嵐と地震とエンジェルズ by 3:16

    第51回 チーム名称変更裁判のゆくえ(Jan 18th, 2006)

    第52回 ぼーる通信のビッグ・ニュース!!(Feb 17th, 2006)

    第53回 WBC日韓戦(Mar 15th, 2006)

    第54回 ジョシュ・バーフィールド初HR(Apr 19th, 2006)

    第55回 ケンドリー・モラレス、メジャーデビュー(May 26th, 2006)



     (第51回) チーム名称変更裁判のゆくえ


     昨年の新年は、1月3日にエンジェルズがチーム名称の変更を発表してスタートしました。(名称変更の理由、経緯、争点などのおさらいといたしましては、第39回40回をご参照いただけますと幸いです。)


     裁判は予想通り長期戦に突入、Anaheim市側もエンジェルズ側も、すでに費用だけで約$6MM(MMはギリシア文字で100万を表します)以上を費やしているようです。
     Anaheim市側が資料準備のため2度にわたる遅延申請を行ったこともあり、昨年11月7日に予定されていた裁判は、ようやく今年(2006年)の1月9日から、オレンジ郡のSuperior Court(この場合は最高裁という意味ではなく、第1審裁判所をこう呼んでいるとおもわれます。ちなみにsuperiorとは”〜よりも優れている〜”というイミです)にて再開され、双方からのヒアリング(審理・聴聞)からスタートしました。


     報道で伝え聞くところによれば、Anaheim市側弁護士団は、チーム名のAnaheimと言う部分が尻尾に追いやられてしまったことによる「Anaheim」という名前の露出減少による被害額を、2005年から2016年までで$191MMと見積もっているようです(2016年と言うのは、問題になっているスタジアムの長期リース契約で、途中契約解消が可能だとされている年です)。
     2029年までトータルでは、約$374MMに及ぶ被害額を主張しているとされています。


     実は球場の長期リース契約に際して、チケットの売り上げの一部を市に献上する、レベニュー・シェア(利益分配)が交わされておりまして、エンジェルズからAnaheim市には、モレノ・オーナーになってからの2003年には約$2MM、04年は約$3.6MMが支払われておりまして、05年はさらに増えて支払われる見込みです。3年間合計で約$10MM(1,000万ドル)近くになるでしょう。これは今後も続きます。
     一方、同じ契約下でそれ以前のディズニーがオーナーだった6年間で支払われたのは、トータルでわずかに$0.4MM(40万ドル)でした。
     集客が少なかったせいです。


     今季はチケットの値上げも予定されており、4年前1万6千席しか売れなかったシーズンシート(年間予約席)は、今年06年には3万席になります(キャパシティが45,050席ですので、30,000席で締め切られました)。
     市が出資した$20MMは、あと3年もすればこのチケット代のレベニュー・シェアだけでも十二分に還元されることになります。
     “Anaheim” Angelsを名乗っていたディズニー配下の6年間よりも、名称変更した2005年以降の方が本当に損をしていると言えるのでしょうか?


     名前の露出減少による被害額を見積もるのは、そう簡単ではないと思いますが、どうやらAnaheim市側弁護団は、「あの土地を住宅地として宅地開拓していたら・・・」などなど、名前の露出とは関係の無い設定で見積もりを水増ししているようです。
     LA周辺はここ数年宅地バブルですからね(高騰しすぎて、最近ははじけつつありますけれども) 。


     モレノ・オーナーからすればもっと単純に、決してチームのネーミング・ライツを売った訳ではないのに、球場の長期リース契約をたてに、なぜそこまで市から口を出されなければならないのか?ということになります。
     チーム自体の購入価格が$186MMで、名称を少し変えたが為に$374を請求されたのでは堪ったものではありません。(しかも昨年の第1回第2回予審で契約書の文言には違反していないという判断が既になされています。)
     しかし、ことはやや複雑になりそうな気配です。理由としては、この名称変更はファンにもあまり好意的に受け入れられていないこと、そして米国の裁判は陪審員制のため、一般人がジャッジすること、があろうかと思います。
     裁判費用は負けた方が支払うことになりますので、被害額を大きく見積もり大きな案件とすること、そして裁判が長引けば長引くほど、関わる弁護士たちだけが儲かっていく、という米国にありがちな泥沼構図になっていますね。
     今後も、裁判の次第はご報告して行こうと思います。


