ベースボール・ビジネス by B_wind

    ベースボール・ビジネス11 フランチャイズ

    ベースボール・ビジネス12 フランチャイズ・チェーンの秘密

    ベースボール・ビジネス13 リーグ戦興行共同体

    ベースボール・ビジネス14 フランチャイズ地域の都市の独立性

    ベースボール・ビジネス15 都市とチームの結びつき



     ベースボール・ビジネス11 フランチャイズ


     プロ野球ビジネスとして一番知られているのが、フランチャイズだと思います。フランチャイズとは、よく本拠地や専用球場の意味で使われたりしますが、実際は、特定の地域の興行を独占する権利のことで、プロ野球協約では「地域権」といいます。また、その特定地域を「保護地域」といい、都道府県単位で与えられています。例えば、巨人は全国区ではなく「東京都」、横浜は横浜市ではなく「神奈川県」、阪神は大阪府ではなく「兵庫県」という具合になっています。

     プロ野球の父、鈴木惣太郎氏は「アメリカ野球秘話」の中でフランチャイズの訳は「地域権」よりも「特権行使地域」とする方がよかろう、としています。つまり、フランチャイズとは地域権と保護地域を含んだ用語だと思われます。ただし、米国の協約の中には、フランチャイズという言葉自体は使われていないそうです。これは米国の独占禁止法に触れる虞があるためといわれています。

     プロ野球興行のマーケットは、球場から1時間から1時間半程度の時間的距離の中と言った具合に地理的に制約されます(第1回「観客はどこから来るのか?」参照)。逆にいえば、球場と球場の距離を離せば、マーケットの競合が起こらないことを意味しています。そこで、リーグ加盟球団同士が、共倒れを防ぐためマーケットが重複しないよう定めたのがフランチャイズです(第3回「プロ野球ビジネス事始め」参照)。生態学でいう「棲み分け」と同じで、生活圏を異にすることにより無駄な争い事を避けるという知恵です。

     米国ではニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴといった巨大都市でも二球団(ただし、リーグは別)までになっていますが、日本では東京都に巨人、ヤクルト、日本ハムの3球団があり、都心から1時間半の距離の中には横浜、西武、千葉ロッテがあります。「東京都」の中では3球団が、首都圏では6球団が競合している状態です。このため、2004年から日本ハムは、フランチャイズを北海道に移転することになりました。

     地域権を与えられた球団は、その地域内の興行を独占でき、他球団が同地域で試合を主催するには同球団の許可が必要になります。ところが、日本では人気球団による他地域興行が頻繁に行われています。巨人はダイエーの保護地域である福岡県と、近鉄の保護地域である大阪府内で公式戦を主催しています。これは、親会社である新聞社の販売促進という意味をもっています。来年から日本ハムが保護地域とする北海道でも、巨人は毎年公式戦を主催しており、来年以降も主催するもと思われます。

     また、このフランチャイズは、米国では単なる地域内の興行権にとどまらず、放送権も制約するようになっています。ところが、日本では、球団が放送権を自由に許可する権利を持つことができるとして、地域権から放送権を除くことが野球協約(44条)にはっきりと明記されています。このため、巨人戦の全国放送が、他球団のマーケットを侵す結果となっています。



     ベースボール・ビジネス12 フランチャイズ・チェーンの秘密


     フランチャイズという言葉を辞書で引くと、プロ野球の地域独占興行権という意味と本部(フランチャイザー)が加盟店(フランチャイジー)に与える一定地域内での営業販売権という二つの意味が出てきます。後者は、コンビニや外食産業などのフランチャイズ・チェーンやフランチャイズ・ビジネスという言葉として使われています。一見、プロ野球のフランチャイズと外食産業のフランチャイズは意味を異にしているように思えますが、私はなぜか同じように思えるのです。こう考えるのは私だけではないようです。

