幸せ!?メジャー観戦記 by Set East

    第6回 02年8月16日 ドジャース@シェイスタジアム

    第7回 01年8月17日 マリナーズ@ヤンキースタジアム

    第8回 02年6月29日 日本大学選抜VSアメリカ大学選抜@リプケンスタジアム

    第9回 02年12月11日 ニューヨークレンジャースVSシカゴブラックホークス@マジソンスクエアガーデン

    第10回 03年1月14日 ニューヨークニックスVSシカゴブルズ@マジソンスクエアガーデン



     第6回 02年8月16日 ドジャース@シェイスタジアム


    〜初ノモ尽くし!?〜の巻
    02年8月16日
    ドジャース@シェイスタジアム

     自分はマネージャー。夏の甲子園を賭けた決勝の相手は、実の兄がキャプテンで四番を務めるチーム。SE(Set East)はこの日、某漫画における彼女の気持ちが1%ぐらい分かったような気がした。

     ワイルドカード争いの中、体が触れただけでも崖から落ちそうなメッツ。残念ながら、ここまでミラクルの気配は全く無し。

     片やドジャースの先発は野茂。かなり前からその雄姿を臨むのを楽しみにしていた。95年から早7年。ついに初野茂の機会を捉えることができる。

     バックネット裏最上段に席を構え、ビールとホットドッグをその脇におき、2人のガールフレンドがこれから会うかのような錯覚と共にプレーボールを待つ。右手側には、観光客と思しき日本人の集団が陣取り、大して興味もなさそうにグラウンドの方を向いている。SEは、いっそ彼等と同化すればよっぽど楽になるだろうと思い、ある意味、彼らに対して恨めしくさえあった。

     そうこうしている内に、野茂がマウンドに上がった。英雄と書いてひでお。改めて考えてみると、それはとても彼に合っているし、それを抜きにしてもいい名前だと思った。アメリカ人に名前の由来を教えるのにも都合がいい。聞かれたことは一度しか無いが。
     テレビでは何十回と見たそのフォーム。最近はそれほど機会が無いとは言え、生で見る感動ということ以外には、特に何も期待していなかった。正直になると。しかし、SEは新たな発見をすることになる・・・

     おそい!おっせー!ピッチャー野茂、モーションに入って第1球投げ・・・投げ・・・投げました。ぐらいだよ!バッターボックスに入ったらもっと辛いだろう。いや、逆にタイミングが取りやすいのか?試してみる。少し合い辛い気がする。でも、それは野茂のフォームの問題では無い気もする。何だろう?ふとSEはその視界の左20%ぐらいに収まった、左肩前方でしっかりと握り締められている物体に目をやった。バット代わりのプラスチックビール瓶。なるほどね。

     試合は進み、回は7回。野茂は6回1失点の好投で、この回からDLから復帰したばかりのエース、ブラウン。ガタイがでかいのもあるが、さすがに貫禄がある。初ブラウン、かっこいい。投げ方は少しトルネードのような感じで、スリークォーター気味に放る。投げ方が悪いから故障するんじゃないの?と一瞬思ったりもしたが、かっこいいから余計な詮索は無しだ。

     2人のうち片方のガールフレンドが姿を消し、ついにほっと一息吐く事ができたこの回、SE観戦史上初の事態が起きた。ピアッツァもアロマーもアルフォンゾもいないこの日のメッツ打線。二死一塁でピッチャーの場面。バレンタインが出て代打を告げる。バーニッツだ。長打が出れば勝ち越しというこの場面。まあ、妥当だろう。が、しかし。「ブーブーブー」「ブゥーブゥーブゥー!」代打で、ある意味チャンスで、この日一番のブーイング。ああバーニッツ、辛かろう。悲しかろう。さあ、そのバットでこやつらを見返してやるんだ!と密かに応援していた成果か、結局四球を選んだ。が、彼の苦難はこれだけでは終わらない。

     ペレスのポテンヒットで7回に勝ち越したのも束の間、8回に2番グリサムのツーランホームランで逆転されてしまったメッツは、9回裏、ドジャースの守護神ガーニエと対峙していた。この時点でかなりの人が諦めていただろう。そして、何の波風も立たずゲームセットまで秒読みツーアウト。