     さて、私は今年3月にエンジェルスタジアムで行われるワールド・ベースボール・クラシックのround 2のチケットを購入しました。日本と米国が、それぞれPool A、Pool Bの優勝チームとして上がってくることを期待して、Strip Bの3ゲームセットを購入です。
     マツイとイグチは欠場してしまう様ですね。
     出場に消極的だとされてきたヤンキーズですが、A-Rodはここにきて一転、米国選抜での出場が濃厚になって来ました。
     コンディショニングへの心配は分からなくはありませんが、日本チームのためにせめて米国で行われるround 2からでも参加するわけには行かないんだろうか?と思わずにはいられません。


    (Jan 18th, 2006) 



     (第52回) ぼーる通信のビッグ・ニュース!!


     さて、2月に入りまして例年同様、大学野球のシーズンが開幕しました。


     昨年のCS Fullerton大タイタンズは、ワールドチャンピオンに輝いた一昨年以上の戦力を有しながら、惜しくもスーパーリージョナルでアリゾナ大に破れて夢立たれてしまいました。
     今年は、計15人もメジャーリーグのドラフトに獲られてしまいましたが、うち4人は高い契約金を蹴って、チームに戻ってきてくれましたし、ブレイク・デイビス遊撃手、ブレット・ピル1塁手、新エースのウェス・ローマー投手、クローザーのビニー・ペスタノ投手などを中心に、なかなかいいチームに仕上がっています。
     トロント・ブルージェイズから1位でドラフト指名(全体の6番目)されて抜けてしまったリッキー・ロメロ投手ほか、3人で28勝分の抜けてしまった投手陣をどう立て直して行くか、が今シーズンのカギになりそうです。
     開幕戦は、惜しいゲームを続けて落として、宿敵スタンフォードに3連敗してのスタートになってしまいましたが、シーズンはまだまだこれからです。


     新しくなった2006年タイタンズ野球の公式サイト


     そして、冒頭のビッグ・ニュースですが、なんとなんと!!
     あの、第10回に登場いただきました元タイタンズのUさん(561516回にも登場いただいています)が、タンパベイ・デビルレイズとアスレチック・トレーナーの一人としてメジャー契約、元西武ライオンズのモリ投手の通訳兼身辺サポート役と兼任で、今年からデビルレイズの一員として活躍なさることになりました!


     モリ投手とUさんのご活躍を、心から祈って応援していきたいと思います!
     きっとお忙しいことでしょうけれど、時々裏話なんかも聞かせてくださいね!


     さて、前回(第51回)お伝えいたしました、Anaheim市とエンジェルズのチーム名をめぐる裁判は、つい先ごろ2月9日に、注目の陪審員の判断が下されました。


     球場の長期リース契約に違反しているというAnaheim市の訴えは、「違反していない」として却下されました。
     また、名称変更により市側が受けたとされる損害賠償も認められませんでした。
     5週間にわたる裁判の間中、毎日出席して真摯に対応・証言したモレノ・オーナーの全面勝訴です。


     今回で都合3度目の敗訴を喫したCurt Pringle市長以下、市議会側は、願わくはこれ以上の無益な裁判費用に税金を無駄遣いして欲しくないものです(Anaheim市側は自らの弁護士費用約$3MMに加え、エンジェルズ側でかかった費用約$7MMも求められれば負担しなければなりません)。


     それから、第50回でお伝えしました、昨年10月のFOXスポーツからの10年$340MMの大型放映権契約は、その後、意外な展開を見せました。


     まず、自前の放送局の可能性を最後まで探っていたエンジェルズ側は、この大型オファーを断ってしまいます。
     断った場合、2008年までの年間50ゲームの契約以上には、ゲーム数を増やさない、という圧力がかけられていたにも関わらず、一旦断った訳ですね。


