2002W杯特集 【出場国紹介 グループA】 by ICHILAU

    ●フランス

    ●セネガル

    ●ウルグアイ

    ●デンマーク



     ●フランス


     ディフェンディングチャンピオンであり、最新の世界ランキング1位のフランスは、ブラジル、アルゼンチン、オランダと並んで、世界のサッカーシーンに最も多くの才能を送り出している国であると同時に、代表チームの顔ぶれが最も国際的な国でもある。チームの中心で日本にもファンの多いジダンはアルジェリア系移民の2世だし、他にもガーナ、セネガル、スペインの(独立運動のテロで有名になってしまった)バスク地方、アルゼンチンといった国と地域で生まれた選手が、フランスの代表選手として多く選ばれているのだ。これが例えば同じ欧州の強豪でも、ドイツなら移民法の違いでドイツ人になれない選手が、フランスではフランス国籍を取得できるので、フランス人としてプレーしている。このようにフランスは、旧植民地出身の人に容易にフランス国籍を与えているので、国際色豊かな代表チームが結成できるのである。(注釈:年齢無制限の代表チームをA代表と呼ぶが、1度ある国のA代表でプレーした選手は、他の国の代表に入る事は出来なくなる。しかし帰化しても、元の国の代表に入る事は出来るので、スペインのチームでプレーするスペイン人がブラジル代表に入る、といったケースは多い)。

     次に、主要メンバーの話に移ろう。
     フランスは複数のポジションに最高級の選手を抱えている。

     先ずは日本でも知名度の高い、前述の司令塔、ジネジーヌ・ジダン(スペイン、レアル・マドリード所属)。大柄でもテクニックに優れ、ゲームメーカーとして能力を発揮する。
     私は、彼中心のチーム創りをすれば、彼は紛れもない世界最高の選手であると考えている。レアル・マドリード移籍後のしばらくの不振は、人々に、彼のチーム適応への疑念を抱かせたが、フランス代表は間違いなくジダン中心のチーム構成であり、この点について心配する必要は、まずないだろう。フランスが通常使う3トップ、つまり、攻撃ラインに左右両サイドに1人位置してゴール前にクロスボールを上げたり、ドリブルで切れ込むウィングと、ゴール前に位置して相手の最強のディフェンダーと対峙しながらゴールを狙う、センターFWの計3人の選手を置くというシステムなら、FW陣とボランチ(守備的なMF)との間で自由に動き回り、相手にとって死角となるところに神出鬼没に現れ、盲点となる攻撃の起点へとパスを送り、ゴールに迫るプレーを確実にこなしていくだろう。

     才能の宝庫・フランスの中でも敢えてもう一人上げるとしたら、ボランチのパトリック・ヴィエラである。ラリーで有名なセネガルのダカール出身で、アーセナルで同ポジションを担うヴィエラは世界最高のボランチであり(それがゆえに同じアーセナルに所属する、同じポジションの稲本がレギュラーになれないのだが)、全選手を通じても最高級、といっても過言ではない。
     強靱な身体を生かした守備に加え、現在のアーセナルのシステムでは、ヴィエラの前に大きなスペースが空いているので、攻撃力も発揮できる。代表ではヴィエラの前にジダンがいるので、攻撃で負担はあまり掛からないだろう。当面、ジダンに守備の負担を掛けないよう後ろで守ることと、ジダンに球を供給するのが仕事となる。

     他にもDFでは、テュラム、デサイー、リザラス、サニョル、シルベストル、MFでは上記の2人以外でマケレレ、プティ、ジョルカエフ、カンデラ、アーセナルでヴィエラのチームメイトとなっているピレスとビルトール(この2人は、代表ではFW気味にプレーする)、前回決定力不足で苦しんだFWでは、イングランドプレミアリーグ屈指のFWアンリ、イタリアセリエA屈指のFWトレゼゲ、さすらいのアネルカが揃い、世界屈指の層の厚さを誇る。

     チーム構成の上で死角はセンターバックで、有力選手の引退や故障のために、層が薄くなっている。ガーナ出身のベテラン、デサイーは、故障から復活して活躍が見込めるが、彼の相棒となるセンターバックに、課題を抱えている。
     右サイドバックのテュラムは元々このポジションの選手で、ここでも一流だから、彼をセンターバックに入れれば良いが、それは即ち世界最高の右サイドバックを失うことになるので、わざわざ彼をセンターバックに戻すには、勇気ある思い切った判断が必要だ。

