スポーツ風土記 by 一豊

    第1回 「異様なまでの長嶋騒動」

    第2回 「女子マラソン五輪代表選考」

    第3回 「引退した力士の進路について」

    第4回 「カラー廻しの思い出」

    第5回 「アテネオリンピック 私の注目競技」

    番外編 「プロ野球ウエスタンリーグ公式戦『近鉄VSダイエー』前期5回戦・観戦記」



     第1回 「異様なまでの長嶋騒動」


     読者の皆様、初めまして。一豊と申します。
     今回、編集長のMBさんの方からオファーがありまして、このメールマガジンのコラムを僭越ながら執筆することになりました。どうぞよろしくお願いいたします。


     さて、過日のことになりますが、読者の皆様もご存知の通り、3月4日に五輪野球日本代表監督で読売ジャイアンツの終身名誉監督(球団専務取締役待遇)の長嶋茂雄氏が、脳梗塞のために東京都内の病院に緊急入院しました。
     弊HPのBBSでも反響が大きかったのですが、常連さんのほとんどが辛口なコメントを残しつつも、入院については驚いた、というコメントを残していました。
     しかし、個人的な感情を抜きにして考えてみますと、私は長嶋氏の緊急入院の原因は分刻みのハードスケジュールはもちろんのこと、長嶋氏を持ち上げて本人に無理なことをさせたマスコミの過剰な報道に大きな責任があると思います。


     倒れるまでのここ3か月、長嶋氏は多忙を極めました。代表監督として各チームのキャンプを視察したり、代表チームの選手構成や他国チームの戦力分析、コーチ人事などをこなした上に、文化人としてTV番組の出演やイベント、パーティーの出席、雑誌のインタビューをこなしていたので、相当なストレスと身体の疲労が蓄積した結果、今回の事件は起きたものと思われます。
     みなさまも報道や野球関連のHPからご存知のように、長嶋氏はマスコミに取り上げられたら人一倍頑張ってしまう方で、やり始めたら止まらないタイプの人だということはつとに知られています。昨年読売新聞社社主で巨人オーナーでもある渡辺恒雄氏やアマチュア野球連盟の山本英一郎会長からの過剰なまでのラブコールを受け、しかも国民からアテネ五輪でのメダル獲得が期待されて注目を集めていたこともあり、長嶋氏にとっては、マスコミから受けるプレッシャーやストレスも相当に大きかったと思います。
     先日、ある阪神ファン系のHPのBBSを拝読したところ、もし最悪の結果(長嶋氏が社会復帰できなくなった場合)になれば、その責任はマスコミと野球界にあり、彼らが結果的に長嶋氏を殺したことになる、というコメントが書かれていましたが、私もこれは決して否定できません。


     ところで、このニュースが公になった3月5日は、各ラジオ・テレビ局は終日長嶋氏の病状についてのニュースを報じていました。この日の昼に行なわれた記者会見はNHKでも取り上げていましたが、それ以上に民放の報道は過熱をおびていました。日本テレビは昼のレギュラー番組の冒頭の10分を割いて記者会見を放送。TBSの昼の番組「ベストタイム」では記者会見後、番組終了までの40分ほどの時間を病院からの中継を交えながら報じていました。
     しかしそれ以上に酷い報道をしたのは、フジテレビです。フジテレビといえば皆さんご存知のとおり、昨年夏に「ワンナイR&R」というバラエティ番組のなかで、ダイエーの王監督を冒とくするコントを放送してダイエー球団の激しい怒りを買ったことで有名ですし、「スーパーニュース」でも、3年前に野村克也・元阪神監督の夫人が脱税容疑で逮捕された時は、何と番組のほとんどの時間をこのニュースに割いていました。他にも「西部警察」(テレビ朝日)のロケ事故のときもこれを大きく報じる一方、自局のこれまでの不祥事は浅薄な報道でお茶を濁してしまうなど、偏った報道を繰り返しています。
     ちなみにその「スーパーニュース」では、3月5日の放送にて、長嶋氏の入院につきトップ項目で報じていましたが、この報道の中で、16時59分からの第1部ではデーブ大久保をゲストに呼び、何と40分以上脳コウソクの解説などこのニュースに割いていました。しかもそれに加え、そのあとの第2部でもトップ項目扱いで、スポーツコーナーを含め、10分以上に渡り報じていました。これはいくら何でも異様なのではないかと私は感じました。