     そうこうしているうちに、今度はKMXE(830am)というスペイン語放送のAMラジオステーションを$42MMで買収しました。現行のESPNラジオ(710am)よりも強い電波を広範囲に確保できるのも魅力です。いずれ英語放送もこの局を使って開始されるかもしれません。


     ところがその後、こんなニュースが報道されました。


    Angels, FSN near 10-year deal


     なんと、年間150ゲームの放送権をFOXスポーツと、大きく増額した10年総額$500MMで契約間近だという内容です。
     エンジェルズ側が難色を示していたケーブルTVでしか見られないという点は、この150ゲームのうち約50ゲームを地上波局(おそらくKTLA-5chかUPN-13ch)にFOXが転売する、と言うことで、解決したようです。


     ドジャーズがFOXと2004年に結んだ契約は年間100ゲームで10年総額$320MMで、加えて昨年エンジェルズを蹴ってドジャーズと契約したKCAL-9chとの契約は2006年以降の10年総額$90MMのトータル$410MM(4億1千万ドル)です。


     実は断って以降も、FOXスポーツとはずっと交渉が続いていたようです。
     ドジャーズの放映権料をはるかにしのぐ総額5億ドルの超大型契約は、モレノ・オーナーのGreater Los Angelesエリアを見据えたマーケティング戦略が間違っていなかった証となりました。
     大会社たるディズニーがオーナーだった時代には、エンジェルズの放映権料はドジャーズのわずか1/4に過ぎなかったのですから、個人オーナーたるモレノ・オーナーのビジネス・センスは、やはり只者ではありません。


     この大型契約は、チームに安定した経済状態を与えてくれます。
     アリゾナのキャンプ地の施設も次々と改善され、プレイヤーたちも気持ちよくキャンプ入りしました。裁判を終えたモレノ・オーナーは、今度はキャンプ地に毎日笑顔を見せてくれています。


     素晴らしい。


    (Feb 17th, 2006) 



     (第53回) WBC日韓戦


     待ちに待ったWBCのround2がエンジェルスタジアムにやって来ました。
     なにしろ、チケットを買ったのは3ヶ月も前の発売日でしたからね。


     サンディエゴで行われる準決勝・決勝進出への行方を握る、トーナメントでも重要な1戦となった、06年3月15日の日−韓ゲームの観戦レポートです。
     ゲームの経過・結果はみなさん百もご承知だと思いますので、TVでも少し窺い知れたかと思いますその場の雰囲気と、当「嵐と地震と・・・」の視点からの感想を。


     この日は平日の水曜日とあって、ゲームに間に合うように仕事を切り上げ、急いで球場へと向かいました。いでたちは、エンジェルズグッズ・フル装備。最初のうちはちょっとしたホストを務めるような気分だったんです。・・・ワールドカップがアナハイムへやってくる!
     日曜日、月曜日のゲームも観戦しましたが、ちょっとしたエンジェルズのスカウト気分で韓国のプレイヤーの実力をよく見てみよう、ってな感じでした。勝ち負けはあまり気ならず、最後まで見ないで球場を後にしたりしていたくらいです。


     ところがこの日のゲームは、事情がちょっと違ったんです。


     球場付近へ来ると、いつも以上に車が駐車場にごった返しています。
     結果的に観客数は88%の入りで決して超満員と言うわけではなかったのですが、普段野球観戦にあまり来ていない方々が大勢いらっしゃったのでしょう、とにかくいつもとは違った混雑振りで少し混乱していました。
     いつもの入り口でのセキュリティーチェックにも長蛇の列。顔にペイントを施している人や、大小の国旗を持った人々、周りにはちょっといつものゲームとは違った興奮が渦巻いていました。
     ふと見渡すと、殆ど全員といっていいほど、周りには韓国系の方々ばかりだったと言うことに気が付きました。アメリカ人や日本人らしき人も散見しますが、数えるほどしかいません。おおよそ、90%以上の方は、韓国系の方々だったと見受けました。
     にんにくの匂いが苦手な私は、うひゃー、実際に密集してみると堪んないなー、なんてこの時はまだ呑気に圧倒されていたんです。


