幸せ!?メジャー観戦記 by Set East

    第1回 02年4月12日 エクスポズ@シェイスタジアム

    第2回 02年5月4日 マリナーズ@ヤンキ−スタジアム

    第3回 02年5月9日 ジャイアンツ@シェイスタジアム

    第4回 02年7月11日 ハドソンバリーレネゲイツVSスタテンアイランドヤンキース@リッチモンドカウンティバンクボールパークアットセントジョージ

    第5回 02年8月4日 ハドソンバリーレネゲイツVSブルックリンサイクロンズ@キースパンパーク



     第1回 02年4月12日 エクスポズ@シェイスタジアム


    〜ほんとですか?〜の巻
    02年4月12日
    エクスポズ@シェイスタジアム

     ある日のこと。そろそろベースボールの虫が疼きだしたSE(Set East)は、事前に地元NYメッツのウェブサイトをチェックし、シェイスタジアムでの今年の初観戦の日を決めた。

     そしてその日の朝。小雨がぱらつく肌寒い天気の中、お気に入りのメッツマフラー、メッツニットキャップで完全防備のSEは、試合開始2時間前に到着し、チケット売り場に向かっていた。まだプレイボールまで時間があるせいか、誰も並んでいない。さぁて買うか、颯爽と20ドル札を取り出し、歩を進める。ビールとホットドッグ、それから後半戦用のポップコーン。メッツのウェブサイトに「アッパーデック(1番上の階)2ドル」とあったので、20ドルあれば十分だと思っていたのだ。ふと顔を上げ、料金表を見る。

    「マジかよ!」

     12ドル…係員が怪訝そうにこちらを窺っている。

     SE「一番安いやつ下さい。」20ドル紙幣を差し出す。

     係員「12ダラーズ(dollars)。」

     ・・・最期のあがきも通じない。観念しておつりを受け取り、とっとと入場口の方へ向かう。後のことを考えると、ここで時間を使わなかったのは正解だった。しかし、ビールを取るか、食べ物を取るかで頭がいっぱいだった男が、そんなことを知る由もない。

     どこから入ればいいのかはすぐに分かった。十数人の警備員が待ち構えていたのだ。そりゃそうだよなと思いながら、おもむろにバッグを手渡す。新人らしい男が木枠のようなもので大きさを測り始めたのだが、何か戸惑っている。それを見つけた責任者らしき人が何か言っている。早口だったということもあるが、少し距離があったのでよく聞き取れない。そばまで行ってみると、今度ははっきりと何を言っているのかが分かった。要は、バッグがでかいかららしい。12インチ四方の、その木枠よりは小さくないといけないと。SEが持っていたものは12.1型のノートパソコンがちょうど入るぐらいのものであった。確かに、そのサイズよりは大きい。理解していないように見えたのか、「That's too big.」と念を押された。ありったけの皮肉を込めた、「THIS is too big, huh?」との問いかけにも、「Yup.(うん)」としか言ってくれないではないか。「まーじーかーよー。」この時には、まさに全身脱力状態であった。彼らによると、持ち物の大きさのことは、ラジオ、テレビ、雑誌でも告知していたらしかった。

     かといって、ただ途方にくれているわけにもいかない。球場の周りを歩いてみても、ロッカーなども見当たらない。一旦家に戻ってまた来ることも考えたが、どこか近くの、安全な場所に置くのがベストということに変わりは無い。

     さてどうしようかと思案していると、ふとあることを思いついた。日本人記者である。彼らにお願いすれば、安全な場所であるのと同時に、小宮山がいるので、確実に試合終了まで居てくれるはずだ。

     案の定、5分も経たないうちに、それらしき人が近づいてきた。声をかけると、その人はカメラマンで、この日先発の大家担当らしい。事のあらましを説明すると、大家がマウンドを降りたらすぐに、日本に写真を送らないといけないので最後まではいられないが、それでもいいならと、無理なお願いに快く応じてくれた。結局その方の車にバッグを入れ、7回終了時点で取りに来るということになったが、感謝の気持ちでいっぱいである。

     試合のほうは、大家が7回途中まで1失点の好投も、メッツ先発のダミーコがそれ以上の出来で、8回まで無失点。SEは、約束どおり大家が降板した時点で球場の外に出たので、実際には見てはいないが、結局2対1でメッツの勝利。メッツはこれで、この日も含めて全て1点差での3連勝、ナリーグ東地区単独首位となった。