     それにしても、上記にもあるような今回の長嶋氏入院についての民放各社の扱いは、皇室ご一家の冠婚葬祭のときのような大規模な取材だったと思います。このようなスポーツ選手の不幸に関する大きな報道はプロレスラーのジャイアント馬場氏が亡くなったとき以来でしたが、馬場氏が亡くなったときでも、今回のように大規模に報じることはありませんでした。しかし長嶋氏についてはどの民放局もトップ扱いで報道しており、現在でもあらゆるワイドショー番組などでしばしば大きく報じられています。
     また五輪の野球については、シドニー五輪のときまで、それほど派手にマスコミに報じられることはありませんでしたが、ネームバリューのある長嶋氏が代表監督に就任するや否や、マスコミが手のひらを返したかのように長嶋氏について持ち上げ、チームが勝てば彼の采配のお陰だ!と報じて賞賛していました。
     このことは、いかにマスコミが長嶋氏を頼っているかということを示していると私は思っています。そして民放各社は、長嶋氏が専務を勤める読売ジャイアンツの試合のTV放映権が欲しいために躍起になってやっているといわれても否定できないのではないかとも思います。もし監督が長嶋氏じゃなく、仮に仰木彬氏や権藤博氏であったなら、野球五輪代表が大げさに報じられることは先ず100%ありえないでしょう。事実、2003年11月に行われた五輪の最終予選は、史上初めて日本代表が戦う全ての試合を、民放で完全実況中継していました。シドニー五輪以前には考えられなかったことです。
     ですが私は、民放やマスコミ各社がこんな一人の「背番号3」に偏った報道をいつまでもしているようでは、視聴者無視の一方通行報道が止むことは決してないし、ひいてはスポーツ中継の質の低下につながると思っています。


     最後になりましたが、こんなコメントも有ったことも言わせてください。
     7日に放送された日本テレビの「ザ・サンデー」の放送のなかで、メインキャスターを務める徳光和夫氏が番組中に「長嶋氏は無理をし過ぎた。もう少しわがままを言っても良かったのでないか。」や「お見舞いに行かないことが、本当のお見舞いである。今回の入院で彼が家族人に戻るチャンスだ」というコメントを残していました。またスポーツ紙のインタビューでも「球団やメディアなど全ての人にも責任を感じて欲しい」(スポーツ報知・3月6日号)という談話を残しました。徳光氏は熱狂的な長嶋ファンでも知られていますが、いつもは問題発言の多い彼がこういった真っ当なコメントを残したことについては、私も素直に評価をしたいと思います。
     ちなみに長嶋氏の病状は現在回復傾向にあり、近日中にもリハビリを始めるとの事です。しかし日本代表の編成委員会は、今でも五輪の野球は「長嶋ジャパン」体制で臨むと相変わらず言っており、私はこのような勝手な言い分にも大きな憤りを感じています。
     ただ私自身今思うことは、長嶋氏には体調の回復を最優先にしてもらい、くれぐれも無理だけはしないで欲しいということです。そしてマスコミの報道を引き続き冷静に見守りたいと思っています。



