幸せ!?メジャー観戦記 by Set East

    第26回 04年7月11日 デビルレイズ@ヤンキースタジアム

    第27回 04年8月7日 ブルージェイズ@ヤンキースタジアム

    第28回 04年9月1日 USオープンテニス2004@USTAナショナルテニスセンター

    第29回 04年10月4日 @ヤンキースタジアム

    第30回 04年10月12日 レッドソックス@ヤンキースタジアム



     第26回 04年7月11日 デビルレイズ@ヤンキースタジアム


    〜僕は死にましぇん!?〜の巻
    04年7月11日
    デビルレイズ@ヤンキースタジアム

     SE(Set East)の隣に座っていた客が、売り子からホットドッグを買っていた。数枚の札を渡した後、彼はおもむろにコインを取り出すと、それをSEを隔てたところに立っていた、その売り子に向けて差し出した。それを中継しなければいけないポジションにいると気付いたSEは、とりあえずその右手を数十センチ上げ、そのコインを受け取ろうとした−

     いやあ、それからが大変だったのよ。何でかって言うと、何と何とそのコインが、SEがとーっても楽しみにしてて、実際にとーっても楽しんでいたらしいビールが入っていた紙コップに、垂直水平に落っこちちゃったわけ。それはもう、ポリデントのCMを見てるかの如く、ジュワジュワジュワーって音まで聞こえてきちゃいそうなぐらい、いい感じに泡を立てててさ。さて、これどうしようかって悩んじゃった。まあ、でもその前にどうでもよさそうにしていた売り子さんを待たせないようにって、一応自分の財布からコインを出して彼に渡したのさ。それで、もちろんホットドッグを買おうとしていたお兄さんは、SEにその分をやったのね。わりぃわりぃって、気の毒そうにニタニタしながら。でも実は、この稀にみる悲劇はこの時点で終わりではなくて、その後、SEは結構真剣に考えこんじゃう羽目になっちゃうのだ。

     っていうのは、実はSE、その3日前に生物の期末テストが終わったばっかりで、思いっきり分子がどうだとか、ばい菌がどうだとかっていうことにしばらく浸かってたのだ。あっちゃー、めっちゃ目に浮かぶ。コインの表面に付着してたばい菌たちがビールに溶け込んで、それを飲むSEの喉から食道、そしていろんな器官とともに毛細血管の中に進入していくのが、これでもかってぐらいイメージされちゃう。ああ、飲むべきか捨ててもう一杯買うべきか。ただ、ここでもう一度SEは考え直してみた。いや待て、そういうのってそれを退治するために駆り立てられる兵隊たちがいて、少しぐらいなら大丈夫だったんじゃなかったっけ。やれやれ、全く期末が終わったばかりだってのに、何て不確かな知識にあやふやな記憶だろう。SEは、少なくとも5万人はいるであろうこの広いヤンキースタジアムの中で、SE自身にしか分からないであろう小さいため息をついて、あたかもそう言うのが自然の摂理であるかのように、はっきりと呟いた。それから何とか意を決して、ええいままよ!って飲んでみたはいいんだけど、どことなーく気が引けてるわけ。しかも量が減っていくたびに、コインにより汚染されてる気がしてるし。これが知は力なりってやつか。

     こりゃまいったなー、何て思ってたら、ヤンキースのピッチャーが代わってさ。それまで松井のホームランあり、ポサダのホームランありで、まあ大差をつけてたんだ。誰だろ、もうゴードンは出番なしだろうし、何て思ってたら、Marsonekってアナウンス。SE「はぁ、誰だそりゃ」隣のコイン野郎「Who is that?」と、同時二発エコー。連想ゲームを一発で当てたぐらい心が通じ合ってる気がしたから、コインの件は無かった事にしようじゃないか。

     しっかし、雲少しある日の日曜デーゲームで、ホームチームが圧勝。(ほぼ)心からツイテルネ!ノッテルネ!って思えるってのは、また観に来たいって感じる動機の一番かも分からんね。



