幸せ!?メジャー観戦記 by Set East

    第16回 03年7月7日 レッドソックス@ヤンキースタジアム

    第17回 03年7月20日 ジャイアンツ@横浜スタジアム

    第18回 03年7月22日 カープ@東京ドーム

    第19回 03年7月27日 ライオンズ@大阪ドーム

    第20回 03年7月28日 ファイターズ@ヤフービービースタジアム



     第16回 03年7月7日 レッドソックス@ヤンキースタジアム


    〜僕らの味方参上!?〜の巻
    03年7月7日
    レッドソックス@ヤンキースタジアム

     情報は何よりも尊し−真夏の日差しをたっぷりと浴び、当日券を求めて作られた長蛇の列を抜け出すSE (Set East)は、思わずニヤリとしてしまう。前日のラジオで盛んに伝えていた、空席ありの事実。アナウンサーがそれを繰り返す度に、SEの体は10度ずつ、ヤンキースタジアムの方へと傾いていた。
     しかし、SEが意を決して授業と授業の合間の決死行を敢行しようと思った理由は、単純にアナウンサーに誘導されたからだけではない。実はこの日の先発は、レッドソックスがあのペドロ・マルティネス、そしてヤンキースは、今年昨年の借りを返さんばかりに抑えまくっている、マイク・ムシーナ。生唾ものである。行きたいなー、行きたいなー、とつぶやいてしまうぐらい思っていた。実況席から彼の声と共に発せられる振動と息が、SEの背中を押したのだった。

     20ドルのチケットを買い、着いたその席は、何と文字通り最上階の最上席。SEの前に券を買った2人組みの男たちも、そのグラウンドとの角度のありえなさと、そこから広がる壮大な景観に、ただただ顔を見合わせて苦笑い。しかし、この最上階の最上席、実はこんな真夏の晴れた日には、ほんとのほんとに最上級の席かもしれない。まず初めに、屋根が付いているおかげで日差しを直接受けなくてもよい。さらには、誰もいないために後ろは壁になっており、しかも通気口のような穴があるので、そこから心地いい風がバンバン吹き抜けてくるのだ。

     試合は期待通りの息詰まる投手戦。初回に味方のまずい守備で1点を奪われるものの、それ以降全くと言っていいほどランナーすら出さないムシーナ。そして対するペドロも、アンヒッタブルの本領を発揮して、5回までヤンキースに得点を許さない。なぜか起こるペドロコールとレッツゴー、レッドソックスコールを追い風に、いつも通りばったばったと三振の山を築いていく。

     しかし、実はこの三振劇場の裏にはある悲劇が隠されていた。初回、ヤンキースの先頭バッターはソリアーノ。空振りの後の3球目・・・アウゥチィ!内角のボール球を振りにいったはいいが、手で打っちゃあ、ダメダメ!案の定、次の回には交代してしまう。隣にいた熱烈ヤンキースファンのお兄ちゃんは、早速ソリアーノがいない事に気づくと、「ソリアーノはどこだよう!ソリアーノはどうしたんだよう!」と、まるでこの世の終わりが来たかのように、悲痛な叫びを繰り返す。おまけにジーターまでデッドボールを喰らって退場とくれば、ペドロが先発と言うことを考えると、彼でなくともへこんでしまう。

     けれども、そんな厭なムードを、ソリアーノの代わりに入った控えのウィルソンと、このところ絶好調の主砲ジオンビが振り払う。6回裏ヤンキースの攻撃、まずはウィルソンが、ライトへ伏兵ツーベースを放つ。そして、ジーターの代わりに入ったジール三振の後、ジオンビの痛烈なライト前ヒットで同点。最高潮に盛り上がるスタンド。もちろんSEも、へけけ、へけけ、と笑顔の中の興奮を全快に発し出す。

     だが、興奮のるつぼと化したヤンキースタジアムをさらに盛り上げてくれる、真のプロフェッショナルがレッドソックスにはいた。その名前が呼ばれるやいなや、待ってましたとばかりに、球場は大歓声に包まれる。8回裏、ついにあの金が登場する。
     それに呼応するかのように、何かが起こりそうな雰囲気がスタンドを覆いつくす。