     ところで、ビールと食べ物どっちを取ったかであるが、球場内でATMを発見したとあっては、結局どうしたかは想像に難くないだろう。



     第2回 02年5月4日 マリナーズ@ヤンキ−スタジアム


    〜イチロー、危うし!?〜の巻
    02年5月4日
    マリナーズ@ヤンキ−スタジアム

     見られている。見られている!球場の入り口に近づけば近づくほど、それは、はっきりとしてきていた。中には、こちらを向いて笑っている人さえいる。

    「何かしたっけな?」

     SE(Set East)は、確かに、何かがおかしいことに気づいていた。しかし、何がおかしいのかは全く見当もつかない。ただの自意識過剰だな、気にしてもしょうがないので、構わずゲートに向かっていると、

    「ヘイ、イチィロゥ!」

     という声が聞こえて来た。

    「何!?イチロー!?どこどこ!?」

     その姿を捕らえようと辺りを見回してみたが、どこにもそれらしき人はいない。それどころか、その少年はSEの胸あたりをじっと見つめている。
     「あぁ、なるほどね!」そう、この日SEはシアトルキャップにシアトルジャージー(ユニフォームの複製品)で地元ヤンキースタジアムに乗り込んでいたのだ。

     この日の先発はシアトルがベテランのモイヤー、ニューヨークがヘルナンデス。午後1時、試合開始が近づくにつれて、球場が熱気でどんどん覆われてくる。ライトスタンドの最後尾に陣取ったSEの周りも、今か今かと、始まりを心待ちにしているわくわく坊やたちでいっぱいである。

     そしてその5分後、待ちに待ったプレイボール。1回、2回と2本のホームランでヤンキースが5点を先行し、ライトスタンドもいい感じの盛り上がり。この調子でいったら、どうやら「日本人留学生、ヤンキースタジアムでボカスカジャンに遭う」という見出しで、次の日の三面記事を飾ることはなさそうである。

     ところが、マリナーズが4本のソロホームランで追い上げてくると、今まで大人しかった、ライトスタンドの猛者たちの様子が変わってきた。

     守備交代の間にブーイングが起こり、何事かと思いきや、そこにはイチローTシャツを着た、人の良さそうな日本人のお父さんが!そして、それを遠くから見ているSEは、すっごくトイレに行きたい!…ので、寒さ対策で持ってきていた上着を羽織り、帽子は内側に隠して行くことにした。

     そうこうしている内に、ゲームの方は、ポイントとなる終盤戦の八回へ。無死一塁から、イチローのヒットでランナー一、三塁として、バッターはこの試合ホームランを打っているシリーロ。この日のニューヨークは雲ひとつ無い快晴で、日差しがじりじりと照り付ける天気である。そんな時に、打つわ打つわ、ファールを。結局、12球目を打って浅いセンターフライに終わったが、これがヤンキーファンに火をつけた。

     5対5と追いつかれて迎えたヤンキースのその裏の攻撃。今度は、この回からマウンドに上がったネルソンが点いた火に油を注ぐ。ホワイトを四球で歩かせた後、代走のG.ウィルソンに対して、投げるわ投げるわ、牽制球を。

     「キュウキュウケンセイカヨ!」

     ヤンキースファンも思わず突っ込むほどであった。

     その後、元広島のソリアーノを三振、B.ウィリアムスを四球で二死満塁とし、迎えるバッターはヤンキースのプリンス、ジーター。ジーターならなんとかしてくれる、そう信じて疑わないファンは、スタンディングオベーションでその時を待っていた。ツーアウト満塁、ツースリー。そして、第八球目。

     「オー、ノー!」

     球場全体が落胆の声に包まれる。結局見逃し三振で、この回は終了。それと同時にライトスタンドの危険度は3から5へ。

     9回の表、危険度はさらにアップする。イチロー敬遠の後、一死満塁からシリーロのセンター前ヒットでマリナーズが勝ち越すと、もう限界である。それまではマリナーズルックで頑張っていたSEだったが、上着を着てほっと一安心。

     試合の方は、9対5から、9回裏を長谷川が難なく締め、マリナーズの連勝で今季の対ヤンキース戦3勝2敗。長谷川と言えば、試合前の練習中、佐々木と一緒に走っている彼を見て、

