スポーツ風土記 by 一豊

    第26回 「プロ野球高知キャンプ巡り」

    第27回 「四国アイランドリーグ2006年開幕戦 観戦レポート」

    第28回 「2006夏・聖地甲子園・夢と感動の観戦記」



     第26回 「プロ野球高知キャンプ巡り」


     いよいよプロ野球シーズンも開幕、ますます我々ファンにとっては楽しみが広がる時期となりました。そんな中、私は先月、大阪に住んでいる友人のきんぐさんと一緒に高知市営球場で行なわれたオリックス・バファローズVS阪神タイガースのオープン戦を観戦し、続いて、西武ライオンズとオリックス・バファローズの春季キャンプを見学してまいりました。

     オリックス・バファローズVS阪神タイガースの試合が行なわれた2月26日。この日は朝から強い雨が降り続け、高知県内では大雨警報が発令されたため、試合が行われる見込みは低いな、と私は思っていたのですが、雨が降り止んだあとは急激に天気が回復し、昼前には晴れ間も見えるようになったので、何とか試合を行なうことが出来たのです。これも「晴れ男」のきんぐさんのお陰なのでしょうか?

     試合は5830人の観衆を集め、オリックスはルーキーで即戦力といわれる平野佳寿、阪神は2年目の能見篤史の先発で始まりました。
     まず先制したのはタイガースで、3回表2アウト満塁から4番の濱中がセンターに大きな2塁打を放ち、2人を迎え入れました。平野投手は3回まで投げ、被安打5、2失点4奪三振という内容でしたが、2回まではまずまずだったものの、3回には連打を喰らって冴えなかった一方で、タイガースの先発の能見投手は4回を被安打2、無失点に抑え、先発候補として自らをアピールをするにはふさわしい内容のピッチングでした。

     この試合はバファローズの主催ゲームだったことから主力選手が先発メンバーに名を連ね、早速今シーズン移籍入団した清原和博、中村紀洋が出場しました。ちなみにこの日の清原は3打数のノーヒット、中村は代打で1打数ノーヒットだったものの、2人のワンプレー、ワンスイングごとに、観客からはひときわ大きな声援が送られました。また、バファローズの2番手ピッチャーとして41歳のベテラン吉井理人がマウンドに上がり、1回を四球を1つ与えただけの無失点で抑えました。
     この日、我々2人は1塁側のブルペン近くの席に座っていたためにピッチャー陣が調整している所がよく見え、吉井が我々の席の近くを通りかかったときには、ファンから「ナイスピッチング!」という声も上がりました。 試合は結局、6回からタイガース自慢の打線が爆発、バファローズが繰り出すピッチャーからヒットを重ねた結果、11−4とタイガースが試合を制しました。

     バファローズの投手陣は3番手の大久保まではまずまずだったものの、4番手以降の山本、ユウキ、吉川が滅多打ちに遭い、投手陣がまだまとまっていない印象がありました。一方、タイガースはキャッチャーの浅井が3打数3安打2打点をマークしたものの、リードがうまくいかずに、ファンからヤジが時々飛んでいました。正捕手の矢野が今シーズンも元気なだけに、打つほうだけでなく、ピッチャーをうまくリードしないと先発メンバーに入ることが難しいのではないでしょうか。またタイガースのチーム事情についていえば、今後誰が2番手キャッチャーになるかがチームの上昇のカギを握っているのではないか私は思います。

     翌日、我々は朝早くバスに乗り、西武ライオンズのB組(ファーム、インボイス・ライオンズ)のキャンプが行なわれている県営春野球場を訪れました。ライオンズはチーム創立以来この春野で春季キャンプを張っていたのですが、一昨年からは1軍のキャンプ地が西武グループの宿泊施設がある宮崎県南郷町に移ったため、現在は2軍選手と一部のベテラン選手が春野キャンプにやってきています。
     私がこのキャンプで注目している選手は、地元の明徳義塾高校出身の宮崎一彰選手です。宮崎選手は高校卒業後アメリカの独立リーグでプレーした後に巨人にドラフト指名されたのですが、この時は結果をすぐ求めたがる長嶋茂雄氏が監督だったため、なかなか1軍からお呼びがかからず、活躍できるチャンスには恵まれませんでした。しかしライオンズに移籍してからは、自慢の脚を活かした活躍をしてくれるのではないかと期待しています。