     試合の方は、この金の登場を機にヤンキースが流れを手繰りよせ、結局9回裏に1点を加えてサヨナラ勝ち。月曜の昼間だというのに野球観戦を決行した超満員のファンもこれには大満足。SEはというと、適度にとったアルコールの作用も手伝って、骨の髄まで幸せを感じていたのであった。



     第17回 03年7月20日 ジャイアンツ@横浜スタジアム


    〜どっちの花火がお好き!?〜の巻
    03年7月20日
    ジャイアンツ@横浜スタジアム

     日本に帰省中のSE (Set East)は、日本地図を机の上に広げると、ニタリとしながらそのターゲットを通称浜スタ、横浜スタジアムに絞っていた。約一ヶ月間に渡る日本での夏休み。学生最後になるであろうと思しき長い夏休み。だとすると、これをやっておかない手はない。今までに行った事のない球場に行く−フランチャイズ限定とはいえ、それは、SEの予定表をそれ中心になさしめるだけの魅力を持っていた。
    > 横浜スタジアムは、実はSEにとって、全く見知らぬ空間というわけではない。Kinki Kidsというグループの、コンサートの会場設営をするために来た事があるのだ。しかし、その時と今回を比べると、そこは全く別の空間で、とても心地よい期待感を持たせてくれる。

     1塁側内野席に陣取り、よっこいしょと腰を下ろすと、正面には懐かしいあの集団が、相も変らず味方チームにせっせと声援を送っている。良くも悪くもアメリカで観戦する事に慣れ、久しぶりに見る彼らの姿は一種異様な感じではあるが、少なくとも、ここは日本だという事を、有無を言わさずSEに実感させる。
     巨人の先発はエース上原。そして横浜の先発は、今年不調ながらも去年新人王争いを最後まで演じた吉見。が、決して好調とは言えないのが今年のこの2人。さらには、実はリーグ本塁打1、2位を占める両チーム。や、ややや、これは何か見られるやもしれない・・・試合開始のこの時点、SEの頭の中にはそんな情報はまだ微塵も浮かんでいなかった。

     ところが、2回には早くも、これが噂のあのボールか・・・と思い出させる試合展開に。まずは1点を先制したその後、横浜の古木がライトへどでかい1発。「ほえー、でかいの打ったなー」、感心するSE。しかし、直後の相川、さらには3回表の上原のホームランには、どこかしら疑惑の目を向けずにはいられない。だが、喜んでいるファンを目の当たりにし、勿体無い勿体無いという事で、SEも一緒に両チームの一発攻勢に酔いしれる。ペタジーニ、清原それぞれ2発にニ岡の1発と、その後も続く花火の打ち合い。

     が、自身のホームランをきっかけにチームが逆転し、気分良く投げている上原に、突然ありがたくない花火が打ちあがる。ライトスタンド後方に、ドンバカドンバカ本物の打ち上げ花火が現れだしたのだ。逆方向を向いている為、何にも気づいていないライトスタンドのファンを尻目に、1塁側からは、花火がパンパンパンパン鳴る度に、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、としつこいぐらいに拍手喝采がそれに続く。そこでSEは見逃さなかった!マウンドに上がっていた上原、チラッ、チラッ、と「何が起こっとんねん?」とでも言いたそうな顔つきで、その「何か」の得体を探ろう探ろうと、盛んに間を取り出したのだ!だが、「ムムッ、上原、これは集中できずに崩れるか!?」と思わせたのは一瞬で、それから2点を献上しながらも、結局6失点の完投勝利。

     ひさしぶりの日本での観戦。試合を通して、1つだけとても気になるところがあった。大リーグで攻撃側がチャンスの時に流れる、「トゥルルトゥットゥトゥー」という効果音。それを横浜も取り入れていたのだ。それだけなら別に構わない。が、ファンと1%も同化していないのは、少し寂しい。本来なら「トゥルルトゥットゥトゥー」の後に、「チャージ!」とミスター時代のスローガンよろしく一斉に叫ぶところが、浜スタのファンの皆さん、「トゥルルトゥットゥトゥー」に気づいてもいないらしく「パッパラパッパ、パッパラパッパー」を延々と繰り返しているではないか!

