めじゃーりーぐ19XX by Shinorar

    第14回 VOL.14 1975年 ポールを見れば思い出す



     第14回 VOL.14 1975年 ポールを見れば思い出す


     こんにちはshinorarです。
     メジャーリーグ全30球場の中で最古の球場といえば、ボストン・レッドソックスの本拠地であるフィンウェイパークです。建立して90年以上経過しましたが、毎年補強工事を重ねて、現在に至っています。
     この球場の名物と言えば、フェンスの高さが約12メートルある「グリーンモンスター」。そして新名所として、今年からレフトポールを通称「フィスクポール」と呼ぶ事が決定しました。
     「レフトポール」、「フィスク」と言えば、そう、あの”入れ、入れ”というジェスチュアを伴った劇的なホームラン無しには、語れません。このシーンは非常に有名で、数々の栄華やテレビドラマにも使われているほどでして、最近でもボストンを舞台にした弁護士たちの日常を描いたドラマ、"Ally McBeal"(邦題:アリー・マイ・ラブ)のエピソードで使われておりました(アリーは熱狂的なレッドソックスファンということになっていました)。

     そこで今回の「めじゃーりーぐ19XX」は、フィスクのサヨナラホームランが飛び出した1975(昭和50)年10月21日、ワールドシリーズ第6戦が行われたフィンウェイパークへと、皆様をご案内いたします。
     この年のワールドシリーズは、”ビッグ・レッド・マシン”の異名をとり、ケン・グリフィー・シニア(現シンシナティ・レッズで通算400ホーマーを記録しているケン・グリフィー・ジュニアの父)、メジャーリーグ通算安打数1位のピート・ローズ、ジョー・モーガン、トニー・ペレス、そして10年連続ゴールデングラヴ賞キャッチャーにして主砲のジョニー・ベンチといった強打者をずらりと並べ、名将スパーキー・アンダーソンに率いられたシンシナティ・レッズと、ヤズこと”最後の三冠王”カール・ヤストレムスキー、”ゴールド・ダスト・ツインズ”と呼ばれたジム・ライスならびにフレッド・リンの新人外野手コンビ、そして今回の主人公、キャッチャーとしてのメジャーリーグ通算試合出場数1位のカールトン・フィスクを打線に並べていた、ボストン・レッドソックスの対戦となっておりました。

    ◆ 3日間流れたのちの第6戦

     3日間雨で流れたのちの第6戦、レッズはこの年カムバックしてきて15勝を挙げたゲイリー・ノーラン、レッドソックスは第1戦完封勝利を挙げた元祖トルネード投げのルイ・ティアンが登板しました。

     初回、レッドソックスはフレッド・リンの3ランで3点を先制しますが、4回まで無得点に抑えられたレッズが5回表、ケン・グリフィーの3塁打、ジョニー・ベンチのタイムリーで同点に追いつくと、7回表はフォスターのタイムリー2塁打等で2点、8回表にはシーザー・ジェロニモのソロホームランで1点を加え、6−3とリードを広げたのです。このようにレッズの有利のまま、ゲームは終盤にさしかかりました。

    ◆ 白熱の終盤

     土壇場に追い詰められたレッドソックスは8回裏、先頭打者、フレッド・リンのヒットを皮切りに、2アウトながら1、2塁と一打同点のチャンスを迎えました。
     ここで首脳陣は代打にバーニー・カーボを起用。カーボは72年まで、対戦相手であるレッドソックスに所属していた外野手でした。

     カーボは初球、2球と続けてストレートを空振り。3球目の変化球を見送り、4球目、ストレートを強振するもどん詰まりのファール。そこで地元、レッドソックスの実況アナウンサーもカーボに対して冷ややかなコメントをしたのですが、続く5球目のストレートをカーボが叩くと、打球はセンターバックスクリーンへと消える起死回生の3ランホームランとなったのです。
     レッドソックスは、土壇場で試合を振り出しに戻しました。

     それからレッドソックスが、先発ルイ・ティアントの後に、ロジャー・モレット、ディック・ドラーゴ、リック・ワイズの3投手をつぎ込むと、3人ともふんばりを見せて、9回から12回まで、ビッグ・レッド・マシンを沈黙させます。
     守備でも双方はがっぷり四つに組み合い、レッズ側がが9回裏、フレッド・リンのレフトへの犠牲フライでタッチアップしたランナーをフォスターが捕殺すると、レッドソックス側は延長11回表、ジョー・モーガンのライトへのホームラン性の大飛球をエバンスがキャッチし、ダブルプレーを完成させます。
     このようにスリリングな試合は、延長12回まで進んだのでした。

    ◆ 劇的な結末

     延長12回裏、レッドソックスの先頭打者はカールトン・フィスク。レッズの8番手投手パット・ダーシーの0−1からのストレートをハッシと叩くと、打球はボストン・フィンウェイパークの名物、グリーンモンスターに向かって大きな弧が描きながら、飛んで行きました。
     が、この時中継していたテレビ・カメラは、なぜかボールでなく、目でそれを追いかけるフィスクをその画面に捉えていました。レフトのスコアボードに設置されたカメラの映像が、流れていたのです。そしてそのカメラは、ボールが切れずにフェアになってくれと腕を大きく右に振るフィスクの姿を追っていました。そしてふわりと上がった打球がフィスクの願いどおり、レフトポールの右側に当たってポーンと跳ね返ると、観客からは大きな歓声と拍手が巻き起こり、フィスクはガッツポーズを見せてから、小躍りしてダイヤモンドを1周したのです。ワールドシリーズ史に残る、もっとも劇的なホームランが誕生した瞬間でした。
     このときの時刻は、夜中の0時34分。全米で約6000万人以上がこの瞬間をテレビで観戦していましたが、ホームランになるかもしれない打球を追わずに、バッターの表情を捉えるという予期せぬアングルによる劇的な中継は、当時新興勢力として新たな”アメリカンスポーツの象徴”として君臨しつつあるNFLのスーパーボウルに押されていた人々へのワールドシリーズへの関心を、改めて喚起したのでした。
     結局レッズがこのワールドシリーズを制し、翌年も制して2連覇を達成しますが、この瞬間が色褪せることはありえないでしょうし、またこの瞬間は、永遠にスポーツファンの間で語り継がれていくことでしょう。

    ◆ 1975年10月21日 ワールドシリーズ 第6戦
      レッドソックス−レッズ@フィンウェイパーク
      観衆 35205人   試合時間 4時間05分
      勝敗 3勝3敗

     レッズ     000 030 210 000┃6
     レッドソックス 300 000 030 001┃7x

     勝利投手 リック・ワイズ
     敗戦投手 パット・ダーシー
     ホームラン
     (レッドソックス):フレッド・リン(初回、3ラン)、バーニー・カーボ(8回、3ラン)、カールトン・フィスク(12回、ソロ)
     (レッズ):シーザー・ジェロニモ(8回、ソロ)

     次回もどうぞお楽しみに。


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