ICHILAUのスポーツ博物学 by ICHILAU

    第6回 NPBにおける受難の時代 〜その2〜 

    第7回 2002シーズンのMLB記録諸々 〜その1〜

    第8回 2002シーズンのMLB記録諸々 〜その2〜

    第9回 2002シーズンのMLB記録諸々 〜その3〜

    第10回 リアル・ワールドシリーズへの途 〜前半〜



     第6回 NPBにおける受難の時代 〜その2〜 


     みなさまこんにちは。ICHILAUです。今回も前回に引き続き、『NPBにおける受難の時代』について考察してみたいと思います。

     前回は、「移籍金なしに黒字の出せるクラブが皆無のサッカー界」と比較して、「選手の移籍金に頼ることなく黒字が出せるNPBは、かなり優良なリーグなのではないか」と考えるようになってきたところまでを書かせて頂きました。
     そこで今回は、そのサッカー界の長年の問題である移籍金制度について、まず述べていきます。

     サッカーの世界では、いわゆるMLBやNPBのドラフトであるような選手の契約金についての規定は、選手がプロに入る時点では、ありません。たとえば欧州のクラブユースで育成される選手にしても、クラブで認められ、プロ契約を結ぶ時点で決まっているのは選手の年俸だけで、クラブ側は契約金なしで、その選手の保有権を持ちます。また、ドラフト制度は、たとえば、2000シーズンまでのKリーグ(韓国)には存在していましたが、Kリーグのドラフトでは学校とクラブが”縁故関係”を結んで、クラブの親会社から学校側が金銭的支援を受ける、という形式を採っており、選手個人に契約金が支払われるわけでは、ありません。したがって2002年現在、殆どのサッカークラブに置ける最大の収入源が選手の移籍金であることは、前回お話したとおりです。なお、今日の欧州サッカー界では、ケーブルテレビの放送権料が高騰し、ビッククラブの場合は放送権料が収入の中で大きいシェアを占めているわけですが、それでも黒字となるクラブは例外なく、選手放出で得られる移籍金が、選手獲得で支払う移籍金を上回っています。
     もちろん、中小クラブの場合、無尽蔵の赤字を物ともしないビッグクラブの金脈がこれらを支えるために、移籍金制度が無くてはならないものになっていることは前回も書かせて頂いた通りですが、近年は、この移籍金制度の前提となっている保有権が、選手の人権を侵害しているのではないか、という追及が相次ぐようになりました。
     その嚆矢となったのが、以前の2002年W杯特集の際に説明させていただいた、ボスマン判決です。

     ちなみにボスマン判決以前の保有権というのは、選手とクラブとの契約が切れても、まだクラブ側は選手の保有権を持っているので、選手が移籍したくても前所属クラブの許可無しには移籍できない、というものでした。すると当然ながら、契約終了後の選手が移籍しても、前所属クラブには移籍金が入るので、前述のとおり、クラブ側としては、プロ経験のない選手と1年契約をしただけで、好きなだけその選手を保有し、自分たちの事情で好きな時に移籍させることができるという、“とんでもないもの”でした。
     したがって中小クラブとしては、なるべく高い金額でその選手を他クラブに売りつけることで収入を確保し、クラブとしての命脈を保ってきたわけです。

