロ ボール
3 打者表 ゴロ ボール
4 打者表 ゴロ ストライク
5 打者表 ストライク ストライク
6 ストライク ストライク ストライク
4.上記の表で「打者表」の結果が出たら、打者側がサイコロを振って、下記の表に当てはめます。
1 外野フライ
2 単打
3 単打
4 単打
5 二塁打
6 本塁打
さて、これて一応の形になりました。これも、やってみると、なかなかおもしろいものです。
ただ、球種ごとの特長が出ているとは言い難いですし、コースの要素もあるし、投手による持ち球の違い、速球の球速の違いもあります。
コースを9つとしても、コース(9)×球種×投手の分だけ、表を用意するとしたら、それだけですごい作業です。
1チームの投手10人、一人平均球種5とすると、450になりますねえ・・・
基礎的なデータにしても、アソボウズ等の一球ごとの詳細データを手に入れても、難しい問題が残ります。
次回は、「監督の目から見た投手のイメージ」です。私が個人的に「サイコロ野球の王道」と思っている視点です。
第4回
サイコロ野球ゲームデザインの道(監督の目) 「野球を監督の目から見たサイコロ野球」が今回のテーマです。
監督は、打順を決め、ローテーションを組み立て、試合をコントロ−ルします。しかし、どれだけ考えてもプレイするのは選手で、すべてが思いとおり行く訳ではありません。いろいろ作戦を考えて、サイコロの目でひとつ状況が一変してしまうサイコロ野球のプレイヤーと似たところもありますね。
プレイヤーが実際に身体を動かすわけではないサイコロ野球ゲームでは、前述「監督」は表現しやすい素材です。
ゲームを作るとなれば、そんなに簡単ではありません。
前回のように「投手の目」で見るとすれば、「球種やコースの投げ分け」は、おそらく必須のものとなるでしょう。
「監督の目」の場合はどうでしょうか?必須となるものはなんなんでしょうか?
難しいですねえ。
まずは、監督のやることをいかにとりいれるか見てみましょう。プロ野球の監督をイメージしています。
1.チームの所属選手について
監督は、これについて大きな発言力を持ちますが、最終的判断はフロントになります。
2.スターティングメンバー&ローテーション
これは、監督の専任事項といってもいいでしょう。ということは、打者や投手の能力は明確化されていなければなりません。それから、リーグ戦における投手の休養のルールも必要ですね。この辺はおもしろいところです。
3.打者に対するサイン
打者に対して、バント・強打等々のサインを出すのも監督の仕事です。「刻々とかわる状況のなかで、一球ごとにサインを出す」のを監督の醍醐味といわれる方もおられますが、私個人はそうはおもっていません。盗塁やバントのサインがでても、相手の投球との兼ね合いがあります。それに「ジスボール」(この次の投球で必ずやれ)のサインほど見破られやすいものはありません。私は、あまり重視していませんが、ここをメインにしてみてもおもしろいゲームになるかもしれません。
4.投手に対するサイン
監督が一球ごとサインをだすことは不可能ではありません。実際に、それに近いことをやっている監督もいるようです。でも、私なら、そういうことは捕手にまかせる方がいいようにおもいます。まあ、敬遠の指示は監督がだすべきでしょうね。
5.走者に対する指示
細かいところまで、指示するのは無理でしょう。しかし、事前に「クロスプレイになりそうなら突っ込め(または自重しろ)」という指示をしておくことは可能ですね。ギリギリのところのは場合は、コーチャーもしくはベンチから「行け!」と怒鳴ることもできるでしょう。
6.守備に対する指示
プロをイメージしている以上、細かいポジションとりは選手がやってくれると考えます。ただ、バントシフトの指示はできた方がおもしろいかもしれません。
7.投手・打者の途中交代
投手の疲労の表現も必須に近いでしょうね。ある程度の相性(右対左とか)もルール化すると、代打の起用も考えるかいのあるものになります。
さてさて、ここまでの分だけでも、ゲームに盛り込むのは一苦労です。ただ、ここからのまとめ方は、各人各様です。
こういう問題を、私がどうまとめていったのか。現在作成中のゲームを題材にして、次回からとりあげることにしましょう。
第5回 サイコロ野球ゲームデザインの道(解釈するということ)
私が現在作成中のゲームを題材にしてお話する前に、是非書いておきたいことがあります。今回は、それについて書いてみたいとおもいます。これは、記録を分析する上でも参考になるとおもいます。
それは、「実際のプレイをどう解釈するか?」ということです。
野球のプレイには、複数の選手が関与するのが普通です。「その選手の関与がでれくらいであったか?」を解釈するのは、ゲームを作成する上で必要なことです。
「盗塁でセーフ」というプレイひとつとってみても、それを「走者の成功」と見るか「捕手の失敗」とみるかによって、ルールの作り方は違ったものになるでしょう。考え方によっては、「両方のケースが並存する」という意見もあるでしょう。私も個人的には「並存説」をとりますが、両者の割合等については、デザイナーの解釈によるところが大でありましょう。
ここで注意しなければならないのは、「デザイナーが解釈しようとする行為及び考え」が重要なのであって、「正解」があるわけではないということです。
解釈については、印象に残る出来事があります。’97のセリーグの盗塁阻止についてです。
まず、記録をあげてみます。
試合 許盗塁 盗塁刺 盗塁阻止率
古田 S 137 33 28 0.459
柳沢 G 58 21 17 0.447
両者の「肩」もしくは「盗塁阻止力」をつけようとすれば、まず「盗塁阻止率」の数字を見て、古田を上とするでしょう。
しかし、あるサイコロ野球のデザイナー(私ではありません)は、柳沢の試合数を古田の試合数と同じに換算しました。
試合 許盗塁 盗塁刺 盗塁阻止率
古田 S 137 33 28 0.459
柳沢 G 137 49 40 0.449 (換算)
そして、アウトを多くとっている柳沢の「盗塁阻止力」を上位としました。
私も似たような換算は行いますが、やはり、古田の「盗塁阻止力」を上とみます。それは、「盗塁阻止率」もさることながら、「盗塁企図数」の少なさによるものです。
私は、盗塁阻止については、「盗塁されない」「盗塁する機会を与えない」のが、最もよいと考えています。
前述のデザイナー氏は、「盗塁する機会を与えない」のは、主に投手の責任であり、捕手は(許盗塁が多くても)アウトをとれるのがよいという考え方です。どちらの考え方も成立するものでありましょう。
かように、はっきりした記録であっても、ゲームという限られたものに応用しようとすれば解釈により、このような違いがでてきます。
次回は、現在作成中のサイコロ野球ゲームについてお話する予定ですが、ルールの再検討中ですので、内容は変わるかもしれません。