     この日は連係プレーの練習が行なわれた後、フリー打撃が始まったので、きんぐさんと一緒に内野スタンドから外野スタンドへと席を移し、これを見ていたのですが、私達が見ていたときはサク越えする選手がいなかったため、きんぐさんは「中距離打者がいっぱいいる反面、おかわりクン(中村剛也)のような長距離砲の選手がなかなか育っていない気がする」と仰っていました。渡辺久信インボイス・ライオンズ監督がどういうバッター育成をしているのか定かではないのですが、今後カブレラや和田に続く長距離打者が次々と出てくることを期待しています。

     その後我々は、バス、タクシーで移動し、高知市東部野球場でキャンプを張っているオリックス・バファローズの練習を見にいきました。丁度この日は紅白戦が行なわれていたのですが、この日は阪神タイガースのキャンプが休日だった事から、マスコミ各社が多く訪れ、また清原選手が先発出場したことから、平日ながらも大勢のファンが球場に詰め掛けました。中心地からこの球場までの交通アクセスは決して良いとは言えないのですが、それでも清原・中村両選手の入団によって、昨年と違い、賑やかな印象を感じました。

     試合は、4番に先発出場した清原が2打数2安打1打点をマークする活躍を見せて、順調な調整ぶりを見せていました。しかし、投手陣はこの日も若手ピッチャーが連打を浴びたり四球を連発するなど安定せず、課題を残す内容だったと思います。バファローズは打線こそ昨年より断然強力なものになったものの、投手陣は昨年と同様、絶対的なエースや抑えがいないことから、今後若手ピッチャーがどう育つかがポイントといえるのではないでしょうか?

     それから紅白戦終了後、我々は打撃練習とキャッチャー陣の特守を見たあと、中心部に戻り、街を散策しましたが、途中、1964年の夏の全国高校野球選手権で高知高校を率いて見事優勝を果たし、高知県の高校野球界に大きく貢献した故・溝渕峯男氏のご家族が経営しているアラキスポーツという野球用品専門店に立ち寄りました。この店には溝渕氏の遺影が店内に飾られ、多くの野球用品が並べられています。この店では溝渕氏が高知高校の監督を務めたことから高知高校の野球部の練習用ユニフォームも常備置かれており、かつ色々なグラブとかバットも販売されていました。生前の溝渕氏の、県内の高校野球関係者のみなさんから「アラキさん」という愛称で親しまれていた人柄をしのばせる、明るく温かい感じのお店でした。

     今回、私は2日間、きんぐさんは4日間キャンプを見学に行ったのですが、短い時間ながら各チームの色々な練習を見ることができただけでなく、それぞれのチームの課題や楽しみな選手をチェックする事が出来、内容の濃いキャンプ見学となりました。
     今年、この南国高知でのキャンプで鍛えられた選手が、一人でも多く公式戦で活躍を見せてくれることを私は楽しみにしています。そしてタイガース、バファローズ、ライオンズの3チームが優勝争いをそれぞれ繰り広げてくれる事を大いに期待しています。



     第27回 「四国アイランドリーグ2006年開幕戦 観戦レポート」


     プロ野球機構所属球団からドラフト指名されることを目指すアマチュア選手たちが、技術と腕前を競うことを目的としてスタートした四国アイランドリーグもいよいよ2年目のシーズンを迎え、4月1日には高知市と高松市にて開幕戦が行なわれました。
     そして私は、これらのうちの、高知市営球場で行なわれた高知ファイティングドッグスVS徳島インディゴソックスの試合を観てまいりました。
     この日は開幕戦という事で、試合前には、よさこい鳴子踊りのデモンストレーションや石毛宏典コミッショナーによるスピーチなどが行なわれ、場内を盛り上げてくれました。またリーグの協賛スポンサーである四国コカ・コーラより観客に対して、コカ・コーラの無料配布サービスもありました。

     さて試合です。開幕戦の先発は高知が高梨篤、徳島は番場由樹で、昼1時にプレーボールの声が上がりました。

     試合は1回裏からいきなり動く波乱含みの展開。この日の徳島の先発番場は開幕戦で緊張したか、先頭バッターの角中をフォアボールで歩かせた後、続く2番梶田にはライト前にヒットを打たれ、しかもそのボールを徳島のライトの西村が後ろにそらす間に角中がホームイン。そして打った梶田はそれを見て3塁まで進みました。したがって高知は、なんとシングルヒット1本で先制しましたが、その後、古卿が凡退し1アウト後、4番山本がフォアボールを選び、5番宮本の打席の際には番場のワイルドピッチで梶田がホームインし、2点目。さらに宮本、中村が続けてフォアボールを選び満塁にしたあと、日高は凡退しましたが、8番の土佐がレフト前にヒットを放ち、レフトの金谷がボールをファンブルする間にランナーがみんな返った結果、番場の乱調はあったものの、この回の高知は、5点を取るビッグイニングをつくることに成功したのです。