     第2回 「女子マラソン五輪代表選考」


     3月15日、東京都内にある岸記念体育館では日本陸上競技連盟(以下、陸連と表記)によるアテネ五輪女子マラソン代表選考会議が行われ、3人の代表メンバーと1人の補欠メンバーが選ばれました。
     女子マラソンの五輪代表選考レースは、昨年11月16日の東京国際女子マラソンと、年が明けて1月25日に開かれた大阪国際女子マラソン、そして選考会議の前日に当たる3月14日に行なわれた名古屋国際女子マラソンという3つの国内レースでしたが、これらに加え、昨年8月31日にパリで行なわれた世界選手権の結果も考慮した末、代表選手が選ばれたのです。
     選考結果については読者の皆さんもご存知かと思いますが、先の世界選手権にて日本人トップのタイムを叩き出し、銀メダルを獲得するという陸連の代表内定条件をクリアした野口みずき選手が早々と選ばれました。そして、残る2人には、国内の選考3レースの成績から大阪国際女子マラソンで優勝した坂本直子選手と名古屋国際女子マラソンで優勝した土佐礼子選手の2人が選ばれ、補欠には世界選手権で銅メダルを獲得した千葉真子選手が選ばれたわけですが、注目された前回のシドニー五輪女子マラソンの金メダリスト・高橋尚子選手は、補欠にすら選ばれる事無く、落選となりました。


     ところが、高橋尚子選手が落選というこの陸連の決定は、世間に大きな反響を巻き起こしました。そして、日本陸連は女子マラソンの競技レベルが著しく向上した1992年のバルセロナ五輪の代表選考の時から、毎回誰を代表にするか散々迷って揉めているにも関わらず、今回の選考も前回のシドニー五輪の時の反省を活かすことなく、同じような代表の決め方を繰り返しているような気が、私にはしたのです。


     ちなみに今回の陸連の女子マラソン代表選考基準は、2つに分けられていました。その1つ目は、昨年の世界選手権の女子マラソンで日本人1位になり、かつ銅メダル以上の成績を残せば代表に内定するというルールでしたが、これについては競技する側もファンも、ほとんどの人が納得するルールだと思います。ところが2つ目については、「国内3つの選考レースで各レースの上位に入賞し、かつ五輪でメダル獲得もしくは入賞が期待される選手」という何とも不透明で曖昧な選考基準になっており、私は、これが結果的に代表選手の選考を混乱させた大きな原因になったのではないかと考えています。
     確かに日本の女子長距離陸上界の競技レベルは世界でもトップレベルの位置であり、2時間30分を切るタイムでフルマラソンを走る選手がたくさんいる事から、選考に迷うのは仕方の無い事だと思いますが、選ぶ側にあたる陸連も、例えば「国内3つの選考レースで、それぞれ日本人トップでゴールした選手のうち、順位・タイム共に上位の記録を残した2選手を代表にする。」というような誰もが納得するような明確でもう少し細かい基準を最初に設け、発表さえしておいたならば、こんな大騒ぎになる事は無かっただろうと思いますし、また選手にとっても、自分が出場するレースで早いタイムでかつ日本人トップで走れるように目標を立てる事が出来たと思います。


     私の理想とする五輪代表の決め方は、たとえば競泳にあるような、今年4月に行なわれる日本選手権1大会だけで決めるといった、一発勝負での選考です。事実アメリカのマラソン代表は、この方式で選考されています。そして私は、一発勝負で決める事によって、選手、選ぶ側、そしてファンの三方が納得しやすいだろうからいい方法だ、と考えています。
     しかし選手や指導者の立場からすると、これが簡単にいかないのです。いまでも、コンディションの調整が繊細で難しいマラソン競技にて、たった1レースの結果によって五輪代表が決まるのは酷だと考える人たちが大多数を占めているのではないかと思いますが、これに加え、日本では、マラソン競技はテレビのスポーツ中継の中でも高視聴率を期待できる競技で、各テレビ局が競ってレースを主催しており、そのことから陸連が複数のレースを選考基準の対象レースとしている事情があります。しかしながら、もしもそういう事情があるのならば、明確な代表選考基準を選考レースが行われる前にきちんと設け、公開しておくべきだったのではないかと私は思いました。