     しかし、この“クラブ支配”の状況を一変させる事件が起きました。これがボスマンケースです。

     1990年に所属クラブ、RCリエージュとの契約が切れたベルギーの無名選手、ボスマンは、新たなクラブへの移籍を希望しました。しかしその際、RCリエージュとボスマンとの関係はこじれ、RCリエージュはボスマンに法外な移籍金をかけ、彼を“飼い殺し”の状態にしてしまいました。
     そこでこのような仕打ちを受けたボスマンが、ベルギーの裁判所へクラブの人権侵害を提訴すると同時に、この様な保有権制度を容認するベルギーサッカー協会、およびUEFA(ヨーロッパサッカー連盟)の移籍制度そのものの違法性を訴えると、この事態を重く見たベルギーの裁判所は、EU全体を管轄するヨーロッパ司法裁判所にこの判断を委ね、この件については、ヨーロッパ司法裁判所が判決を下すこととなったのです。そしてボスマン側が、保有権制度がEU法の定める「労働者の移動の自由を認め、労働条件における国籍による差別の禁止」に払拭すると主張する一方で、UEFAを筆頭とするクラブ側は、「移籍金が無くなると、クラブの財政に多大な負担がかかるので、クラブ間の競争力のバランスを乱し、サッカー界に危機が訪れる。また、サッカー選手はその労働の形態の特殊性から、一般労働者とは異なるので、特殊な立場にある芸術家として扱われるべきだ」と主張しました。
     すると1995年には、クラブ側の頑強な抵抗にもかかわらず、ボスマンは圧倒的な勝利を勝ち取り、その結果、外国人枠と保有権が緩和されたことで、良いクラブに良い選手が集中し、クラブの試合が面白くなり、クラブサッカーへの関心が高まり、放送権料の高騰などを通して、サッカー界は潤ったのです。なお移籍金は、契約期間中に移籍する為に契約を破棄した際の「違約金」として生き残りましたが、華やかな国際カップ戦に縁のない中小クラブにとっては、自らの事情にしたがって選手を売却できなくなった分、リスクが増えただけでした。

     それから、「労働者」としての地位を手にした選手達は、更に保有権に対する追及を強めました。
     そして1997年には、EU圏外の国籍を持った選手についてもボスマンと同様の裁判が起き、EU以外でも「サッカーの制度が、労働法に触れる」との判断が出る見込みになったところで、重い腰をあげたFIFAはついにEU法などに触れない新制度の整備を始め、2001年に新たな規定を完成させました。

    ★ 国際移籍に関するFIFA規則

     【前文】

     契約が終了した全ての選手は、世界中で自由に移籍することができる。
     ただし、育成補償金に関する下記の2の規定に従うものとする。

     1 選手の育成に安定した環境を確保するために、18歳未満の選手の国際移籍または最初の登録は、一定の条件を満たした場合にのみ認められる。

     2 選手の才能を増進し競争を促すためには、クラブが若い選手の育成に投資するための財政的および競技的な動機が必要である。原則として、23歳以下の選手の移籍には、クラブに対して育成補償金が支払われる。

     3 契約期間は国内法に応じて最低1年から最高5年とする。クラブ、選手および一般大衆にとって、契約の安定は最も重要である。選手とクラブの契約関係は、サッカー特有の必要性に応じて、選手とクラブの利益の正しいバランスを計り、競技の秩序と適切な機能を 維持するような制度により統括されなければならない。

     4 競技の秩序と機能を保護するために、1シーズンに2回の統一の移籍可能期間を設ける。移籍は1選手につき1シーズン1回を限度とする。

     しかし、この制度でもまだ選手の自由は制限されており、選手自身や、選手と利害が一致する一部のビッグクラブの更なる追及によって、完全な自由が獲得される可能性もあります。そうなってしまえば、基盤を持たない中小クラブは多大な打撃を受けることでしょう。ハッキリ言って移籍金制度は時代遅れだと私は思いますが、中小クラブの移籍金に代わる収入源についての見通しは立っていないのが現状です。

     そこで以上の事を考慮すると、私はむしろ、移籍金に依存しなければならないサッカーよりも「移籍金がなくても存続できるリーグ」=NPBの方が先を行っていると思います。
     NPBは会社という強力な基盤に立脚し、親会社の営業目的と球団保有目的が一体化しているチームも複数存在するため、存続問題が起きることすら考えにくく、移籍金制度のような人権侵害と糾弾されている制度に頼らずともやっていけており、選手の権利と言う意味では、ドラフト制度導入前には10年選手制度も存在し、いまはFA制度もあるので、サッカーよりも人権が確保されているのではないかと考えるからです。それに前述したとおり、プロの世界に入る際には、特殊な場合を除き、契約金もちゃんともらえます。
     もちろんNPBのあり方や将来について批判が聞かれるようになって久しいのは、皆さんもご承知のことですし、NPBにはNPBなりにプロアマ問題や、メディアとの癒着、チーム格差、閉鎖的すぎるシステムなどの、解決すべき問題を数多く抱えてはいますが、移籍金制度や保有権と言ったサッカー界の抱えている問題の方が遥かに深刻であり、競技自体を脅かしているのではないか、と私は考えているのです。