     バッターは、バーニッツ。今回はブーイング無し、皆が奇跡を信じて必死に応援している。第一球、空振りでストライク。スイングは悪くない。第二球、ボールと来て第三球、スイング!まさに引きちぎれるんじゃないかと思えるほどの、フルスイング。ストライーク!この時点でかなりの人が予想していただろう。そして、第四球、ボール。ふぅー、ため息が球場にこだまする。そして第五球、やな予感とともに・・・ストライク!空振り三振バッターアウトゲームセット。「ブゥゥゥー、ブブブゥゥゥー!」

     バーニッツ、果たして来年も居るのだろうか・・・



     第7回 01年8月17日 マリナーズ@ヤンキースタジアム


    〜見ちゃダメザマス!〜の巻
    01年8月17日
    マリナーズ@ヤンキースタジアム

     目を覆いたくなるような強烈な朝日が差し込む中、お気に入りのポールスミスの腕時計に目をやり、SE(Set East)は机の上にちょこんと置いてある、読売新聞から頂戴して日本から持ってきた、ジャイアンツ卓上カレンダーに目をやっていた(巨人ファンというわけではない)。そう、今日はあの日なのだ。半年前から印をつけていた、今年もっともその日が来るのを楽しみにしていたであろう、あの日。

     初めてのヤンキースタジアム。修学旅行生よろしく、「すげー」を2発も声に出してしまうほど感慨深い。なんせヤンキースのホームグラウンドだからなぁ、これぐらいはしゃいだっていいだろ、さすがに少し恥ずかしくなったのか、自分で自分にゴーサイン。これでよし、と心の中で思いつつ、1番安い8ドルの席へ、競歩スタイルで猛ダッシュ(?)を仕掛ける。この日は、絶好調のシアトルを迎え撃つ、しかも週末のゲームとあって、試合前から熱気ムンムンである(死語?)。あちっ、とまでは行かないが、その日が快晴ということも相まって、SEはあっちぃーを連発していた。しかししかし、そんなことを、この男は全て吹き飛ばす。ほんとのところは、どうせ安い席だから、あんまりよく見えないだろうなと思っていたら、ところがどっこい、なんとなんと目の前に見えるじゃない。あの51番が。意外とちけぇーや、と独り言を言いつつ席を見つけ、どかっと腰を下ろす・・・が、あぁ、あれが世にも有名な背面キャッチか・・・なーんてただ単に座っているだけのはずがない。地元の子供たちとともにフェンスいっぱいに近づき、奇声を上げながらボールの行方を追うこと数十分。ついに、その時がやってきた。

     「イッツィロォウ、スゥズゥキィー。」

     いやったぁー、うっほぉーい、ついに生でこれ聞けたよー(グリーンスタジアム神戸のじゃなく。しかしそれも聞いたことはなかった)、自然に顔がにやけてくるのがはっきりと分かる。普段冷静で通ってるのに、こんな顔見られたらイメージ狂っちゃうわ、いやん、などと普段なら口が裂けても人に言えないようなことでも、今日はなんと言ってもはしゃぐと決めているので、心の中までならと、つい許してしまう。

     「ブゥーブゥー、もひとつおまけに、ブゥーブゥー」と言ったかどうかはさだかではないが、ブーイングと言われる、相手チームのやな選手に対して主に行われるこの行為、間違いなくイチローが1番浴びていた。ふと目線を落とすと、SEの席の前には日本からの駐在員とその家族らしき、イチローTシャツに身を固めた4人連れの親子が座っていて、お父さんが一生懸命に盛り上げようとしている。いいなあ、この子ちっちゃいころから球場に連れて来てもらえて・・・自分の子供のころは年に1カードあるかないかだったもんなぁ、しかも平日だったり(地方で、しかも県庁所在地でもなかった)。などと感慨深げにその子を睨みつけている間に(うそうそ)、首位打者争いを演じる核弾頭は、いざイチロニッサン、とばかりにバッターボックスに入る。それを見届けるや、待ってましたとばかりに、一斉に野次が上がる。

     「ビッチロー(bitch+ichiro)、ビッチロー」「イチロー、サックス(sucks)」と繰り返し放送禁止用語?を連発し、さらには、太鼓のような小さ目の打楽器に合わせて腰を振る男(その男は見てるこちらが感心するぐらい酷使されて、7回ぐらいにはげっそり)まで登場と、ライトスタンドは、てんやわんや。しかもなぜか上の階の同じヤンキーファンまで「口撃」する始末。もちろん、「実行部隊」はそのごく一部なのだが、教育委員会のおじさんおばさんたちは卒倒してしまうだろう。「なんザマスか、この、この、この、この惨状は!」と。そんなヤンキーファンをよそに、先程の日本婦人が頑張っておられた。ヤンキースファンが何か野次る度に「イチローがんばれー」と返すのである。その呼びかけが1試合を通して何回行われただろう、二桁には達していたはずだが、ただ一つ言えることは、その言は一字一句全く正確をきし、一貫していたということである。