     今回の代表選考では冒頭にも述べましたように、前回のシドニー五輪の金メダリストである高橋尚子選手が代表から落選するという衝撃的な結末となりました。しかしそれ以上に陸連がこれまでやってきた代表選考の方法は、本当に曖昧で、到底世間一般の方々にとって納得のいくものではなかったと思いますし、4年後に行なわれる北京五輪の代表選考の時までに早急に代表選考レースの見直しやルールを確立させ、誰もが納得する選考方法を考えて実施して欲しいと強く願っています。今回の高橋選手のように、有力選手が不透明な選考方法で悔し涙を流す事がないように・・・。(了)



     第3回 「引退した力士の進路について」


     少し古い話になりますが、今年の大相撲初場所終了後、大相撲の元・幕下力士がインターネットを通じて高級ブランドの類似品を販売した容疑で逮捕されるというニュースがありました。そして、その逮捕された元力士のプロフィールを調べてみますと、その力士が実は元・関脇の黒姫山こと武隈親方の息子ということが分かりました。
     彼は現役時代に父親である武隈親方の部屋に在籍し、羽黒洋という四股名で幕下まで番付を上げたものの、2年前の2002年に引退した後は就職先が見つからずに収入も無く、パソコンで知り合った友人に誘われて犯罪に手を染めてしまったという事です。
     そこで私が今回取り上げるのは、力士達が引退したあとの第二の人生についてです。果たして彼らは、相撲の世界から身を退いたとき、自立してやっていけるだけの生活基盤を持っている、あるいは持てるのでしょうか?


     相撲の世界では、新弟子が入門してくるのは、中卒である場合が多いです。もちろん大卒の力士で、学生横綱出身のかつての久島海のような人もいますが、そうでない人が大半であるため、日本相撲協会では今後新弟子力士の中で高校進学を希望する者に対し、通信制の授業を受けさせて高校卒業資格を取得させるプランを考え、先日発売された「相撲」6月号の角界ニュースのコーナーによると、協会が運営する相撲教習所が通信制高校のNHK学園と提携して、この春から9人の新弟子や力士がNHK学園に入学したとの事です。彼らは今後、相撲教習所から通学する形でNHK学園の授業を受けて資格取得を目指すそうです。
     ちなみに比較として、幣HPのBBSの常連さんである、しるふぃさんやムトーさんの話によりますと、中央競馬の騎手は競馬学校における3年間の騎手課程を修了して卒業すれば高校の卒業資格も得られるということになっているのだそうですが、こういった中央競馬界の事情とは違い、これまで相撲協会は力士の高校や大学の進学について、それぞれの相撲部屋に一任していました。しかし高砂一門に所属する中村部屋が部屋全体で高卒資格を取らせるといった動きがあったり、中卒の資格ではなかなか就職先が見つからないという事情がこれまでにもあったりしたので、日本相撲協会でもこの高卒資格を取得させるプランを考えたものと思います。


     それから力士の収入の話ですが、関取つまり十両以上に上がれば、100万円以上の月給を得る事が出来、しかも毎場所ごとに場所手当や給金がもらえ、なおかつ引退した際には多額の退職金(養老金)を得る事が出来ます。しかし幕下以下の力士は、力士養成員、つまり修業中の力士とされるために、衣食住の保障はされるものの、月給を得る事は出来ず、もらうお金はほとんど無いといってもいいでしょう。
     また幕下以下の力士の収入について私が新聞などで調べました所、三段目の力士を例に挙げますと、彼らの力士奨励金は1場所の手当てが10万円で、それにその場所で挙げた勝ち星や勝ち越した点数に応じた金額が少額増えるのみ。しかもその奨励金からは源泉徴収の額が引かれて、かつ断髪式のときの大銀杏を結う費用(ビン付け代)も引かれるので実質の手取り額は3万円ほど少なくなるそうです。一応秋場所後と年末にボーナスが出るものの、それでも金額は2〜3万円くらいしかありません。そして引退した時も協会から退職金として、僅かな餞別しかもらえません。