     ただ、サッカー界の問題の方が深刻だからという理由で、NPBの問題が見過ごされていいわけでは決してありませんし、また、最近話題になっている、ビッグクラブのエゴの話や、メディア企業の破綻の話もあります。そこで次回以降はこれらの問題について、執筆者を編集長のMBさんに代わっていただき、サッカーや野球という枠を越え、スポーツビジネスのあり方の面そのものから論じていただくことにします。



    【参考サイト・文献】

    http://web.sfc.keio.ac.jp/~msh/sports-b/8th.htm
    http://www.people.or.jp/~15oliseh/repo/repo1.htm
    http://www.sportsnetwork.co.jp/jl/jl_advbn/vol35.html
    http://www.sportsnetwork.co.jp/jl/jl_advbn/vol36.html
    http://www.j-league.or.jp/nletter/66/02.html
    2001年6月25日/日本経済新聞 朝刊23面より 『競争促すか(韓国Kリーグ)ドラフト撤廃』
    南米蹴球紀行 ケイブンシャ



     第7回 2002シーズンのMLB記録諸々 〜その1〜


     みなさんこんにちは。ICHILAUです。いかがお過ごしでしょうか。今週は皆さんも、現在佳境に入っているMLBワールドシリーズを、ドキドキしながら注目されていることと思います。

     ところで話は変わりますが、皆さんご存知の通り、今シーズンのMLBは、スト期限の8月30日でシーズンが中止してしまうのではないかと言われ、我々ファンとしてはすっかりハラハラさせられましたが、結局はギリギリでこれを回避することができました。その結果今シーズンは、1994シーズンのときのように、グウィンの4割達成といった快記録のチャンスがフイになったり、あるいはリプケンの連続出場といった記録が脅かされたり、といった悪夢が繰り返されることなく、無事にレギュラーシーズンを終了させることができたのです。そこで今回はこれを記念して、今シーズンMLBで達成された快記録のいくつかを拾って、それらを話のタネにしてみたいと思います。

    ★15−15、10−10、そして40−40★

    【15−15】

     「今シーズン達成された最も偉大な記録」と私が考えているのは、なんといってもあのサイ・ヤング(通算511勝)に並んだ、グレック・マダックスの、15年連続15勝という記録です。
     というのも、「3人の投手がローテイションを組み、先発は基本的に完投し、エースが度々リリーフにも立った」サイ・ヤングの時代に比べ、「4人以上の先発投手がローテイションを組み、試合終盤にはより適任のリリーフ投手が投げる」現代野球の方が、遙かに勝利数を増やすのは、難しいからです。したがって、サイ・ヤングの時代の投手記録に現代野球の投手が追いついたというのは、途方もない快挙といえるでしょう。

     ちなみにサイ・ヤングは1891年〜1905年の連続記録の間、年平均27.6勝していましたが、対するマダックスは17.7勝をしているに過ぎません。
     しかし、上記の理由に加えて、サイ・ヤングの記録継続中の所属リーグ本塁打王の平均が14.7本であるのに対し、マダックスのそれが46.7本に達している事実を考えても、マダックスの記録が如何に困難な状況で達成されたかが、お分かりになるだろうと思います。
     果たしてマダックスが来シーズン、単独1位に躍り出るのか、大いに注目しましょう。

    【10−10】

     今シーズン途中、インディアンズからエクスポズに移籍したバルトロ・コロンは、“世紀の快挙”を達成しました。それは、両リーグそれぞれで10勝という珍記録です。
     私は、コロンが今シーズン途中、10勝4敗の時点でア・リーグのクリーヴランド・インディアンスからナ・リーグのモントリオール・エクスポズへと移籍した時に、もしや、と期待しましたが、エクスポズでも10勝4敗を記録、見事1945年のハンク・ボロウィー(ニューヨーク・ヤンキース→シカゴ・カブス)以来の、両リーグでの10勝という“珍記録”を達成してくれました。これは、史上2人目と言う意味では、マダックスに匹敵する記録と言えるでしょう。
     ちなみに、近年、この記録に最も近づいたのは現在アリゾナ・ダイアモンドバックスの左のエースとして君臨しているランディー・ジョンソンで、彼は1998シーズン、ア・リーグのシアトル・マリナーズで9勝を上げて後、ナ・リーグのヒューストン・アストロズへと移籍し、それから10勝を上げてシーズンを終えました。

