スポーツというおしごと by らい

    第6回 客席案内人スーパーバイザー 〜その2〜

    第7回 Major League Baseball[MLB]オールスターボランティア 〜その1〜

    第8回 Major League Baseball[MLB]オールスターボランティア 〜その2〜

    第9回 セフィコフィールドチームストア店員 〜その1〜

    第10回 セフィコフィールドチームストア店員 〜その2〜



     第6回 客席案内人スーパーバイザー 〜その2〜


     仕事は、試合開始の4時間前から始まります。まずはスタッフ会議に出る為にオフィスに行き、今日の仕事の確認をします。大体が安全確認の話になるのですが、後は簡単な打ち合わせをして、今日スタッフが着るジャケットや案内事項を持ち、スタジアムに向かいます。

     球場に着くと、客席案内人やチケットもぎりをやったり、セキュリティとして働いてくれるスタッフがやってくるので、そのスタッフの為のオリエンテーションを行ったりします。これは最初に簡単な説明を行い、後はセクションごとにわかれて、実際の詳しい説明が行われます。
     この時にどの案内人と働くのかがわかるのですが、僕は皆に心地よく仕事をして欲しいので、こららのして欲しいことをはっきりといいます。そうすると、ほとんどの案内人が理解してくれるので、仕事はしやすいですね。

     僕のセクションには車椅子のファンが座れる為の席があるので、車椅子のファンとその立会人の為に、席のアレンジなどもします。
     僕のセクションは、半分がシーズンチケットホルダーで残り半分は一般席なので、シーズンチケットホルダーのほとんどのファンが自分の席を知っているため、客席案内は、一般席に来るお客さんの方が中心になります。そして試合前には、担当すべての客席と通路、階段、トイレをチェックして、壊れていていないかどうかを確認。壊れている場合は、応急処置をして対処します。
     試合の間、各案内人は通路の一番上側に立って(客席へは下っていくようになるのです)、ファンの案内をします。ファンの中には、年を召されて歩行が困難な方もいるので、そういう場合は、その方を席までエスコートします。
     クォーターの間やタイムアウトの時に、各案内人は通路を回り、なにか異常がないか、あるいは、アルコール違反者がいないかどうかをチェックします。NCAAの規定により、アルコールの持ち込みならびに販売は、スタジアム内では禁止になっているので、違反者は退場となるのですが、これを取り締まるのが中々難しいです。この時は僕もなるべく一緒に動いて、見るようにしています。

     各案内人には前半と後半に一回ずつ休憩を与えることになっているので、その時には、僕が案内人として立ちます。それでその際、一回りするにはかなりの時間があるので、自分の休息時間が来る頃には、足が疲れてきます。
     僕のセクションの一般席側の方は相、手側ファンの席とも近いので、けんかが起きないように注意を払う必要があります。これらはセキュリティと組んでやるので、そういう場面が出くわしたことはなかったですが・・・。

     試合が終わると、案内人は席をもう一回チェックしなおします。
     アルコールをどの席で飲んでいたかのチェックをする為でもあり、なにか席が破壊活動で壊れたことがないかも、チェックします。そしてこの時は、僕も一緒に見るようにしています。
     夜や寒い日に行われる試合の時は、アルコール度数の高い飲み物を発見することもありますが、これらを見ると、やはりセキュリティにも限界があるんだなと感じます。
     この間に僕は案内人から教えられた酒の発見場所や壊れている席などの報告を受け、それをリポートする為に、紙に書き写しておきます。

     その後、案内人は帰る為に受け付けのところに行き、リポートをして終わりです。

     それから後は、スーパーバイザー達が集まり、今日案内人が着たジャケットや必要書類などを持ち、又オフィスに戻って、ミーティングを行います。ちなみにこの時、アルコールの報告などや、その日に起こった出来事などを話します。
     そして、それが終わるとようやく仕事も終わるのですが、大体これは球場入りしてから8時間経つ頃になります。(終)



     第7回 Major League Baseball[MLB]オールスターボランティア 〜その1〜


     野球のオールスターゲームって華やいだ雰囲気でいいですよね?僕としては、大好きなイベントの一つですし、もしもそんなオールスターに参加できたら、それは一生物の思い出となることでしょう。そして昨年、僕もその名誉を授かることができました。今日は、そのときの話です。