     第27回 04年8月7日 ブルージェイズ@ヤンキースタジアム


    〜前隠して後隠さず!?〜の巻
    04年8月7日
    ブルージェイズ@ヤンキースタジアム

     SE (Set East)は、確かにそのメッセージを受け取った。「俺を見にこい。」前日に放たれた2本のホームランは、SEがそう感じ取るには十分なほど彼に高揚感を与えていた。元々観戦予定のなかったこの日。SEは、相手がブルージェイズという事で、多少なめていた。「今日はもらっただろ、」という風に。しかし、そんな甘い考えは、真夏にも関わらず少し肌寒心地よい土曜日という現実の前に、もろくも崩れ去った。「今日は当日券でも大丈夫だろ、」そんな軽い気持ちは、結局ハゲタカからチケットを買わざるを得なくなった現実の前に、一瞬にして吹き飛んだ。もっと早く来るべきだった・・・一般販売とは少し違った匂いのする$9と書かれたチケットを$20で購入したSEには、それはレッスン料とも言えるものだった。

     しかしながら実はその$11は、席自体は高い位置にあるもののバックネットのすぐ右後方のため、普通に同じ値段、つまり$20で買った時よりも眺めがいいという、皮肉な結果をもたらした。眺めがいいだけではない。ブリーチャーやポール際に陣取る狂人たちが全く見られないのは残念だが、それに負けず劣らずのSE的珍プレーが至るところで発生するという、それはそれでおいしい果実をもたらした。そのせいか、SEの中でその$11は、時が経つごとにサービス料とも言えるものになっていった。

     サービスの内訳はこうだ。まずは席に着こうと階段を上っていると、5人ほどの高校生と思しき集団から、「マツイ!」とエールを送られる。日本人だからそう言ってきたのか、SEが松井に似てると思ってそう言ってきたのか、今にして思えば問い詰めておくべきところだったが、時既に遅しだ。そして、いざ席に着いてグラウンドの方に目をやると、ヴォーン(※5月3週参照)を発見した時と同じくらいの衝撃が全身に走った。それは文字通り、信じられない光景だった。6列前に座っている若い白人女性が、少し寒いのだろう、ジャケットをその体に被せていた。それはそれでいいのだ。だが、背中の「IRABU」が丸見えってのはどういう事だ。それはお笑い自爆テロ以外の何物でもなかった。身体をはって笑いを取るにしても、程度ってものがあるだろう。そんな彼女の餌食となってしまったSEを、メッセージを送ってくれた彼が救ってくれた。

     第一打席、彼がバッターボックスに向かうや否や、まるでこの日が何かの記念日であるように、この打席に何かの記録がかかっているかのように、皆が一斉に彼に向けて声援を送り始めた。数秒間続いたその音は、何とも心地よくSEの六感を刺激した。それはもう球場全体が奏でるアンサンブルといった具合で、芸術の範囲を超え、別次元のものとして捉えなければいけないほど、感心地よかった。結局この日は3打数1安打1打点で終わった彼だが、SEにとっては、前日に見に来なかった事を後悔させないほどの出来だった。見に来た甲斐があった。メッセージありがとう。

     試合の方は、復活してからの好調を持続したエルデュケことヘルナンデスの好投もあって、ヤンキースが6対0で勝利。それにしても、いくら日本を意識してるからといって、高校野球の甲子園担当のテレビカメラマンを雇うなどとは、夢にも思わなかった。気付いた限りでは、7ショット中5ショットは明らかにかわいいコのアップ(SE基準)で、また1つ日本発のグローバルスタンダードができつつあるのを感じた、この日のSEであった。



     第28回 04年9月1日 USオープンテニス2004@USTAナショナルテニスセンター


    〜ティファニーでタイムズを!?〜の巻
    04年9月1日
    USオープンテニス2004@USTAナショナルテニスセンター

     まずはその会場に足を踏み入れた途端、SE(Set East)がまるで、行った事もない長崎ハウステンボスにいるかのような錯覚を起こした事について話そう。それは確かにテーマパークのような雰囲気を醸し出していて、いくつかの建物が煉瓦造りの色合いを模様していたせいもあるだろうか、日差しがきつくて暑いはずなのに、何か暖かい気持ちにもなってしまう、そんな場所だった。ちょろっと歩いてみると、ワニのロゴでお馴染みのラコステショップがあり、(少なくともSEにとっては)高級車リンカーンの展示があり、スポンサーも華やかだ。