     結局のところ、現在、協会には約600人ほどの力士が在籍しているのですが、この中で関取になれるのは僅か70人だけです。つまり力士は大体10人に対し1人しか成功者になれず、あとは関取の夢半ばで引退する人がほとんどなのです。
     それに、そういった関取になれずに引退した力士は、非常に再就職先が限られています。大抵は親方や部屋の後援会などの紹介で、身体を生かした体力系の仕事や飲食店の経営、もしくは後援会員の会社の職員の仕事に就いており、引退後にタレントや実業家として成功するのはホンの一握りです。
     世間一般的には、引退した力士達の第二の人生は充分にケアされていると誤解されていることが多いのではないかと思います。しかし今回このような事件が起きたことによって、これが大きな間違いであった事を世間は理解しないといけないと思います。彼らの力士としての人生は本当に短いですが、逆に引退したあとの人生はそれよりもはるかに長いのです。
     大体の力士は中学を卒業したあとに大相撲の世界に入った人が多いので、引退した時に社会人として通用する学問や知識が少々欠けていることもよくあると思いますし、しかも長引く不況の影響で、中卒の力士だけじゃなく、高卒や大卒の力士であってもなかなか就職先が見つからないのが現状なのではないでしょうか。
     ですから大相撲もJリーグのように、引退後の就職や進学をサポートするハローワークのような機関を作ってほしいと思います。


     日本相撲協会のみなさんにとっては一人でも多く強い力士を育てる事が大事だとは思いますが、一方でもう少し若い力士達の生活面について協会挙げて理解を深めていれば、こういった残念な事件は起きなかったのではないでしょうか。俗に大相撲の世界では「土俵にはカネが転がっている」という言い回しがありますが、日本相撲協会も、このような華やかな世界の競争原理を推し進めるだけではなく、力士が引退すればそれで関係が終わるという考えを捨て、彼らの第二の人生についてもう少し考えてほしいと思います。



     第4回 「カラー廻しの思い出」


     いよいよ今年の大相撲の本場所も、今月の名古屋場所で4場所目になります。そしてこの場所も横綱・朝青龍や若手力士、外国人力士の活躍が注目されます。
     私が初めて大相撲と出合ったのは今から約25年ほど前のことでした。その頃は私も幼かった為に、あまり相撲を理解していなかったのですが、それでも幕内力士たちが取り組みの時につけるカラフルな色の締め込みまわしをTVの画面で見て、心をときめかせたものです。そして、相撲を見始めた1970年代後半は、ジェシーという愛称で知られた高見山が真っ赤なまわしをつけたり、横綱だった輪島が金色のまわしをつけるなどカラーまわしの全盛期だったと思います。しかしカラーまわしを最初につけたのは、彼らよりもさらに昔の時代の力士でした。


     今から47年前。当時平幕力士であった玉乃海(元・関脇、後の先代・片男波親方・故人)が黄金色の締め込みをつけて本場所の土俵に上がっていますが、これがカラーまわしをつけて相撲を取った力士が出現した最初でした。
     玉乃海関は大変な苦労をした力士で、幕下力士だった昭和15年の上海巡業の際に、酔っぱらって市民と喧嘩を起こし、その喧嘩の仲裁に入った兵士を殴ってしまい、軍兵会議にかけられて一時は日本相撲協会を破門されました。その後兵隊にとられガタルガナル島やシベリアで九死に一生を得た後に、戦後、元・玉ノ海の二所ノ関親方の計らいで協会に幕下付け出しで復帰し、昭和32年に福岡で初めておこなわれた九州本場所では、前頭14枚目の地位で見事平幕全勝優勝という快挙を成し遂げたのです。
     ちなみに優勝を果たしたこの場所は、玉乃海が引退を覚悟した場所でもありました。そして彼は「どうせ最後の場所になるから」ということで、後援会の方から送られた黄金色の締め込みをつけて本場所に臨んだのでした。