     タック川本氏は、著書「新庄が「4番」を打った理由」の中で、「メジャーリーグの球団は,地域のチェーン店」という言葉を書いています。米国ではフランチャイズ・チェーンの看板が溢れているが、この看板が商品やサービスの安心と信頼感を示している。安心と信頼の看板がフランチャイズの戦略だ。そして,メジャーリーグは,地域密着型のフランチャイズ制をとり,球団のある本拠地の都市名を名乗っている。これは,メジャーリーグという冠(看板)のもと活動することを明確にしたものであり,いわばメッツとヤンキースはメジャーリーグ・ニューヨーク支店でドジャースはメジャーリーグ・ロサンゼルス支店の愛称だとしています。フランチャイズ・チェーン「メジャーリーグ」にはそうしたお店が米国とカナダに30店営業し,店のオーナーは店舗(スタジアム)を用意し,スタッフを抱え監督やコーチ,選手を社員として雇用し,ベースボール・ゲームという「ザ・ショー」を見せる,としています。

     日本のプロ野球協約によれば、日本プロ野球組織(NPB)に加盟している球団は、加盟と引き替えに同組織から「地域権」「選手契約権」「選手保有権」を与えられている形になっています。逆に、加盟球団が、NPBから脱退しようとすると協約36条の2より「地域権」「選手契約権」「選手保有権」は喪失します。つまり、読売ジャイアンツ(株式会社読売巨人軍)が、NPBから脱けた場合、清原や上原などとの選手契約の資格を失ってしまいます。つまり、フランチャイザー(本部)がNPBで、フランチャイジー(加盟店)が加盟球団ということになります。「日本プロ野球(NPB)」という看板が、プロ野球という商品の安心と信頼を与えるということになります。

     NPBへの参加球団は、協約27条で資本金1億円以上の株式会社と規定され、この会社自体が球団とされています。個々の加盟球団が独立した株式会社であるというもので、一つには八百長の防止があると思いますが、もう一つ、球団経営の独立性を保つ意味合いがあると思います。

     とあるビジネス書を読んでいたら次のような文書がでてきました。加護野忠男著の「<競争優位>のシステム」の中の一節です。フランチャイズ・チェーンの本部は、「店舗の設計・受発注の管理といったノウハウ提供活動に集中し、店舗の運営は独立した事業家であるフランチャイジーに任せている。それによって、店舗経営の真剣さを上手に引き出すことができるし、情報環流を活性化することができる。損をすれば自分の損になるし、得をすれば自分の儲けになるという単純なインセンティブ・システムの導入が可能になるからだ。」

    ●参考文献

    「<競争優位>のシステム 事業戦略の静かな革命」 加護野忠男著 PHP新書
    「新庄が「4番」を打った理由」タック川本著 朝日新聞社



     ベースボール・ビジネス13 リーグ戦興行共同体


     プロ野球を始めとするプロリーグの加盟球団は、リーグ戦を共同で興行する事業体です。私はこれをリーグ戦興行共同体と呼んでいます。いわば、各球団はフィールドでは、リーグ戦という競争を演じますが、ビジネスでは、利害関係の一致したパートナーということになります。アナハイム・エンゼルスのタック川本氏は、著書「新庄が「4番」を打った理由」の中で、「メジャーリーグの『リーグ』は,連盟、連盟、団体、協会という意味があるが、米ノートルダム大学リチャード・シーハン経済学部教授は、さらに解釈を深めて、リーグとは「協同の取り組み」と説いている」と書いています。

     プロリーグは、リーグ戦を興行し、それをスポーツ消費者が直接・間接に対価を払って観戦するという財の交換によって成立ビジネスです。プロリーグは、スペクテイター・スポーツであり、観戦者を抜きには存在できません。スポーツ消費者である観戦者は、スタジアムで観戦したり、テレビを通して試合を観たりします。スタジアムでの観戦には、地理的に制約があることから、その観戦マーケットはスタジアムから1時間半程度の時間的距離圏内ということになります。この観戦マーケットが相互に競合しないように配置しようというのが、フランチャイズ・システムです。フランチャイズの中では、球団は独立性を保ち、自己の利益を追求しますが、他球団の利益を奪ったり、倒産に追いやったりすることはありません。フランチャイズ・システムは、球団間のビジネス上の競合を避け、加盟球団の共存体制を可能にするシステムです。ただし、各球団のビジネス機会は、フランチャイズ人口に依存することになりますから、このフランチャイズ人口の格差が大きいと、球団間に財政的格差が生まれ、このフランチャイズ・システムは有効に機能しなくなります。