     それじゃあ、次はメインスタジアムで目にした衝撃の事実を取り上げてみようか。SEが買ったチケットは、メインコートに近い、つまり下の方のエリアには入れないものの、それ以外だったらいくつもある他のコートの試合も自由に行き来できるという、40ドルほどのチケットだった。だから、メインコートのテレビに映るポジションには近づく事もできないし、ボールが右に左に行ったり来たりするのを追う、例のモノトニックな首の動きをするチャンスもない。まあ、それはいいとしよう。

     事の顛末はこうだ。レンドルやマッケンローが現役だったころのテニスゲームのおかげで、何とかスコアの加算方法は知っていた。それで、メインキャラの登場を控えている事もあって、後どれくらいで終わるのかと、試合の進行具合を確認する為にスコアボードに目をやったのだ。正直、それに気付いた時は、これは新手の差別なのかもしれないとさえ思った。ティファニーがいた。ニューヨークタイムズがいた。スコアボードの隣には、バドワイザーと決まってるはずなのに。

     それからしばらくして、あまりのショックに気を失っていたせいか、ふと目を開けてみると、もう試合終了まで数ゲームのところだった。次は、いよいよこの日のメインの登場だ。胸をワクワクさせ、その時をひたすら待った。現れた。その出で立ちは、メインキャラというより、ボスキャラだった。黒のロングブーツに皮ジャンかと思われるほどごっつい黒のロングスリーブス。相手がさわやかに健康的な肌を露出していて、見ていて気持ちがいいのとは、とびっきり対照的だった。ひょっとして、体育祭の練習の時、みんな半袖半ズボンなのに、1人だけ上下ジャージで来たぞどうだ気分?そう勘繰らざるを得ないほど、遠くから見ていても明らかに感じられるド迫力だった。

     だが、いざ試合開始の段になると、彼女はその重厚なロングスリーブスを脱ぎさってしまった。あたかも最初からうざったかったかのように。それを着てスコンスコンと相手とウォーミングアップをしていたけれども、それを着たのは、まさか彼女の本意ではないのでは?もしかすると、彼女はただ言われた通りにしていただけなのでは?彼女の裏にはもっと強力なボスキャラが潜んでいるのでは?そう疑わざるを得ないほど、スポンサーシップに興味がある人は多いだろう。

     サリーナ・ウイリアムスの男子顔負けテニスをしばらく堪能すると、SEは愛ちゃんがプレーしているコートへと向かった。この日の日本人選手で最初に目にしたのは、女子ダブルスの朝越しのぶ組だったのだが、基本的に、コートと客を隔てるのは、スケートリンクにありそうな1メートルほどの壁1枚で、その壁との距離も1メートルほど。選手の表情が、肉眼でもはっきりと分かった。という事は、あの有名な愛ちゃんも間近で見られるかもしれない、そう思ってさっさとミックスダブルス愛コートに来たのだが、ずばりだった。彼女の一挙手一投足が、全て分かる。その表情も、スコンと打ち返す時発する声も、全て分かる。テニス自体も距離が激近な分、初体験のSEにとっては迫力満点で、また来たいと思わせられるのには十分過ぎるほどだった。

     笑顔率が4人の中でも図抜けて高く、(パートナーが)ミスっても、笑顔でドンマイドンマイ。こんなコがグループにいれば明るく一日が過ごせるだろうな、水中バタバタを無視して、意気揚々と帰宅するこの日のSEであった。



     第29回 04年10月4日 @ヤンキースタジアム


    〜I LIVE FOR THIS(1)!?〜の巻
    04年10月4日
    @ヤンキースタジアム

     今日という日を絶対に忘れない、SE(Set East)はそう言い切れる。ヤンキースタジアム限定販売の第2次チケット販売。朝の4時40分に到着して、誰もいないチケット売り場に毛布を敷き、ニットキャップ、マフラー、手袋、コートの完全装備で、朝9時からチケット販売を待ったこの日。眠い、だるい、動きたくない。でも、どうしても今回のプレーオフは見に行くって決めてた。そして、どうしても観たいという感情を、どうしても行動に移さないほどまでに抑えることができなかった。チケットは(SEにとって)べらぼうに高い。疲れから今週のTODOに影響がでるかもしれない。でも、でも、今年は絶対に行くって決めてたから。