     するとこのエピソードがキッカケとなり、暫くの間はカラーまわしが流行していましたが、当時の時津風理事長(元横綱・双葉山・故人)が、カラーまわしが横行するとそれが相撲の美と伝統を損ねる、という考えに基づき、まわしの色に関する規定を作った結果、関取の締め込みの色が黒・紺・紫系統(実際にはナス紺色のもの)のものしか認められなかった時代がありました。
     ところが、1970年の夏場所に、廃れたといわれていたカラーまわしが突然復活したのです。その張本人は当時第52代横綱として土俵に上がっていた北の富士(後の九重親方、現・NHK専属相撲解説者)でした。彼はこの前の場所に新横綱として土俵に上がり、13勝を挙げ準優勝の成績を残した後、グリーンの締め込みを新調してこの場所に臨み、見事14勝を挙げ優勝を果たしました。またそれ以後、テレビの大相撲放送のカラー放送が始まり、スポーツ新聞でもこの北の富士のカラーまわしを大きく取り上げたことから、これらの動きが追い風となって日本相撲協会は規定を緩和し、カラーまわしについて「黙認」する事になったのです。


     現在は派手な色の締め込みをしめる力士は全盛期の頃よりも少なくなり、強さをイメージさせる黒や濃紺の締め込みを好む力士が多くなりました。しかしそんな中でも琴ノ若や黒海のように華やかな花色(薄い紫色)や空色の締め込みをつける力士もいます。
     我々ファンにとっては強い力士を見るのも楽しみなのですが、派手な色のまわしをつけている力士を見るのもこれまた楽しい事ではないでしょうか。まわしの締め込みの色も自己主張の一つだと思います。したがって私は現在の関取衆の力士の中から、輪島や高見山のように一人でも多く派手な色のまわしをつけて話題を呼ぶ力士が出てくる事を楽しみにしています。


    【参考資料】

    ・「速攻管理学」 九重(北の富士)勝昭 著  日之出出版



     第5回 「アテネオリンピック 私の注目競技」


     いよいよアテネオリンピックが、8月12日に女子サッカーを皮切りに開幕いたしました。今回のオリンピックも日本選手団のアテネの地での奮闘が期待されますが、私が注目する競技をいくつか述べ、競技の見所を紹介していきたいと思います。



    1.「女子団体競技が熱い!!」


     今大会の日本の出場女子選手の数は、団体競技で出場枠をたくさん獲得したこともあり、オリンピック史上初めて、男子の総出場選手数を上回りました。その中でも女子団体競技は、ソフトボールやバレーボールなども活躍が期待されますが、私としては、ここ4年の間で急速に力を付けてきバスケットボールに注目したいと思います。

     バスケットボールは、4年前のシドニー五輪ではアジア地区予選の決勝で韓国に惜敗し、ほんの僅かの差で出場権を獲得する事が出来ませんでした。しかし今年1月に仙台で行なわれたアジア地区予選を兼ねたアジア選手権では、出場枠が前回の「1」から「3」に広がった事もあり、ポイントゲッターの濱口や大山を軸としたチームはリラックスして集中した試合運びを見せ、準決勝で宿敵韓国を下し、見事2大会ぶりの五輪出場を果たしています。
     チーム構成は、昨シーズン日本リーグを制したジャパンエナジーの選手が中心となっており、4月のアメリカ遠征では、世界ランク1位のアメリカ相手に3戦3敗したものの順調な調整を続け、全選手大きなケガ無く万全な状態でアテネに乗り込むことが出来ているものと見られます。
     予選リーグは、出場12カ国をA・B両ブロック6カ国ずつに分けた総当たりのリーグ戦で行なわれ、それぞれ上位4カ国が決勝トーナメントに進出します。日本が属するAブロックは、ロシア、オーストラリア、ブラジルといった世界ランク上位の強豪国がひしめく苦しいブロックとなりましたが、上位4チームまでが決勝トーナメントに進めるということで、先ずは予選リーグでの2勝を目標にして戦ってほしいと思います。