     MLBは30球団があり、各都市持ち回りなので、なかなかオールスターが自分の住む町に回ってくることがありません。したがって昨年シアトルで開催されたオールスターは、球団創設以来二回目となります。

     オールスターイベントはMLB主催になるので、MLBが管理することになります。さらに開催地は、五日前からオールスターを盛り上げる為に、町を上げてイベントをやるのです。

     オールスターファンフェストもその一つです。オールスター前の四日間と、開催日を合わせた五日間のファンフェストは名前の通りファンの為の祭でして、色々なイベントが一つの会場で行われます。バッティング練習(それもテレビ画面がクレメンスで、クレメンスと対戦するように見える)、往年の選手達による少年野球クリニック、オールスター特別ベースボールカード販売のコーナー、移動版野球の殿堂(野球殿堂のスタッフと飾られている物、ワールドチャンピオントロフィーなどが見れる、)バットを作る移動工房など野球ファンとしては何時間いても飽きない祭です。そして僕は、その中でも一番お客さんを集めた「MLB Legend」というコーナーでボランティアをやる機会ができたのです。

     ボランティア募集は大体マリナーズのウェブサイトや地元の新聞、テレビなどで三月くらいから告知があります。僕も夏休みはシアトルのホストファミリーの家にいる予定でしたので、ぜひ参加してみたいと思い、応募してみました。そして、運良く友達も参加することとなったので、おたがい情報を集めながら、ボランティア説明会に足を運んでみました。
     ボランティアと言っても色々あり、空港にやってくるファンや有名人の方に町の説明などをする係や、インフォーメーション・センターで働く係など沢山いたのですが、僕は幸運にも、往年の名選手達がサイン会をする会場「MLB Legend」のボランティアとなりました。最初に、MLBから手伝いに来たスタッフの方々に連れられて、自分らの仕事の場所や注意事項、安全面の確認などの作業が、ファンフェストの前に行われました。この仕事はファンの交通整理みたいなものですね。一つの台座に4人の名選手が座るので、一辺に大人数のファンが台座に上がらないように、ファン一人一人に台座に行くタイミングを教える係をやりました。

     このファンフェストは朝の9時から夜の9時くらいまで開かれており、僕も朝8:30から昼の12:30までのシフトで、ファンフェストのある5日間すべてに参加しました。実をいうと、MLBファンの方には申し訳ないのですが、かなりの選手の名前が判らなかったです。それでも、僕でもわかる、殿堂入りのウォーレン・スパーン、バート・キャンパネリス、マリナーズがほこるスターのデーブ・ヘンダーソン、ハロルド・レイノルズ、アルビン・デービスなど、沢山の選手がサイン会に登場しました。
     ファンフェスト自体には$15と入場するのにかかるのですが、サイン会自体はタダなので、$15を払うと、誰でもサイン会に参加できます。しかしファンの数も、地元シアトルだけでなく、全国から来るので、色々なファンと話をすることができました。

     昼頃になると、2時間待ちという状況もでき、大変な賑わいです。待つことがキライなアメリカ人も、往年の選手のサインが貰えるとなると待つんですね。驚きました(笑)。その当日の模様は、また次の機会です。

    (続)



     第8回 Major League Baseball[MLB]オールスターボランティア 〜その2〜


     Stadium Exhibition Centerというセフィコフィールドの横で行われた5日間のイベントでは、なんと8万人というファンフェスト最高の数字を記録しました。一番凄かったのは、週末も重なった二日目の2万人でした。ただ一番の不満は、スター達のスケジュールの都合上、サイン会開始5分前じゃないと誰が登場するかわからないということです。ファンはやはりお目当てのスターのサインが欲しいのですが、そんな文句も言うヒマもないほど、たくさんのスター達がやってきてサインをしていました。一回に尽き約2時間のサイン会で大物はローリー・フインガー、ウォーレン・スパーン、ボブ・フェラー、ゲーリー・カーターなども来ていました。

