2002W杯特集 【出場国紹介 グループB】 by ICHILAU

    ●スペイン

    ●スロベニア

    ●パラグアイ

    ●南アフリカ共和国



     ●スペイン


     この国については、現在の世界最高レベルのスペインリーグ、リーガ・エスパニョーラの話を抜きにしては、語れないだろう。

     リーガ・エスパニョーラは、もともと攻撃重視で、選手にとっては、非常に自分のプレースタイルを適応させやすいリーグである。それに加えて、近年は各クラブが潤沢な資金を使って選手を集めるようになったため、各国から優秀な選手が続々と集結し、ますますリーグとしての実力が上がった。これは、ワールドカップを越えた世界最高の大会と言われる、クラブチーム対抗戦欧州チャンピオンズリーグで、毎年複数のクラブが必ず上位に入っていることからも、読者の皆さんにはご承知いただけることと思う。
     外国人枠がほぼなくなった欧州の一流クラブが参加する欧州チャンピオンズリーグは完全にワールドカップを上回るレベルの大会で、さながら複数の世界選抜の激突である。そしてリーガ・エスパニョーラのチームは近年、毎年精鋭8チームが出場する決勝トーナメントに、複数進出している。レアル・マドリード、FCバルセロナ、デポルティボ・ラ・コルーニャ、ヴァレンシア、今年に限ればセルタ、アラベス、レアル・ベティスといったこのリーグのクラブチームが、いずれも現在のスペイン代表より強いクラブであり、特にレアル・マドリードとFCバルセロナについては、どの国の代表チームよりも強いチームである、というのが、私の見方である。

     そのあおりを受けて、スペイン人選手の活躍の場は減っている。当然スペイン代表の大部分はリーガ・エスパニョーラの選手で構成されているので、このことは代表強化の妨げになっている。しかし逆に、リーガ・エスパニョーラで活躍したスペイン人選手のレベルは高い、と判断できる。
     グローバル化の進むサッカー界では、ブラジル、フランスなどの強豪国は世界中から代表選手を召集しなければならないが、スペイン代表の場合は国内のメンバーだけでも、レベルの高いチームを作れる。これは大きなプラスになる。また、優秀な外国人選手に導かれ、欧州チャンピオンズリーグでの最高級の試合を経験できる。これが経験の上で、スペイン代表に大きなアドバンテージを与えている。

     もう一つスペイン代表を語る上で、避けて通れないことがある。
     スペインは、地方ごとの対抗意識が強い。日本を含め、他の国でもそういうことはあるだろうが、スペインの場合は、フランコ独裁政権に地方が抑圧をされた歴史があるため、特に強い。カタルーニャ地方、ガリシア地方、バスク地方、アンダルシア地方、ヴァレンシア地方など、それぞれに地域民性が違い、またそれぞれの地方に、その地方の頂点に立つクラブとしてのアイデンティティーを持っているシンボルクラブが、存在する。中でも、首都マドリードで国王アルフォンソ十三世からレアル(スペイン語でロイヤルの意)を冠する事を許された、レアル・マドリードと、カタルーニャ地方の最大の都市バルセロナのクラブ、FCバルセロナは、永遠のライバル同士である。
     他にも、ガリシア地方のデポルティボ・ラ・コルーニャ、ヴァレンシア地方のヴァレンシア、バスク地方のアスレチック・ビルバオ、アンダルシア地方のベティスなどが、他国の単なる田舎の小クラブ以上の存在として、お互いに競い合っている。
     このように、リーガ・エスパニョーラの多くの試合は異なる文化同士の対戦なので、中立の立場の審判が必要になり、その結果、例外なく中立の立場の人が審判となる国際試合のような傾向の判定になる。そして、これらのことが、スペイン代表の選手の国際的試合の経験と、何かを代表してプレーする経験を養っているのである。

     だが、いままでのスペイン代表は、上記の事情があるために、監督や協会の要人と同じ出身地の選手が多かったりして、地方ごとに偏りがあり、このことが最強のスペイン代表を結成する妨げになっていた。
     ところが90年代に入ると、ようやく最強のスペイン代表を結めるようになってきたので、今回のワールドカップも前回フランス大会に続いて、優勝候補の評価を得ている。しかしながら、このような事情があるにもかかわらず、今に到ってもクラブチームの方が依然、人気が高い。また毎年、カタルーニャ選抜など各地方選抜が結成され、他国のA代表相手にかなりレベルの高いサッカーを見せており、これを理想の代表と考えるスペイン人が多いようである。