    【40−40】

     過去、僅か3人しかいない40−40(40本塁打、40盗塁)に、今シーズンは2選手が同時に挑み、その2選手アルフォンソ・ソリアーノ(ニューヨーク・ヤンキース)、ブラディミール・ゲレーロ(モントリオール・エクスポズ)は、共に本塁打が1本足りず、快記録を逃しました。
     中でも、惜しかったのはゲレーロです。
     161試合目に打った40号と思われた打球は、「フェンスは超えていない」との微妙な判定で、幻のホームランとなってしまいました。

     ちなみにこの『幻のホームラン』に類似する例で思い出されるのは、1998シーズンにマーク・マグワイア(当時セントルイス・カーディナルス)が本拠地ブッシュ・スタジアムで放った、「幻の66号」です。この幻のホームランについては、ライヴ映像でご覧になった方も多いかと思います。
     またその他にも、マグワイアだけでなく、714本のホームランを放ったベーブ・ルースも、755本のホームランを放ったハンク・アーロンも、それぞれ1本ずつ「幻のホームラン」を打っていると伝えられていますが、今回のゲレーロのケースも、マグワイア、ルース、アーロンのケースと同様、議論の的となる事でしょう。したがって、このゲレーロの「幻の40−40」についても、皆様の記憶に是非とどめて頂ければ、と思います。
     それとゲレーロは今年、日本でなら話題となる「3割30本30盗塁」を2年連続で達成していますが、これはMLB史上初となっています。

     あとソリアーノは、10試合以上残して39号を打った時点で二塁打も40本を超えていましたので、史上初の40-40-40は確実と思われましたが、最後まであと1本が出ず、快記録を逃しました。
     しかし、シーズン終了までに、二塁打が50本の大台に達したので、こちらは史上初の30-40-50を達成しました。この記録については、30-30を達成した選手ですら同時に50二塁打を記録した選手がいないので、非常にすばらしい記録といえるでしょう。

     ただし、それでも両選手共に40-40を逃した事実は変わりません。つまり、いくら惜しくても、記録を達成できなかったという事実は厳然として残っている、ということなんです。
     ところが、この2002シーズン、40-40を達成した選手がいます。その名はバリー・ボンズ。そのバリー・ボンズが、今現在、ワールドシリーズに出場し、快記録を連発しています。次回は、そのバリー・ボンズの40-40のお話からです。



     第8回 2002シーズンのMLB記録諸々 〜その2〜


     みなさまこんにちは。ICHILAUです。いまはみなさまも、マスターズリーグやポストシーズンの話題(中でも松井秀喜のMLB行きの話題について)が気になって仕方がない頃でしょう。
     さて、前回の最後にて申し上げましたとおり、今回は、今年のワールドシリーズでも大活躍した、バリー・ボンズの40-40の話から行きたいと思います。

    ★驚異のボンズ★

     みなさまよくご存知の通り、ボンズは1996シーズン、前回でも取り上げた40本塁打40盗塁、つまり、一般的によく知られているところの40-40を達成していますが、今シーズンボンズが記録した40-40は、40本塁打、40三振です。今シーズンのボンズは、46本塁打に対して三振は僅かに47でしたが、これは1969シーズンにハンク・アーロンが、44本塁打、47三振を記録して以来の離れ業なのです。
     今シーズン、40本塁打以上を打ったボンズ以外の打者の三振の平均は120.1で、あの三振の少ないことで有名なイチローですら、62三振を記しています。これは、三振が甚だしく増えた現代野球にあって、極めて例外的な出来事と言えるでしょう。

     しかし、今シーズンのボンズの恐ろしさは、この記録に象徴されるだけのものではありません。
     昨シーズンのボンズは、本塁打、長打率、四球、本塁打率の4つの部門で偉大な新記録を作っていますが、今シーズンはさらに、敬遠、四球、最年長初首位打者、出塁率の4つの部門で、またまた新記録を作りました。