     むぅー、さすが年配の方は違うわなあ、と妙に納得しているうちに試合の方はサクサクと進んでいき、シアトル先発のアボットにジーターが先頭打者ホームランを浴びせるなどして、4対0でヤンキースの勝利。今日のイチローは4回表の盗塁失敗と4打数2安打で、首位打者争いはまだまだヒートアップしそうだ。

     今回はヤンキースタジアム初体験ということで、何もかもが目に止まり試合にはそこまで集中していなかったが、次回、といっても明日なのだが、はじっくりと試合の流れを堪能しようと思う。

     しっかし、なけなしの小遣いをはたいて飲む星空の下のビールは最高だなぁ。ただ一言けちを付け加えるとしたら、ホットドッグ、高いよぉー。

     「ヤンクスよ、お前もか」とつぶやきつつも、その日の充実さが溢れる満面の笑みを浮かべながら、SEは、夢心地で帰途につくのであった。

    ※編集部注

     今回の日記は、以前にSet Eastさんがヤンキースタジアムにはじめて行かれたときの日記です。前後の日記とは時系列的にずれていますが、今回は編集部の方の判断で、このネタで書いていただきました。



     第8回 02年6月29日 日本大学選抜VSアメリカ大学選抜@リプケンスタジアム


    〜おぉっとー、まさに青天の霹靂だー!?〜の巻
    02年6月29日
    日本大学選抜VSアメリカ大学選抜@リプケンスタジアム

     「やるっきゃない!」自分に言い聞かせるように、そう一言SE(Set East)はつぶやいた。SE観戦史上初の州外遠征。それも全くの未開の地である、メリーランド州はアバディーンなる所。ホテルは予約してある。電車のチケットも買った。鍵は持ってる。「いざ出発!」遠足心地でいっぱいのSEは、2度目の最終確認を終え、その第一歩を踏み出した。

     メリーランド州アバディーン。あの、鉄人カル・リプケンJr.が共同経営者でもある、1Aアバディーン・アイアンバーズの本拠地として名高い、かもしれない。今回試合が行われる球場は、そのリプケンがオーナーを務める、リプケンスタジアム。交通の便はあまり良くないものの、球場自体はできてから数年も経ってないと言う事で、さすがに清潔感がある。入り口の前に設けてある大会専用のグッズ売り場には、何人かの人だかりができていて、のんびりとお宝たちを物色していた。その彼らを尻目に、両チームの選手名が載っているパンフレットを購入すると、SEはそのゲートをくぐって、席へと急いだ。

     席に着いて、早速日本チームをチェックしてみると、亜細亜の木佐貫・小山、早稲田の和田、法政の後藤など、今まで見たことのある名前もあれば、地方リーグに所属していて今回始めて知った名前もある。この中からドラフトにかかる選手が何人もいるのかと想像すると、もうこの時点で、見に来て良かったとさえ思えてしまう。前日の新聞報道の通り、この日の先発は東海大の久保。抑えて欲しいが、他の投手も見てみたいから、打たれてもいい気もする。オールスターみたいにどんどん変わってくんないかな、なんて思ってもみたり。「3回まで久保で、4回から和田。んで、7回から木佐貫。黄金リレーだよ、えっへっへ。」

     そんな妄想を繰り広げているうちに、回は既に5回裏で日本1点リード。久保はさすがにいい球を投げていて抑えているが、それにしてもアメリカチームは結構選球眼がいい。切れのある変化球にも、ボール球だとあまり手を出さない。なんて思っていると、この回あれやこれやで3点取られてしまい、さらには6回から変わった龍谷大の杉山が、8回にスリーランを浴びてジ、エンド。やはり速球には滅法強いらしい。かと言って、変化球もあまり振ってくれないし、アメリカチーム、恐るべしである。