     「あ、見て見て、ささきぃささきぃ。」「あ、本当だぁ。一緒にいるの通訳さんかなぁ。」

     と言っていた人、するどいが、彼は、通訳はできても通訳さんではない、野球選手である。



     第3回 02年5月9日 ジャイアンツ@シェイスタジアム


    〜僕ら野球人!?〜の巻
    02年5月9日
    ジャイアンツ@シェイスタジアム

     コートが必要なほど肌寒い天気の中、懸念だった数学のテストを終えたSE(Set East)の足取りは、やまだかつてないほどに軽かった。何も気にせず愉しむことができる、そんな開放感からだろう、にやにやしてしまうし、鼻歌も>出てくる。しまいには、スキップまでかましてしまっていた。あほうである。

     そんな自分に気付きつつ、チケットブースに辿り着いたSEは、さらに積極的な行動にでる。

     「あれ、この前もいたよね?ダミーコが投げてた時。」

     と、前の人に話し掛けたのだ。相手はそうでもなかったようだが、SEはその顔をはっきりと覚えていた。前回、ここシェイスタジアムで話し掛けられ、完膚なきまでに叩きのめされた相手だったのだ。その英語に。速さといい、スラングの使い方といい、正真正銘のティーンである。この恨み、はらさでおくべきか!と思っていたSEにとっては、絶好のリベンジのチャンスだ。そして、数分後・・・今日のところはこれで勘弁してやる、と人生で初めて使うと思しき捨てゼリフを吐きながら、SEは「帰ったらMTV(若者向けの音楽チャンネル。10代から20代前半の日常英語が多し)でも見るかな。」と心に誓うのであった。

     それから少したって、試合開始まであと5分という頃には、SEはすでにほろ酔い気分になっていた。目の前でいちゃついてるカップルも、いつもより微笑ましく見える。が、このカップル、只者ではなかった。と言うのも、男が、これでもかというぐらい、彼女に解説するのである。親切でやっているのだろうが、彼女、明らかに困惑気味。確かに、この日初めて野球観戦に来たであろう女性にとって、「ここは1球高めに外してバッターの目線を上げて、それから低めのチェンジアップでタイミングをずらす」とか、「アスタシオ(この日のメッツの先発投手)ストレート続けすぎ。次は外角にカーブで泳がしてゲッツーだ」と、2階席で熱弁を振るわれてもきついだろう。「そんなあなたが好きオーラ」は出ていたけれども。

     しかし、そんな彼女に業を煮やしたのか、彼が突然SEに話を振ってきた。「日本から来たの?どこに住んでんの?」等々。そして、「隣に座りなよ。どうせ誰も来ないからさ」と。

     そうして迎えた二回の裏、一死から、メッツのペイトンが三塁打を放つ。湧き上がるメッツファン。無論SEも盛り上がっていたのだが、ふとある事に気付いた。隣の彼が左手を少し上げて、何かを待っているように見えるのだ。何でこの人こんなポーズしてんだ?何がしたいんだろう?え?何?何?(この間1秒)・・・

    「Yeah!」

     そう、彼はハイタッチをしようとしていたのだ。まさに間一髪セーフである。

     それからも彼とのやりとりは続いた。野球に関することばかりなので大半は理解できるのだが、それでも中には速すぎたり、いきなり言われたりで判らないものもある。そういう時には、「Yeah.」「Right.」と言う風に、相槌を打ってごまかす。それ以外は、比較的簡単な言い回しを、早口で喋る。はったりである。確信犯である。盛り上がり第一主義である。

     そうこうしている内に、試合の方は、四回表のボンズのホームランを皮切りに、ジャイアンツが6回に逆転。最後はクローザーのネンが締め、そのままジャイアンツの勝利。新庄は4タコと残念な結果に終った。しかも、トレードで出されたのにも関わらず、ブーイングを喰らう羽目に。

     ところで、リベンジへの第一歩であるが、帰宅後早速チャンネルをMTVに合わせては見たものの、プロモーションビデオを流していたため、翌日へと持ち越されることになった・・・



     第4回 02年7月11日 ハドソンバリーレネゲイツVSスタテンアイランドヤンキース@リッチモンドカウンティバンクボールパークアットセントジョージ


    〜マイナーなヤンキース!?〜の巻
    02年7月11日
    ハドソンバリーレネゲイツVSスタテンアイランドヤンキース@リッチモンドカウンティバンクボールパークアットセントジョージ