     面白いのは、発表される時の観客のリアクションで、先ほど述べた選手達の名前が登場すると、全体から「おお!!」という声が広がり、拍手も広がって、サイン会以外からまた別のファンが押し寄せ、更に待ち時間が多くなるということですね。
     ウォーレン・スパーンはファンから人気があり、一人一人と話し込んでしまうので、なかなかファンの列が進まないのですが、ファンには好評でした。やはりファンを大事にするのは、現役時代だけではないんですね。このように、オールスターファンフェストでは、数々の、ファンと選手達のいい関係を見た5日間でした。
     また、4人のスター達が座るので、右二人、左二人とスター達が座る台座が大きくないことから、一回にファンが登れるのは、左右合わせて4組だけ。ですが、そのような制限を設けてもさらに時間がかかるので、ファンがもらえるのは右に並んだ場合、右側に座っている二人のスターだけ、という制限をさらに設けました。そして僕も、その左側の台座の前でファンに台座に上がるタイミングを教える係となりました。
     ここでは野球カード会社のアッパーデック社から無料のカードを渡されていたので、子供達に一枚ずつ配ったりしていましたが、大人のファンでも、「僕も昔は子供だったんだから一枚頂戴」という輩もおりました。
     それと、さすがファンフェスト一番人気の会場だけとあって、全国から色々なファンが来ています。ニューヨークからのファン(特にヤンキースのファン)は容赦なく周りから突っ込まれたりしていましたが、それでもいろいろと楽しい話ができました。中には6年連続でファンフェストに参加しているボランティアもいます。もちろんファンフェストは毎年各都市を持ちまわるので、6年連続のボランティア参加者は、自費で来ているとのことです。そんなことをしてまでも参加したいオールスターって、やはりすごいですね。

     全米に30球団あるMLBでは、オールスターが目の前で見れるチャンスは、30年に1回くらいのチャンスでしかないのですが、自分がいる町でオールスターを見ることができ、更にボランティアとして参加できた5日間は、夢のように終わりました。将来自分の子供達や孫達に話せる事が又一つ増えたのはよかったです。
     もし皆さんがオールスターに行かれるチャンスがあるのなら、試合だけでなく、その周りで行われるファンフェストに行くことをオススメしますよ。

    (終)



     第9回 セフィコフィールドチームストア店員 〜その1〜


     過去二回に渡ってお送りしたオールスターボランティアですが、この時、実は同時に、シアトル・マリナーズの本拠地、セフィコフィールドにあるチームストアで、私はインターンとして店員をしていました。
     これは学校のクラスの一貫でもあるのですが、プロのチームにインターンとして働いて、リポートを書くというものです。
     このクラスは選択制で、夏しかやっておらず、他の夏のクラスを取らないと決めていたため、私はこのクラスだけに集中できました。
     ただ、クラスとはいっても、別に学校に行って授業を受けるのでは無く、Eメールとかで先生とやり取りするだけです。
     他には、単位数に合わせて規定の時間を働かないとダメで、更にその時のパフォーマンスが直属の上司(この場合チームストアの店長)に評価されて先生に送られるので、まじめにやらないとこのクラスはパスできません。

     ホストファミリーがシアトルに居たので、遊びに行くついでに、マリナーズの試合を見に行こうということになりました。しかしながらその時、ホストファミリーは都合がつかなくなってしまったので、ホストファミリーの友達の家族と行くことになりました。席はあまりいい席ではなかったので、レフトにある立ったまま野球が見れる場所で、友達と見ていました。
     友達と、ビールを飲みピーナッツをかじりながら見ていて、隣にいるおじさんとも仲良くなりました。そのおじさんの息子が、実は日本に住んでいたことがあるという話になって盛り上がり、その息子が試合途中にやってきて、さらに日本の話で盛り上がりました。そして私は、彼がチームストアで働いていることを知り、マリナーズでどうやったら働くチャンスがあるのかを聞いてみました。彼は日本人の店員なら今、不足していて、働く気があるならやってみないか?という誘ってくれました。

     なんという偶然でしょう?偶々、見に行った試合で、偶々隣同士になっただけでこんな道が開けることなんてあるのでしょうか? そこで次の日、マネジャーに会う為、チームストアに行き、応募用紙に書き込んで、面接の日時を決めるから連絡するという返事を貰い、家路に着きました。
     しかし、それから一週間なんの返事も無く、こちらがしびれを切らして電話をかけてみると、ようやく反応があり、インタビュー(面接)の日時も決まりました。
     これは後から判るのですが、FOLLOW UP CALLと言って仕事を見つける時、担当者にしつこく電話することによって、インタビューできる可能性が上がるとのことです。