     まず敬遠記録についてですが、ボンズは、ジャイアンツの先輩ウィリー・マコヴィーの敬遠記録45を早々と抜き去ると、続いては60の大台に乗せ、結局68にまで記録を伸ばしました。敬遠だけで、今シーズンのMLBの個人成績における、51位の四球数に相当します。
     また、四球でも自身の記録を僅か1年で塗り替え、198回も歩きました。プレーオフを睨み、最終戦を欠場したので、200四球の大台こそ逃しましたが、日本風に四死球として数えれば、207で大台達成ということになります。

     それからボンズは今シーズン、打率も大幅に上げ、.370で初の首位打者に輝きました。
     ちなみに「首位打者の最年長記録」としては、テッド・ウィリアムスによる、1958シーズン、40歳での記録がありますが、MLB史上における「初の首位打者を獲得した最年長記録」としては、1982シーズン、36歳で初の首位打者となったアル・オリヴァーがこれまでの最年長記録で、今年38歳のボンズは、これを超え、この最年長記録を更新したのです。

     しかし、なんと言っても今シーズン、ボンズが達成した最も偉大な記録は、今年亡くなった大打者テッド・ウィリアムスが1941年(4割達成の年)に作った出塁率の最高記録を更新した事でしょう。従来の記録、.551を大幅に更新する出塁率、.582は、「不滅の大記録」といっても過言ではありません。

     さて、ボンズが今までに達成した記録を、以下に、書けるだけ書いてみることにしましょう。

     本塁打、出塁率、長打率、四球、本塁打率、敬遠の各単年度最高記録。
     30-30(30本塁打30盗塁)を5回(父ボビー・ボンズと並び、最多タイ)
     3割30本塁打30盗塁を3回(MLB史上最多)
     40-40(40本塁打40盗塁)
     50-50(1990シーズンに52盗塁、2001シーズンに73本塁打で、それぞれ50の大台を突破。他ではブレイディ・アンダーソンのみがこれを記録)
     通算600本塁打
     前人未踏の400-400(500-500まで残り7盗塁)
     11年連続30本塁打
     敬遠通算最多記録
     ゴールドグラブ8回
     単年ポストシーズン最多本塁打
     出塁率、長打率、四球、各単年ワールドシリーズ最高記録
     ワールドシリーズ通算敬遠記録最多タイ(5度出場のバーニー・ウィリアムスとタイ)
     史上最多、5度のMVP

     他にも、私が忘れている記録がまだまだありそうです。
     ボンズの殿堂入りは疑う余地がありませんが、殿堂入りの証であるプレートに、ボンズの偉業が全部書き切れるのかは、私としては大いに不安です(笑)

    ★隠れた快挙★

     テキサス・レンジャースのラファエロ・パルメイロは、38歳ながら今シーズン、43本塁打を放ちました。
     これで、8年連続で38本塁打をクリアーした事になります。
     大変半端な数字ですが、実は、8年連続38本塁打以上は、あのベーブ・ルースを抜いて、単独1位の記録なのです。
     ちなみに11年連続30本塁打以上のボンズは、1999シーズン34本に止まっており(355打数34本塁打は無論、ハイレベルなのですが)、また70本塁打を放ったマグワイアも1995〜99シーズンにかけ、5年連続で38本塁打をクリアーしていますが、パルメイロには敵いません。そしてアレックス・ロドリゲスとサミー・ソーサが5年連続を継続中ですが、現時点でパルメイロがこの部門における、MLB史上最長の記録保持者であるのは間違いない事実です。

     さて、今シーズン49本塁打だったために、5年連続50本塁打を1本足りずに逃したサミー・ソーサですが、パルメイロと同じ論法で言えば、5年連続49本塁打以上は新記録です。ちなみに今までの記録は、マグワイアによる、1996〜1999シーズンにかけての4年連続でした。
     ソーサのファンの方々は、来年ソーサが本塁打を49本打つかどうかに要注目です。

     また、ボンズやパルメイロより1年早い、1963年生まれのフレッド・マクグリッフは、今シーズン30本の本塁打を打ちましたが、これで彼は、トロント・ブルージェイズ、サンディエゴ・パドレス、アトランタ・ブレーブス、タンパベイ・デヴィルレイズに続いてシカゴ・カブスでも30本塁打を記録し、元同僚ホセ・カンセコを抜く、MLB史上最多、5球団での30本塁打を記録することとなりました。
     またその30号本塁打はPNCパーク(サンフランシスコ・ジャイアンツ)での自身初本塁打であり、42球場での本塁打も、MLB史上最多ということになります。