    2.「マイナー競技に注目しよう!」

     日本のマスコミはメダル獲得が期待される競泳や陸上、柔道などのメジャーな競技にのみ注目をしているようですが、オリンピックでは他にも多くの競技が行われています。その中でもマイナー競技ながら期待されるのが、射撃競技です。
     射撃競技は地味ながらメダルが期待される競技で、1984年のロサンゼルス五輪ではライフル射撃にて蒲池猛夫選手が金メダルを獲得、1988年のソウル五輪でも同じライフル射撃で長谷川智子選手が銀メダルを獲得するなど、好成績を残しています。
     今回注目される選手は女子エアライフル射撃世界ランクで2位の三崎宏美選手、女子クレートラップ射撃世界ランク5位の竹葉多重子選手です。この射撃競技は大会の中で一番最初の決勝種目ですから、ひょっとするとこの種目で日本勢のメダル第1号選手が誕生することになるかもしれません。


    3.「期待はやっぱり女子マラソン」

     私自身、一番注目している競技といえば、何といっても大会の華である「マラソン」。しかも日本勢で最もメダルが期待されるのは、女子マラソンだと思います。
     今回のコースはオリンピック史上一番アップダウンの激しく、最も攻略の難しいコースとして知られます。金メダル争いの大本命は何といっても現在の世界最高記録保持者であるイギリスのポーラ・ラドクリフ選手ですが、彼女が世界最高記録を出したコースは比較的平坦なロンドンのコースであり、今回のようなアップダウンの激しいコースでの実力は、未知数といっていいでしょう。かたや日本勢は土佐礼子、坂本直子、野口みずきの3選手が出場しますが、中でも野口みずき選手は昨年の世界選手権で銀メダルを獲得し、五輪代表に内定したあとも海外合宿を重ね、トラック競技やハーフマラソンに精力的に参加し、順調な仕上がりを見せているようなので、彼女が日本勢の中でも金メダルに一番近い選手といえるでしょう。彼女達の今の大きな敵はアテネの暑さと油断の2つといえます。それだけ3選手とも調整が順調にいっていると私は思っています。


     今大会は、各種目とも実力がレベルアップしているので、前回のシドニー五輪以上のメダル獲得が期待されます。しかしメダル云々よりも出場する選手全てが、自分の実力をフルに出し切り、ケガ無く活躍をすることを私は願っています。
     どうか選手の皆さん、アテネでは苦しい練習の成果を出し切り、我々ファンにスポーツの素晴らしさと感動をください。ご健闘を祈っております。



     番外編 プロ野球ウエスタンリーグ公式戦『近鉄VSダイエー』前期5回戦・観戦記


     さる5月8日、プロ野球ウエスタンリーグの公式戦「近鉄VSダイエー」の前期5回戦が、私の地元である高知市営東部野球場にて行なわれ、私一豊も、この試合を観戦いたしました。
     両チームは高知に本当に縁のあるチームで、ダイエーは昨年まで高知市で春季キャンプを行なっていましたし、一方の近鉄も、今年からファームがこの球場でキャンプを行なっています。そのため、高知には両チームのファンがたくさんいます。
     この日は天気もよく土曜日ということもあり、約3000人の観衆が集まりました。私も本当は最初から試合を観たかったのですが、不覚にも前日にお酒を痛飲してしまい、2日酔いが治った3回の攻撃から観戦しました(汗)。