     それから、仮にテュラムをセンターバックに戻すという手段を採った場合、代わりに右サイドバックに誰を入れるかという話になれば、まず名前が挙がるのが、ビリー・サニョルだろう。
     このサニョルはドイツ、バイエルン・ミュンヘンに所属する選手で、同チームでも同じポジションを勤めている。サイドをするすると駆け上がり、鋭いクロスボールをゴール前に放ってフォワードへとつなげ、相手ゴールを間断なく脅かすいやらしいプレーをし、テュラムの故障中は、彼の代わりに右サイドバックとして活躍したという実績を持つが、3月という難しい時期に膝の手術を受けたため、W杯出場が微妙になった。
     従って、故障したサニョルの代わりに、誰を右サイドバックに入れるかという話になると、昨年3月の日本戦ので右サイドバックに起用されたカンデラをここに入れることになるだろう。
     しかしながらカンデラは、イタリアの名門クラブASローマにおいて左サイドでの攻撃で鳴らしている選手なので、世界最高とも言われる守備を誇るテュラムの代わりに起用するのは、あまりいい方法とは思えない。それに加えて、今回のW杯では、右サイドバックに対峙する左サイドに強力な選手が多数出場しているため、わざわざ、名右サイドバックのテュラムを右サイドバックから外すという危険を冒すよりも、テュラムはそのまま右サイドバックのポジションに残すという方法を採った方が、私としては妥当な策のように思える。

     デサイーと組むもう一人の候補には、やはりテュラム以外のセンターバックを起用する必要がある。そして、その有力候補の1人、イングランドの名門マンチェスター・ユナイテッド所属のシルベストルは、テュラムと同タイプで、センターバックとサイドバックをこなす選手だが、マンチェスターでは左サイドバックとして起用されている。
     ところが、そのマンチェスターのセンターバックを担うのは、何と、フランス人のローラン・ブランなのである。ユーロ2000(欧州選手権)優勝を花道に、自ら引退宣言し、代表に復帰しないことを明言しているわけだが、すでに36才になっているこのブランは、マンチェスターではバリバリの活躍を見せている。

     W杯直前にベテラン選手が代表に復帰して活躍するケースはよくある。したがって、ブランを呼び戻せたら問題は消えるだろうが、果たしてフランスは、どうするのだろうか。
     他の死角は、大会中に30才になるジダンの代わりとなる同タイプの選手が、ジダンより更に年上の、ジョルカエフしかいない点くらいである。また、更に悩みを無理に捜すというのなら、層が厚すぎて良い選手をベンチに残さなければならない、という贅沢な悩みぐらいしか、ない。

    【予想フォーメイション】

    ・4−5−1(あるいは4−3−3)

    2002年W杯・フランス・フォーメーション予想
     共に、センターのトレゼゲとアンリの使い方が大きな話題をなるだろう。アンリは元々ウィングだが、センターで大成した選手だから、上記の様な併用は実現しない可能性が高い。しかし、名左ウィングでアンリのチームメイト、ローベル・ピレスが故障で、本大会出場が難しくなったので、このフォーメイションもあるかも知れない。
     また、ボランチを3人にして、トレゼゲとアンリの2トップも考えられる。
     いずれにしても、個々の高い能力に裏打ちされた高度な組織を体現するフランスが、一握りの優勝候補で有るのは間違いない。
     尚、フランスリーグはまずまずのレベルだが、フランス代表のレギュラーを出すには至っていない。



     ●セネガル


     セネガルにフランスと同じだけ紙面を使う必要があるなら、苦労させられるだろう。身体能力を全面に出すブラックアフリカの国では珍しく組織を重視すると言われる、セネガルを今回の台風の目と見る人もいるようだが、私は格下と見ている。