    ★108年振りの金字塔★

     1993シーズンのマーク・ウィッテン以来長く途絶えていた「一試合4本塁打」が、今シーズンはMLB史上初めて、二回記録されました。

     5月2日、シアトル・マリナーズのマイク・キャメロンは、1回にブレット・ブーンと揃って2本塁打を放つという珍記録を作りましたが、キャメロンは更に、続く3・4打席目にも本塁打を放ち、1試合4打席連続本塁打の快挙を達成しました。同じ試合で、1イニング2本塁打と一試合4本塁打を両方達成したのは、1894シーズンのボビー・ロウ以来となります。

     そして、キャメロンの記録から僅か21日後の5月23日、今度はロサンゼルス・ドジャーズのショーン・グリーンが、1試合4本塁打を達成しました。
     こちらは連続ではありませんでしたが、同じ試合の中で、本塁打以外に単打と二塁打を放っており、合計19塁打はMLB新記録で、年間塁打記録保持者ベーブ・ルース、通算塁打記録保持者ハンク・アーロンに、ある意味肩を並べたと言えるでしょう。
     また、グリーンは、続く2試合でも3本塁打を放ち、3試合7本塁打のMLB新記録を作りました。

     それから、本塁打の記録をもう1つ挙げるとしたら、スト期限寸前の8月29日、シカゴ・カブスのマーク・ベルホーンが1イニングに両打席から放った本塁打でしょう。これはナ・リーグ初であり、1993シーズンに当時クリーヴランド・インディアンスに所属していたカルロス・バイエーガが放って以来、2人目の記録となっています。

     さて、今回は打者の記録のみを取り扱いましたが、次回は投手の記録について言及し、このシリーズを終えたいと思います。次回をお楽しみに。



     第9回 2002シーズンのMLB記録諸々 〜その3〜


     みなさまこんにちは。ICHILAUです。今回はこのシリーズの最終回ということで、投手の記録について言及し、終わりにしたいと思います。

    ★クローザーの話題★

     オークランド・アスレチックスのクローザー、ビリー・コッチは、今シーズン11勝44セーヴを記録しましたが、意外にも、10勝40セーヴは、これがMLB史上初めてです。過去には、当時モントリオール・エクスポズに所属していたジョン・ウェッテランドが1993シーズン、現在までサンディエゴ・パドレスに在籍しているトレヴァー・ホフマンが1996シーズン、それぞれ9勝40セーヴをクリアーしていますが、10勝40セーヴをクリアーしたのはコッチが初めてですから、これは快挙と言えるでしょう。

     ちなみにそのホフマンは今シーズン、41回のセーヴ機会で3度しか失敗せず、38セーヴを上げましたが、これで7年連続37セーヴ以上となります。これは、やはり継続中のロブ・ネンによる5年連続37セーヴ以上を抑え、堂々MLB史上第1位です。
     また、※通算352セーヴのホフマンには、リー・スミスの最多セーヴ記録478を抜くチャンスは、十分にあるでしょう。

     それからクローザーと言えば、今シーズン大変身を遂げた、元サイ・ヤング賞投手、ジョン・スモルツを忘れる訳にはいきません。
     過去に10セーヴしか上げていないスモルツは、今シーズン35歳にして、初めてクローザーに定着すると、いきなりナショナル・リーグ記録を更新する、55セーヴを記録しました。
     またスモルツは、1996シーズンには24勝を上げていますので、これはデニス・エカーズリーについで2人目の、20勝50セーヴ経験者となります。そして最多勝と50セーヴの両方を経験したのは、スモルツがただ1人です。
     サイ・ヤング賞投手の鮮やかな復活でした。