     まず先攻の韓国の国歌が斉唱され、なにも聞こえなくなるほどの大歓声。続いて日本の国歌が演奏されブーイング。米国国歌も演奏されました。そうです、後の二つは斉唱されると言うよりはむしろ、ただの演奏でした。

     このあたりから、だんだん雲行きが・・・。


     ゲームはご存知のとおり、シュンスケ・ワタナベとチャン・ホー・パークの先発で始まりました。噂には何度も聞いている渡辺投手のピッチングを見るのは初めてです。わくわくしましたねー。そして、噂にたがわぬ素晴らしいピッチャーでした。
     緩急の付け方は絶品だし、計算しつくされた、狙い球をことごとくはずす組み立てはまさに芸術品でした。まして、フォームからは何か来るのか全く分からない。


     チームの守りも、鉄壁です。いい意味での緊張感がビシビシ伝わってきます。
     韓国チームに許した唯一のヒットも、どん詰まりの打球で、単に飛んだところがヒットになっただけのあたりでしたので、感覚的にはノーヒッターのピッチングでした。
     唯一の失投は、初回にアジアの大砲ソン・イョップ・リーに大ファールを打たれた1球だけ。あれは元々大ファールを打たせる球だったと思いますが、ほんの少しだけボール半分くらい中よりに入っちゃったんじゃないでしょうかね?
     ものすごく丁寧な、丁寧すぎるくらい丁寧な、大人のピッチングでした。


     一方のチャンホーも、米国での今まで数年の体たらくはなんだったんだろね?というくらい緩急の効いたいいピッチングをしていました。
     韓国チームでクローザーとして3セーブを上げて防御率0.00、今日の先発登板といい、いい意味で自信が戻ったんだとしたら、これはパドレスには朗報だよね!なんて思って見ていました。


     しかし、スタンドの様子はますます異様です。そもそも、韓国側の攻撃時も守備時も一切関係なく、「テーッ、ハッ、ミングッ!」ドドン、ド、ドンドン!「テーッ、ハッ、ミングッ!」ドドン、ド、ドンドン!って、ひっきりなしに鳴り響いているんですよ。それもすごい音です。
     どうやってあのセキュリティーの中を潜り抜けて持ち込んだのか、太鼓もたくさん鳴ってるし。青色のサンダースティックもたくさん持ち込まれていて、日本チームの打撃のときに球場で用意してくれた日本用の応援のサウンド?にもあわせてサンダースティックをたたき、韓国投手を応援します。
     諸般の事情により、アメリカ人も韓国チームを応援していますし、私はだんだん恐怖感を感じてきました。


     いえ、別に殴られたり脅かされたり怒鳴られたりはしていないんですけれどね。


     大会前にイチローが、『アジアラウンドでは向こう30年、日本に勝てないと思わせるぐらいやっつけたい。ファンのみなさんは、いくらでも期待してください。』と言ったとかいう事情もあって、イチローの打席には、“もんのすごい”ブーイングがあるわけです。
     それはもう明らかに、ふだんエンジェルスタジアムのシアトル戦で聞く、半ば尊敬の念も込めたブーイングではなく、憎悪の感情のこもったブーイングでして、声色が全然違うんです。あれは確かに、お前ぶっ殺すからな!っていう感じの、敵対的感情むき出しのブーイングでした。
     私は後にも先にも、こんな怖い思いをした野球観戦は生まれて初めてでした。(ワールドカップ・サッカーの応援ってこんな感じなんでしょうかね??)
     子供の頃、強かったカープの広島球場で大洋ホエールズの帽子をかぶって応援した時も怖かったけど(子供でも頭はたかれる事あったんですよ、当時は)、今回の恐怖感はそんなの足元にも及びません。