     マンハッタンの南端からフェリーで約25分、その第一歩を踏み出したSE(Set East)は、未知の土地に辿り着いた興奮で、明らかに気持ちが上ずっていた。そこは、スタテンアイランド。ヤンキース傘下のシングルA、スタテンアイランドヤンキースの本拠地だ。
     SEにとって、マイナーチームの球場自体に来るのは4回目だったが、マイナーチーム同士の試合を見るのはこれが初めてだ。テレビや雑誌、インターネットのおかげである程度のイメージはある。ただし、今回はその場で生ライブ。想像とは全く違ったものかもしれない。そこで、SEは決心した。何が起こっても「この夏、もっとエンジョイ」これで行こうと。ちなみに、これはフェリーの中で空想に耽っている時に思いついたもので、さしたる意味は無い。

     フェリー乗り場から球場までのアクセスは完璧だった。徒歩3〜5分。着いた時点でもうすでに見えているのだから、どうやっても迷うことは無い。
     バックネット裏10ドルのチケットを買って、いざ出陣してみると、そこには何とも言えない絶景が広がっていた。あ、が、ぎ、が、ひ、ひでぶ、としか言い様がないほど、その美しさにはやられてしまう。外野スタンドは全くなく、その代わりにフェンスの後ろに広がっているのは、空と海。この景色だけでもうお腹いっぱいになってしまう。

     パンフレットを一通り眺め、選手たちの予習も終わったところで、もうそろそろ試合開始の時刻。今日の先発は、あっ!とその姿を見てつい声を出してしまった,台湾人ピッチャーのChien-Ming-Wang。まだシングルAが開幕して間もないころ、YESネットワークというケーブルチャンネルで、このピッチャーが投げていたのを覚えていたのだ。こうなると不思議な愛着が湧いてくる。なんとか抑えて欲しい、そう思っていた。だが、その矢先の1回にいきなりホームランを浴びてしまう。こりゃブーイングか!?そう一瞬思ったが、ところがどっこい、ホームランを見られてうれしかったのか、なぜか結構な拍手。うーん、さすがマイナーのお客さんたち。なんて寛容なんだ。

     そんなお客さんたちとゲームを楽しんで、佳境を迎えた8回。スタテンアイランドが5対2と3点リード。しかし、一死満塁のピンチ。しかも、バッターは最初の打席でWangからホームランを放っている3番ゴメス。息を呑むフィールド、ベンチ、スタンド。そして・・・

    「Oh, No!」

     ほとんどの人がそう思っただろう。ゴメスの打った打球はライト線ぎりぎりに入ったように見えた長打性の当たり。が、判定はファウル。バックネット裏から見ていてもかなりフェアっぽかったが、それにもまして、実はその打球、相手側ブルペンの目の前に落ちたもんだから、質が悪い。何人もの選手が落ちたところを指差し、フェアだフェアだと大号令。が、判定はファウル。それで集中が切れてしまったのか、この直後痛恨の4−6−3のゲッツー。まあそれはそれでいいのだが、何が面白かったかと言うと、天国から地獄を体験してしまったバッターゴメス、「f++k, f++k, f++k」と一向に止まる気配無し。明らかにそれと解る口の動きと表情は、教育にはよろしくないが、おもしろすぎる。

     さて、この日は初めてのマイナーリーグ観戦である。聞いてはいたが、やはり実際に参加すると、イニングの合間のいろいろな趣向が、一段と観客を盛り上げてくれることが分かる。中でもSEが最高に鳥肌が立ったのは、単純至極、本当にシンプルなものだった。
     1人のヘルメットを被っている子供がホームベース上に立っていて、ベースランをする。しかしそれにはタイムが決まっていて、時間内に一周しなくてはならない。よーい、ドン(?)の合図と共にスタート。一塁を回る。二塁に達する。誰もがその子に注目する。声援を送る。手を叩く。そして三塁へ。5秒を切った。もう時間がない。皆が興奮する。「GO!GO!GO!」それに未来のヤンキーが応える。4,3,2・・・「ズサー」「YEAH!!!」なんときれいなスライディングだろうか。球場の盛り上がりは最高潮で、割れんばかりの拍手と声援。もちろんスタンディングオベーションだ。
     無事に試合が終わって、またフェリーでマンハッタン島へ戻る。その帰途では、自由の女神や金融街のビルの夜景が、観戦後の興奮覚めやらぬ人々を迎え、最後まで持て成してくれる。自分だけのデートコースにしよう、心地よい夜風を浴びながら、SEはそう心に誓うのであった。