     高知の先発・高梨は、5回まではまずまずのピッチングで無失点に抑えました。6回には1アウト1,3塁から4番の金谷にライト前ヒットを打たれ、1点を返されましたが、高梨の失点はこの6回の1点のみ。7回を投げて被安打4、5奪三振、2四死球、1失点という、まあまあの内容でした。

     一方高知の打線は2回以降、湿りがちではあったものの、6回にこの回先頭の6番・中村が、徳島の2番手ピッチャー・安里からレフト前にヒットを打つと、続く代打松橋がセンターを破る3ベースヒットを放ち、久しぶりに追加点。そして、次の杭田の打席の際、固くなった安里がワイルドピッチし、7点目。更に9番の国信がピッチャー前にバントヒットを決めると、続く角中の打席ですかさず2盗に成功。角中がフォアボールを選び、1アウト1、2塁となったところで徳島はピッチャーを3番手の生出にスイッチしましたが、梶田が凡退し、2者がそれぞれ塁を進めた後、古卿がセンター前ヒットを打ち、その2者が生還して、さらに2点を追加。結果、この回の高知は中押しとなる3点を入れることに成功し、スコアは8−1となりました。
     するとその後の高知は、8回から上里田、赤井がそれぞれ1回ずつを投げ、共に無失点に抑えたため、8−1で地元初戦を白星で飾りました。

     ただ、初戦を白星で飾ったのは嬉しい事なのですが、高知にとっては課題がまだまだ残るゲームだったと私は思います。それは、1回に5点は取ったものの、その内容は、番場の乱調とからめ、フォアボールやワイルドピッチで得たチャンスをモノにしただけだったので、番場が立ち直った2回からの4イニングスはわずか1安打1四球という内容で打線が沈黙してしまったため、番場を完全に攻略したとはいえない、と感じているからです。それだけに今後、勝ち続けるためには、打線を今まで以上に強化する必要があるのではないでしょうか。

     この試合は開幕戦という事で、ご祝儀相場ではないのでしょうが、1232人の有料入場者数を記録しました。ですが今後、試合の観客数を増やすためには、これまで以上にメディアやファンサービスなどでファンを開拓していく努力を続ける必要があると思いますし、それによってチームも更に盛り上がるのではないのでしょうか?

     今シーズンも高知ファイティングドッグスがリーグ2連覇を果たし、私達ファンを喜ばせると共に、今年こそ四国アイランドリーグのおらが街チームから1人でも多くの選手がプロ野球機構のチームにドラフト指名され、その中から活躍ができる選手が出てくることを期待したいです。



     第28回 「2006夏・聖地甲子園・夢と感動の観戦記」


     今回から数回にわたって、8月に大阪を訪れた際、甲子園球場にて観戦した全国高等学校野球選手権大会についての特集を、集中的に組みたいと思います。
     何かと話題の多かった今年の甲子園大会。読者のみなさまも、脳裏に選手のみなさんの熱いプレイを再生しながら、ぜひ私の駄話におつきあいください。


     2006年8月10日・木曜日。

     この日より地元・高知にて行われる「よさこい祭り」の本祭の喧騒を避けて、私は子供の頃からの憧れであった全国高校野球選手権を観るため、プロ野球の阪神タイガースの本拠地にしてその聖地であると同時に高校野球の聖地でもある阪神甲子園球場へと、足を運びました。
     前日にすでに大阪入りしていた私は、友人である野球ファン 仲間のきんぐさんと京セラドーム大阪でのオリックス・バファローズVS西武ライオンズ戦を観戦したのですが、その観戦結果に対するネガティヴな興奮がおさまらないのと、いよいよ今日から観戦する甲子園大会への大きな期待があいまって、複雑な心境の中、突発的な興奮がたびたび訪れてきたためにとても眠る事が出来ず、深夜の1時まで起きていたのですが、今日9時30分から第1試合が行なわれる関係で、睡眠時間がたとえ短かろうと早起きをしないといけなかったので、ムリヤリ寝たのでした。