     ●スロベニア


     旧ユーゴ連邦はサッカーの強豪として有名で、中でも現ユーゴスラビアとクロアチアは、テクニックに優れた選手を大勢、欧州各国のクラブに輩出したが、スロベニアは独立以前からサッカーの盛んな土地柄ではなく、旧ユーゴ連邦の代表選手を稀に輩出しているに過ぎなかった。独立後も国技はスキー競技で、サッカーは人気がない。
     しかしそのお陰で、監督は外野の騒音を気にすることなく、チーム作りが出来たようだ。大物選手がいれば出来ない厳しい規律で選手をまとめ、目の肥えたファンを満足させることはできないにしろ、結果だけを求めるという意味でいえば、堅実で負けないチームになった。だが、おそらく今大会の中では、最も話題になりにくいチームなのではないか、と、私は見ている。
     ただ、読者の方々の中でも、話題にならなかったからといって過小評価していたチームがいい結果を出し、目論見が外れた経験をお持ちの方もおられるだろう。従って、私は予選敗退と見ているが、それが覆される可能性も大いにある、ということだけは、きちんと申し上げておく。



     ●パラグアイ


     前大会で、私が偏見から来る過小評価で失敗をした国が、パラグアイである。しかし4年で心境が変わり、今や優勝候補の1つと考えている。

     高い技術を共有する世界一の選手畑、南米の中でも、パラグアイは守備に重きを置く。当たりの強いイタリアや、反則スレスレと反則で抑え込むアルゼンチンと違い、パラグアイはテクニックを前面に出し、クリーンに相手からボールを奪い取る。このテクニック重視のスタイルはブラジルと似ていて、DFカルロス・ガマラなど、ブラジルのクラブで成功したパラグアイの選手は、多い。例外はGKでカリスマ的指導者、ホセ・ルイス・チラベル(末字のtを発音するチラベルトの方が日本では一般的なので以後チラベルトと記す)で、彼はアルゼンチンで成功した。フリーキック、ペナルティーキックを蹴り、得点を上げることが有名だが、自陣から50メートル級のパスを出しチャンスを作ることでも、相手を脅かす。ゴールを守る能力にも優れているが、何といっても、激しい気性による強烈なリーダーシップが凄い。過去に何度も相手選手や審判に手を出し、出場停止を喰らっているが、それに懲りることなく、感情剥き出しのリーダーシップを続けている。今回のワールドカップ予選でも、昨年のブラジル戦において、人格者で知られるロベルト・カルロスに唾を吐きかけたかどで、最初の2試合には出場出来ないはずだったが、一転復活し、出場停止が1試合減った。

     今回のパラグアイ代表は、前述の、国内リーグの選手やブラジル、アルゼンチンのリーグに参加している堅守の選手だけではなく、サンタクルスやアクーニャといった、欧州のリーグで活躍する攻撃の選手もいるので、バランスの取れたチームになっている。

     古豪ドイツ代表が衰えた現在、世界一しぶとい国はパラグアイだろう。チラベルト抜きの初戦、南アフリカ戦を乗り切れば、先が見えてくる。順当に行けばトーナメント初戦でドイツ、勝てば同じディフェンスの権化イタリアと対戦する。共に楽しみな対戦だ。



     ●南アフリカ共和国


     見方によっては、クロアチアやスロベニアを抑え、出場国の中で最も新しい国家である。
     黒人を隔離したせいで、スポーツ界から隔離されたいた南アフリカの隔離が終わったのは、94年のことだ。翌95年に地元開催したラグビーワールドカップで優勝したのが、現在までの南アフリカスポーツ史上最高の出来事だろう。

     旧体制時代は、白人はラグビー、黒人はサッカーという考え方が主流で、当然サッカーは軽視されていたが、新体制になってからは、サッカーにも人気が出ている。決してレベルの高くないアフリカ予選とはいえ、初参戦から連続で突破しているのは見事である。ただ、南アフリカは北アフリカのモスレム国家と並んで、アフリカサッカーシーンの第二グループではあるが、ナイジェリア、カメルーンには及ばない。
     アフリカの中では裕福な南アフリカにおいては、国内リーグがまずまず発達しているので、有望な選手を、レベルの高い欧州サッカーから遠ざけている。従って、フォーチュン、マッカーシーなど欧州の一流選手はいるが、選手のすそ野が狭い。これがナイジェリア、カメルーンには及ばない理由だと私は思う。

     前回は、現日本代表監督のフィリップ・トルシエが監督だったが、彼の課す厳しい規律は選手と全く馴染まず、その結果、大会中にチームが空中分解してしまった。
     ただ今回は、ポルトガル人カルロス・ケイロス前監督が良いチーム作りをしたと伝えられているので、前回よりは大きな上積みがあるだろう。しかしながら今大会の見通しとなると、まだまだというのが正直なところだ。個々の才能は高いが、結束力、したたかさ、サッカーへの熱い思い、勝負強さ、確かな技術、誇りなどといった、若々しい南アフリカサッカーに欠けている点を兼ね備えたパラグアイは、大変な難敵だ。チラベルト抜きのパラグアイ相手に不本意な結果で終わるようだと、前途は暗くなる。だが勝てば、スペイン戦の前にトーナメント進出を手中に出来る。でも私としては、現状の南アフリカがナイジェリアを上回るということは考えにくいので、最高でもベスト16だろうと思う。


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