スポーツというおしごと by らい

    第16回 インターン編 〜その2〜

    第17回 インターン編 〜その3〜

    第18回 インターン編 〜その4〜

    第19回 インターン編 〜その5〜



     第16回 インターン編 〜その2〜


     さて、ゲームがある日と無い日とでは、かなり仕事の内容が変わってきます。なぜなら、ゲームがある日に新しい事は中々始められないのです。
     ですから、ゲームの無い日にじっくり時間をかけて新しいことをやるようにしています。

     ここ最近では、Acesとして観客動員を伸ばす為に、Surveyといわれるアンケート用紙の作成に挑みました。こういう事はリサーチなどの時間もかかるので、ゲームがある日にはできない仕事です。

     ゲームがある日は、朝にスタジアムの点検をします。これをリポート用紙に記入していき、問題点があった場合はGMとミーティングで話し、問題点を解決させます。
     Acesのコンサルタントの人が言ったのですが、「インターンにはマネジメントを勉強させる為に来ているのだから、ゴミ拾いとかをやらされるようになったらチームを辞めていい」と・・・。これはある意味大きなショックでしたね。インターンだからゴミ拾いでもやってもいいやと思っていたのですが、チームとしては、マネジメントを勉強する為にインターンとして雇ったのだから、他の事は他の人にやらせるべきだと・・・。
     これを聞いて確かにそうだなと思ったのですが、さすがに理想と現実は違うものです。理想と現実が違う一番の問題点は、スタッフが少なすぎるという点です。ゴミ拾いもいるにはいるのですが、全部終わることができないために結局、点検の時にゴミが見つかるということです。

     あと、自分が自分の仕事をやった後は完璧に終わらせたいと思う性格ならではなのかもしれませんが、点検中にもかかわらずゴミ投げをやることにしています。結局このお陰で時間はかかりますが、ある程度自分で納得して行動しているので、ゴミ拾いは別に苦ではないです。コンサルタントの言うことも一理あることは分っていますが、残念ながらそれは、大型や中型での組織では可能なことかもしれませんけれども、Acesのようにあまりにも小さすぎる組織の中では、ゴミ拾いでもやらないと、まずいことになってしまうのです。

     さて、昼間になると、業者からの荷卸をする為に球場の各ゲートを開け、荷物とInvoiceというレシートを見比べながら間違いがないかをチェックし、それが終わると、今度は、プログラムに入れるチームの成績表や選手表などをコピーし、これを一枚一枚、プログラムの中に入れていきます。
     これは、意外と時間がかかります。そして、そんなことをしている間に時間がたち、試合開始3時間前になると、食べ物や飲み物を売るConcessionと言われる売店を担当するマネージャーが来るので、マネージャーやGMとのミーティングを行っているうちに、時間があっという間に過ぎていきます。それに加えて、実際にConcessionを開店させる準備の為、さらに時間がかかるのです。
     また、その間にもほぼ同時進行で、インターンとして試合が始まった時から始まる、各自の仕事の用意をします。

     それから、Press Boxといわれる報道席では、そこのアシスタントもします。報道席というと、聞こえはいいのですが、実際にはBeat Writerと言われるチーム担当の新聞記者と、Web新聞の記者の二人なので、その二人以外の人というと、皆チームで働く人達も座っていることになります。Play By Play Announcerといわれる実況担当アナウンサー、公式スコアラー、スコアボードオペレーター、PAアナウンサー、対戦チームの実況担当アナウンサーという人達が同じ報道席で働いています。
     さてPress Boxでの仕事の様子は又、次の機会に・・・。



     第17回 インターン編 〜その3〜


     Press Boxでのアシスタント仕事は楽しいものです。試合開始前にはPress Boxで働く人達の食事と飲み物の用意をします。試合が始まればPress Boxに居て試合速報を一時間ごとにリーグオフィスに連絡をする係となります。同時にリーグから他チームのスコアの速報を教えてもらい、PAアナウンサーとラジオアナウンサーに他チームのスコアを教えることとなるのです。
     新聞記者やPAアナウンサー、スコアボードオペレーターがいる空間と公式スコアラー、ラジオアナウンサーがいる空間はドアを隔てて一枚のところにありますが、普段はラジオの邪魔をしないということでドアを閉めています。ただ、プレイのジャッジが難しい時に記者やスコアボードオペレーターからの質問が出ると、それを確かめに行くのもアシスタントの役割です。
     一度、それを確かめに行った時に、ラジオアナウンサー、スコアラーと僕と三人協議の上で、ジャッジをしたことがありました。スコアラーといえども、ジャッジが難しい時は最後に皆の意見を聞きます。もちろん最終的決定権はスコアラーが持っているので、彼の一言で決まりますが、瞬間にプレイを判断していかないとならないので、野球に精通していないと勤まる仕事ではないでしょう。