     あぁ、ただ単に向こうのものを持って来て、押し付けるだけじゃあ駄目なんだなぁ、そう思わずにはいられなかった今日のSEであった。



     第18回 03年7月22日 カープ@東京ドーム


    〜謎は全て解けた!?〜の巻
    03年7月22日
    カープ@東京ドーム

     2日前の横浜スタジアム−「オウオォオォオォオォオォオォオォオォオォゥ。オウオォオォオォオォオォオォオォオォオォゥ・・・」それから48時間、SE (Set East)の脳裏の中で、彼らの野太い声が何度も何度もリフレインしていた。「タァー、ターリラリラリラー。オォーッ、ババンバッババン」あれから48時間、SEの口の先では、何度も何度もこの怪しげな音色がこだましていた。その他にも、「皆さん、どうしたんですか!?」とでも伺いを立てたくなるような現象がレフトスタンドでは起こっていた。それは、決まってバッターがボックスに入ろうとする時に轟いていた。
     そして−1年ぶりに東京ドームを訪れたこの日、SEは、あの、悩ましい知恵の輪がやっとはずれた時の如く、かの、恨めしいルービックキューブの面をついに揃えたときの如く。

     「僕は浦島太郎です」SEはそうこっそりと呟く。何かが変わっているという事を認識できたうれしさと、自分の知らないところで何かが変わっているという事を認識させられた寂しさ。頬にペイントをした子供たちを見る。知らぬ間に、自分よりも背が高くなっていた我が子を持った時に覚えるであろう、気持ちが溢れる。
     「俺はパブロフの犬か!」SEはにっこりとそう突っ込む。4年前に外野席で目当てにしていた、コーラの売り子さんを思い出す。内野席に座っていながらも、両の目は自然と彼女を捜索する。いない。喉が渇いている。彼女からじゃないと買いたくない。でも何か飲みたい。そこで適当にビールを頼む。800円。高い。でも飲む。野球場に来たらどうしてもビールを飲みたくなる。「俺はパブロフの犬か!」少し真剣に突っ込む。実は、腹も減っている。日本でしか売っていない、幕の内弁当を手に取る。1500円。高い。でも食べる。野球場に来たらどうしてもホットドッグを食べたくなるようにはなっていない。「よし!」少し本気でほっとする。

     ビールと弁当でお腹が膨れたところで、やっと試合に注目する。この日の先発は巨人がラス、広島が佐々岡。その存在感のなさに似合わず、ラスが好投する。佐々岡も負けじと9回を投げ、四回に清原から浴びたソロホームラン一発だけに抑える。坦々と回は進み、一対一のまま延長戦へ。ここで、SEは凄まじく感じる。「退屈な試合だぜ。」しかし、同時にある事が頭に浮かんでくる。先月観たヤンキースとレッドソックスの試合の時には、極めて盛り上がっていた。典型的な投手戦だったのにも関わらず。試合展開は同じようなものだ。その時も、特別ファインプレーを連発していたというわけではない・・・ここで、SEは何かを感じる。そして、一休さんばりにファイナルアンサーを決め込む。「だって消化試合なんだもん!」

     この一球をどうするか?次はどうなるか?一体何が起こるのか!正直、ちょっぴりどうでもいい。「きっよっはっら!」と、大声で絶叫しているライトスタンドの方々を尻目に、微かに良心の呵責を認め、悶絶する。
     SEは思い出した。それは1995年−前年大ブレイクしたイチローが、地方興行でSEの地元にやってきた時。当時生でプロ野球を見る機会が全くなかったSEは、ある友達と綿密に連絡を取り合い、学校から午後休みをもらって、その試合へと出かけた。感動した。非日常を、目の当たりにした。次の日学校で誇らしげに語った。「昨日、生でイチロー見たのはだーれだ?」とは友達の弁だが、そのいやらしさを、いやらしいとは感じなかった。

     この観客の中にもそういう人がいるかもしれない・・・そう思うと、SEは急に、四次元があったら入りたい気持ちになった。だが、退屈なのは、SEにとって紛れもない事実。このだるさを払拭するにはどうすればいい?この謎が完璧に解けた暁には、また何かが変わっていく−そう確信した、この日のSEであった。