     しかし一方で、本当に久々に、細かい部分で本当にレベルの高い日本の野球を堪能することが出来ました。ランナーが居るときには間違いなく塁を進めるバッティングをしますし、ファール・カットの技術も絶品です。鋭いスライダーにもたとえバットを投げてでも当てていくし、細かい守備の連携の動きなんかを見ても、本当に肌目が細かくてレベルが高い。正直、質の高さに身震いするくらいのちょっとした感動を覚えました。
     スモールボールを標榜しているマイク・ソーシア監督のエンジェルズ・ベースボールにここ数年すっかり慣れ親しんでいた私でしたが、全然種類が違います。縦にレベルを比べて見るものではなく、横に平行に比べるべきものだと思いました。日本の野球の方向性は間違っていませんね!
     突き詰めてもっと鍛錬すれば、メジャーリーグの(別な意味で“緻密”でしかもパワーとスピードを兼ね備えた)野球をしのいで世界一になれる可能性を持っていると確信しました。
     韓国の野球のレベルは、これまで全くといっていいほど知らなかったのですが、今回3ゲームを見た限りでは、まだ全体的としては日本のレベルには追いついていませんでした。しかし要所にメジャーリーガーや日本野球経験者を配置していて、明らかに彼らを中心にチームとしてのまとまりは抜群でした。
     韓国政府が、もしもサンディエゴでの準決勝・決勝ラウンドに進出できたら、2年間の兵役を免除するということを決めたのも、少なからず兵士(じゃなくて選手)一人一人の相当なモチベーションになっていたであろうことも想像に難くありません。
     90%以上を占めた観客の後押しもあって、韓国チームは日本での同カード以上に力が出せたことは間違いないでしょう。
     素直に、いいチームです。


     そして試合は、みなさまもご存知のとおり、打力のあまり無いはずの9番ミン・ジェー・キムを、3−2から高めにボールを浮かせて歩かせてしまったスギウチのちょっとした投球のほころびと、その後の1番ビュン・キュー・リーのヒットで3塁ランナーが惜しい交錯プレイでセーフに判定されたときに、打者走者にまで2塁を許してしまったちょっとした守備のほころびが、結果的に命取りになってしまいました。
    日本の野球の完成度は、この点において隙を見せてしまったわけですね。


     殊勲の2点タイムリー決勝打を放ったジョン・ボム・リーはたしか日本野球で鍛えられた大ベテランですよね?
     あの打席は(決して結果論じゃなくて)満塁策にすべきだと思ったけどなー。実際に打席の前にそう言ったくらいなんですよ、隣の人に。スクイズも出来る、おっつけも、右打ちも出来る、当てるのがうまい、日本野球で相当鍛えられているベテランのジョン・ボム・リーの方があの場面では絶対怖いって、そう思っていました。
     ワタナベの唯一の失投によるソン・イョップ・リーの1回の大ファールが、王監督の脳裏に残り判断を狂わせてしまったのだ、と思えて仕方ありません。


     ジョン・ボムはゲーム後のインタビューで、「韓国人として誇りに思う。しかしもっとも重要なことは、日本をやっつけたということ。これは格別な復讐だったよ。」と答えています。


     ゲーム後帰りのラジオで、ゲームを見ていたアメリカ人の関係者からの電話が入りました。レッドソックスファンの方でした。もう本当に感動していて興奮していて、
     「カレッジから、ハイスクール、リトルリーグのあらゆるレベルのコーチは是非この日韓の素晴らしいゲームを録画して、こどもたちに見せるべきだよ。」
     「両チームの技術と気迫が素晴らしい。こんなに非の打ち所が無くファンダメンタルに素晴らしいゲームを見たのは、いろんなレベルの野球を見てきたけど初めてだよ!」
     「本当にすごいゲームだった。君(ラジオのパーソナリティーですね)も今夜は濃いコーヒーを用意し夜更かししてこのゲームの放送を見るといいよ!」と一気に捲くし立てていました。