     試合が終了すると、スコアラーから正式なGame Statsと呼ばれる物が手渡されます。よく新聞でみるような、その日の選手の成績表ですね。それをオフィスに持って行き、ファックスでリーグオフィスに結果を知らせてから、アシスタントの仕事が終わります。

     プロモーションのアシスタントもたまにします。他のインターンと分けて仕事をしているので、Press Boxで働かない時は、プロモーションの手伝いをします。プロモーションは人手が足りないので、Business Managerがゲーム時になるとプロモーション担当になりますが、それでも人手が足りないので、インターンがこれを手伝うことになります。試合開始前にリトルリーグの選手達がAcesの選手達と一緒の守備位置について国歌斉唱を聞く時のアレンジとか、イニング交代時に行われるOn-Game Promotionというプロモーションの手伝いをするのです。例えばやわらかいゴムでできたおもちゃのボールを観客席に投げ入れたりするのですが、投げる時もなるべく観客席全域を対象にするように、投げる前に左右前後の観客を煽りながら投げるようにします。すぐボールを投げ込むのではなく、なるべく投げるそぶりを見せかけたりボール欲しいかい?というようなジェスチャーでファンを焦らしながらすると、プロモーションとしては盛り上がりますね。沢山の人が注目するので、なるべくわかりやすい動きをする必要があります。プロモーションは試合開始前から7回まで行われます。この仕事も中々楽しいものです。

     さて、次はConcession Standと言われる売店での仕事です。



     第18回 インターン編 〜その4〜


     Concession Standは日本で言うとホットドックなどの食料を売る売店ですね。日本みたいに幕の内弁当でも売っていると個人的には嬉しいのですが、まあいたしかた無いです。

     さて、コンセッションではホットドック、ナチョと言われるポテトチップスにチーズをかけた物、おなじみホットドック、ハンバーガー、コーラなどに代表されるソフトドリンクなどがあります。シーズン終了直前にConcession Managerが私用でこれなくなったので臨時マネージャーとしてコンセッションの陣頭指揮をしました。
     Acesではコンセッション マネージャーはコンセッションの他にカフェと言われる、少しばかり高級な食べ物とビールを扱い、中にはテレビとソファがあるスポーツバーのような雰囲気を持った所と、スーベニアスタンドと言われるAces Goodsを扱った店、Beer Standと言われるビール専門に売るスタンド、Wheel Of Fortuneと言われるホイールを回して止まったところに書いてある物が貰えるゲーム、そして球場内を歩き回って客からオーダーをとるウェイトレスまでのパートタイムの人を一まとめにするのが僕の仕事となりました。

     マネージャーの仕事は在庫のチェックから始まります。
     足りない場合はオーダーをしないといけないのですが、これもやっかいなもので、プロモーションでどのくらい客がくるだろうか?天気によって飲み物の売り上げは変わるだろうか?ということを予想しながらオーダーをしなければなりません。他のチームと違い予算に限りがかなりあるのでかなり悩みます。

     他には、店の開け閉めの他に各セッションで使うお釣り用のお金の勘定を、GMと共に試合前には終わらせます。

     それから、ゲームが終了したあとでまた、すべてのお金の勘定をGMやビジネスマネージャーとともにするのです。この、お金の勘定が意外とてこずりますね。皆、疲れている上にこのお金の勘定を終わらせないと家に帰れないので一生懸命やりますが、三回数えてすべてちがう勘定になるとすべて大声をあげたくなります。いろんな意味で・・・。