     前日の3日、午後11時45分ごろその日シェイスタジアムで行われたメッツ戦から帰宅したSEは、おもむろにPCを立ち上げ、メールをチェックし始めた。そして、いくつかあった新着メールの中に、ヤンキースのメールマガジンがあることに気付いた。それをクリックするSE。そのメールを読んで、SEは愕然とした。4日の朝9時から、ヤンキースタジアムでチケットの2次販売を行う・・・という事は、1番に並べば、確実にチケットをゲットする事ができる・・・実は、SEはディビジョンシリーズ第5戦のチケットを確保はしていた。しかし、それは過去にリーグチャンピオンシップシリーズのチケットを取っていながら、第7戦のチケットだったばっかりにそれを使う機会がなかった事のある、そしてどうしても今年は行くんだと息巻いていたSEにとって、とても十分安心できる物とは言えなかった。

     しかし、この衝撃的ニュースは、その不安を根底から払拭した。全く迷わなかったと言えば嘘になるかもしれない。だがそれは、行くか行かないかの問題ではなかった。要するに、それはIFじゃなくて、WHENの問題だった。まだ雪は降り始めていないとはいえ、明け方ともなれば、肌寒いことこの上ない。それが、何もない屋外で数時間も待っていなければならないとなると、尚更だ。

     そしていろいろ考えた挙句、SEは4時半に着く為に、3時には出発する事にした。というのは、いくらニューヨークの地下鉄が24時間営業だとは言っても、さすがに1時間あたりの本数はぐっと少なくなって、自分の着きたい時間に目的地に到着しない可能性も十分あるからだ。SEは正直、もうすでに短くも確かな列ができていると思っていた。しかしながら、現実はそんなものではなかった・・・

     誰もいない。誰もいないのだ!球場を一回りしている間に、少しずつ膨れ上がるSEの不安。そして、何!?マジか?マジか!?んなこたぁない!などと自分自身を励ますSE。まさか、あの号外メールは誤報?そんなことを考えながら歩いていたSEは、あることを思い出した。クラブハウスの存在だ。

     早速行ってみると、そこにはセキュリティーのおじさんがいて、確かに9時からチケット販売がある事を教えてくれた。単純に、SEは誰よりも早く着いただけだったのだ。安心して、毛布を敷いて眠りにつく。この時点では、早朝ブロンクスにこんな状態で独りでいる事が危険だという事には、全く意識がまわらなかった。普段ならまずそのイメージが浮かぶはずなのに。

     寒い寒いと思いながらも、時間が時間だけに、早くもうとうとし始めたSE。すると、後から足音か何かのような音が聞こえてきた。はっとして目を覚ますSE。後を振り返ると、そこには20代の白人の兄ちゃんが立っていて、にこやかにこちらを見ていた。「ニュージャージーから来たんだよ。どっから来たん?」と布団代わりの毛布に寝そべっているSEに声をかけると、彼は、「前回(第1次販売)は12時にはもう長い列ができてたのになあ」という言葉を残し、駐車場へと戻っていった。

     やっぱりここで間違いなかったんだ、そう思ったSEは安心したのか、途切れ途切れではあるが、また眠りにつき始めた。しかし、気温だけでなく体温まで低くなってきたのだろう、寒さがどんどん身に染みてきた。時計に目をやるともう少しで6時といったところだ。だが、それでも待つしかない。SEは、ひたすら待って待って待ちつづけた。

     すると、日が昇るにつれ、どんどん人の数が増えてきた。2つあった列の両方ともどんどん長くなっていき、朝9時の販売開始時間には、80人を越そうかというほどの数の人が並んでいた。何枚チケットが残っているのかは分からない。ただ、後に並んでいる人たちはみんな不安に違いない。そんなことを思うと、少し誇らしい気持ちになる。

     そして、遂にその時がきた。結局9時半まで伸びたこの日のチケット販売開始時刻。2番目に安い71ドルのチケットを、悠然と2枚購入するSE。何ともいえない満足感とともに窓口を離れたSEだったが、ここで意外な展開になる。何と、いの一番にチケットを入手したSEに、列に並んでた人々が口々に、「どの辺の席?何枚買えた?何試合目?」などと矢継ぎ早に質問を浴びせてきたのだ。中には列を離れて話し掛けてきたファンもいて、彼らがSEの満足感だけでなく、優越感までいっぱいにしてくれたのは、言うまでもないだろう。