     そして今朝。何とか4時間睡眠で6時前に目を覚まし、身支度と食事を済ませた後、バッグに筆記用具などを入れてから9時前に道頓堀のホテルを出て、一路甲子園へと出発。地下鉄のなんば駅から御堂筋線で梅田へ。いつも大阪へ旅行した時に感じる事ですが、ラッシュアワーから時間が外れているのにもかかわらず、この人の多さは何なんだ!?と思うぐらいになんば駅での客の乗り降りは本当に多いんです。
     そのために結局座席に座れないまま梅田に到着した私は、今度は阪神電車の梅田駅へと移動。御堂筋線の梅田駅から少し北に歩くと阪神電車の乗り場につくのですが、こちらも高校野球を観戦する熱心なファンと高校生でいっぱい。ということで、私も甲子園駅までの520円の往復切符を買って、急行電車で梅田駅を出ました。

     それからしばらくして、ゆったりと走る電車が淀川の上を通過すると、窓から見える川の流れは本当に穏やか。しかも、雲ひとつ無い青空。まるで神様が「充分に楽しんでらっしゃい!」と言わんばかりの上天気だったのでありました。そして、そんなこんなしているうちに電車はあっという間に甲子園の駅に着いたのですが、到着すると、駅の出口は黒山のような人だかりだったのです。
     私は、この人たちがみな試合を観にきたのかと思うと、改めて甲子園大会の人気を肌で感じたのでした。また、球場前はまだ朝であるにもかかわらず、すでにオープンして営業をはじめているグッズショップの出店や売店などでにぎわっており、それらの活気を見た私の胸は、次第に高鳴ってきました。

     その後私が、名物のツタが蒼々と茂っている球場の入り口に近づくと、タイミングよく爽やかな風が軽くさらりと吹き込んできたので、黒山のような人だかりと暑さにうだっていた私も、思わず背骨をシャン、としました。
     この日は大会5日目で、私が観戦する予定になっていたのは、1回戦の3試合。特に第3試合では、夏の全国大会3連覇を目指す南北海道代表の駒大苫小牧高校が登場し、山口代表の南陽工業と戦う事になっていたのですが、果たして駒苫のエースである田中投手の出来がどうなのか、ということが私にはとても気になりました。

     ところで、スタンドへの入場チケットを買いに窓口に向かう途中、私は、メジャーリーグ通算714ホーマーをマークしたベーブ・ルースのレリーフがある記念碑を目にしました。
     なんと、こんなところにも1934年に行なわれた日米対抗野球で来日した、メジャーリーグ選抜一行の足跡があったのですね。私はこのレリーフを見た途端に、この甲子園球場の伝統の重さというものを肌にひしひしと感じ、さらに身が引き締まってきました。そしてこの日は、球史における大舞台としての場を提供してきた甲子園球場に敬意を示すため、純白の半袖のワイシャツを着てきたのですが、うだるような暑さとその緊張感のために、せっかくのそのワイシャツも、すでに汗でべとべとだったのでした。

     チケット売り場で1,200円の1塁側の内野自由席を購入すると、私はついにスタンドへと足を踏み入れました。第一印象は、とにかく蒼い!そして広々!グラウンドは本当に雄大で芝の蒼さと内野の黒土のかもし出す輝きとが見事にマッチしていて、もしも野球の女神というものがいたのだとしたら、おそらくその清冽な微笑みがこういうイメージなのだろう、と長澤まさみに萌えている私はなんとなく考えたのでした。また、グラウンドそのものも職員のみなさんによって綺麗に整備され、「だからこそ、このグラウンドに立つことを高校球児みんなが夢見ているのか...」と感じさせるような見事さだったのでした。
     しかし、スタンドにいた私はすっかり”酩酊”状態。別に前夜、酒を浴びるように呑んだわけではないのですが、まるでゆれるボートの上でフラフラしながらオールを漕いでいるような足元の覚束なさで、こんな事だったら無理してでももう少し早く床に就けば良かった、と思ったのですが、今さら遅いのは言うまでもありません。そして、そんなフラフラしている私の脳天を直撃するように、第1試合のサイレンがけたたましく鳴り響くと、三重代表の三重高校と熊本代表の熊本工業それぞれのナインが出てきてホームベースの前に整列、お互い帽子をとって一礼してから、試合は幕を開けたのでした。(つづく)


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