牧啓夫のヤツ当たり的記録コラム by MAKI

    第1回 「守備率が良いと守備がよいか?」 その一

    第2回 「守備率が良いと守備がよいか?」 その二

    第3回 「守備率が良いと守備がよいか?」 その三

    第4回 「守備率が良いと守備がよいか?」 その四

    第5回 「守備率が良いと守備がよいか?」 その五



     第1回 「守備率が良いと守備がよいか?」 その一


     今回から、いろいろな形に寄せられた記録に対しての質問や疑問に対して、コラムの形で私の考えをヤツ当たりまじりで発表していきたいと思います。

     「守備率が良いと守備がよいか?」 その一

     最初のお題は、MB氏から寄せられた「守備率が良いと守備がよいか?」であります。

     私の答えは「イエス」。

     ほら、終っちゃったよ。後どうしようか?<編集長の声

     それが、そう簡単にいかないんだなあ。逆に考えてみましょう。

     「守備率が悪いと守備が悪いか?」「守備が良いと守備率が良いのか?」

     この2つの質問には、私は「イエス」とはいいません。なぜでしょう。

     そこで、生じる疑問は、「守備がいいというのはどういうことか?」です。

     打撃のことを考えてみましょう。

    A 打率.380、10本塁打
    B 打率.333、30本塁打
    C 打率.300、50本塁打

     A・B・Cのうち一番打撃のいいのはどれでしょう?甲乙つけがたいですね。
     たぶん、人により答えは違ってくるでしょう。それに、打点・得点等、ここに出ていない要素もかなりあります。
     しかし、「Aは確実性がある」「Bはバランスが良い」「Cは長打力がある」とそれぞれ「誉め言葉」が用意されています。

     「守備は野球で最も大事」という人がいるのに、なんで「守備がいいっていう、ひとつの誉め言葉にする必要があるの?」といいたい!そりゃあ、玄人筋ではいろいろとあるようですが・・・

    <ヤツ当たり開始>

     そうなったひとつの原因は「守備は数字では計れない」という、「半分真実半分虚構」の説を、「100%真実」だと信じきっている人たちが多いことです。それも、自分の頭で考えたわけでなく、誰かの本の上っ面だけを読んで、そう思いこんでいるだけの人は多いんですよ。しかも疑問も持たない。

     「守備は守備率だけでは計れない」これは真実だと思います。「打撃が打率だけでは計れない」のと同じことです。じゃあ、なぜ「守備評価を多面的にしよう」としないのか?

     一ファンならともかく、「野球の文章でメシ食ってる人間」なら、考えて当たり前だとおもいます。

     それはなぜか?私は、単に「面倒くさいから」としか思えない。

     打撃成績と投手成績なら、スポーツ新聞にも載っているし、ネットでも比較的簡単に手に入ります。
     ところが、守備成績はそうではないです。
     ベースボールレコードブックやオフィシャルベースボールガイドを買わなければならないし、「守備率以外の守備評価」なんて、そこにも載ってませんから、公式記録を元に自分で考えランキングしなければならない・・・非常に面倒くさいものです。それに、あくまで自分が考えたやり方ですから、本当に妥当性があるかの検証には、さらに多くの時間が必要になります。

     中途半端な「野球の文章でメシ食ってる人間」にとって、そんな面倒くさいことやらずに、「守備は数字では計れない」と言っていた方が楽ですからね。

    <ヤツ当たり終了>

     では次回、「守備率以外の守備評価」について考えてみましょう。

    注意:<ヤツ当たり開始>と<ヤツ当たり終了>の間には、本人としては抑えているつもりですが、人によっては「誹謗中傷」に見える文章が含まれている可能性があります。



     第2回 「守備率が良いと守備がよいか?」 その二


     今回は、「守備率以外の守備評価」について考えてみましょう。

     打撃のタイトルで言うなら、打率以外にも、本塁打・打点・盗塁等々、数多くの種類があります。
     さて、「守備における本塁打」というべきものはあるでしょうか?

     私の答えは「イエス」。

     それは、併殺数です。まず、’2002パリーグの2塁・3塁・遊撃の守備率1位と併殺数1位を並べてみましょう。(守備率/併殺)

    守備率
    併殺
    二塁
    井口(ホ)
    .990/70
    同左
    三塁
    小久保(ホ)
    .977/16
    中村(バ)
    .959/22
    遊撃
    小坂(マ)
    .994/57
    鳥越(ホ)
    .974/70

     これら、3ポジションにおける併殺は、「送球をとってから速さ」や「肩の強さ」等、守備率は「捕れる範囲に来たボールをどれだけ間違いなくさばけるか」の指標ですから、随分違った能力を求められます。そして、一挙に2アウトをとってしまう併殺(三重殺もありますね)は、「守備のホームラン」としての価値は充分ではないでしょうか?