     インタビューの日は自分だけなのかと思ったら、その場に四人候補者がいて、そこから選抜するとのことで、自分の特徴をだしながら、売り込みをしました。向こうとしても日本語と英語の両方しゃべれることに興味を持ってくれたのか、ぜひ働いてくれという返事を貰い、2001年の夏とうとうマリナーズの一員となったのです。
     アメリカの場合、ほとんどが球場運営も球団で行う為に、球場で働いている人達も、チームの一員です。僕もマリナーズの一員として、マリナーズグッズを売るという仕事に就きました。
     チームストアの中では自分もマリナーズなので、マリナーズとして恥ずかしくないような格好や仕草、知識が問われます。でも自分にとっては、あこがれの球団で働ける楽しみと、大学卒業後のコネクション作りの為に、どうしてもこの経験は必要であると思っていました。自分のレジメ(履歴書)の為に経験を積むなんて書くと悪い言い方のように思われるかもしれませんが、意外とアメリカの大学生もやっているんですよ。

     さて、次回は仕事の話についてです。



     第10回 セフィコフィールドチームストア店員 〜その2〜


     さて、チームストアで働きだす日々が始まりました。2001年はイチローブームの真っ只中で、イチローグッズの売上がなんと全体の25%近くをマークしていた頃でしたから、よく「ホントはイチローグッズ隠しているんでしょ?」とお客さんに言われたりしたのですが、当時はホントに倉庫に行っても在庫がなかったのです。その年は、毎月の売上が新記録というとんでもないイチロー効果に支えられていたと思います。グッズでもコーヒーカップから下敷きからよく判らないのが記念用のイチロープレートでホントに買う人がいるんかいな?と思ってもやはり人気は凄いものでそんなプレート(失礼!)でも売れてしまうんですね。

     チームストアには外からの入り口は一つなので、そこの前に立ち、セキュリティ兼通訳兼店員というずいぶん兼任が多い仕事をしていました。
     入り口だから店には入らないけど、質問がある方も全部僕のところにくるわけです。例えば、一番多い質問は「トイレはどこ?」。他には「この回りでうまいレストランはどこ?」、「ゲートの開門時間は何時?」などから「佐々木は今日投げるのか?」、という試合の展開次第で判らないような質問から「イチローのサイン会は何時?」というまったくのデマの質問までなんでもきます。
     後、チケットの売れ具合、ホテルへの帰り方、バスの乗り方、飛行場までの行き方など自分のやってる仕事はホテルのコンシェルジュなのではないだろうか?と思うような質問が多く、思わずコンシェルジュデスクを球団に作ってもらおうかな?と思いましたがさすがに二ヶ月しかいないのでそれは辞めときました。

     この2001年シーズンはマリナーズのシーズン最多勝を達成した年でもあり月間でも20勝ずつしてしまうようなチームでひどい時は途中で負けていても「こりゃ逆転するよ」と言い始めるとホントに逆転して勝ってしまうというマジックのようなシーズンでした。 この球団の活躍とイチロー効果で試合開始前と終了後は動けないくらいの混雑になるのです。入り口ではトランシーバーを持ちながら入場制限をしなければならないくらい人の流れがチームストアに集まってきたのでした。

     だから逆に言うと、試合が開始してからのほうが実はお客さんが球場のほうに行くので、夕飯を食べる時間ができたりするんですね。30分しかない休みでしたが、なるべく試合のある日は球場の中で見ながら食べてました 店員になって特するというのは、毎日試合する場所で働けるということだったと思います。試合がある日(例えば夜7時開始の場合)は昼3時から試合終了後一時間半くらいまで働いていたので、クタクタになるのですが、それでも球場で働ける満足度は他のどんなことにも変えがたい出来事でした。
     そんな忙しさでも、お客さんから「今日の試合よかったね」と言われたりすると、自分のことのように喜んでくれるファンはやはり大事なんだと思いましたね。

    (続)


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