     最後に、ドジャースのケベック人クローザー、エリック・ガーニエも、面白い記録を作りました。
     ガーニエは今シーズン、チームのタイトルはジャイアンツに、個人のタイトルはスモルツに、それぞれ接戦の末奪われてしましたが、防御率1点台、50セーヴ、70試合登板、登板試合勝率8割を同時にクリアーしたのは、今シーズンのガーニエが、実をいうと最初です。
     過去50セーヴ以上記録した投手のうち、ガーニエ以外で防御率1点台をクリアしたのは3人、70試合以上登板したのは5人、登板試合勝率8割を超えたのは1人いますが、全てに届いたのは今回のガーニエが最初であり、これは隠れた大記録と言えるでしょう。

    ※編集部追記:トレヴァー・ホフマンのその後

     トレヴァー・ホフマンはその後、MLB史上最も偉大なクローザーとして、2006シーズンにリー・スミスの通算セーヴ数478を更新すると、続く2007シーズンはついに、大台の500を突破した。そして2007シーズン現在もその数を順調に伸ばし続けているどころか、最多セーヴ王争いも続けている。


    ★両エースの快挙★

     最後に、MLBを代表する先発投手の快挙をご紹介します。

     球界を代表する右腕ペドロ・マルティネスは、今シーズン故障から復活して、20勝4敗の成績を上げ、150勝に到達しました。通算の勝敗は152勝63敗となりますが、その勝率.707は、150勝以上の投手の中で最高の勝率です。
     これはかつて、打者が投手に投球の高低を要求できた時代の1871〜1877シーズンにかけて、252勝65敗、勝率.795を記録したアル・スポルティングの例がありますが、この時代の選手と現代野球の選手を比較するのは、不公平と言えるでしょう。

     ダイヤモンドバックスの両輪、ランディ・ジョンソンとカート・シリングは、MLB史上初の300奪三振デュオとなり、2人で47勝を上げましたが、中でもジョンソンの成績は素晴らしいの一言です。
     ジョンソンは今シーズン39歳にして、勝利、防御率、奪三振、投球回数、勝率の各部門で、リーグトップに立ちました。ちなみに20世紀にこの五冠王を達成したのは、ウォルター・ジョンソン(1913年)、ピート・アレキサンダー(1915年)、レフティー・ゴメス(1934年)、サンディ・コーファックス(1965年)の僅か4人(すべて殿堂入り)と言う離れ業です。比較として、打者の最高の栄誉である打率、打点、本塁打の部門で三冠王に輝くことですら、20世紀に14回記録されていることを考えても、ジョンソンの今シーズンの素晴らしさがお分かり頂けると思います。サイヤング賞どころか、MVPに選出されてもおかしくない成績、といっても過言ではないでしょう。

     さて、以上3回にわたってこのシリーズを連載してきましたが、これで私の「2002シーズンMLB記録トピックス」を終わりにしたいと思います。
     最後に登場選手や関連情報のリンクを載せておきます。活用していただければ幸いです。

    (その1)

    トニー・グウィン
    カル・リプケン
    サイ・ヤング
    グレッグ・マダックス
    バートロ・コロン
    ハンク・ボロウィー
    ランディ・ジョンソン
    アルフォンソ・ソリアーノ
    ヴラディミール・ゲレーロ
    マーク・マグワイア
    ベーブ・ルース
    ハンク・アーロン
    バリー・ボンズ

    (その2)

    バーニー・ウィリアムス
    ウィリー・マコヴィー
    イチロー
    アル・オリヴァー
    テッド・ウィリアムス
    ボビー・ボンズ
    ブレイディ・アンダーソン
    ラファエロ・パルメイロ
    アレックス・ロドリゲス
    サミー・ソーサ
    フレッド・マクグリッフ
    ホゼ・カンセコ
    マーク・ウィッテン
    マイク・キャメロン
    ブレット・ブーン
    ボビー・ロウ
    ショーン・グリーン
    マーク・ベルホーン
    カルロス・バイエーガ

    (その3)

    ビリー・コッチ
    ジョン・ウェッテランド
    トレヴァー・ホフマン
    リー・スミス
    ジョン・スモルツ
    デニス・エカーズリー
    エリック・ガーニエ
    ペドロ・マルティネス
    アル・スポルティング
    カート・シリング
    ウォルター・ジョンソン
    ピート・アレキサンダー
    レフティ・ゴメス
    サンディ・コーファックス