    <ヤツ当たり開始>

     こういう風に話をすると、「簡単なゴロを併殺するのと、難しいゴロで1つアウトをとるのは、どちらが守備が上手いでしょうか?だから、そんな比較はできません。」と、おっしゃる御仁がでてくるんですねえ。

     こういう御仁の意見は、私には「木を見て森を見ない」どころか「木の葉っぱの先にいる虫を見て、森を見ない」という風にしか聞こえないですよね。意見としては、「ごもっとも」と拝聴させていただきますが、そんなケースがどれ位あると思っておられるのでしょうかねえ・・・

     なら、打撃もそういう風に見ればいいでしょ。満塁走者一掃の二塁打とソロホームランのケースがありますね。前者は3点、後者は1点。くだんの御仁はどう言うのでしょう。
     「カブレラの天井ヒット」はどう考えるの?だから比較できないとでも言うのでしょうか?

     個々のケースはもちろん多様な状況があります。しかし、内野で守備機会が、二塁遊撃手と比べ守備機会の少ない三塁手でも200前後の守備機会はありますね。それを総体としてみて評価するのですよ。
     評価そのものに問題があるケースはままありますが。

     評価方法が難しいから、比較しにくいケースがあるから、比較する試み自体が不可能もしくは無駄なんて考えは私にはできないですね。

    <ヤツ当たり終了>

     では、次回、「外野手における併殺と補殺」について考えてみましょう。

    注意:<ヤツ当たり開始>と<ヤツ当たり終了>の間には、本人としては抑えているつもりですが、人によっては「誹謗中傷」に見える文章が含まれている可能性があります。



     第3回 「守備率が良いと守備がよいか?」 その三


     イベント準備のため、2回休載させていただき、読者のみなさんと編集長にはご迷惑おかけしました。すみませんでした。
     今後ともよろしくお願いします。

     今回は、外野手の事を見てみましょう。外野手の場合、全体的にエラーの数が少ないですから、守備率での評価は難しくなります。
     ただ、「外野手の守備はフライをとる」と「とった後、投げる」が内野手よりも明瞭に分かりやすいので、比較は難しくはありません。あるひとつの記録が残ってさえいれば・・・

     それが「守備イニング」です。現在、日本では公式記録にはなく、出版物で公表しようとしている出版物もありません。
     どうしてそれが大事かといえば、「どれ位守っているか」の指標が現在は存在しないことによります。同じ「外野1試合」でも、フル出場した場合と守備固めだけの場合では大きく差があるのは言うまでもありません。
     だからと言って評価そのものやめるのは、愚かなことです。むしろ、現在発表されている範囲で、おもしろいデータを探していけば、データを細かくだそうとする動きもでてくるかもしれません。

     まず、外野手の刺殺(フライ)を試合数で割ってみましょう。(対象は70試合以上外野手で出場)

    ●2002年度パシフィック・リーグ

    選手名
    所属
    年度
    試合
    刺殺
    捕殺
    失策
    併殺
    守備率
    1試合刺殺
    井出 竜也
    ファ
    2002
    119
    248
    8
    1
    3
    0.996
    2.08
    谷  佳知
    ブル
    2002
    123
    250
    2
    0
    0
    1.000
    2.03
    小関 竜也
    ライ
    2002
    135
    270
    2
    1
    0
    0.996
    2.08


    ●2002年度セントラル・リーグ
    選手名
    所属
    年度
    試合
    刺殺
    捕殺
    失策
    併殺
    守備率
    1試合刺殺
    赤星 憲広
    タイ
    2002
    78
    156
    4
    2
    0
    0.988
    2.00
    松井 秀喜
    ジャ
    2002
    140
    262
    5
    2
    0
    0.993
    1.87
    稲葉 篤紀
    スワ
    2002
    115
    215
    5
    0
    1
    1.000
    1.87


     投手や球場等、様々な条件の違いはあるものの、守備範囲の広い外野手が揃っています。
     2リーグ制以降の全試合のうち半分以上外野手として出場した約2500名について調べてベスト5を出すと、