     後、他に面倒なのは働く人たちのローテーションです。休みのリクエスト以外では、なるべく公平に働く機会を全員に与えているのですが、突然休む奴もいるし、休みなのに働きにこようとする奴もいるし...働く日を教えるローテーションカードという物を先に渡しているのですが、こうも頻繁に休まれたりすると、最初のカードの意味が無くなることがしょっちゅうあります。しかも、こんなことで休むのか?と言いたくなるようなことでも休むのです。その上、オーナーから人数を試合途中で減らせという訳の分からないオーダーが出たりすると、それでなくても人手が足りない場所になおさら人が居なくなり、またそうゆう時に限って客が集中し、先ほどカットしたばかりの人の手でも借りたい位の忙しさになるのです。

     さて、次はConcession Manager奮闘記の一つです。



     第19回 インターン編 〜その5〜


     Concession Managerとしての仕事は実質、最後の二つのホームスタンドを担当した時だけでした。本当のConcession Managerのおばあちゃんが急病で、彼女がこれなくなった為に、その仕事が回ってきたのです。実を言うと、マネージャーの仕事をする前にもインターンとしてConcessionの手伝いをしたり、マネージャーと一緒に店の開け閉めを手伝ったりしていたので、自分がマネージャーになることになっても新しく覚えることは余りなく、スムーズに事は運んだのでした。ただ、同時期に他の仕事も多くなったり、オーナーのやっていることでストレスを感じたりと多かったので、一度だけ辞めようと思ったことがありました。

     ある日の事、仕事の準備をしていると、予定には無い人が来て、「今日は働くんだ」と言い始めました。彼女が予定を忘れていると思ったので、すぐさま彼女を呼び、今日は休みであるからということを告げたのです。そうすると彼女はとたんに不機嫌になり、文句を言い始めました。他の人のスケジュールに余裕があれば彼女を入れてあげることもできたのですが、こういう日に限って誰のスケジュールも空いてなくて、皆、予定通りに来ていたのです。するとしばらくして、他のインターンと彼女が話を始め、それから更にしばらくすると、そのインターンが突然言い出したのです。「彼女はGMの特別の許可をもらったので、今日は働くから・・・」。もちろん、その確認を取るためにGMに連絡をしようと思ったですが、宿舎に携帯を置きっ放しにしておいたので、GMと連絡が取れない状況でした。そこで、忙しくなってきたし人が足りないような状況にもなっていたので、GMが言うんだったら仕方がないなと思い、彼女に許可を与えました。

     ところが彼女の仕事が終わった頃、GMを捕まえてこの件について話すと、GMは、彼女が働くのを許可した覚えは無いと言うのです。また、こうゆう日に限ってお客さんの入りが悪く、オーナーがやってきて、人手を減らせと言ってきました。自分としては、オーナーの理不尽さにも辟易していたわけですが...。

     この日の仕事が終わり、皆が帰った後、僕はGMに報告する為の書類をまとめたり、Concession Standの最後の点検などをしていました。すると途中で段々腹が立ってきて、自分は何の為にこの仕事をしているんだろう?という疑問がどんどん膨らんできたのです。マネージャーである以上、最終決定権は自分にあり、その責任も自分が負うつもりで仕事を引き受けたわけですが、今回のようにオーナーやインターンが勝手にConcessionの事に口を出してくることが何回も積み重なると、流石に嫌になってきます。たとえ緊急であれど、自分はConcession Managerとして働いているわけで、マネージャーとしての仕事をさせてもらえないのなら、辞めたほうがいいと思っていたというわけです。
     この日、最後の点検を終え、Consession Standからオフィスに戻るとき、スタンドの明かりがほとんど消えてかすかに見える光を頼りに歩く道のりは、かなり長く感じました。自分としては、もうこの時点で辞めてやると決意していたのです。そして、オフィスに着いてから、他の金を数えているGMの前に売上金が入ったボックスを黙っておくと、私は何も言わずにオフィスを出て行きました。するとGMがさすがに僕の様子に異変を感じたのか、外まで追いかけてきて、どうしたんだ?私が何か悪いことでもしたのか?と聞いてきました。そこで僕はGMに対して何の文句も無かったのですが、組織としては文句があったので、もう辞めるつもりで言ったのです。「こんなくそみたいな組織で働くのは嫌だ」と・・・。そして僕はそのまま、車を宿舎まで走らせたのでした。


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