     この日の両チームの先発投手は、近鉄はベテランの高村祐。一方のダイエーは、昨年20勝を挙げたエースの斎藤和巳という豪華な対決となりました。
     ちなみに斎藤はこの日、5回を投げて5安打2失点の成績でしたが、その取られた2点が3回に大西、山下、松田の中軸に3連打を浴びての2失点でしたので、この日9つの三振を奪ったとはいえ、決して良い内容とはいえないものでした。一方の高村は4回までにダイエー打線をノーヒットに抑え、結果、6回を2安打1失点の成績でした。しかも取られた1点は、6回にショート山崎がエラーしてランナーを出した段階で、次のバッターに対し自らのけん制悪送球で失った1点でしたが、実質は無失点で抑えた内容に等しいと言えるでしょう。ただ、エラーした高村投手がチョット気の毒だったのは、このエラーで失点した直後、心無いダイエーファンから「近鉄電車で、はよ帰れ!!」と野次られた事でした。


     また打つ方については、この日近鉄の6番バッターで先発出場した山崎が、ホームラン1本を含め、2安打2打点の活躍を見せたのが目立ちました。それとこの試合では、地元明徳義塾高校の出身である筧の活躍が注目されましたが、こちらは2回の第1打席に見事ライト前ヒットを打ち、ファンに存在をアピールしました。近鉄の場合は北川や礒部に代表されるように、捕手で入団した選手をコンバートさせるのが上手なチームですし、筧もまだ2年目の選手ですので、これからの活躍が本当に期待されます。


     この日は試合後に少年野球教室が行われる事もあって、多くの子供達が観戦に訪れましたが、私は試合の途中で微笑ましいシーンを目撃しました。
     試合中に忙しくテキパキと動く審判の方に対し、小学生の子供達が一斉に「審判さ〜ん。お疲れ様!!」という声をかけていたのです。普段スポットライトの当たる機会が少ない審判のみなさんに対して、このような声援が飛ぶのは本当に嬉しい事だと思います。こういった野球を心から愛する子供ファンが今後もたくさん出てくる事を心より願っています。


     試合は後半、近鉄は2番手の有銘から朝井、関口とリレー。有銘は1軍実績もありますが、なかなか勝ち星につながらず、ファーム落ちしていたのです。この日はワンポイント登板でしたが、見事1/3回を三振で抑えました。一方のダイエーは2番手柴田から松本、吉武とリレーしましたが、この吉武が大きな誤算。7回からマウンドに上がったものの、ストライクがなかなか入らずにランナーを背負う苦しい投球。7回に大西に左中間へのタイムリーヒットを許して点を失うと、8回にも押し出しで得点を献上する始末。2イニングで3失点と散々な内容でした。吉武は昨年中継ぎ投手として優勝メンバーの一人に入ったピッチャーなのですが、その実績充分の吉武がお粗末なピッチングを見せるとは、私も正直言って驚きました。


     そして9回、ダイエー最後の攻撃に、近鉄は5番手で守護神のカラスコが登板。この高知でカラスコが見られるのは、ちょっとしたサプライズでした。
     カラスコは先頭バッターを三振に切って取ると、次の代打・榎本にはファールで結構粘られるもショートゴロ。最後のバッターもショートゴロで抑えて近鉄を6−2の勝利へと導き、結果近鉄はウエスタンリーグの前期首位の座をキープしました。
     実際にカラスコの投球を見ましたが、この日の彼のボールには力があり、球の走りも良かったと思います。しかし正直言えば、折角いいものを持っているのに、なぜ1軍の試合となるとリリーフで打たれまくるんだろう、とふと考えさせられる投球内容でした。


     私は最初、ファームの試合というものは、観客も少なく寂しい状況の中で行われるものだと思っていました。しかし今回の試合のように、地方球場では、たくさんの観衆の声援のなかで素晴らしい試合が行なわれるのです。ですので、1軍の試合を観ることができたら、どれだけ盛り上がることでしょうか。私はプロ野球の試合を球場で生観戦する機会が少ない地方の野球ファンのためにも、1軍にはもっと多くの地方都市でこういった公式戦の試合を行なって欲しいと思ってますし、結果としてそれがファンサービスや野球の裾野を広げる事につながっていければ、万々歳です。そして来年もまた、高知でプロ野球の公式戦が行われる事を心より願っています。(了)


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