    ●2リーグ制度以降
    選手名
    所属
    年度
    試合
    刺殺
    捕殺
    失策
    併殺
    守備率
    1試合刺殺
    ジャクソン
    アト
    1967
    114
    324
    8
    7
    0
    0.979
    2.84
    高沢 秀昭
    オリ
    1984
    97
    268
    9
    4
    2
    0.986
    2.76
    中  暁生
    ドラ
    1965
    129
    350
    4
    5
    1
    0.986
    2.71
    福本  豊
    ブレ
    1977
    130
    351
    7
    7
    6
    0.981
    2.70
    坪内 道典
    ドラ
    1951
    113
    305
    9
    4
    0
    0.987
    2.70


     となります。アトムズのジャクソンについては、具体的印象はありませんが、福本や中は守備の広さで有名です。
     こういうランキングはベスト500位並べてみると、それなりの傾向が出てくるものです。

     今度、7月にアメリカ野球学会の研究会で、外野守備の評価について発表する予定です。発表用に集めたデータも絡めながら、次回も外野手についてです。(今度こそ補殺についてです。)

    <ヤツ当たり開始>

     記録屋の立場から言えば、新しい数字を作ろうとしている人については、あまり悪くは言いたくない。しかし、自分の考えに自信を持つあまり、傲慢な態度をとる輩を良く見かけるのは嘆かわしいことです。
     「世の中、俺の考えが分からん馬鹿ばっかりだ!」まあ、友人との酒の席で言う分にはかまわんでしょう。(かく言う私も言うことはあります)しかし、某氏のように、サイト上で書いてしまうのは信じられんですね。もっとも彼の場合は、似たようなことを自分以外のサイトの掲示板でもやるからなあ。
     もし、新しいことを思いついたなら、ひとつ責任も増えることなんですよ。ここに気づかない人は、他人に意見をなかなか聞いてもらえないですね。

    <ヤツ当たり終了>

    注意:<ヤツ当たり開始>と<ヤツ当たり終了>の間には、本人としては抑えているつもりですが、人によっては「誹謗中傷」に見える文章が含まれている可能性があります。



     第4回 「守備率が良いと守備がよいか?」 その四


     外野手の守備評価で、守備範囲とともに重要な要素と言われているのが、「肩」です。
     「内野を抜けてきたボールを捕ってアウトにする」ことや「タッチアップした走者を刺し、一挙に併殺にする」というのは、外野守備の華もいえるプレイです。新庄がタイガース時代に年俸交渉の席で、「外野手の併殺は、打者のホームランに匹敵する。」と主張したことがあったそうですが、わかる気がします。

     これも、前回と同じく「守備イニング」が公表されていませんので、試合数でわってみましょう。「(補殺+併殺)/試合」です。プレイの数から見ると「補殺/試合」の方が的確であるという見解もあるでしょうが、併殺の効果をいわばボーナス点として、より高く評価してみました。

    ●2002年度セントラル・リーグ

    選手名
    所属
    年度
    試合
    刺殺
    捕殺
    失策
    併殺
    守備率
    1試合捕殺+併殺
    井上 一樹
    ドラ
    2002
    85
    106
    7
    2
    4
    0.983
    0.13
    福留 孝介
    ドラ
    2002
    139
    241
    14
    4
    3
    0.985
    0.12
    前田 智徳
    カプ
    2002
    115
    154
    10
    2
    0
    0.988
    0.09


    ●2002年度パシフィック・リーグ
    選手名
    所属
    年度
    試合
    刺殺
    捕殺
    失策
    併殺
    守備率
    1試合捕殺+併殺
    井出 竜也
    ファ
    2002
    119
    248
    8
    1
    3
    0.996
    0.09
    立川 隆史
    マリ
    2002
    85
    126
    6
    2
    1
    0.985
    0.08
    中村 豊
    ファ
    2002
    74
    86
    5
    0
    1
    1.000
    0.08


     みた印象はどうでしょうか?前回がセンターの選手が多かったのに比べ、今回は両翼の選手が多いですね。両翼の選手の方が塁に近い事が一因でありましょう。
     その中で、主にセンターを守りながら、パリーグのトップの井出は特筆に価しますね。
     2リーグ制以降の全試合のうち半分以上外野手として出場した約2500名について調べてベスト6を出すと、