     アメリカ人にも、私の見たレベルの高さを感じる人がいるんだなぁ、と思い、負けて悔しい帰りの車の中、ちょっと嬉しくなって胸が熱くなりました。


     大会の是非はともかく、仮にも“出る”と決めたからには、日本は肝に銘じていままでのWBCに対する態度を反省すべきではないでしょうか?
     日本のプロ野球全体には少なくとも12人の“抑えのエース”が居るはずなのにどこに行ってしまったのでしょうか?リリーフとして投げるということは先発投手にとってそんなに易しいことではないでしょう。事前準備、経験が必要です。
     マツイやイグチに答えを求めるのではなく、国際大会に臨む際のあり方について、真剣に話し合うべきだと思います。
     高額契約を持つプロがある種のリスクを負って国際大会に出場するという交渉/判断の難しさは、主催の米国(あるいはMLB)自体も抱えている問題で、もちろん簡単ではありません。
     しかし、こうした悔しい思いは、先だってのオリンピックでも、もう十分に味わっていたはずだ、と思いませんか?


     翌日、意外にもアメリカがメキシコに負けたため、日本と韓国は三たび相まみえることになりました。
     決戦はサンディエゴ、土曜日です。


    (Mar 15th, 2006) 



     (第54回) ジョシュ・バーフィールド初HR


     みなさんもご存知のとおり、WBC(World Baseball Classic)は、日本チームが初代世界チャンピオンになりました。
     日本の野球は文化的に、甲子園の高校野球が負けの許されないトーナメント形式であったり、またプロ野球も引き分け制度を持っているなど、とりわけ「負けない技術」には秀でたものがあると私は考えています。
     日本のクラブチームがMLBの一員として加わった場合の戦績やいかに?という議論とは別な話として、こうした極短期決戦形式にならざるを得ない国際大会において、いつでもチャンピオンになれるに相応しい素晴らしい野球技術を持っている筈だ、と確信しています。
     是非、野球が正式競技として最後となる今度のオリンピックも、次の第2回WBCも、今回よりももっと周到な準備をして、チャンピオンに君臨して欲しいと願ってやみません。
     初代世界一、本当に誇らしいし気持ちがいいですね。


     さて、ようやく始まった2006年シーズンの話題にしましょう!


     この時期は、本当にわくわくしますね。
     4月17日の対コロラド戦、初回にジョシュ・バーフィールドが記念すべきメジャー初ホームランを放ちました。


     この試合のスコア


     打ったのが、気圧が低くてホームラン天国として有名なクアーズ・フィールドっていうのはちょっと割引ですが、431ヤードも飛んだ特大HRですから、他の球場でもHRだったのは間違いないでしょう。


     一足先にメジャー昇格していた先輩のベン・ジョンソン外野手が、イニングの合間にスタンドへ駆けつけ、「Hey, that's my boy! It was his first one!(悪いんだけどさ、そいつはジョシュの初ホーマーの記念ボールなんだ。悪いけど譲ってくれねえか?)」と言って、HRボールを取ったファンと交渉して記念のボールを確保して来てくれたんだそうです。
     二人はマイナー時代からとても親しいんですね。


     が、ここはさすがにコロラドのファン、いまのパドレスの面子の中でも、元ロッキーの大ベテラン、エリック・ヤングのサインボールを2個要求したそうです。


     さて今季、ジョシュは開幕メジャーの正2塁手として大抜擢されました。
     オールスター2塁手のマーク・ロレッタをボストンにトレードして、控えキャッチャーのダグ・ミラベリを獲得したトレードにはいささか疑問符を付けざるを得ないものでしたが、それはともかく、ジョシュの成長があったからこそロレッタをトレードできた訳ですから、首脳陣の信頼も相当に厚いと言うことです。(くしくも同じ4月17日、ロレッタはさよなら2ランHRを打ちました。)
     2塁手として、カリル・グリーンとのコンビで二遊間を守ることがまず第一の使命ですが、バッティングの方もシーズンが進むにつれて持てる力を発揮して行ってくれることでしょう。グリーンがそうであったように。