     第19回 03年7月27日 ライオンズ@大阪ドーム


    〜普段はもっとむじんくん!?〜の巻
    03年7月27日
    ライオンズ@大阪ドーム

     夏休み。対戦相手は西武。首位への挑戦権をかけた大事な試合。日曜日。ピッチャーはエース岩隈。「いやあ〜、席あるかなぁ?」のはずだったのに・・・

     「600円!?」友人からその値段を聞かされた時に、SE(Set East)は驚愕した。

     その彼によると、夏休み中、外野自由席は普段の1200円ではなく、半額の600円で売られているらしい。パリーグは・・・という話はもちろん知っていた。が、覚えている限り福岡ドームと千葉マリンにそれぞれ一度行ったぐらいしかないSEは、その現状を、きっちりと自己の感覚として、認識として捉えてはいなかった。
     まあ、何にせよ、消費者として品質が同じならば安いことに越したことはない。友人とともにチケットを買い、席へと向かう。そこでは、彼の友達が既にSEらのシートも確保していた。軽い挨拶を済ませた後、その彼は言った。「ちょっと外にでも出ようか?」・・・「はぁ?」SEには彼の言っている事の意味が解らない。ええっと、今チケット買って、中に入って、んで、もう中に入ってるって事は、ええっと、中に入っちゃってるって事は・・・必死で考えるSE(この間1秒)。SEの異変に気が付いたのか、その彼は言う。「一回出てもまた入れるんだよ(ニコッ)。」彼のはじけるような笑顔に、未だに半信半疑のSE。実際にゲートを出ようとすると、係の人が手の甲に透明のスタンプらしきものを押してくれ、また中に入る際には、赤外線らしきものを当てて、スタンプを確認しているらしかった。「何てこったい。」カルチャーショックに陥るSE。こうあったらいいなとは思ったことはあっても、それを実施しているシーンは想像した事はない。少なくとも、東京ドームを想定しては。

     図らずも動揺してしまった心とともに席に戻ると、バックスクリーン隣にある、アコムの看板が目に飛び込んで来る。オペレーターらしき女の人のドアップ。あの方が忌み嫌う、その企業の確固としたプレゼンスに、少し感動するSE。しばらくすると、球場がざわめき出す。アイドルらしき女性が始球式をする模様だ。しかし、そのアイドルが誰なのかSEには分からない。そこで尋ねてみると、彼女は看板のお姉さんらしい。SEはもらえなかったが、岩隈バブルヘッドを手にした先着1万人は、数々のサービスにほくほくだろう。

     試合の方は、先頭の松井稼頭夫がいきなりホームランを放ち、早速球場全体の顰蹙を買う。さらに3回にはカブレラの特大ツーランが飛び出し、この回終わって4対0。どうせならホームチームが勝ってる試合がいいなあ、なんて思っていたSEは、どちらかというと西武ファンにもかかわらず、ここから近鉄を応援する事に。が、ローズ・中村の2枚看板は全く打てず、結局1点を返したのみで、そのまま西武の勝利。

     さて、SEと共に観戦していたうちの1人は根っからの近鉄ファンだったのだが、本気で近鉄を応援している人を目の当たりにし、SEは正直何か異質だと感じてしまっていた。近鉄ファンがいいとか悪いとかではなく、ただただ染みてくる違和感がそこにある。それは、その彼が東京ドームのライトスタンドで巨人戦を観戦していても、きっと感じるに違いない居心地の好くなさなんだろう。偏見だとか先入観、そしてもちろん軽蔑でもないこの感覚。巨人対近鉄戦、東京ドームで彼と一緒にいても、こうなるのだろうか。

     試合中、「それにしても、今日はめっちゃ入ってんなあ〜」としきりに感心する彼。「空席いっぱいやんけ!」と、その度にエセ関西弁で突っ込み、そのうさんくささに内心自分にも突っ込み、そんなSEに心の中で突っ込みを入れてる彼を想像しながら、楽しい時間を過ごすこの日のSEであった。