     テレビ放送の場合、電波に地理的制約はありませんから、マーケットの競合が発生します。しかも、その競合は、ナショナル・マーケット上での競合ですから、球団間の利害の不一致も大きくなります。特定の球団の利益の追求が、他の球団の利益を奪い取り、倒産に追いやる可能性すらあるのです。リーグ戦興行共同体の運営のためには、テレビ放送に、フランチャイズと異なる規制が必要になってきます。それが、テレビ放送のリーグ管理とレベニュー・シェアリング(収入の再分配)です。これは、テレビ放映権について、プロリーグが直接契約し、その収入を各球団に再配分するという制度です。

     個々の球団に放映権があるイタリアのセリエAでは、上位クラブと下位クラブの放映権料の格差が広がり、今シーズンの開幕が2週間延期になるという事態が生じました。収集策として、上位クラブが下位クラブの補填金を支払うという一種のレベニュー・シェアリングの方法がとられました。

    ●参考文献

    「新庄が「4番」を打った理由」タック川本著(朝日新聞社)
    「スポーツイベントの経済学」原田宗彦著(平凡社新書)



     ベースボール・ビジネス14 フランチャイズ地域の都市の独立性


     フランチャイズ・システムが有効に機能するためには、前回指摘したフランチャイズ人口の格差のほか、フランチャイズ地域の都市の独立性が上げられます。

     人口504万の福岡県をフランチャイズとする福岡ダイエーは、2002年、310万人の観客を動員しています。これに対し、人口558万の兵庫県をフランチャイズとするオリックスの観客動員数は、109万人です。また、882万人の大阪府をフランチャイズとする大阪近鉄の観客動員数は135万人にすぎません。これは、福岡県が九州という地域に独立した経済圏を作っているのに対し、大阪府と兵庫県、それに京都府を加えた地域は、関西圏という同一の経済圏(生活圏)を有しており、その関西圏というマーケットの市場支配力を阪神タイガースが持っているからです。

     福岡ダイエーは、フランチャイズ・システムにより、福岡県というマーケットを地域独占できるのに対し、オリックスと大阪近鉄は、関西マーケットの市場支配力を持つ阪神タイガースと、ビジネス上の競争を強いられています。

     また、首都圏では、東京都をフランチャイズとする読売、ヤクルト、日本ハムと郊外に位置する埼玉県の西武、千葉県の千葉ロッテ、神奈川県の横浜ベイスターズの6球団が、首都圏マーケットを取り合う格好になっています。埼玉県の人口が700万、千葉県が600万、神奈川県が860万と福岡県の人口を上回りながら、西武168万、千葉ロッテ121万、横浜153万と福岡ダイエーの半数の観客しか動員することができません。

     首都圏は、東京に経済・文化の拠点が集中し、東京への交通網が発達しています。埼玉・千葉・神奈川の同一県内の移動よりも、東京への移動の方が便利に出来ています。また、人々の関心も、郊外に住んでいながら○○都民と言われるように東京に向いています。そのような状況で、プロ野球の首都圏マーケットは、読売ジャイアンツが圧倒的な市場支配力を持っています。

     我が国、中でも、首都圏と関西圏にあっては、厳密な意味でのフランチャイズによるマーケットの棲み分けは難しい状況にあります。このような状況は、我が国特有のようです。堺屋太一氏によれば、戦後の先進国の中で文化と経済に占める首都圏の占める比重が高くなったのは日本だけだそうです。アメリカの首都圏というとワシントンやニューヨークのある東部ですが,その比重は下がり,カルフォルニア,テキサス,ジョージア,フロリダなど首都圏から遠い地域の比重が高まっています。これは,大リーグの移転や拡大を見れば明らかです。ヨーロッパを見てもイギリスでは,ロンドンの比重は下がり,ロンドンに本社を置いている大企業は6割に過ぎず、フランスは典型的なパリ一極集中ですが,今や上位百社の中でパリに本社があるのは56社だけだそうです。

    ●参考文献 「進むべき道」 堺屋太一・浜田宏一 PHP 2000

    ●出典

    観客動員数:日本プロ野球史探訪倶楽部 http://www.d7.dion.ne.jp/~xmot/?
    人口:GLinGLin 都道府県基本のデータ http://www.glin.org/prefect/prf/prefbase.html