     実は今季、エンジェルズとパドレスは、8箇所のポジションプレイヤーのうち2箇所にルーキーを登用するという賭けに出ました。
     エンジェルズはファーストのケイシー・コッチマンとキャッチャーのジェフ・マチス、パドレスはセカンドのジョシュと、ファーストのエイドリアン・ゴンザレスです。

     このうち最初の3人は、当連載ではもう何度も登場していておなじみですが、ゴンザレス1塁手は今季レンジャーズからトレードで移籍してきて加わった新戦力です。2000年のドラフトで、全米いの一番でマーリンズにドラフトされた大物です。彼の場合は、ライアン・クレスコが開幕直前に故障して急遽抜擢されたのですが、そういう事情を感じさせないほど、開幕直後から打ちまくっています。
     かなりの賭けに出た2チームですが、逆に言うと両チームともディビジョンのディフェンディング・チャンピオンですから、それだけこの4人のルーキーに対する期待は非常に大きいものだ、ということがうかがい知れますね。


     ストーム、クエイクスの今年の有望プレイヤーを紹介しておきましょう。


    シーザー・ラモス投手
     2005年にパドレスがドラフト1位で指名した左腕です。
     エンジェルズの、ジャレッド・ウィーバー投手の大学の1年後輩です。ロングビーチ大の2枚エースは、それぞれ1位指名された訳ですね。


    マット・ブッシュ遊撃手
     2004年のドラフトでパドレスが全米いの一番に指名した高校生。
     今年はあいにくスプリング・キャンプで足首を脱臼して、現在はDLリスト入り中です。


    ショーン・ロドリゲス遊撃手
     2003年のエンジェルズの3位指名。
     ちょうど今朝出た地元紙のこの記事でも取り上げられていますが、いまのところ4割を超える打撃を見せて絶好調です。
     エンジェルズのショートは、メジャーのオーランド・カブレラを筆頭に、ジェイク・ウッズ、エリック・アイバーと、当連載でもおなじみの有望株が目白押しですので、先々ポジションのコンバートがある「かも」知れません。


    マイケル・コリンズ捕手
     エンジェルズは、マチスのほかにマイケル・ナポリなど捕手のプロスペクトも目白押しですので、この子も大変です。目下、ヒット・得点・打点でチームをリードする大活躍中。


     この子達は、バーフィールドやコッチマン、マチスのような大物感にはやや欠けるのですが、今後の成長を見守りたいと思います。


     さいごに悪いニュースをひとつ。


     ストームのMatthew Varner投手と、クエイクスのKarl Gelinas投手が、今季からメジャーとともに厳しくなったマイナーリーグの禁止薬物規定に違反し、それぞれ50ゲームの出場停止という厳しい処分にあいました。
     チームとしても、こうした薬物使用に関しては厳しい姿勢をとっていくということですが、こうした若いプレイヤーが実際に薬物に手を染めている事実は厳粛に受け止めなければなりません。
     有望株か有望株でないかの問題ではないのです。


    (Apr 19th, 2006) 



     (第55回) ケンドリー・モラレス、メジャーデビュー


     第44回に米国デビュー戦の模様をお伝えしました、キューバの雄、ケンドリー・モラレスがメジャーデビューを果たしました。


     クエイクスでの米国プロ・ベースボール・デビューは2005年5月21日のことでしたので、メジャー・デビューまでわずか1年と2日後、ということになりました。
     私は1年前の記事で、8月頃の昇格を予想しておりましたが、主力の相次ぐ故障や、前回お伝えしました期待のルーキー二人の絶不調など、あまり喜ばしくないチーム事情もあって、5月中に昇格するということになりました。


     ただ、私としては、まだ若干21歳とは言えどもこの子のバッティングはすでにメジャーレベルにあり、あとはピッチャーに慣れていくことだけだと考えていましたので、早すぎるデビューとは思っていません。


     くしくも、第44回で興奮してお伝えしたときと同じく5打数3安打、左打席で3本のヒットを広角に打ち分け、うち1本はHRという見事なまでのデビューでした。
     しかもメジャーデビューは堂々の5番に座って連敗中のチームを救う素晴らしい活躍でした。