     第5回 02年8月4日 ハドソンバリーレネゲイツVSブルックリンサイクロンズ@キースパンパーク


    〜売り切れ御免!?〜の巻
    02年8月4日
    ハドソンバリーレネゲイツVSブルックリンサイクロンズ@キースパンパーク

     初めてのマイナーリーグ観戦から早一ヶ月、SE(Set East)の気まぐれマイナー巡りは、大リーグ初のアフリカン・アメリカンプレーヤー、ジャッキー・ロビンソンもかつてプレーしていたかの地、ブルックリンにその舞台を移していた。マンハッタンのダウンタウンから電車で45分、ブルックリン南端に居を構えるのがこの日のお目当て、メッツ傘下のシングルA、ブルックリン・サイクロンズである。

     電車から降りて5分ほど歩くと、隣接している遊園地と合わせて一組という感じの、一見すると何の変哲もない球場が見えてくる。特にこれといった感慨もない。感想とすれば、球場に行くまでの通りの店に、やけに人が集まっている気がするぐらいか。

     さて、ようやく球場に辿り着いたはいいが、この日はマイナーリーグ観戦。もちろんチケットはまだ持っていない。というわけで、SEはおもむろにチケットブースに近づき、退屈そうに座っている係員に声を掛ける。

     「大人一枚」

    ・・・何の反応も無い。あっ、そっかそっか。場所言わないと相手も応えられないわな。

     「一番安いのっていくらですか?」

     とりあえず値段を聞いてみる。最大出せて10ドルだな、そう心で確認していると、とんでもない答えが返ってきた。

     「SOLD OUT」

     ハァ?ここってマイナーリーグでしょ?マジかよ!?ハァ!?晴天の霹靂とはまさにこの事。この時、午後5時の試合開始20分前。確かにぎりぎりではある。しかし、サイクロンズはマイナーのチーム。SEの中には、売り切れかもしれないなどという発想は全くなかった。

     やっばいよなぁー。背中に冷や汗が走るのが分かる。これを逃すと、サイクロンズはホームからしばらく離れてしまうのだ。やばい、どうにかしなければ(この間一秒)。しかし、この時SEの脳裏におなじみのある光景が浮かぶ。

     「チケットあるよ〜。チケット〜。」

     これだ!どうだ!?いるか?いないか?一途の望みを託して振り返る。その瞬間・・・もう横に居るし!何と言う早業だ。数歩横に移動した後、

     「高いの安いのどっち?」
     「安いやつ。」
     「10ドル。」
     「おっけー。」

     この間十数秒。斯くして、何とかチケットをゲットしたSEは、球場の中へと向かうのであった。

     いつもは5ドルで買えるらしいチケットを片手に、向かった先はライト後方の外野席。行って見ると、自由席のようで皆方々に散らばっていた。そこで、ちょうど空いていた最前列に座ると、NY州知事による始球式。日本で言えば石原都知事のようなものか。それと同時に、各ポジションに十人ほどいたチビッコたちもお役御免。颯爽と引き上げるその姿は、圧巻の一言。この100人ほどいたであろう子供たち、グラウンドの中に入って、ただ散らばって行っただけである。しかし、1人欠かさず各々のグローブを持ち、試合中飛び込んでくるボールを待ちわびている所までが、彼らの出番だっただろう。

     試合の方はと言うと、SE観戦史上まれにみる貧打戦。両軍のピッチャーがそれだけ良かったのかもしれないが、遠くから見てても明らかに腰が引けていて、球場自体もいまいちの盛り上がり。結局サイクロンズが2対1で勝ったものの、最後まで淡々と進んでいった感じであった。ちなみに、8回の球場アナウンスによると、入場者数は8377人。

     ところで、試合中SEの周りでは、グローブを持った小学生らしき男の子と、付き添いで来たであろう中学生らしきその姉、そして母親とのアメリカ版家族ドラマが繰り広げられていた。大はしゃぎの弟に対して、これでもかとつまらなさそうにしている姉。それなりに楽しもうと、ウェーブを試みる母に対して、「No!! Mom!!」とすかさずたしなめる姉。しまいには、5回終了時点で帰ってしまった。家では相当な駆け引きがあったのだろうと、SEは想像してみるのだった。


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