    選手名
    所属
    年度
    試合
    刺殺
    捕殺
    失策
    併殺
    守備率
    1試合捕殺+併殺
    渡辺 博之
    タイ
    1951
    98
    204
    20
    1
    6
    0.996
    0.27
    小野田 柏
    パル
    1953
    90
    213
    18
    2
    4
    0.991
    0.24
    吉田 勝豊
    フラ
    1962
    92
    199
    17
    8
    5
    0.964
    0.24
    平野 謙
    ライ
    1989
    98
    196
    21
    1
    2
    0.995
    0.23
    日下  隆
    パル
    1954
    130
    242
    23
    4
    7
    0.985
    0.23
    原田 徳光
    ドラ
    1951
    109
    278
    18
    3
    7
    0.990
    0.23


     吉田、日下、原田と当時を代表した強肩外野手がそろっています。現代に近くなると、強肩の外野手のところへボールが飛ぶと、走者が自重してしまい、外野手が補殺をするケース(クロスプレイのケースですね)が減少する傾向がみられます。その中で、’89の平野がトップグループに入っているのは、これも特筆に値します。
     守備の評価は難しいものです。分析するにも、他人に伝えるにも。
     もっと、シンプルに言うことはできないでしょうか?例えば、外野手の「ダブル2」200刺殺20補殺(+併殺も可)です。こんな言い方がはやれば、守備に対する光の当て方も違ってくるかもしれません。
      ’50〜’2002の「ダブル2」達成は37回です。

     次回は’2002のゴールデングラブを検証してみましょう。

    <ヤツ当たり開始>

     今回の原稿を書いていて思ったことは、私も含めて記録屋のセンスのことです。
     昔、「猛打賞」や「トリプル3」を思いついた人は偉かったですなあ。
     今回、外野手の「ダブル2」にしても、思いついて何もおかしくない数字です。野球を「おもしろく見よう、伝えよう」という態度が十分にあるか?
     不足しているのは、意欲か、才能か?

    <ヤツ当たり終了>

    注意:<ヤツ当たり開始>と<ヤツ当たり終了>の間には、本人としては抑えているつもりですが、人によっては「誹謗中傷」に見える文章が含まれている可能性があります。



     第5回 「守備率が良いと守備がよいか?」 その五


     ’2002のゴールデングラブについてみてみましょう。

    ●セントラル・リーグ

    松井 秀喜 ジャイアンツ
    高橋 由伸 ジャイアンツ
    福留 孝介 ドラゴンズ

    ●パシフィック・リーグ

    小関 竜也 ライオンズ
    谷  佳知 ブルーウェーブ
    井出 竜也 ファイターズ

     まず、パリーグから。この3人は、前にとりあげた(刺殺/試合数)のベスト3でもあります。

    選手名
    1試合刺殺
    守備率
    小関 竜也
    2.00
    0.996
    谷  佳知
    2.03
    1.000
    井出 竜也
    2.08
    0.996


     守備率でいっても、リーグの1(谷)・3(小関)・4(井出)です。文句のない成績ですね。
     でも、守備率だけでいうのなら、規定試合(全試合の2/3以上)では、谷と同じ守備率1.000の磯部がいますが、1試合刺殺では、1.67と大きく劣っています。

     パリーグが記者投票と数字が近いものになっているのに比べ、セリーグはやっかいです。
     規定試合で限定してみると、フル出場で刺殺/試合で1位(1.87)で守備率4位(.993)の松井は、まず文句ないでしょう。
     次の福留ですが、守備率(.985)は14位、刺殺/試合でも4位と若干低めですが、補殺でダントツの1位(2位はカープ前田の10)ですから意味があります。

     問題は、次の高橋です。

    選手名
    1試合刺殺
    守備率
    高橋 由伸
    1.87
    0.996
    稲葉 篤紀
    1.67
    1.000


     数字だけ見れば、稲葉の方が上に見えます。
     そして、守備率だけでいえば、稲葉(1.000)、清水(.996)桧山(.995)になります。
     さて、これをみてのご感想はいかがでしょうか?
     記者投票を「同時代にプレイをみた人の印象」と考えると、守備率だけの評価で、随分差がでてしまいましたね。
     刺殺/試合、補殺/試合という比較的簡単なデータをプラスするだけで、かなり「同時代にプレイをみた人の印象」に近づいてきたようにおもえます。
     それでも、高橋や稲葉のような問題もあります(記者投票の方に問題がある可能性も常に存在していますが・・)

     「守備率が良いと守備がよい」というのは、物事の一部分しかみていないのではないでしょうか?おらず、多少考えを広げれば、いろいろな事が見えてきます。
     その一端を感じていただければ、拙文を書いたカイがあります。

     今回で、このネタは一応終了とさせていただきます。
     もし、とりあげてほしいネタがありましたら、編集長もしくは私あてにお願いします。


現連載

過去の連載

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