    "Morales Makes Quick Adjustment"


     しかしながらケンドリーは、A、2A、3Aと、それぞれのリーグで序盤はもたついて成績が低迷、後に打ちまくって3割に乗せてくる、という経過をたどっていますので、メジャーでも、この鮮烈デビュー後はしばらく低迷するかもしれません。
     でも間違いなく、慣れるにつれ、本来の打棒を見せてくれるに違いありません。


     実は今シーズン当初も、3Aでスタートし、5/11までは打率.241と低迷していましたが、5/12以降昇格する前日まで、打率.511、長打率.756(HR2本、2塁打5本)と、調子を上げていての昇格だったんです。


     今回は残念ながらロードでのデビューでしたので、球場で見ることは出来ませんでしたが、TV中継でしっかり観戦しました。
     2ランHRを放った2回の打席は、フルカウントで粘った後、9球目の内角低め、くるぶしあたりのボールを体を使って裁いた、非常に上手いバッティングでした。
     アウトになった右打席二つも、打席でのピッチャーに対するアプローチとしては非常に良いところを見せていました。見逃し方とか、タイミングの取り方がとても上手いんですね。
     超級パワーのHRバッターではありませんが、ピッチャーの投球にとても柔らかく対応できる巧打者です。


     心配されていた守備の方でも、素早くバント処理をして思い切って2塁へ送球してアウトにする好プレイがありました。
     頼もしいルーキーです。


     ゲームのrecapbox score


     今日から、ホームのビッグAに戻っての6連戦、メジャーのピッチングに多少苦労するかもしれませんが、本当に楽しみです。


     それともう一人、パンチ力のあるルーキーが出てきました。

     第32回36回でご紹介しました、マイケル・ナポリ捕手です。
     ジェフ・マチス捕手が居ましたため、1塁手としての練習なんかもやっておりましたが、ジェフの思わぬ絶不調で、代わりに控えキャッチャーとして上がってきたのですが、いまやチームの正捕手と呼んでも過言ではありません。
     もともとバッティングは買われていて、2年程前には、ひょっとしたらマチスより先に上がってくるかもしれない、と言っていたスカウトも居たくらいだったんです。


     まぁ、これもチーム事情からではありますが、どうしてどうして、リード面でも十分合格点の活躍を見せてくれています。
     このままメジャーに定着するのか、ジェフの巻き返しがあるのか? 今後がますます楽しみです。


     第36回に名前だけ登場しました、トミー・マーフィー外野手も、スピードのある足と守備力を買われて、メジャー昇格しています。


     あともう一人、ジャレッド・ウィーバー投手は、今日メジャー昇格して明日先発する予定です。
     気合を入れて応援に行かなくちゃ!


     モラレスの記事にもありますが、打高投低の3Aパシフィック・リーグで、57イニングズを投げ、4勝1敗、奪三振66個でフォアボールはわずかに8個。現在27イニング1/3を連続無失点中です。 なんともすごいピッチング振りで、2勝7敗防御率約7点と非常に低迷している兄貴といっそ取り替えたいぐらいですね。まぁそうは簡単には行きませんが。


     この子の場合は、非常に思い切りがいいピッチングをします。そんなに球が速いわけでもなく、鋭く切れるウイニングショットがある訳でもないのですが、制球に対する自信に裏付けられた、実に大胆な配球をします。
     一番いいボールは、実は91-2マイル前後しか出ていないストレートです。兄貴よりも少し上背があって、やや横手気味なんですが、これがいい角度で入ってくるんですね。バッターからはボールの出所が見えにくい。


     今、エンジェルズはやや低迷していますが、こうした若手を育て起用していくチーム方針は、我々のような、カリフォルニア・リーグから応援しているファンにとっては嬉しい限りですし、長期に渡って安定して強いチームを作るには欠かせない苦しみだとも言えると思います。
     若手が多いだけに、今後の巻き返しを大いに期待しています。


    (May 26th, 2006) 


     第56回〜はこちら

現連載

過去の連載

リンク