     第10回 リアル・ワールドシリーズへの途 〜前半〜


     新年を迎えてからは早いもので、もう一月が過ぎようとしていますが、皆様いかがお過ごしですか?
     旧年中は「ぼーる通信」をお読み頂き、有難うございました。
     今年もよろしくお願い致します。

     さて、昨年11月の日米野球での「NPB選抜」の健闘は、皆様の記憶にも新しい事と思います。そして、その「NPB選抜」の“「MLB選抜」を向こうに回した戦いぶり”を見て私の脳裏に浮かんだのは、「真のワールドシリーズ」のことでした。
     MLB側がベストでなかったとは言え、日米野球で「NPB選抜」があれだけ健闘できるのなら、今年日本一になった巨人あたりが単独チームでMLBの覇権に挑んで何処まで行けるのかは、私としても大変興味深いところです。

     というわけで、今回は野球の世界一決定戦、「真のワールドシリーズ」について書かせて頂く事を思い立ちました。

     世界に存在するプロ野球リーグの中で、現在MLBに次いで規模が大きいのは、我がNPBです。しかし単純に「NPB王者VSMLB王者」の対戦を設定するだけで、「真のワールドシリーズ」を開催とまでは行きません。
     皆様ご存知の通り、現在日米の他にも、ドミニカ共和国、プエルトリコ、ヴェネズエラ、メキシコ、韓国、オーストラリアなどにもプロ野球リーグは存在します。その中でNPBに次いで規模が大きいと言えるのは韓国ですが、レベルの高さでは、現役MLB選手も参加するドミニカ共和国、プエルトリコなどのウィンターリーグの方が上と言えるでしょう。
     そのため、「欧州代表VS南米代表」で行われるサッカークラブ世界一決定戦「トヨタカップ」を模して、「極東代表VS米州代表」で「真のワールドシリーズ」を行ったとしても、極東のトップ選手ですら北米で活躍する現状では、勢力図の上で大きな偏りが出来てしまいます。
     したがって、勢力のバランスを取る方法として、各国優勝チームに加えてMLBの上位チームを複数参加させた「世界クラブ選手権」を開催する手もありますが、その場合、秋開催となれば、MLBですでに充分タフなリーグを戦い終えた選手に、新たな負担がかかることになってしまいます。とは言え、翌春まで開催を待つとなると、MLBの場合は移籍が盛んなため、チームの陣容が大きく変わってしまうでしょう。
     また、「世界クラブ選手権」でMLBポストシーズンゲームの焼き直しを行い、ワールドシリーズで負けたチームが「世界一」になる様な事態となれば、MLBの伝統や格に傷が付く事になります。
     そこで「野球の世界一決定戦」を意義深い物にするには、やはりMLBチームも含んだ世界選手権体系に他国のチームも参加する必要がありますが、MLBと対等の存在がない以上、「真のワールドシリーズ」の開催は難しいでしょう。

     現在の世界のプロ野球界の勢力図を考慮した上で、はたして、模範となる世界選手権体系を持っている他の競技があるでしょうか。
     ところが、この答は意外なところにあるのです。
     私は実を申しますと、少年野球のリトルリーグワールドシリーズが、「真のワールドシリーズ」の見本になると考えています。
    (リトルリーグワールドシリーズについては、こちらよりご確認ください。)

     簡単に言えば、リトルリーグワールドシリーズでは「全米選手権」と「その他の世界選手権」を平行して開催し、その王者同士がリトルリーグ世界一を賭けて対戦しています。
     これをプロ野球の世界に当てはめると、圧倒的にレベルの高いチームが多数集まったMLBが、「全米選手権」に相当します。そして「その他の世界選手権」に相当する大会を新設して(仮に世界クラブ選手権と呼びます)、その「世界クラブ選手権」にMLB以外の各国リーグからチームを集め、MLB王者である「米代表」と「真のワールドシリーズ」で対戦するチームを決めれば良いと思います。
     この方法なら、MLBの新たな負担は最小限にとどめることができると同時に、各国リーグを「世界クラブ選手権」の予選に当てる事で、多くのチームが「真のワールドシリーズ」の挑戦者になるチャンスを得ることができます。

     次回はその「世界クラブ選手権」について触れたいと思います。


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