     試合の方は1対6とあまりパッとしなかったが、実はこのゲームとんでもないおまけが付いていた。アメリカチームに3点入って盛り上がってきた中盤、突然回りの人たちが後ろを見上げ出したのだ。何かが降ってきている気配はない。飛行機も飛んでいない。何?他の人に釣られてSEも後方を振り返る。何も変わった様子は無い。何なんだ?訳が分からない。くそう、一体全体何でみんなこんなに興奮してんだ!我慢しきれなくなったSEは、取り残されてしまった悔しさを隠しつつ、隣の人に尋ねてみた。「何でみんな上見てるんですかねえ?」すると・・・「リプケンが上に居るみたいだね。」・・・な、な、なにーーー!マジっすか!?即行で探してみる。い、い、いたーーー!マジっすよ!試合そっちのけの興奮がSEの体を駆け巡る。もう一回見てみる。もっと見てみる。いくら見ても、やはりそれは鉄人カル・リプケンJr.なのだ。

     出発した時にはどうなる事かと思ったが、結局生木佐貫に生和田、しかも生リプケンまで付いて来て、SE初の州外遠征は、こうして揚々たる結果に終わったのであった。



     第9回 02年12月11日 ニューヨークレンジャースVSシカゴブラックホークス@マジソンスクエアガーデン


    〜たまには○○食べてみようよ!?〜の巻
    02年12月11日
    ニューヨークレンジャースVSシカゴブラックホークス@マジソンスクエアガーデン

     アメリカ大陸に渡ってあと一月で2年になる。念願だった、メジャーリーグを生で観戦する事もできた。ストーブリーグ真っ只中の12月11日、SE(Set East)は、それまで暖めに暖めていたある構想を実行に移すべく、マンハッタンはミッドタウンへと地下鉄に乗って猛チャージしていた。この日はSEにとってある意味特別な日となるはずで、真冬のNYを一層冷たく感じさせる降りしきる雨も、その演出の一部となる。そう、何を隠そうこの夜SEは、その人生で始めての生ホッケーを見る事になっていたのだ。しかも、NHLという最高の舞台を。

     何度となく電車の中で見かけたあの人と、初めて実際にしゃべってみる。そんな気持ちを胸に秘め、ついにSEはニューヨークレンジャースの本拠地、マジソンスクエアガーデンの入り口へと辿り着いた。外観は何度も見たことあるが、中の構造はさっぱり分からない。駅、さらにはビルとまるで一体になっているようで、少し迷った挙句の到着だ。荷物チェックを何とかくぐり抜け、早速チケットを買う。一番安いので30ドル。後は70ドルや100ドル強。チケット係の人がニヤリとしたのは、冷静を装いつつも、内心その値段にぶっとんだのが一瞬表情に出たからか!?

     迷うことなく買った30ドルのチケットをその手に握り締め、最上階の席へとエスカレーターで向かうと、SEの目には正真正銘のスケートリンクが飛び込んでくる。思ったよりも少し狭い。がそれよりも、ああ、ほんとに来たんだ、やはりこれである。席の見当が全くつかなくて戸惑っている時には、ホテルのボーイらしき格好をした気の良さそうなおじさんが、席へと案内してくれる。何もかもが新しく、あれもこれもが新鮮で、試合まではしばらく時間がかかるにも関わらず、SEは既にえっへっへの心地に達していた。

     しっかし、白人が多い。と言うよりも、ほとんど白人しかいないと言っても過言ではないだろう。日本人らしき4人グループの他は、SEから見える範囲では、黄人も赤人も黒人もほぼ皆無である。確かに、選手たちの名前にもヨーロッパ系と思われるものが数多く見受けられるが、ここまで極端なのには驚きだ。

     そんな観察に時間を費やしていたら、急に会場が暗くなる。それと共に威勢のいい音楽が流れ、ここはコンサート会場かYO!と思えるほどだ。そしてよく見てみると、いつの間にか選手たちが一列に並んでいて、順にリンク内にダッシュで入ってくる。か、か、かっこいいー!何だ何だ?彼らは死地に赴く勇者か何かか!?この音楽にこのライト、まさに演出効果にやられてしまっている。けたたましい声や音の中、SEは即行でメモを取った−口説く時、忘れちゃいけない、演出効果(字余り)−。

     試合が始まってもSEのボルテージは止まらない。実際、止まらないどころか上がりっぱなしでいきまくりの状態である。今まで真剣にホッケーを見る事がほとんどなかったからかもしれないが、見ていて惚れ惚れする上手さなのだ。プレー自体はサッカーのようにドリブルとパスを駆使しゴールに近づいていく。「プロホッケー珍プレー好プレー」なる番組があれば、乱闘ネタには困らない。観客の正に目の前で起こった時などは、選手よりも彼らの方がどうにかなっちゃっている。酒が入っているからか?キャッチコピーは「氷の上の格闘技、ホッケー」これで決まりである。