     しかしSEは、本当の満足感を8日後の火曜日、12日のヤンキース対レッドソックス第1戦にて味わう事を、この時はまだ知らないのであった。

    続く



     第30回 04年10月12日 レッドソックス@ヤンキースタジアム


    〜I LIVE FOR THIS(2)!?〜の巻
    04年10月12日
    レッドソックス@ヤンキースタジアム

     プレーオフ初見参のSE(Set East)が、何とも言えない試合前の雰囲気に興奮を隠せないでいると、後の方から「100ドル稼ぎたい?」という声が聞こえてくた。こいつ〜、いくらSEがワクワクドキドキしているからって、そんなアメリカンジョークが通用するほど世の中甘くはないぞ、と思いつつも、はじける笑顔で「そりゃもちろん!」と答えるSE。すると、こちらが乗ってあげてるというのが分かったのか、声をかけてきた若い2人組みの男たちは、「いや、マジでマジで」と結構な真顔で強調してきた。さらに、そのうちの1人は、100ドル札を財布から取り出し、まるで馬を人参で釣ろうとしているかのように、それをSEの目の前で振り始める。むむむ・・・この辺から何やら不穏な気配を感じ始めるSE。こんな時に、こんなところで悪徳商法に引っかかったとなれば、末代まで語り継がれるに違いない。しかし、そういうエピソードを1つぐらい持っておくのも悪くはない(1秒)・・・そう結論付けたSEは、ええい、ままよ、とばかりに、体を乗り出して話を聞き始める。事の次第はこうだ。彼らは元々4人グループなのだが、後の2人は別のセクションのシートを持っていて、もし(友人と来ていた)SEがSEの2席とその2人の席を入れ替わってくれるなら、100ドル払ってもいいと。チケットを交換した場合、一体どこに飛ばされるのか、SEは早速確認してみた。ふむ、高い所に位置しているものの、バックネット真正面で場所的には悪くない。というわけで、はりきって席を移動する。
     正直なところ、一人頭50ドルを瞬時にして稼いだ喜びに、興奮を隠せないでいたSE。だが、その15分後には、そんな事はどうでも良くなるほどの興奮に包まれる事になった。

     この日の先発はムシーナとシリング。レギュラーシーズンの成績を参考にすれば、今日はあんまり楽しめない日になるのかも分からんな、そういう心積もりでいたのは確かだ。ところがどっこい、蓋を開けてみると、いやはや何の何の、初回からヤンキースの怒涛の攻撃が始まるではないか。その口火を切ったのは、松井だった。シェフィールドが二塁打をかっ飛ばした直後、2ストライクと追い込まれた後の3球目。三振を取りに来たシリング伝家の宝刀スプリットを、少し泳ぎながらも上手くさばいてタイムリーツーベース。あれは上手かった。空に届かんばかりの上の席に陣取っていたSEだったが、それでもあのボールがきついところに投げ込まれたのは一目瞭然だった。そりゃ三安打五打点で、ボソックスを粉砕もするわな、とこの日の大活躍が当たり前に思えるほど、あの打席のあのバッティングは何かを物語っていた。

     しかしながら、そんな大活躍の松井と同じかそれ以上に観客のボルテージを上げたのは、SEがボコボコにされるのではないかと密かに思っていた、ムシーナだった。初回から危なげないピッチングを続けていたのだが、3回を終わってパーフェクトともなれば、さすがに観客もあれれ、あれれ、と気になり始める。それが4回5回と続き、もうこの頃になるとアウトをひとつ取る度に、対戦カードとその舞台が後押ししていたのは確かだが、地響きが一定の間隔で起こるような感じで、とんでもない歓声が沸き起こっていた。

     プレーオフのヤンキース対レッドソックス戦、松井大活躍、そんでもってムシーナパーフェクトゲーム???そんな期待を胸に秘めていたSE。そうは問屋が卸さず、7回でパーフェクトは途切れたわけだが、それでもこんなゲームをライブで観れたことは、いつまでも忘れる事のない思い出になるだろう。「I LIVE FOR THIS」と帰り際に呟きながら、そう確信するこの日のSEであった。


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