     第20回 03年7月28日 ファイターズ@ヤフービービースタジアム


    〜がんばってるじゃん神戸!?〜の巻
    03年7月28日
    ファイターズ@ヤフービービースタジアム

     SE (Set East)は、どうしても確かめてみたかった。それは、噂に違わぬ代物だった。いや、噂以上の美しさだった。そして、SEは恋に落ちた―

     友人に車で送ってもらい到着したSEを、何とものどかな雰囲気が包む。それは、地方都市における総合運動公園という響きが、しっくりしすぎるほどぴったりの情景で、どこか違う世界に紛れ込んだかのような錯覚を起こさせる。前日の大阪ドームと、無意識のうちに比較していたとしたら、尚更だ。

     早速雰囲気に呑まれているSEは、何はともあれ、例のフィールドシートの値段をとりあえず聞いて、落ち着こうとする。そして、愕然とする。3200円也、というそのチケット係のおばさんの言葉に。也という助動詞を使った事にではなく、その予想以上の安さに。それを受けて、SEの頭の中には天使と悪魔が現れる。そして、天使は叫び、悪魔は囁く。

     天使「予算外だよ!後に影響するかもよ!」
     悪魔「こんな機会は滅多にないよう、ようよぅょぅ(エコー)」
     ・・・(1秒)・・・

     「一塁側でお願いします。」即行でそう決断すると、SEは悠々と球場の入り口へと向かう。

     中に入って席についたSEは、びっくり仰天してしまう。フィールドシート、そこから広がる視線の先は、まさにグラウンドと同じレベルであり、ただの外野フライに、ホームランか!?と思って反応しない高さであり、選手を遠すぎると思わせない近さであり。さらには、改良技術国日本よろしく、ボールパーク構想だからといって、単なる大リーグの球場のパクリではなく、シート自体にも一工夫がしてある。まずは、食べ物が置けるように、椅子はテーブル付きで、親切にもそのテーブルには飲み物用に丸い穴が空いている。そして、極めつけは手動で上げ下げができる、透明の強化ガラス。もしこれが固定だったら、SEはとってもとってもがっかりしていた事だろう。あくまで選択権を客に残している所が、SEをとってもとっても喜ばせる。

     試合開始前には、メジャーのあのシーンのように、(主に)子供たちが選手にサインをねだる。そればかりか、攻守交替の際にライトとキャッチボールをしてベンチに戻る選手に、「平野さん、平野さん、ボール下さい!ボール下さい!」と、声を掛けつづける。そうやって声を掛けられる。回を追うごとに、ベンチに引き上げる駆け足のスピードが増していったのは、多分気のせいだろう。

     右側に目を向けると、剥き出しになったブルペンがあり、そこでは出番を控えた投手たちが、自慢の速球をバンバン投げ込んでいる。ビールを片手に、「速いんだな、これが。」とでも思わず呟き、堪能してしまうほどの距離感しかなく、出番待ちの選手とブルペンキャッチャーたちに、写真取撮らせてと頼んだり、頼まないで隙をついて撮っても、なかなかの出来栄えになっていそうな、距離なのである。

     そして、ハードだけでは終わらないところが、彼らのボールパーク構想が本気であるという事を誇示している。試合前には、タキシードを着た新郎とウェディングドレスを着た新婦が、グラウンド整備用のものを軽く改造したような車で、マスコット二人を両サイドにグラウンドを一周。それから、ホームベースの前で永遠の誓い。それでもって、オリックス監督のレオン・リーから花束贈呈。さらには、両軍の選手、そして推定23,000(SEによる)人の観客からの拍手喝采。幸せそうだ。

     オリックスが延長11回の接戦を制した、この日の試合。好試合だった事もあり、3200円でこの迫力は絶対お得、と思わずにはいられなくなる。これで首位争いをしていて、相手ピッチャーが松坂、和田新垣、もしくは岩隈だったりした日には、イってしまう事請け合いだ。しかし悲しいかな、弱いばっかりに、スターがいないばっかりに、近くに人気球団があるばっかりに、多くの人は、このエキサイトメントの存在自体を、知りもしないのだろう。

     試合後には、7回に予め募られていた希望者たちが外野いっぱいに広がり、思い思いにキャッチボールを敢行。プロが使った直後のグラウンドで、こんな事やあんな事ができるのだ。ああ、今度はこれから逆算して予定を組もう、そう心の中で誓うSEであった。


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