     ベースボール・ビジネス15 都市とチームの結びつき


     プロ野球の商品といえば、試合観戦ですが、これには球場での観戦と、テレビ観戦のふたつがあります。球場での観戦には、地理的限界があり、本来、フランチャイズ制と相性がいいのですが、前回見たとおり、我が国のおかれている状況には難しいものがあります。

     チーム・ロイヤルティを使ったプロモーションにおいても、この問題が障害になってきます。「スポーツ産業論入門」(原田宗彦編著)によれば、チーム・ロイヤルティとは、特定チームへの忠誠心や愛着心のことをいいますが、このチーム・ロイヤルティの高い人は、1シーズンの観戦回数が多いという相関関係があり、球団にとっては優良顧客ということになります。

     このため、チーム・ロイヤルティを高めることが球団のチケット販売戦略とって重要になります。では、どうやったらチーム・ロイヤルティを高めることができるかということになりますが、この点について同書では、「人が自分を規定する要素の中で、変えることができない物事に対してより強いロイヤルティを感じる」と指摘し、「それらの要素とチーム・ロイヤルティを結びつけることが重要である」としています。そして、チームへの結びつきを強める「変えることができない要素」の例として、居住地域と出身地域を上げています。

     「この出身地域と居住地域へのロイヤルティとその地域に所属するチームとの結びつきを強めることによって、地元チームだから応援する、という安定したファンが確保できる」ことになります。特に、出身地域は生来的なものであり変えようがありません。この出身地域と強く結びついたのが夏の高校野球です。ノックアウト形式の都道府県対抗戦は、お盆シーズンと重なり、望郷意識を駆り立てます。ところが、居住地域には、今の日本人はそれほど愛着を感じないようです。

     それは、戦後の都市づくりが「特色のない都市(地域)づくり」をしてきたからです。戦後、全国各地に同じような商店街ができ、同じような多目的ホールや病院ができ、同じような学校できました。さらにその商店街も、現在では、画一化された巨大スーパーとコンビニの登場により消え去ろうとしています。また、戦後の居住地域は、単なる寝るための場所となり、そこには地域コミュニティは生まれず、教育は学校で、人間関係は職場で、社交は厚生施設や商業施設で、娯楽は職場の仲間と一緒に通勤途上という生活スタイルが定型化されてしまいました。(参考文献 堺屋太一著「高齢化大好機」(NTT出版)

     このような特色のない居住地域は、人にとってどこの地域も代わり映えしないということになり、そもそも「自分を規定する要素」となり得ないのではないかということになります。つまり、居住地域との結びつき利用したプロモーションは効果がそれほど期待できないということになります。ただし、Jリーグの鹿島アントラーズやコンサドーレ札幌などを見ていると特色のない都市に、球団という特色を付加することにより、チーム・ロイヤルティを作り出していくことは可能です。

     ところがそれも難しい面があります。「スポーツの今日(いま)を刻む」(杉山茂・岡崎満義編著 創文企画)は、メールマガジン「スポーツアドバンテージ」のコラムをまとめて出版したものですが、その序文で,メルマガの主催者のひとり岡崎満義氏が横浜ベイスターズの大堀隆球団社長の話が忘れられないといいます。

     その話とは「98年にベイスターズがセ・リーグで優勝し、日本シリーズも制したとき、同時期に神奈川ゆめ国体も開かれていたんです。どちらが地域=横浜市の活性化に力があったか。私はベイスターズだと思う。地下街に佐々木の大魔神神社ができたくらいですから。国体には何年にもわたって何千何百億円ものお金が使われたはずです。それにくらべて、せめてベイスターズには横浜球場の使用料を安くしてもらいたいと希望するのですが、それができない。市に言わせると,もし安くしたら必ず市民から,たかが一私企業のための利益をはかり、結局は税金を使うことになるようなことは許せない、と抗議の電話が殺到するだろう、というのです」

     ちなみに横浜スタジアムの使用料は1試合2000万円だそうですが、札幌ドームは800万円のようです。

    ●参考文献

    「スポーツ産業論入門」 原田宗彦編著 杏林書院
    「高齢化大好機」 堺屋太一著 NTT出版
    「スポーツの今日(いま)を刻む」 杉山茂・岡崎満義編著 創文企画


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