     まず、同じアフリカのナイジェリアやカメルーンと違って、世界クラスの選手は皆無である。なぜなら、セネガルは国内リーグが未発達であるため、セネガル人選手の大半はフランスリーグでプレーしているが、フランスは前述のとおり、簡単に旧仏領出身の人にフランス国籍を与えるので、外国人枠の対策として、セネガル人選手もフランス国籍を取得する。そして頭角を顕したセネガル人選手は、フランスから代表として選出されてしまうので、そういった有望選手はフランスに根こそぎ持って行かれてしまい、セネガルの代表選手は例外なく、フランス代表になれなかった選手になってしまうのだ。
     従って、例えば、フランスの稿で説明させていただいたパトリック・ヴィエラやデサイーといったメンツがこういう選手の中にはいるわけだが、しかしながら、選手本人ならびに、取られた側のアフリカの人達は、共に、同朋のフランス代表選手に対して好意的に思っているらしい。それは例えば、ガーナ出身の私の友人にガーナの名選手の話を振ったところ、「デサイーも忘れないで欲しい」と誇らしげに彼のプレイを語り、フランスに対する恨み言は、言ったことがなかったりするからだ。したがって、セネガル人もフランスに帰化する時に日本代表の三都主(アレックス)の様な葛藤はないようである。
     セネガル代表は、監督もフランス人なら選手もフランス人であり、正にフランス傘下の2Aチームと言ったところだ。

     シドニーオリンピックに出場した野球の米国代表をご記憶の方は、米国代表と大リーグオールスターチームの関係を想像して頂きたい。あちらは金メダルを取ったが、ワールドカップはそれほど甘くはないだろう。したがって私は、セネガルは予選リーグ敗退と見ている。



     ●ウルグアイ


     ワールドカップ初代王者であり、イングランド、フランスを上回りアルゼンチンと並ぶ2度の優勝を誇るウルグアイが、久々に戻って来た。しかし最後の優勝は1950年のことで、近年目立った実績はない。クラブレベルでも15年位前までは世界のトップクラスだったが、資金で勝る欧州サッカーのグローバル化によるレベル向上に取り残されてしまった。だが近年になり、欧州でプレーする選手が増え、それが代表強化に繋がった結果、ようやくグローバル化の恩恵を受けるようになった。
     世界的な選手は、イタリア・セリエA、インテルミラノのFW兼MFのレコバと、同じくセリエA、ユヴェントスのDFモンテーロの2人だが、他にも欧州でプレーする中堅クラスの選手は多く、一定以上のレベルは保っている。
     また前記の通り、国内リーグにも伝統が有るだけに試合のプレッシャーは大きく、それが選手の勝負強さを養っているといえる。
     同時に世界一制覇困難な大会コッパ・リベルタドーレス・デ・アメリカ(南米クラブ選手権)にウルグアイのチームは毎年複数参加するので、大舞台の経験も積むことができる。

     今大会は、初戦デンマーク戦が実質上の組2位決定戦だが、ここに勝てれば、決勝トーナメント進出に大きな道が開ける。そして、決勝トーナメントでは、初戦で“死のグループF”のチームと対戦する事になるが、意外な活躍を見せるかもしれない。



     ●デンマーク


     前回に続いてフランスと同組になった。前回は敗れたが、今回は順当に行けば、トーナメント進出をすでに決めたフランスと戦えるので、消化試合の相手に引き分け以上も充分考えられる。従って私は、このグループAから決勝トーナメントに進むのは、フランスのほかは、このデンマークが有力と見ている。

     前回、デンマークは最初から最後まで過小評価を受け続けた。決勝トーナメント初戦で対戦したナイジェリアは、最激戦グループを一位で突破した後、順当なら準々決勝で対戦するはずだったブラジル戦に心が行っていて、完全にデンマークを見下していたが、試合をしてみれば、4−1でデンマークの圧勝だった。さらに準々決勝のブラジル戦は大接戦の末、惜敗したが、この2戦の活躍は出目だった。
     にもかかわらず、大会後デンマークの賞賛をほとんど聞かなかった。
     私は当時、デンマークの評価の低さを、気の毒に思ったものである。

     全体的に、欧州でプレーする中堅クラスの選手で構成されたチームである。日本で有名なのは、オランダ、フェイエノールトで小野とチームメイトのFW兼MF、トマソンだ。
     また、FWサンドはドイツで実績を上げている。ヘディングが強いそうだが、デサイーやモンテーロなど同組に強力なセンターバックが多く、サンドのヘディングを封じられる可能性が高いだけに、サンドに頼るような攻撃が多くなると、攻撃が全く機能しなくなる危険がある。

     選手の能力ではウルグアイの方が上だが、チームとしての機能や、日程の良さ(フランスと最後に戦える)では、デンマークに風が吹いている。是非突破して、決勝トーナメント初戦でナイジェリアと再戦して欲しいものである。


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