     ファンサービスはやはりアイスホッケー独特で、ピリオドの合間には、氷上をきれいにする車の上に子供を乗せて回ったり、スポンジのような物を突いて、ある地点に近づける一人カーリングのようなものもあったりで、普段メジャーリーグしか見に行かないSEにとっては、大満足。

     野球だけがスポーツじゃない、そんな当たり前の事を再認識させられた、この日のSEだった。



     第10回 03年1月14日 ニューヨークニックスVSシカゴブルズ@マジソンスクエアガーデン


    〜山あり谷ありスラァームダンク〜!?の巻
    03年1月14日
    ニューヨークニックスVSシカゴブルズ@マジソンスクエアガーデン

     アメリカ4大スポーツ−人はアメリカで最も人気のある4つのスポーツ、ベースボール・フットボール・バスケットボール・そしてアイスホッケーの事を指してこう呼ぶ。その中の二つ、ベースボールとアイスホッケーをSE(Set East)はこれまで観戦していた。第三の標的は、バスケットボール。バスケを見るのはエアジョーダンを衛星放送で見ていた時以来、観戦ともなれば先月のホッケー同様これが始めてとなる。

     場所自体は、ホッケー観戦で来たためにもうすっかり慣れていたので、この日の興味はさながら懐メロのように、当時のようなわくわくした気持ちでブルズのバスケットを観賞すると言う事だけだ。

     が、例の如くボーイに客席の場所を教えてもらい、コートに目を落としたSEは愕然とした。赤じゃない、赤じゃない、ブルズのユニフォームが赤じゃない!はっきりとは分からないが、それは赤とは似ても似つかぬ、黒や濃紺のような色で、あの、コートを所狭しと駆け巡っていた赤い軍団とは明らかに違う。SEは、何が何だか分からない状態で、とにかく席へと急ぐ。そして、この時点で既に頭が混乱しているSEは、さらに追い討ちをかけるようなある事に気づく。ジョーダンじゃない、ピッペンじゃない、ブルズのメンバーにロッドマンもいない!なんてこったい!

     あまりのショックに放心状態のSEだったが、コート上で繰り広げられる卓越したパワーとスピードに触れるうち、徐々に落ち着きを取り戻してきた。「ディーフェンス、ディーフェンス」と他の観客と一緒に声援を送り、ニックス攻撃時には、知らず知らずのうちにつぶやいてしまう。「いけぇー!そこだぁー!スラァーム、ダンク!!!」

     そんなこんなでハーフタイム。試合の方はニックスが常にリードしているとは言え、まだまだこれからと言った感じだ。さあて、後半に備えて何か買ってくるかな、そんな矢先の事。「タッタラッタッタータッタラタッター」軽快な音楽と共にカモンベイビーな美女たちが次々とコートに現れ、SEの視線をくぎ付けにする。そして間髪いれずにダンスダンスダンス。これにはさすがのSEも、ボールをキープしている選手よろしく、売店の方へ足を踏み出したはいいが先へ進めず。しかもこのダンスダンスダンス、この後も2、3度に渡り行われ、観客も大喜び。

     それに、この2、3度が只者ではない。何と、タイムアウトの僅かな時間でのダンスダンスダンスの披露なのだ。むぅー、NBA、なかなかやりおるわい、そう関心していたSEだったが、短い時間でも観客を退屈させないようにと、まさに疾風怒涛のファンサービス。ファンによるフリースローはありがちかもしれないが、これがただのフリースローではない。男だろうが女だろうが、はずすと容赦なく「ブー、ブー、ブッブッブー」が浴びせられるのだ・・・観客から。さらにひどい「ブッブッブー」は、ドリブルをしながらのイス取りゲーム。5人からスタートし、3人から2人に減った時、かわいい子を押しのけて年配のオヤジが生き残った。正々堂々と席を確保したこのオヤジが、なぜかこの日一番のブーイングを受けてしまう。なんてゲームだ。参加するのが恐ろしい。

     いろんな事があったこの日のゲーム。最後にはニックスが12点の差をつけて勝ったが、ダンクあり、スリーポイントありと、NBAの凄さをまざまざと見せ付けられた。

     が、野球人のSEは、今年野球殿堂に選ばれた、Eddie Murrayが観戦に来ていて紹介された時に、実はこの日一番興奮してしまったのであった・・・


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